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役不足と役者不足
応援する!
しおりを挟む目の前に俺の天使が立っている。
俺を、俺だけを見つめて……。
「えっと……ごめんなさい……戸惑ってる……よね」
「あ、いや、まあ……」
俺は綾波らしきあやぽんをじっと見つめていた。
確かに一度は疑っていた。でも実際俺はあやぽんに会っている。つい昨日だって……でも、ここにいるこのあやぽんは、間違いなく綾波……俺のクラスメイトで友達の綾波明日菜。
いつまでも座らない綾波に周りが注目し始める。
いや、既にあやぽんだとバレている可能性も……こんな所でバレたらまずいと俺は綾波に言った。
「と、とりあえず座って……ください」
「……あ、うん……そうだね」
そう言って綾波は俺の向かいの席に座る。
「あ、えっと……モーニングは終わっちゃったから、えっと……何か飲む物を……」
俺は慌ててメニューを渡そうとするも、綾波は首を振った。
「あ、ああ、うん大丈夫、あ、えっと……す、すみません」
メニューを見る事なく、店員を呼びホットコーヒーを頼む綾波……いや、ここはもう、あやぽんと言った方が良いのか?
とりあえずコーヒーが来て綾波が落ち着くまで、いや、俺が落ち着くまで何も言わずに聞かずに待つ。
そして黙ったままコーヒーが到着、綾波が一口飲みテーブルに置いた所で切り出した。
「綾波は……あやぽんで、あの綾だって事なのか?」
俺がそういうと綾波は少し困った顔をする。
「ううん、私は綾じゃないよ」
「でも……」
綾波の顔はあやぽんにそっくりだ。瓜二つ、まるで双子の様に……双子……そうか、そうだったのか!
「双子……か」
「うん……そう、綾は私のお姉ちゃんなの……」
そう言って微笑を浮かべる綾波……その笑顔は綾そのもの、昨日あった綾以上に……。
「お姉ちゃん?」
「そう、私の双子の姉が、綾……なの」
「ライブ会場でもそうだったのか?」
「え?」
「SNSでも?」
「ええ?」
「前からずっと違和感を感じる時があったんだ……そして時々しっくり来る時が……」
「あ、うん、凄いね日下部君……そう……時々だけど……私がステージに立つ時があったの……仕方なく」
「仕方なく?」
「うん、お姉ちゃんが仕事をする際学業を疎かにしないってのがお母さんからの条件だったの……だからなるべく仕事は入れない様にしてたんだけど、人気が出すぎちゃって、断りにくい仕事も増えて来て……だから仕方なく私が……」
綾波は本当に仕方なくという表情でそう語った。
「す、すげえ……綾波があやぽんだったなんて……」
それを聞いて俺は……感動していた。
まるでラノベの様な展開に……隣の眼鏡っ子が実はこんな美人で、そして……俺のアイドルだったなんて……。
いつも読んでいる本が現実に……。
「ううん、でも私はあくまでも臨時で、だから」
「……俺さ、あやぽん……綾に……綾波のお姉ちゃんに会ってるんだ」
しかも2回も……いや、3回か……。
「……うん聞いてる」
「でも、なにか違うって……ずっと思ってたんだ……」
「なにか……違う?」
「うん……綾波さ、この間の苗場山、あれって綾波だろ?」
「え? あ、うん、そう……」
「やっぱりそうか……ってか、あれ!あの歌! 凄い、凄かった」
「あ、あれは、言われて仕方なく……」
真っ赤な顔で俯く綾波。
「やっぱり即興だったんだ……すげえ、すげえよ綾波……」
「ううん、全然……たまたまうまく行っただけ……それよりも、あのね……この事は、私が臨時でも綾になってる事は内緒にして欲しいの……」
「ああ、うん、うちの学校バイトだけは厳しいからね、大丈夫! 俺! 応援する……綾波の事! 学校にも絶対に言わない、誰にも言わないから心配しないで!」
「……ありがとう」
綾波は俺を見て笑った……あやぽんの様な、いや、あやぽんそのものの笑い方で……そして、いつもの綾波の笑い方で……。
俺の天使……俺の神様は、俺の隣に座っていた……。
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