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幼なじみと隣の席の女の子
なんてね
しおりを挟む「甘いいいい美味しいい」
30分程待つと分厚いパンケーキが運ばれてくる。
それを満面の笑みで頬張る雪乃……その姿に俺はびっくりしていた。
どちらかと言うと、雪乃はあまり感情を表に出さない。
それが処世術なのか? いつもニコニコはしているが、こうやって自分の感情をさらけ出す事は、今まで、少なくとも中学の頃からは殆んど無かった。
そして雪乃の競技の性質上、こういった食事は一切制限していた筈。
気晴らしなんて今まで言った事も無い……。
ひょっとしたら、部活で、陸上部で何かあったのかも? と、俺はそれとなく聞いてみた。
「それで……どうなの?」
「むう? なにふぁ?」
口の周りにクリームを付けた雪乃は、パンケーキを頬張りながらそう言う。
「いや、陸上は、どうなんだって」
「どうって……まあ……そこそこ……?」
「うちの学校って陸上はかなりの強豪だよな、ハイジャンも強い先輩とか居るって言うし、1年だとやっぱり全中3位でも厳しいのか?」
雪乃はハイジャン、ハイジャンプ、走り高跳びで中学全国3位の実力の持ち主だった。
「あーー…………私ね……ロンジャンに転向したの……」
「…………は? ロンジャンって……走り幅跳びだよね? 何で雪乃が?」
「いやあ、先輩がお前の身長だと高校では通用しないから、ロンジャンやれって……言われちゃって、あははは」
「はあ!? え? な、なに言ってんだよ? ハイジャンでインハイ行くのが雪乃の夢だったんじゃないのか? その為にずっと……」
「ああ、まあ、ほら、うちの学校ハイジャンの選手多いしねえ~~」
フォークを指揮棒の様に振りながら、笑顔でそう言う雪乃……。
「雪乃……お前まさか……先輩に気を使ってそんな事言ってるのか?」
「え? うん、まあほら、揉め事はさあ……ね」
これだ……雪乃の悪い癖だ。外面ばかり気にして……いつも周りばかり気にして……自分は一歩引いてしまう。
「…………それで、走り幅跳びだったら行けるのか?」
「……うーーん、まあ……今の所は全然かなあ……」
「だよな……」
「あ、でもコーチに4パーはどうかって」
「4パーって400Mハードルだろ! 全然競技の性質が違うじゃないか?」
俺はずっと雪乃を見てきた……だから知っている……雪乃は瞬発力、バネの競技の選手だ。スピードはあっても持久力は全く無い、400m、ましてやハードルなんかで、通用する筈がない。
「さすがは涼ちゃん、よくわかってらっしゃる」
ニハハと苦笑いしながらアイスティーを口にする雪乃……俺はこんな雪乃を見るのは、こんな笑い方をする雪乃を見るのは初めてだった。
「良いのか? そんなんで……本当に……良いのか?」
「……そ、それよりさ、フェス良いなあ、一人で行くの?」
「え? ああ、うん」
なにか言いにくい事があると、突然話を逸らす。これも雪乃の処世術……俺は雪乃の事を知り尽くしている。そしてこれには乗らないといけない事も……知っていた。
「良いなあ……私も……行きたいなあ……」
「いや、でも合宿だろ?」
「どうにかチケット手に入れて……一緒に行っちゃう?」
「は? いや、え?」
「……もう……さ、陸上なんて辞めて……高校生らしい事、したいかなぁって……フェスに彼氏と行ったりとか……」
雪乃のは真顔で俺を見つめてそう言った。
うるうるとした瞳で、俺を見つめて……そう言った。
え? これって……。
雪乃と付き合う……振りではなく正式に……。
中学の時からの、いや子供の頃からの、出会った頃からの……俺の夢……それが今現実に……。
俺が今、雪乃の手を握り「付き合ってくれ」と言えば……雪乃が、俺の夢が手に入る。
俺はゆっくり手を伸ばす……テーブルの上に置かれている雪乃の手に……。
その時俺の脳裏に……一人の女の子の顔が浮かんだ……いや、正確には二人だ。
俺の脳裏にあやぽんと……綾波の顔が浮かんだ。 そして何故か……二人が重なる。そして一人になっていた。
「お、俺は……」
「……なーーんてね、嘘、嘘だよ~~ん」
「え? は? な、何が?」
「あはははは、全部嘘だよーーん」
「えええ?」
「岩原はハイジャンチームの合宿だしねえ、私が陸上辞めるわけ無いでしょ? あはははは」
「雪乃、お前……全く」
「涼ちゃんは相変わらず騙されやすいなあ、変な女に騙されないかちょっと心配、それとも私の演技力凄いのかなぁ? インハイで優勝、国体、オリンピック、そしてその後、女優に転身とかどうかな?」
「……知らねえよ」
「えーーーー」
「いいから、ほら、早く食え、美味しくなくなるぞ?」
「おっといけない、頂きまーーす」
再びパクパクとパンケーキを頬張る雪乃……そこに居るのは……俺の目の前に居るのはいつもの雪乃その者だった。
でも……さっきの雪乃は一体……あれは本当に演技だったのか?
それとも……。
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