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綾波明日菜の正体
付き合っちゃう?
しおりを挟む「いやあ、買った買った、助かっちっち」
俺の目の前で金髪の女神がおっさんくさいセリフを言いながら笑顔で紅茶を飲んでいる。
いまだに信じられない光景が目の前に……あやぽんが買い物している最中俺はずっと彼女の姿を眺めていた。
今まではお金を払って見ていた光景がただで、しかも目の前にいるなんて……俺は感動でむせび泣きそうになる。
やっぱり彼女は綺麗で可愛い、肌艶も良く、スタイルも完璧、まさに神。
でも、どうにも違和感を感じる……彼女は本当に綾なのかって……。
いや、間違いは無いのだけど、なんだろうか? 完璧な物真似をしている様な? そんなイメージが湧いてくる。
「えっと……俺が呼び出された理由って……荷物持ち?」
「せいかーーい!」
被せ気味でそういうあやぽん……いや、まあ、それでもいいんだけどね……あやぽんと一緒に買い物なんて、お金を払ってでも経験出来ないのだから。
「怒った?」
「いえ、全然、綾さんの為なら」
「──うーーん、その言葉、ちょっとドキってしちゃうね」
あやぽんはニッコリ笑ってそう言った。でもその笑顔を見て俺は確信した。
あやぽんのあの舞台見せる笑顔は作り物だって事を……。
でも、それであやぽんの魅力が下がったかと言うと、そんな事は全くなく、むしろあやぽんも人間なんだと、身近に感じられ俺の中での好感度はもっと上がっている。
それにしても、周りは気付かないのだろうか? これだけのオーラに?
金髪のウィッグに派手な化粧、それだけであやぽんはすっかり普通の? ギャルになっている……まあ今時こんなギャルギャルしい格好の人自体あまり見ないけど。
「何かお礼しないとねえ、日下部君にはずっと助けられているから」
いや、今日は荷物持ちにするつもりで俺を呼んだんじゃないの? と、突っ込みそうになる。
「いえ、前にも言ったけど綾さんと会える事が俺にとってのご褒美なんで」
そう言った瞬間、俺は雪乃の事が頭に浮かんだ。
そうか、おれが今まで雪乃に使われて何も思わなかったのは、いや、むしろ嬉しいとさえ思っていたのは、こういう事なのかと。
そう……俺は雪乃の事がずっと好きだって思っていた。
でも俺は今わかった。あやぽんのお陰で今はっきりとわかった。
……俺は雪乃を尊敬していただけなのだ、憧れていただけなのだ。
遠くから見るだけで満足してしまう存在。
今目の前にいるあやぽんと同じ存在。
崇める存在、神様と同じ……。
「どうしたの?」
「あ、いえ……」
「じゃあさ、お礼に……付き合っちゃう?」
「ど、どこへ?」
付き合うってまだ買い物に行くって事? あ、俺の行きたい場所に付き合ってくれるって事? でもあやぽんと一緒に行きたい場所なんて、そもそもこうやって一緒にいる事自体畏れ多い。
「あははは、鈍感男、私と恋人になる? って言ってるの」
「──────は?」
「どう?」
「はああああああ!? い、いや、そんないきなり冗談言わないで下さいよ!」
「うーーん、冗談じゃないんだけどなあ」
「い、いや、無理無理無理、無理っす、綾さんと一緒にいるだけで心臓止まりそうなのに、や、やめてください、変な冗談言うのは、死んでしまいます!」
俺は手をブンブン振り、自分を落ち着かせる為にアイスコーヒを一気に飲んだ。
「──ひょっとして、今気になってる人とかいる?」
あやぽんは突然俺にそう聞いてくる。
気になってる人? ……まあ、今一番気になっているのは……綾波……。
「な、なんでそんな事聞いてくるんです?」
「えーーだって、今日ずっとスマホをチラチラ見てたじゃない?」
「あ、いや……」
「駄目だよ? 女の子とデート中にそんな事したら」
「──す、すみま……あああ!」
「どうしたの?」
「いえ……」
言われてわかった……今頃理解した。
そうか、綾波が突然帰ってしまったのは……そういう事か……。
綾波に会った時、久しぶりに、夏休みになって初めて会ったのに、俺は綾波の私服を褒める事なくあやぽんの事を話してしまった……。
だから綾波は……。
「ふふ……」
「あ、ごめんなさい、また」
「また? 違う女の子の事考えてた?」
「あ──はい」
「そうか、いるんだね好きな子が」
「……はい」
「──ああ、残念振られちっち」
ひとつも残念そうな表情には感じられない顔でそう言うあやぽん……なんだろうか? 今俺はあやぽんが姉に見えた……。俺のお姉ちゃん、優しいお姉ちゃんに……。
「じゃあさ、その子に振られたら私が慰めてあげるよ」
振られたら……ってもう既に振られている様な……。
いや、まだだ、まだ完全に振られたわけじゃない……。
「あ、ありがとうございます、俺……行かなくちゃ!」
「ああ、待って!」
行こうとする俺をあやぽんが引き留める。
なんだろうか? まだ何か言ってくれるのか? 神のお言葉に俺は耳を傾ける。
「まだ何か?!」
俺はあやぽんにそう聞き返すとあやぽんは笑顔で言った。
「荷物持ちきれないからタクシー乗り場まで運んで~~」
あやぽんは大量の荷物を指差し笑顔でそう言った。
「……はい」
一瞬本気であやぽんが付き合おうって言ってるかと勘違いしたが、やっぱり俺は……ただの荷物運びだった。
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