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ユリキャン?

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「賢にいちゃん! キャンプに行くよ!」
 ゴールデンウイーク初日の早朝、突然家に恵ちゃんがやってきた。
 派手な花柄のシャツに膝丈のデニム姿、頭にはちょっと早いんじゃね? と、思わされる小さ目の麦わら帽子を被っていた。
 いかにもアウトドア風な格好の恵ちゃんの訪問に、俺は戸惑いを隠せないでいた。

「は?」
 勿論仕事は休み、今日は1日寝てようと惰眠を貪っていた俺は、恵ちゃんの訪問で叩き起こされる。

 大きな荷物をいくつか抱えた恵ちゃんは、俺の戸惑いを気にする事なく、満面の笑みで俺を見ている。
 そして意味のわからない言葉を再度発した。

「だーーかーーらーーキャンプ行くよ!」

「……いつ?」

「今から!」

「……はい?」
 いや、えっと……そんな約束したっけ? と俺は頭を悩ませる。
 しかし、どう考えてもそんな約束をした覚えはない……いや、そもそも俺がアウトドアなんて、するわけが無い。

「恵さん? ど、どうしたの?」
 俺が恵ちゃんの対応をしていると、同じく惰眠を貪っていた妹も起きてきて、パジャマ姿のまま、俺の後ろからそう言って恵ちゃんに声をかける。

「雪ちゃん、はよ!」

「あ、うん……おはよ……で、どうしたの?」

「ああ、えっとね、賢にいちゃんをね、キャンプに連れて行くの!」

「……はい?」
 これが漫画の世界なら、おそらく妹の頭の上には、ハテナマークが浮かんでいる事だろう、ちなみに俺の頭の上には3つくらい浮かんでいる筈だ。

 今までこんな事は無かった。 遊びに来る事はあったが、それは必ずおばさんと一緒で、彼女が一人で来る事は、今まで一度もなかった。
 それが突然の訪問である。しかもキャンプに行くって…………それを踏まえれば、俺が……俺と妹が、戸惑う気持ちがわかって貰えると思う。

「ほらぁ~~雪ちゃんが、この間言ってたでしょ? 賢にいちゃんの『青春取り戻せ計画』、あれだよ~~~~」

「……あ……」
 妹があれか? って顔をした。 いや、ちょっと待って……色々と聞きたい事が、そもそも二人は最近仲が悪い設定なのでは? いや、その前にあの計画ってまだ続いているの? そして、なぜそれを恵ちゃんが?

「やっぱ、青春って言ったらアウトドアじゃん? 最近超流行ってるじゃん? えっと、あれ、ゆりキャンって奴?」
 いや、ゆりキャンならお前ら二人でいけって、ダメダメお兄ちゃんは相手が女子でも『ゆり』しません、いや、許しません!

「いや、あのね、突然言われても……」
 
「なんで? どうせ暇でしょ? 賢にいちゃんの事だからずっと寝てる気でしょ?」
 なんでわかった? 

「いや、まあ……」

「ほら、もう準備してきちゃったんだから! めたくそ重かったんだから、このまま持って帰れと?」
 恵ちゃんはそう言いつつ、俺の腕を引っ張り、そして腕に抱きついて来る。
 俺の腕に恵ちゃんの形の良い胸が押し付けられ、柔らかい感触が伝わって来る。

「うお!」

「め、恵さん!」

「ね、ね? 行くでしょ? 行こうよ~~、ほら準備して~~~~!」
 グリグリと押し付ける胸、後ろの妹が怒っている子犬の如く小さく唸る……。

「わ、わかった、わかったから離して」
 やばいって、色々とヤバいって、その……寝起きだし……。

「お、お兄ちゃん、まさか……行くの?」」

「え? あ、ああ、まあ、仕方ないよね?」
 
「…………はあぁ…………仕方ない……じゃあ私も準備……」

「え? 雪ちゃんも行くの?」

「「え?」」
 俺と妹が同時に声を出す。

「テント二人用しかないんだけど~~あと食材とかも二人分しかないんですけど~~」

「な!」
 テント……二人で!? いや、えっと……それって泊まり?! まさか……二人きりで?

「めめめ、恵さん! それって! 約束が!」

「あはははは、嘘嘘、勿論準備してあるよ~~」

「め、恵さん!」
「め、恵ちゃん!」

「あははは、シンクロうける~~」
 ──からかい上手の恵さんだった……。

 それから俺たちは、慌てて準備を始めた……って言っても何を持っていけばいいのかさっぱりわからない。
 とりあえず、一泊するのだろうと、着替え一式を用意、この間妹と旅行に行ったので、なんとなく必要な物を鞄に詰め込む。

 40秒は無理だが、俺と妹は30分程かけて準備を終わらした。

「さあ! しゅっぱーつ!」
 にこやかにそう言う恵ちゃんに、渋々着いていく俺たち。

「ところで、この荷物どうやって持ってきたんだ?」
 3人いてようやく持てる程の荷物……。

「え? タクシーだけど?」
 モデルの仕事に、社長の娘……金持ちめ……。

「そう……それにしてもさ、恵ちゃんがアウトドアしていたなんて初耳だなあ」

「え? 初めてだよ?」

「は? いや、え?」

「ああ、大丈夫大丈夫、これがあるから~~」

「……ゆ○キャン……」
 百合ではないけど……恵ちゃんは、カバンから漫画を取り出して俺に見せた。
 いや、せめて入門書とか専門書とか持って来いよ……。

 前途多難のキャンプが始まる。
 俺は寒くも無いのに、震えが止まらなくなった。
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