幼馴染に良い様に使われた、だから俺は彼女を見返す為にいい女と付き合う事にした。そして出会った女子はモデル活動をしていた隠れ美少女だった。

新名天生

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綾波明日菜の正体

茫然自失

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 俺は茫然としていた。唖然としていた。放心状態になっていた。
 あやぽんの匂いが、感触が、俺の頭の中をぐるぐると回っている。

 画面でしか、遠くの存在でしかなかったあやぽんが、急速に近付いた。
 海岸で足に触れ、そして今日腕を組み、さらに一緒に食事をした……しかも間接キスのオマケつき。
 さらには……あやぽんの連絡先が、俺のスマホに入っている……この状況に俺の頭は全くついて来ない、ついていけない状態だった。

 遠くからバンドの音が聞こえる……でも俺の耳にはあやぽんの歌声がずっと流れている。俺の目の前には食事をしているカップルが、でもそれに重なる様に、いや、視界の殆どがあやぽんの笑顔に……。

 一体なんだったんだろうか、例えるならば奇跡の1日。
 そう……奇跡なんだ……これは夢でも幻でもない……奇跡なんだと……俺はそう思っていた。
 
 そのまま、呆然としたまま辺りが薄暗くなるまで、その場から動けなかった。
 動く事が出来なかった。

 ようやく心拍数が下がり、気持ちが整理され落ち着きを取り戻す。
 
 なんとか動ける様になった俺は、会場を後にし、予約をしていたペンションに向かった。

 明日は雪乃を見て帰ろう……今はそう考えていた。あやぽんの後に学校以外で雪乃に会うなんて、この間迄考えられない事を俺はしていると改めて思う。
 
 今までは、雪乃に出会ってから、俺はずっと雪乃一筋だった。雪乃以外の女の子に目を向けた事は無かった。
 
 そう……俺は狂おしい程雪乃が好きだった。雪乃に狂っていた。
 ストーカーみたいだと言われた時、俺はドキッとしたんだ。

 そして俺は自分の事を棚に上げ雪乃に裏切られたって思った。
 いや、裏切られたわけではない……俺の自業自得なのだろう。
 とにかく雪乃の本心を聞いてしまった。

 雪乃は誤解だと言うけれど……それでも俺のショックは計り知れなかった。
 あの時は……死のう……そんな思いになった瞬間もあった。
 
 そして、それを救ってくれたのがあやぽんだった。
 雪乃よりも綺麗で可愛い人がこの世にいるという、希望を俺に与えてくれた。

 俺は……綾に救われた。
 
 決して顔だけじゃない、それだけの魅力があるんだって、俺は今日再認識した。
 雲の上の人……今日の歌はそう感じさせられた……でもさっき実際に会って、気さくなあやぽんに会って、少し身近に感じた。
 でも……それでも、あやぽんは俺の神様なのだ、女神なのだ。
 だからここまでにしなければ……これ以上あやぽんに近づいてはいけない……。
 これ以上の事を考えてはいけない……って……そう思っていた。

 もう雪乃の二の舞は嫌だ……これ以上人を好きになったら……俺は何をするかわからない……。

「送れるわけ無いよなあ……」
 あやぽんと直接連絡を取れる……そんな夢みたいな事が出来る。
 でも……自分から送る勇気なんて無い、そんな事、畏れ多くて出来ない。

 緊張してろくに喋られなかった……もっと言いたい事があったのに……ありがとうの一言しか言えなかった。

 バスがどんどん下山して行く。会場の喧騒があっという間に小さくなって行く
 。
 それと同時に俺の心もどんどん落ち着いて来る。
 まるで夢だったかの様に……。
 そして、祭りの後の様な寂しさが俺を襲ってくる。

 会いたい……綾波に会いたい……俺はスマホを開き綾波の返信を見つめた。

 そして、スマホに打ち込む。

『今すぐ会いたい』
 送れるわけの無いメッセージを打ち込む。
 間違えてでもいいから……送信ボタンを押してしまわないのか? と自分自身に問いかける。
 今日このまま帰れば良かった、予約なんてしなければ良かったと俺は後悔した。
 そうすれば明日会えたかも知れないのにと……。

 でも、過ぎた事は仕方ない。
 明日は朝の予定通り、雪乃を見てから帰ろう。久しぶりにジャンプしている雪乃が見れるのは少し楽しみだ。

 あの美しい背面でバーを飛ぶ雪乃の姿が見れる。

 あやぽんと同様に俺を感動させてくれる。

 もう雪乃は俺に取って……見るだけの存在……なのだから……。
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