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幼なじみと隣の席の女の子
ハンカチ
しおりを挟む翌日登校するも綾波は相変わらず下を向いて本を読んでいる。
俺は制服のポケットに忍ばせた可愛い紙袋に入ったお土産の栞を手で、確認する。
渡せるわけは無いけれど、でもチャンスがあれば……ってそう思っている。
そして昼休み、綾波はいつもと変わらず弁当をつつきながら本を読んでいる。
でも、なんか……同じ光景を見続けるのもわるくは無いかなあって、そう思い始めていた。
無理に変えようとしなくても、変えたばっかりに俺は雪乃の本心を……。
「あ、いたいた、涼ちゃん昨日サボったでしょ?」
そう言いながら雪乃が俺の教室に入ってくる。
「……あ、まあ……」
「あれ? 席こっちなんだ、昨日はお隣さんも休んでたから」
「へ、へーー」
俺はチラリと綾波を見るも、当たり前だがこっちには目もくれず本を見続けている。
「今ちょっちいい?」
この間俺が素っ気ない態度を取って不機嫌になっていたが、まあ、長い付き合いなので、ああいった事はよくある。うっかりいつもの雪乃だ。
「──良いけど、ミーティングは良いのか?」
「ああ、試験前だからねえ、朝練とミーティングはお休みなのだ」
ニコニコしながら俺に向かってピースをする。
「それで?」
俺は一刻も早く会話を終わらせたく雪乃に本題は何かと聞いた。
「──あ、うん、えっとね」
雪乃は辺りを見回しそして隣の綾波を見る。綾波がこっちを気にしていない事を確認すると、俺の耳元に顔を近付け小さな声で言った。
「悪いんだけど、また彼氏の振りしててくんない? 中学の時の様にさ」
俺の耳元でそう言うと、雪乃はそう言うと俺から一歩離れ、手を合わせてウインクする。
──これだ、いつもこれで俺は何でも言う事を聞いていた。聞かされていた。
雪乃がこうやって頼むと俺は断れない……今まで断った事が無い。
雪乃はそれを知っている。俺が断れない事。
雪乃は知っている。俺が雪乃の事を好きだって事を。
そして俺は知っている。雪乃は俺を利用しているだけだって事を!
だから俺は言った。
「──ま、まあ、いいよ……」
「本当に!? ありがとう!」
「──あ、うん……」
「もし涼ちゃんにそう言う人が出来たら言ってね、その時は別の人に頼むから」
「……あ、うん……」
「じゃあ、またねえ~~」
用件は終わったとばかりに、雪乃はすぐさま俺から離れて行く。
クラスにいる陸上部の奴に手を振りながら、俺を見ずに、俺に振り返る事なく……。
断れなかった。長年の習性なのか? それとも未練なのか……俺は全く断れなかった。
悔しい……自分に悔しい……憎い、雪乃が憎い……。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ。
そう毎日自分に言っていた。自分に言い聞かせていた。
断ろう、もう関わらない様にしようって、そう思っていた。
でも……今日中学の時の様に雪乃が教室に現れた時、心の隅で俺は少しホッとした。
そして、また仮の彼氏になれる事に少しだけ嬉しくなってしまった。
これでまた、雪乃は俺の所にちょくちょく来るかも知れないって……そう思った。思ってしまった。
そんな自分が、そんな事を考えてしまう自分が、雪乃を忘れられない自分が悔しくて……俺は……。
「くっ……」
こらえられずにその場で涙が出てきてしまう。
まずい、泣いているのがバレる……教室で、でも今立ち上がったらクラスの奴らに見られてしまう。
俺は机に顔を伏せた。
寝た振りをするように、顔を伏せて泣いた。
しばらく声を殺して泣いていると俺の腕に何かが当たった。
俺は気付かれない様にそっと顔を上げると、机の端にハンカチが置かれていた。
誰の? と思ったが、顔を上げるまでの一瞬で置ける人物は一人しかいない。
俺はそっと横目で綾波を見ると、綾波は一瞬俺を見て、また再び本に視線を戻す。
今、今確かに俺を見た。綾波が遂に俺を……見ていた。
俺はハンカチで涙を拭う……綾波の香りがするハンカチで……。
そして言った。
「あ、ありがとう……その……洗って返すね」
すると綾波は本を見たまま、小さく頷いた。
席替え以来の綾波との会話、返事はしなかったけど、意志疎通が出来たから会話って言っておく。
その喜びで、遂に綾波が俺を見てくれた喜びで、さっきの雪乃の事が一瞬で吹き飛ぶ、一瞬で涙が止まる。
『笑えば良いと思うよ』
綾波がそう言ってくれている気がした。
アニメだと逆だけど……。
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