3 / 107
前編 ユルバスカル王国編
3 サイラス様
しおりを挟む
月日というものは苦しい、楽しいどちらの感情でも変わらず流れる。
「以上のことにより、領主を男性だけに相続権があるという文言は削除いたします。そして、現在役職に付いている女性は交代してもいいし、そのままでもどちらでも可とします」
大臣の後ろに控えていた我ら側近はビクッとした。何その決定とふらつく人や、よっしゃあと小声でガッツポーズする人と悲喜こもごも。私はといえば目眩が。兄様はこの間「このままでいいんじゃないのか?俺の知り合いがお前はすごいって褒めてたし、分業にしようぜ」と。やだなあ兄様と笑ってたけど、現実になったぞ?どうしよう……
「まあなあ、能力のある女性を後ろに下げてるのも無駄と思ってた部分もあるからなあ」
「そうですなあ。他国では女王も即位しますし、能力主義は国の発展にいいかも」
なんて声と、伝統が~男社会にこの戦時で仕方なかっただけで女はなあなんて、あちこちから聞こえる。賛否はあるようだけど、現行女性の進出で国は何とか形を保っていた事実は覆せない。
「そういや功績を上げたフィオナ様は女性であったな」
「あー……あの姫は男でしょうよ。そこらの兵士では勝てませんし、女の小柄さと柔軟性を上手く使うバケモンです」
そう、フィオナ様は戦争前から近衛騎士だった。家柄が団長を輩出する家で、お兄様や弟ばかり騎士になるのは許せないと勉学は捨てて鍛えた方。美しく俊敏でこの国の貴族の姫のあこがれの的。死なずに帰ってきたことは朗報以外ない。ただただ捕虜にならずに済んでよかったと女性陣は思っていた。兄様の姿をみれば捕虜の拷問は当たり前としか思えなかったし、女性は貞操の危機もあるから。フィオナ様含め女性戦士が帰って来てよかった。いやいや、今はそこじゃない。私はこれからどうしよう……
「ティナ?」
「ひゃい!」
「会議終わったぞ?」
「……はい」
真っ赤になりながら大臣の後ろを歩く。つい自分のことに夢中になってしまった。その後は普通に仕事して帰宅。少しの家臣とメイドだけの小さな屋敷で、エイミーがいないとひっそりして人の気配が少ない。
「お疲れ様でした。お嬢様」
「うん」
ソファに座りうーん……このテーブルの美しい表紙は。ひとつ手に取り開く。アハハッ知ってたけどさ。あー……ウツ。
「リアム様が亡くなられたと分かったばかりにこんな……お嬢様のお気持ちもセドリック様は考えてもいいのに」
「うん……家としては仕方ありません」
見合いの釣書の本のようになった美しい丁装の横に手紙。兄様の字だ。封を破り中を読むと、こんな時だからこそ結婚を推奨されている。どの姫も子息も同じだ。許せと……うん。
兄様も死んだと思われて、婚約者は別の方と結婚してしまった。我らはとても不味い立場だ。兄妹が誰も欠けなかったことはいいことだけど、親もいない鉱山の新たに子爵となった姫と領主。後ろ盾などなく、身内だけの領地なのよね。親戚もおじいさんは居るけど、おじさんは軒並み戦死か引退してる。どの家も息子の数が激減してて娘が管理している。おおぅ……我が家だけじゃないということは、男は争奪戦!ぎゃあ!私は不利もいいところ。モテないし、仕事は……最終兄様に押し付ければいいけど、男はどこにいますか?
「リン、私は結婚相手をこの中から選ばなければならないのですか?」
「まあ、男自体がいませんからねえ。身分が上がれば上も範囲に入りますが、大部分背中に羽が生えましたから」
「そうね」
残り少ない男性からのもので二冊だけ。……少し待つか。もしかしたら宮中で探せるかもだし。なんて甘い考えで過ごしていたが……
「ねえティナ。あなた相手見つかった?」
「いいえ……あなたは?」
「いいの来ない。昨日まで病で入院してて、どうにか復帰はしたけど先は短そうとか、好みでないとか、恐ろしく年齢が高いとか?」
「同じく……」
同僚のキャロラインとため息。彼女は伯爵家の姫で唯一の子どもになってしまった。他の兄弟は全滅でね。だからお父上の兄弟から養子にもらい当主になるそうだ。で、直系は自分だけだから、嫁に行っても男児が生まれたら次世代は交代予定だそう。そりゃまた大変。
「それも上手くいくかは運だね。血筋的には直系の子息で問題ないから、その時が来たら分かんない」
「まあね……」
だから仕事は絶対辞めないそうだ。彼女の一族の仕事だから死守するそうで、王様の力になる大切な職務だからと握りこぶしをグッとする。こんなことがあっても尊敬の念はなくならないよって。
「私も。だってこの戦自体寝耳に水で、あちらがいきなり攻めてきたんだから」
「そうそう。自国の大義名分かなんか知らないけど、不満や不況を戦で何とかしようってのが浅はか」
隣国は王の人気が激落ちし民も家臣もついてこなくなっていた。もう政治的にも経済的にも破綻寸前だった。それをなんとかしたくての戦。仮想の敵を我が国と定め、あの国を取れば幸せになれると民を焚き付けた結果、うちよりボロボロ。王も貴族も全員責任を取って粛清で、最後まで戦争を反対した公爵が王になったそうだ。
「隣国から親書来てるのよね。一言で言うと、ごめんね、戦争補償するから仲良くしてって」
「え……うちの王様どうすんのかな」
「わかんないね」
ランチを食べながらのおしゃべりは楽しく、お互いの仕事の話なんかもする。
「ねえ、正直あたしらは政治に口挟めないから、やることは自分の人生の充実。今後もあんな見合いの釣書しか来なかったらどうする?」
「あはは。諦めるか誰かイケメンに頼んで子どもだけ作る?」
え~って、キャロラインは嫌そうな顔をした。私も嫌だけど、最悪は想定してないとダメでしょう?と言うと、そうだけどさ夢がなさすぎるって。まあね。彼女は頬に手を当て夢見るような目になり、
「あたしはぁ白馬に乗った王子とは言わない。それは面倒くさいから。でも年が近くてぇ「愛してるよ」といつも言ってくれて、それを実行してくれる旦那様が欲しい。貧乏でも身分が下でもよくて、かっこよかったらもっといい」
「同感です」
他国の人が来る夜会やお茶会もいつか始まる。そこを狙うかなあって。いっそ自分が他国に行く外遊の時についてくかなと。それかお金持ちの民でも可だけど、それすら奪い合いだろうしなあと、おやつのリンゴをブスリとフォークで刺してモグモグ。
「適齢期にこんなことが起こるとはついてないなあ」
「うん。以下同文です」
不謹慎だけど、残る者は国を立て直さなくてはならない。王様や王族の身支度の予算削減に、領地の上納金の割引に戦士の遺族補償と節約しても出ていく。だから隣からは取れるだけ補償を取る。ケツの毛もむしると大臣は息巻いている。それが私たちの仕事で……それが落ち着く頃にはおばさんになってそうで泣きそうって、キャロラインはバタンとテーブルに突っ伏した。
「あのねキャロライン。言葉にすると現実になりそうだからその発言は止めて」
「でもさあ」
「婚約者が亡くなった悲しみも癒えてないのに、こんな話をしなくちゃならないの辛い」
「うん……」
この食堂にはおじ様の年齢の人が半分。定年を延ばしていてくれてる人も多いからおじいさんも見かける。若い女性に混じり奥様をしていた人も闊歩してもいる。お子様が小さいのに男性全滅のお家もあるからね。それほどこの戦は男性を殺した。この空白を全国民で耐えなくちゃならないとは……止めよう。リンゴが不味くなる。むしゃむしゃ食べて仕事に戻るかと立ち上がった。
「戻るの?」
「うん。仕事はいっぱいですからね」
「どこも同じかあ」
あたしもと彼女も立ち上がった。この先どうなるかなんて誰にも分からない。金銭は最悪同盟国に借金も出来るけど、人は急には増えないもんねって。
「男はいいなあ。いくつになってもお嫁さん来るから。女は子を産めない歳にはいらねって言われるのに」
「ホントにね」
じゃあまた明日と彼女が先に食堂を出て行き、私もと歩き出す。今適齢期の女性は悩むことはたくさんで、国の半分の人の悩み事は仕事の次は結婚だ。
「どうなるかなあ」
廊下に出てから伸びをしてハアって手を下ろしたら、手がバチンと当たり誰かの頭を引っ叩いてしまった。あわわわッ
「申し訳ございません!」
「いったあ……」
ヒッ男性の声だ。ど、どどうしよ。顔も見なくて頭を下げたから誰だか分からない。震えながら恐る恐る顔を上げると、サーッと血の気が引いた。
「サイラス……さま……ハッ申し訳ございません!」
「いやいいよ。でも周りは見ようね」
「はい!」
サイラス様は王様の弟のお子様。王位継承権のあるれっきとした王族だ。私より年上で女性に興味はなさそうな方で有名で、多分結婚されないのでは?と噂されている。青い目に銀色の長髪、スラッとした手足に……美形だ。
「君名前は?どこの人?」
「は、はい。農林省大臣の秘書官のティナ・アクトンでございます。エジェリレス領の娘です」
「ああ、兄上は帰還したんだよね」
「ええ。ありがたいことに。王様の寛大なお心使いでなんとか」
そうかふーんと上から下まで品定めするような目つき。ごめんなさい……あなたの目に入らないような女で、あなたの周りの方のように美しくなくてと、なぜか心で言い訳していた。
「ねえ少し君時間くれない?」
「え?」
これ大ごとになるの?わざとじゃないけど叩いたから打ち首?いやあ!結婚もエッチもせずに死ぬの?と頭から血の気が引いた。そして脱力。人生短かったなあ。戦争で生き残ったのにこれじゃあ……あーあ。なんとなく燃え尽きた気分になった。
「あの、なにか勘違いしてる?お茶しませんかってお誘いだけど」
「は?お茶……お茶?」
「うん」
ニコッと微笑むサイラス様を見つめたまま、ブワッと真っ赤になった。何してるんだ私は。仕事が忙しすぎて誰かとお茶するなんて考える余裕すらなくて、そんな思考回路忘れてた。
「あの、今すぐ?」
「出来れば。俺昼のお茶の後視察でね。その前に君とお話したい」
「はあ……では許可を取りに戻ってからでもよろしいですか?」
「いや、このままでいい。俺が手配する」
おいでと言われ、彼の背中を見つめ歩き出した。これなに?よくわかんない展開で頭がついていかないんだけど?と、頭はグワングワンしながらついて行った。
「以上のことにより、領主を男性だけに相続権があるという文言は削除いたします。そして、現在役職に付いている女性は交代してもいいし、そのままでもどちらでも可とします」
大臣の後ろに控えていた我ら側近はビクッとした。何その決定とふらつく人や、よっしゃあと小声でガッツポーズする人と悲喜こもごも。私はといえば目眩が。兄様はこの間「このままでいいんじゃないのか?俺の知り合いがお前はすごいって褒めてたし、分業にしようぜ」と。やだなあ兄様と笑ってたけど、現実になったぞ?どうしよう……
「まあなあ、能力のある女性を後ろに下げてるのも無駄と思ってた部分もあるからなあ」
「そうですなあ。他国では女王も即位しますし、能力主義は国の発展にいいかも」
なんて声と、伝統が~男社会にこの戦時で仕方なかっただけで女はなあなんて、あちこちから聞こえる。賛否はあるようだけど、現行女性の進出で国は何とか形を保っていた事実は覆せない。
「そういや功績を上げたフィオナ様は女性であったな」
「あー……あの姫は男でしょうよ。そこらの兵士では勝てませんし、女の小柄さと柔軟性を上手く使うバケモンです」
そう、フィオナ様は戦争前から近衛騎士だった。家柄が団長を輩出する家で、お兄様や弟ばかり騎士になるのは許せないと勉学は捨てて鍛えた方。美しく俊敏でこの国の貴族の姫のあこがれの的。死なずに帰ってきたことは朗報以外ない。ただただ捕虜にならずに済んでよかったと女性陣は思っていた。兄様の姿をみれば捕虜の拷問は当たり前としか思えなかったし、女性は貞操の危機もあるから。フィオナ様含め女性戦士が帰って来てよかった。いやいや、今はそこじゃない。私はこれからどうしよう……
「ティナ?」
「ひゃい!」
「会議終わったぞ?」
「……はい」
真っ赤になりながら大臣の後ろを歩く。つい自分のことに夢中になってしまった。その後は普通に仕事して帰宅。少しの家臣とメイドだけの小さな屋敷で、エイミーがいないとひっそりして人の気配が少ない。
「お疲れ様でした。お嬢様」
「うん」
ソファに座りうーん……このテーブルの美しい表紙は。ひとつ手に取り開く。アハハッ知ってたけどさ。あー……ウツ。
「リアム様が亡くなられたと分かったばかりにこんな……お嬢様のお気持ちもセドリック様は考えてもいいのに」
「うん……家としては仕方ありません」
見合いの釣書の本のようになった美しい丁装の横に手紙。兄様の字だ。封を破り中を読むと、こんな時だからこそ結婚を推奨されている。どの姫も子息も同じだ。許せと……うん。
兄様も死んだと思われて、婚約者は別の方と結婚してしまった。我らはとても不味い立場だ。兄妹が誰も欠けなかったことはいいことだけど、親もいない鉱山の新たに子爵となった姫と領主。後ろ盾などなく、身内だけの領地なのよね。親戚もおじいさんは居るけど、おじさんは軒並み戦死か引退してる。どの家も息子の数が激減してて娘が管理している。おおぅ……我が家だけじゃないということは、男は争奪戦!ぎゃあ!私は不利もいいところ。モテないし、仕事は……最終兄様に押し付ければいいけど、男はどこにいますか?
「リン、私は結婚相手をこの中から選ばなければならないのですか?」
「まあ、男自体がいませんからねえ。身分が上がれば上も範囲に入りますが、大部分背中に羽が生えましたから」
「そうね」
残り少ない男性からのもので二冊だけ。……少し待つか。もしかしたら宮中で探せるかもだし。なんて甘い考えで過ごしていたが……
「ねえティナ。あなた相手見つかった?」
「いいえ……あなたは?」
「いいの来ない。昨日まで病で入院してて、どうにか復帰はしたけど先は短そうとか、好みでないとか、恐ろしく年齢が高いとか?」
「同じく……」
同僚のキャロラインとため息。彼女は伯爵家の姫で唯一の子どもになってしまった。他の兄弟は全滅でね。だからお父上の兄弟から養子にもらい当主になるそうだ。で、直系は自分だけだから、嫁に行っても男児が生まれたら次世代は交代予定だそう。そりゃまた大変。
「それも上手くいくかは運だね。血筋的には直系の子息で問題ないから、その時が来たら分かんない」
「まあね……」
だから仕事は絶対辞めないそうだ。彼女の一族の仕事だから死守するそうで、王様の力になる大切な職務だからと握りこぶしをグッとする。こんなことがあっても尊敬の念はなくならないよって。
「私も。だってこの戦自体寝耳に水で、あちらがいきなり攻めてきたんだから」
「そうそう。自国の大義名分かなんか知らないけど、不満や不況を戦で何とかしようってのが浅はか」
隣国は王の人気が激落ちし民も家臣もついてこなくなっていた。もう政治的にも経済的にも破綻寸前だった。それをなんとかしたくての戦。仮想の敵を我が国と定め、あの国を取れば幸せになれると民を焚き付けた結果、うちよりボロボロ。王も貴族も全員責任を取って粛清で、最後まで戦争を反対した公爵が王になったそうだ。
「隣国から親書来てるのよね。一言で言うと、ごめんね、戦争補償するから仲良くしてって」
「え……うちの王様どうすんのかな」
「わかんないね」
ランチを食べながらのおしゃべりは楽しく、お互いの仕事の話なんかもする。
「ねえ、正直あたしらは政治に口挟めないから、やることは自分の人生の充実。今後もあんな見合いの釣書しか来なかったらどうする?」
「あはは。諦めるか誰かイケメンに頼んで子どもだけ作る?」
え~って、キャロラインは嫌そうな顔をした。私も嫌だけど、最悪は想定してないとダメでしょう?と言うと、そうだけどさ夢がなさすぎるって。まあね。彼女は頬に手を当て夢見るような目になり、
「あたしはぁ白馬に乗った王子とは言わない。それは面倒くさいから。でも年が近くてぇ「愛してるよ」といつも言ってくれて、それを実行してくれる旦那様が欲しい。貧乏でも身分が下でもよくて、かっこよかったらもっといい」
「同感です」
他国の人が来る夜会やお茶会もいつか始まる。そこを狙うかなあって。いっそ自分が他国に行く外遊の時についてくかなと。それかお金持ちの民でも可だけど、それすら奪い合いだろうしなあと、おやつのリンゴをブスリとフォークで刺してモグモグ。
「適齢期にこんなことが起こるとはついてないなあ」
「うん。以下同文です」
不謹慎だけど、残る者は国を立て直さなくてはならない。王様や王族の身支度の予算削減に、領地の上納金の割引に戦士の遺族補償と節約しても出ていく。だから隣からは取れるだけ補償を取る。ケツの毛もむしると大臣は息巻いている。それが私たちの仕事で……それが落ち着く頃にはおばさんになってそうで泣きそうって、キャロラインはバタンとテーブルに突っ伏した。
「あのねキャロライン。言葉にすると現実になりそうだからその発言は止めて」
「でもさあ」
「婚約者が亡くなった悲しみも癒えてないのに、こんな話をしなくちゃならないの辛い」
「うん……」
この食堂にはおじ様の年齢の人が半分。定年を延ばしていてくれてる人も多いからおじいさんも見かける。若い女性に混じり奥様をしていた人も闊歩してもいる。お子様が小さいのに男性全滅のお家もあるからね。それほどこの戦は男性を殺した。この空白を全国民で耐えなくちゃならないとは……止めよう。リンゴが不味くなる。むしゃむしゃ食べて仕事に戻るかと立ち上がった。
「戻るの?」
「うん。仕事はいっぱいですからね」
「どこも同じかあ」
あたしもと彼女も立ち上がった。この先どうなるかなんて誰にも分からない。金銭は最悪同盟国に借金も出来るけど、人は急には増えないもんねって。
「男はいいなあ。いくつになってもお嫁さん来るから。女は子を産めない歳にはいらねって言われるのに」
「ホントにね」
じゃあまた明日と彼女が先に食堂を出て行き、私もと歩き出す。今適齢期の女性は悩むことはたくさんで、国の半分の人の悩み事は仕事の次は結婚だ。
「どうなるかなあ」
廊下に出てから伸びをしてハアって手を下ろしたら、手がバチンと当たり誰かの頭を引っ叩いてしまった。あわわわッ
「申し訳ございません!」
「いったあ……」
ヒッ男性の声だ。ど、どどうしよ。顔も見なくて頭を下げたから誰だか分からない。震えながら恐る恐る顔を上げると、サーッと血の気が引いた。
「サイラス……さま……ハッ申し訳ございません!」
「いやいいよ。でも周りは見ようね」
「はい!」
サイラス様は王様の弟のお子様。王位継承権のあるれっきとした王族だ。私より年上で女性に興味はなさそうな方で有名で、多分結婚されないのでは?と噂されている。青い目に銀色の長髪、スラッとした手足に……美形だ。
「君名前は?どこの人?」
「は、はい。農林省大臣の秘書官のティナ・アクトンでございます。エジェリレス領の娘です」
「ああ、兄上は帰還したんだよね」
「ええ。ありがたいことに。王様の寛大なお心使いでなんとか」
そうかふーんと上から下まで品定めするような目つき。ごめんなさい……あなたの目に入らないような女で、あなたの周りの方のように美しくなくてと、なぜか心で言い訳していた。
「ねえ少し君時間くれない?」
「え?」
これ大ごとになるの?わざとじゃないけど叩いたから打ち首?いやあ!結婚もエッチもせずに死ぬの?と頭から血の気が引いた。そして脱力。人生短かったなあ。戦争で生き残ったのにこれじゃあ……あーあ。なんとなく燃え尽きた気分になった。
「あの、なにか勘違いしてる?お茶しませんかってお誘いだけど」
「は?お茶……お茶?」
「うん」
ニコッと微笑むサイラス様を見つめたまま、ブワッと真っ赤になった。何してるんだ私は。仕事が忙しすぎて誰かとお茶するなんて考える余裕すらなくて、そんな思考回路忘れてた。
「あの、今すぐ?」
「出来れば。俺昼のお茶の後視察でね。その前に君とお話したい」
「はあ……では許可を取りに戻ってからでもよろしいですか?」
「いや、このままでいい。俺が手配する」
おいでと言われ、彼の背中を見つめ歩き出した。これなに?よくわかんない展開で頭がついていかないんだけど?と、頭はグワングワンしながらついて行った。
11
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる