28 / 62
幼なじみと隣の席の女の子
なんてね
しおりを挟む「甘いいいい美味しいい」
30分程待つと分厚いパンケーキが運ばれてくる。
それを満面の笑みで頬張る雪乃……その姿に俺はびっくりしていた。
どちらかと言うと、雪乃はあまり感情を表に出さない。
それが処世術なのか? いつもニコニコはしているが、こうやって自分の感情をさらけ出す事は、今まで、少なくとも中学の頃からは殆んど無かった。
そして雪乃の競技の性質上、こういった食事は一切制限していた筈。
気晴らしなんて今まで言った事も無い……。
ひょっとしたら、部活で、陸上部で何かあったのかも? と、俺はそれとなく聞いてみた。
「それで……どうなの?」
「むう? なにふぁ?」
口の周りにクリームを付けた雪乃は、パンケーキを頬張りながらそう言う。
「いや、陸上は、どうなんだって」
「どうって……まあ……そこそこ……?」
「うちの学校って陸上はかなりの強豪だよな、ハイジャンも強い先輩とか居るって言うし、1年だとやっぱり全中3位でも厳しいのか?」
雪乃はハイジャン、ハイジャンプ、走り高跳びで中学全国3位の実力の持ち主だった。
「あーー…………私ね……ロンジャンに転向したの……」
「…………は? ロンジャンって……走り幅跳びだよね? 何で雪乃が?」
「いやあ、先輩がお前の身長だと高校では通用しないから、ロンジャンやれって……言われちゃって、あははは」
「はあ!? え? な、なに言ってんだよ? ハイジャンでインハイ行くのが雪乃の夢だったんじゃないのか? その為にずっと……」
「ああ、まあ、ほら、うちの学校ハイジャンの選手多いしねえ~~」
フォークを指揮棒の様に振りながら、笑顔でそう言う雪乃……。
「雪乃……お前まさか……先輩に気を使ってそんな事言ってるのか?」
「え? うん、まあほら、揉め事はさあ……ね」
これだ……雪乃の悪い癖だ。外面ばかり気にして……いつも周りばかり気にして……自分は一歩引いてしまう。
「…………それで、走り幅跳びだったら行けるのか?」
「……うーーん、まあ……今の所は全然かなあ……」
「だよな……」
「あ、でもコーチに4パーはどうかって」
「4パーって400Mハードルだろ! 全然競技の性質が違うじゃないか?」
俺はずっと雪乃を見てきた……だから知っている……雪乃は瞬発力、バネの競技の選手だ。スピードはあっても持久力は全く無い、400m、ましてやハードルなんかで、通用する筈がない。
「さすがは涼ちゃん、よくわかってらっしゃる」
ニハハと苦笑いしながらアイスティーを口にする雪乃……俺はこんな雪乃を見るのは、こんな笑い方をする雪乃を見るのは初めてだった。
「良いのか? そんなんで……本当に……良いのか?」
「……そ、それよりさ、フェス良いなあ、一人で行くの?」
「え? ああ、うん」
なにか言いにくい事があると、突然話を逸らす。これも雪乃の処世術……俺は雪乃の事を知り尽くしている。そしてこれには乗らないといけない事も……知っていた。
「良いなあ……私も……行きたいなあ……」
「いや、でも合宿だろ?」
「どうにかチケット手に入れて……一緒に行っちゃう?」
「は? いや、え?」
「……もう……さ、陸上なんて辞めて……高校生らしい事、したいかなぁって……フェスに彼氏と行ったりとか……」
雪乃のは真顔で俺を見つめてそう言った。
うるうるとした瞳で、俺を見つめて……そう言った。
え? これって……。
雪乃と付き合う……振りではなく正式に……。
中学の時からの、いや子供の頃からの、出会った頃からの……俺の夢……それが今現実に……。
俺が今、雪乃の手を握り「付き合ってくれ」と言えば……雪乃が、俺の夢が手に入る。
俺はゆっくり手を伸ばす……テーブルの上に置かれている雪乃の手に……。
その時俺の脳裏に……一人の女の子の顔が浮かんだ……いや、正確には二人だ。
俺の脳裏にあやぽんと……綾波の顔が浮かんだ。 そして何故か……二人が重なる。そして一人になっていた。
「お、俺は……」
「……なーーんてね、嘘、嘘だよ~~ん」
「え? は? な、何が?」
「あはははは、全部嘘だよーーん」
「えええ?」
「岩原はハイジャンチームの合宿だしねえ、私が陸上辞めるわけ無いでしょ? あはははは」
「雪乃、お前……全く」
「涼ちゃんは相変わらず騙されやすいなあ、変な女に騙されないかちょっと心配、それとも私の演技力凄いのかなぁ? インハイで優勝、国体、オリンピック、そしてその後、女優に転身とかどうかな?」
「……知らねえよ」
「えーーーー」
「いいから、ほら、早く食え、美味しくなくなるぞ?」
「おっといけない、頂きまーーす」
再びパクパクとパンケーキを頬張る雪乃……そこに居るのは……俺の目の前に居るのはいつもの雪乃その者だった。
でも……さっきの雪乃は一体……あれは本当に演技だったのか?
それとも……。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる