殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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前編 ユルバスカル王国編

12 青天の霹靂

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 翌日朝も早くから殿下の直轄地リングヴァに向かう。馬車に揺られ始めると、

「ねむ……」
「着くまで寝てればいいだろ」
「ありがとうございます。そうします」

 背もたれのクッションを整えて、後ろの扉を開けて毛布を出して掛ける。よし。

「すみません。殿下は?」
「俺は大丈夫」
「ではおやすみなさいませ」

 毛布を肩までかぶりぐぅ。ガタゴト揺れる馬車は寝るのにちょうどいい。揺れを心地よく感じ寝ていたけどゴンッと頭をぶつけ目が覚めた。

「大丈夫?」
「いったあ平気です。ん?」

 なんで殿下が隣にいる?そして抱かれてる?と、見上げると、

「揺れで椅子から落ちそうだったから」
「それはありがとうございます。もう起きますので」
「ああ」

 ……手を離せ?なぜ肩を抱く?この状態が理解出来ずまた見上げる。

「あの?」
「なに?」
「もう起きますから支えはいりませんが」
「朝は冷えるでしょう?こうしてた方が暖かい」
「す、すみません。気が利かず毛布をもう一枚出しますッ」
「いらない。こうしてればいい」

 なにを思ってますか?臣下を大切にしてくれるのは嬉しいですが、これはやり過ぎでは?と問えば、

「別に普通でしょう?隣り合って座っていれば暖かいし」
「まあ……ならこちらをお掛け下さい」
「ありがとう」

 というか道悪いなあと窓の外を見れば森の中。この辺ということはもうすぐ森を抜けるはず。仕事の調整をもう一度とカバンから書類を出して読み込む。コースは……ふむ。

「この地図では崖が始めで井戸とオオカミで……すると井戸の終わりで知事の屋敷に向かい飯をいただき、オオカミの村の視察か。一日掛かるかな。帰宅は夜か」
「そうだな」

 ええと返事して声の方を向くとすぐ横に殿下のお顔。ひゃあっ

「なに?」
「い、いえ……すみません。近いですぅ」
「そう?」
「ええ……少し離れて下さいませ。窓の外には護衛の騎士もおります。見られて殿下に悪い噂が立ってもよくありません。今後に響きます」
「気にしないけど」

 あなたがしなくても私が気にする。懸想してくれる殿方にその噂が届き、お手紙もお誘いも来なくなったらどうする。今考えてるかもでしょ!とは言えない。

「も、もう少し……その」
「俺と君の仲じゃない。臣下と主が一緒にいてなにが問題?」
「い、いえなにもありませんが……」

 手で押してるけど肩の手は離れないし、揺れるたびに彼の胸に入れられてどうしたらいいのこれ。殿下の婚約者の話しは聞かないけどいるでしょ?その方に勘違いされて「あなた何様?」と叱られるのも嫌だ。

「あのね殿下」
「うん?」

 優しく微笑み私を見つめる。あ…の……顔は熱く殿下はよく見るとカッコいいけど、待て待て私。あなた臣下でしょう?殿下にカッコいいとか失礼よ。主は主なんだからそういった外見とかセクハラだし、今時諸々のハラスメントになる……で…しょ……?胸がドキドキして言葉が続かない。男性とこんな近くで触れ合ったことないし。

「鈍いよね」
「はい…自覚してますが、今はなんの鈍さの指摘でしょうか?」
「目を閉じて」
「はい……ん?」
「いいから」

 そして目を閉じた。なんのことか分からず怖くて体に力が入る。すると唇があたたかく……?へ?目を開けるとキスされて……る?唇が離れると、

「鈍すぎ。俺は君が気に入って側近にした。いずれ妻にするつもりでね」
「へ?」

 妻……とは?殿下と私が?何の話だろう。私に懸想している殿方との出会いがあるはずなのにと、途切れ途切れに訴えた。

「それは俺」
「えっ」
「君はいつまで待っても俺の気持ちに気が付かないから実力行使だ」
「はあ……そうなの?」

 何の話かぐるぐる考えた。結論、みんなが周りを見ろってこのことだったのか。そっか……と納得出来たら怒りもついでに湧いた。私は腕から力ずくで離れ、向かいに座った。

「殿下は私の能力でお傍に置いたのではなかったのですね?」
「いや?それも買ってるよ。だから女性ひとりでも視察に行かせるし問題はなかった。俺は君を探してると初めて声をかけた時に言ったよね?」
「はい、言いました」

 前もってどんな人かの情報は入れていたそうだ。リアムを守れなかった謝罪をするために。その謝罪と賠償金の話しをするつもりだったけど、一目惚れ。そして作戦変更、謝罪をして賠償金の代わりに俺となった。簡単に言うとそうだと。

「調べていたなら会いに来ることも出来ましたよね」
「たまたま君が最後になっただけで、会いに行くつもりはあったよ」
「ふーん」

 君忙しくて捕まりにくかったから最後にしてただけ。あちこちの農地に行きまくってて、会議がなければ城にいるのは朝と夕方くらいでしょ?だからだよって。その通り過ぎて言い訳すら思いつかない。あの日はたまたま視察がない日で、翌日は予定びっしりだった。そういやどうしたんだろうその仕事。まあ、自分ひとりいなくても回ったから大臣は私を手放したんだろう。

「いや、それは後で大臣に文句を言われたよ。説明したら引いたけど」
「さようで」

 もう一年隣にいたのに気が付きもしなかった。私を欲しいという殿方を探してたけど、そりゃあ見つからないはずだ。目の前にいたんだから。

「私のなにがいいのです?今時の殿方は相手を選び放題でしょう?」
「そうだけど、誰でもいい訳ではない」
「まあ……」

 着きましたと護衛の声に我に返った。窓の外からジョンがにっこり。それを見て私は、

「殿下仕事です。話しは帰ってからでよろしいですか」
「ああ構わん」

 馬車を開けてくれる御者の不思議そうな顔に内心ビクビクした。しかーしッこれから仕事だと気合いを入れ降りようとしたら腕を掴まれた。

「俺が先に降りる」
「なぜ?」
「俺の気持ちを知った上でその発言?」
「仕事です殿下」
「いや、君はたった今から俺の婚約者だ」
「ふえ?」

 驚いていると先に降りてしまいお手をとにっこり。ガタガタと体が震えるのが分かる。私になにが起きてる?久しぶりの不安に体が動かない。

「手を出せティナ」
「は、はいッ」

 バカみたいにサッと手が出てクスクスと殿下は笑う。足元を気をつけてと腰を支えてくれて降りた。

「すみません」
「いいや俺の姫」
「ゔっ」

 その後どうやって視察を終えたか分からず執務室に帰り自分の席に着いた。なにしてきた私は。オオカミは?井戸はどうだった?なんも覚えてない。殿下の笑顔しか分らない。ティナと優しく声を掛けてくれて……愛しそうに見つめる青い瞳しか。ぼーっと焦点が合わない感じがする。

「ティナはどうしたの?殿下」
「うん?待てなくて気がついてもらった」
「あー……それでこんなか」
「すげえ衝撃って顔ですけど殿下」
「うん。だから視察は俺がした」
「だろうね」

 みんなの会話は聞こえ……そっかみんな知ってたのか!と、叫んだ。

「初めからだよ。気が付かないのはお前だけ」
「ゔっ……セフィロト様ひどい」
「どーんかーんなティナぁ」
「うるさい!」

 でもさ、これだけ殿下がアピールしてて臣下のままとは恐れ入る。どんな育ち方したらここまで鈍感になれるんだとフレッド様。

「分からん。このご時世、アピールに気が付かなければ次とか言われかねないのに、殿下も気の長いことだと俺は思うね」
「だよねー」

 セフィロト様はいつも以上に辛辣だ。でも言い訳は思いつかない。王族の気まぐれは私も知っている。王様も王子も個人の好みで臣下を引き抜くのは当たり前で、それにより昇進もあるし爵位が上がる例がいくらでもある。特に領地がない文官はその爵位にしかすがるところがなく必死。爵位で最低賃金が決まるから。文官は他の収入がない貴族が大半で、親が商売の道筋を持っている人ぐらいが悠々としているだけ。二男三男の貧乏貴族は皆必死で出世を狙っている。

「領地のある姫の怠慢だな。食いっぱぐれない自信があるから」
「グフッ……」
「そうそう。俺みたいな爵位があろうが土地なしの家の子とは違うんだよなあ。オールドミスでも生活には困らんもんね」
「……はい」

 これでもかと暴言の嵐。でも言い返せないの、その通りすぎて。恥ずかしさのあまり机に突っぶした。

「ティナ妃殿下とか姫とか。君はもうすぐそう呼ばれる。覚悟しろ」
「うん。でも今は止めて」
「家では姫と呼ばれてなかったの?」
「名前かお嬢様でした」

 お前らやめろ。俺の妻になっても仕事をしたければここにいることになる。仲良くしてくれよって。いやいやかわいいからの発言で、殿下の寂しそうな顔を知ってるから一度嫌味をいいたかっただけ。好きだよティナとみんな。

「何度も手を握らせたりのアピールをしてるのに失敗。苦笑いしてる殿下は可哀想だったよ」
「すみません……」
「それはいい。俺のアピールが悪かったんだ。酔いつぶれた日にキスしたのになんの反応もなかったからな。これは大変だろうと覚悟はしてた」
「ハッあれ夢じゃなかったんだ!」

 顔を上げて横を見ると、君ねえって頬杖をつく。恋人とキスしなかったの?と。……してません。手も握らなかったもん。

「ア、アリスとはしょっちゅうですッ」
「それは女性だし友情でしょう?」
「……はい」

 うわ~今時純潔の乙女だぁってカール様。その発言はセクハラだ!

「ごめ~ん。でもそうだろ?キスもない、手も握らないとかどうなんだよ」
「面目ない……」

 もう俺の姫をいじめるな。飯にしようと殿下。

「今日は遅いからな。それとティナ、兄上にはとっくの昔に了承は取ってある。君の気持ちが動いたら進めると言ってあったんだ」
「ふへ?」

 変な声が出た。兄様なんも言ってなくて、先日の集まりでもおば様たちに嫌味を言われてるのを仕方なかろうと慰めてくれて、エミリーもなにも……クソ兄様ッ

「口堅いよな君の兄上。後輩だったけど友だちだったんだ学生時代はな。戦場でもよく顔を合わせてた」
「ふーん……引っ叩くクソ兄様」

 まあまあとみんなで食堂に行くぞって。食べるけどさ、なにも知らなかったのは私だけじゃない。なんて……滑稽なんだろう。怒りの次は恥じ入る気持ちばかり。

「ごめんなさい殿下」
「いいや。君は真面目でチャーミングだ。心根も優しい。妹と領地を頑張って維持し、側近の仕事もこなした。君の強みは真面目さだよ」
「ありがとうございます。でもそれしかなくて、民を家を守らなきゃってしかなかったです」

 どの姫もそうだったろうが、君の家は親がいなくなってしまったからなって。普通はどちらかがいるものなのになって。それはそう。父上が後妻をもらわずに戦が始まったから、母上が存在しなかった。これは後になりとても困ったこと。私たちが若いから信用は薄いし「小娘が生意気だ!」とか「お嬢様では分からないでしょう?ニヒヒ」とか嫌味も多かったから。商会の狸オヤジの卑下ひげた笑いを思い出す。

「その誠実さが見た目にでていてね。話してみればその通りでさ」

 もうなにも言うまい。特徴のないお嬢なんです。だから父様はリアムをあてがったのだろう。きっと碌な釣書が来ないと思って。兄様は成人してからたくさん来てたから心配したんだろうなあ。特にかわいがられた記憶はないけど、大切には思われてたのかな。父様生きてて欲しかったなあ。そしたらもっと察する能力も磨けたかも。あーあ。

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