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幼なじみと隣の席の女の子
俺は綾波が好き……なんだ。
しおりを挟む女の子と二人で喫茶店に入る……。
人生初……いや喫茶店に入った事は何度かあるけど……。
そもそも自分が今まで一緒に行動出来た女子は雪乃だけ、その雪乃とは中学生の時から学校以外での交流は殆ど無い。
さすがに小学生の時に喫茶店に出入りはしないので、これが人生初の女子と喫茶店……。
「えっと、じゃあ見せ合おうか……」
「う、うん」
赤い顔の綾波は恥ずかしそうに鞄から書店の袋を取り出す。
俺も同じ様に照れながら袋を取り出す……。
なんか……見せ合おうかなんて言って照れながら出し合うって、文字にしたらいやらしいシチュエーションだよなぁ……まあ、自分の隠している趣味、内心を見せ合うって意味では裸を見せ合うのに似ているのかも知れない。
綾波は俺にそっと本を見せてくれる。
予想通りの作家の本だった。昭和の頃の大ベストセラー作家、当然今も尚健在している大作家様だ。
そして綾波が選んだのは、少し奇抜なタイトル、シリーズ物の刑事の話だった。
「でねでね、このシリーズに出てくる刑事の部下が、スッゴク面白くて……」
クラスでもそうなんだが……綾波は本の事に関しては、流暢に語る。照れる事なく、言葉を切る事なく。
綾波の好きが伝わってくる……そして楽しそうに語る綾波を見ると俺も幸せな気分になる。
そう……まるでtあやぽんを見ている様な……あやぽんの笑顔を見ている様な、そんな気持ちに、気分になった。
俺は綾波に負けずと現代のベストセラーラノベ作家の本を綾波に見せた。
映画化にもなった名作だ。
古い作品を好む綾波にも喜んで貰える様な、時代を感じさせない作品。
絵もオタクが好む物からはやや離れている、萌え絵ではない奴だ。
俺が語ると綾波は興味を持って聞いてくれた。
それが嬉しくてついつい語り過ぎてしまう。
それでも引かずに最後まで、嬉しそうに楽しそうに俺の話を聞いてくれた。
「あ、ヤバいこんな時間だ」
「え? あ、ほんと、ど、どうしよう」
「あ、ごめん何か用事あった?」
「あ、うん大丈夫」
綾波が時計を見てそう言う。しまったついつい調子に乗りすぎた。俺達は慌てる様に席を立ちレジに向かった。
「俺が出すよ」
「駄目」
「……じゃあ割り勘で」
レジの前でそう言って綾波からお金を貰う……あれ? 綾波の財布……。
綾波が出したピンクのブランド物の財布……俺でも知っている某有名ブランドの物、しかもこないだ、あやぽんが【インスト】に上げて以来売り切れが続出したとネットのニュースで流れていたのと同じ物だった。
「──良い財布つかってるね」
「え! あ、うん……貰ったの」
「そ、そうなんだ」
貰った? 貰ったって……誰から? 俺はさっきまでの天国にいる様なフワフワとした気分から一気に転落、地面を這いつくばっている様な気分に陥る。
十万は余裕で越える財布を貰ったって……まさか……。
いや、違う、お父さんとかだろう、入学祝とかかな? そうだ、そうに決まってる。綾波がそんな事するわけが無い。
俺は前から思っていた事、聞きたい事と一緒に、それを確認しようと思った。
そして喫茶店から出ると駅に向かって歩きながら勇気を出して綾波に聞いてみた。
「そう言えば、綾波はお父さんの本を読んでいるんだよねえ、お父さんはそれをなんて言ってるの?」
俺がそう聞くと、綾波は俺を一度見上げそして再び前を向いて言った。
「わかんない……」
「わかんない?」
「うん……死んじゃったから」
「え! あ、ごめん」
「ううん良いの……私が小さい頃だったから……」
「そうなんだ……」
「うん……お父さんの本を読むと、お父さんの事がわかる様な気がするの、あとね、多分続きが読みたいだろうなって、だから今日みたいに新作や新刊を買って読んだりもしてるの、お父さんの代わりに」
少し寂しげに、そして少し嬉しげにそう話す綾波……綾波が一心不乱に本を読む理由がわかってなんだか嬉しくなった。
そして益々俺は綾波の事が好きになった。
え? 俺は綾波の事が、好きに? 今、俺は確かにそう思った。心の中で確かにそう言っていた。
そうか……俺は綾波が……好きなんだ。
俺は気が付いた、俺は綾波が好きだって事に、今、確かに……気が付いた。
でも、だったらあの財布は一体……。
俺は気になって仕方が無かった。
好き人が変な事に巻き込まれていないか……凄く心配になる。
「あ、綾波……あの……」
「え?」
俺は急に立ち止まり綾波の手を握って同時に立ち止まらせた。聞こうって、綾波の事を、ちゃんと聞きたいって。
立ち止まり手を持って向かい合ったその時、目の前にいた集団から声が聞こえて来る。
「道の真ん中で邪魔なんですけど~~、イチャイチャすんなら、って……あれ? こいつ草刈の旦那じゃん」
「え? あ……涼……」
「……雪乃……」
目の前で大きなバックを持った雪乃のいる女子の集団がニヤニヤ笑いながらじっと俺達を見つめていた。
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