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幼なじみと隣の席の女の子
無茶振り
しおりを挟む「アチい……」
バスを降りると草木の匂いが漂っていた。
会場は山の上にあるスキー場、すでにライブは始まっており、凄い人の数が各ステージに向かって歩いている。
【ジャズロックフェスティバルin苗場山】
山の上とはいえ、夏の日差しを浴び一瞬で身体中から汗が吹き出す。
広い会場には数個のステージがあり、遠くから演奏と歓声が聞こえてくる。
俺の目的はただ一つ、あやぽんのステージだけ。
あやぽんを見たらすぐに帰ろうなんて思ってたけど、まあ、でも……この場に来てみれば少しは会場を見て回ろうかなぁなんて思い始めていた……。
いや、だって……水着の様な格好の女子が、いぱーーい、いるんだ、直ぐに帰るのは勿体無い。と、俺はすれ違う薄着の女子達をガン見する……。
「だ、駄目だ違う、そう、歌だ、歌も聞きに来たんだ……アニソンしか聞かないけど、ジャズとか、わかんないけど……」
俺はとりあえず今日の帰宅を断念……いや、水着の女子を見たいからじゃない、チケットが勿体ないからだ。
急遽宿を探すべく、スマホで周囲のホテル等の空き状況を確認する。
「お、ペンションに空きが……」
今日は夜までここを見て、なんなら明日チラッと雪乃の合宿を覗こうかななんて考えながら、俺はペンションに予約を入れた。
とりあえず、そろそろあやぽんの出る時間、俺はあやぽんがゲストで幕間に出るステージに向かった。
とぼとぼと一人で会場を歩いていると、やはりカップルばかりが目立つ……そして皆何かイチャイチャしている気がする……まあ、夏だし、フェスだし……とりあえず俺以外、いや俺とあやぽん以外は爆発しねえかな? 隕石とか落ちて来ないかなぁと、呪いをかけつつ会場に付くと。
「ギャウウウウイイン」
「うおおぉおおお!」
ギターソロで盛り上がる会場、どうやらアンコールで出てきた様子だった。
「──うるせえ……」
こういうバンドはあまり好きではない……っていうかそもそもロックとジャズとかわかんね……。
早く終わってあやぽん出ないかなあと、俺は仕方なくそのバンドを聞いていた。
そして、耳をつんざく音が止まり、声援の中バンドが撤収する。
そう、遂にあやぽんの出番だ。
しかし、いつもはファッション関係の仕事が多いあやぽん、観客もあやぽんファンの女子が多いのだが……。
「こんにちわーー盛り上がってますねえ」
バンドの演奏が終わり、司会者の女性がステージに現れる。
そしてその後ろでは次のバンドの準備が始まる。
まさかこんな状況で? 完全に繋ぎという感じ、他のステージにいかれない様にしているのか?
「では、ここでゲストの方にお話を聞いて見ましょう、最近モデルとして大活躍、あやぽんこと、綾さんでーーーーす」
「こんにちわーー!」
司会者のお姉さんに呼ばれ、あやぽんがステージ左手から手を振りながら登場する。
「おお! あやぽん!」
Tシャツにホットパンツ姿のフェスらしいファッションに合わせた格好のあやぽんがステージに降臨なされた。
この間見てるって言ってたなと、俺はいつもの定位置、観客席後方から必死に手を振った……でも、なんかいつもと違い……俺だけ手を振っている。
しかも……会場から歓声は無かった。
「誰?」
「確かインフルエンサーとかって、ネットで見たな」
「モデル? 場違い……どうでも良いよ」
そんな声が聞こえてくる。
今日は完全アウェイ状態……そんな中でもいつもの様に笑顔を振り巻く、けなげなあやぽん……。
しかし……司会者もその会場の空気を感じたのか? 何か空回りしている。
「今日はフェスの様子を【インスト】に上げますので、見て下さいね!」
「はよ終われ」
「次はよ」
「ううう、くっそ……」
そんな声が聞こえてくる……誰もあやぽんに注目も興奮もしていない……俺だけ。
そして何か途中の様な感じで、司会者が質問を終わりにしようとしたが……。
「それでは……綾さん……え?」
「エフェクター電源入んない!」
そんな声がステージから聞こえてくる。
そして司会者は慌てる様に言った。
「えっと、今日は音楽の祭典って事で、綾さんは歌とか歌うんですか?」
司会者があやぽんのプロフィールをガン無視してそんな事を聞いてくる。
「えっと、まあ少しは……」
あやぽんは少し困った顔でそう返事をする。
しかし、司会者はそんああやぽんの表情を見ていない。進行係と目配せをしている。
どうやら引き延ばせと指示された様で、司会者のお姉さんはきょどりながら慌てる様にあやぽんに言った。
「そ、そうなんですねえ、あ、じゃあ、ちょっと、歌ってくれますか?」
「……え?」
何を言ってるんだ? あやぽんが歌った事など一度も無い。しかも今の観客は耳の肥えた奴ばかり、素人が歌った日には、帰れコールされるかも知れない。
「……はい、じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」
「──え?」
あやぽんが歌う? 本当に?
俺は、そう聞いて、嬉しい気持ちがほんの少しと、かなりの不安が同時に襲って来る。
大丈夫か? 本当に歌うのか?
「らーーららーーらら」
すると、あやぽんはマイクを握り、アカペラで歌いだす。
しかし、いきなり【ららら】、なんて歌い始めるので、会場からクスクスと苦笑が……。
でも、それは……イントロ演奏を【ららら】でやっていただけだった。
そして、あやぽんが歌い始める。
それと同時に会場は静まり返った。
あまりの上手さに、あまりの声に……。
そして、その歌をその曲を……俺は聞いた事が……ない。
「こ、これって、ひょっとして……あやぽんの……オリジナル?」
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