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二章 忘れてた過去が……
11 新居と従兄弟
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本来の部屋の引っ越しの日が来た。荷物は少ないからダンボールを台車に乗せて、ふたりで歩いてね。大通りを渡ってオフィスビルの隣のマンションだ。
都内にはよくある住宅とオフィスがセットになっているあれね。
住宅棟は二十五階建てで、その二十階に部屋はあった。元々の和樹の部屋も同じようなビルの十階にあったんだ。
「うそ……和樹はとっくに引っ越してたの?」
「うん。ここは家具付きのマンションだからね。今持って来たスーツケースの分で終わりだよ」
荷物は俺たちがいない時間に知り合いの業者に頼んでたそうだ。残したのは処分するもので、家具はやはり備え付けだったそう。
「あそこは蒼士が買った時に用意してたもので、僕に貸すつもりで買った物じゃないからね」
「へえ……ここも?だいぶ家具の趣味が違うね」
俺は部屋の中をウロウロ見ながら質問していた。
「ここは匠海さんの物だからね。匠海さんは蒼士の兄だ」
「へえ。なら匠海さんの趣味か」
「あ~業者かもね」
「ふーん」
前の部屋はダークブラウンで統一されていて、キッチンやトイレ、部屋のドアとかがその色だったからだろうと思う。
ここは明るい色の木目調のドアで、ファミリータイプっぽいね。俺がキッチンの棚とか冷蔵庫開けたりしてると、
「智、お前の部屋はこっちだ。僕の部屋がこっち」
「あ、はい」
言われて自分の部屋を見ると、角部屋だから窓多し。明るく開放感のある広い部屋だった。八帖分よりあるんじゃないのか?角の部分に柱はなくガラスのみで視界良好。すげえ!
俺は窓に近づき見下ろした。ビルの間に、椅子やテーブルがある公園があったのは来る時に気がついてて、上から見ると円形。その周りやビルの周りにはたくさん木が植えられていた。
この窓の正面下には細い抜け道があって、隣のビルが低いのもあって朝日が差し込む。ということは西日も入るのか。ほわ~なんていい部屋なんだ……お家賃いくらするんだろ?俺は一生住まない部屋だろうなあ。お金あっても選択肢に入れないと思う。
「どう?」
「いい部屋だね。あの……いくらするの?」
「んふふっ内緒」
「和樹、俺も少ないけど払うよ」
要らないって。前の部屋と同じで借りたからって。ウソだろ!ここ前の倍はあるだろ。
「蒼士さん太っ腹だね……」
「うん。だから蒼士好きなんだ。大切な兄貴だよ」
本当の兄より兄なんだと笑った。
「次は僕の部屋だ。智には寝室になる」
「うん」
隣の部屋に入るとおお!十帖以上はある。すでに和樹は家具を入れていた。ベッドは……前より大きい。それがあってもまだスペースはたっぷりだ。趣味のいい猫足の机と椅子も入ってて、これは和樹が自分で買った物だろう。前の部屋にはなかったからね。
「この扉は?」
「ウォークインクローゼットだよ」
「マジか!」
扉を開けるとすでに和樹の物で半分埋まっていた。あれ?あの部屋にこんなに荷物あったかな?
「こんなにどこに隠してたんだよ」
「ああ、実家に預けてたのを持ってきたんだ。必要な時に取りに行ってたんだけど、面倒臭くてね」
「ふーん」
和樹の実家は二十三区外の郊外にあるんだそうで、元々の自室に置かせて貰ってたらしい。一軒家で夫婦二人しか住んでないし、両親は忙しくて面倒臭いらしく、都内のマンションにふたりでいるらしい。もうね……よく分からん。
「備え付けの家具はどこまで?」
「ソファとかコンソールとかリビングのものだけだな」
「ふーん」
「智の部屋のダンスとかは僕が入れておいたから好きにして」
「うん」
自分の家では見たことない設備に家具たち。前の部屋もだけどさ、あそこより充実していた。
「これで全部見たよね。さあ、智はお片付け」
「うん」
俺はダンボールを自室に運び込み、荷物を片付け始めた。和樹が用意してくれたおしゃれなタンスに服を入れて……ん?ここ押し入れかな?と壁のドアを開けたらクローゼット兼用で、上半分には物が掛けられるようになっていた。便利だ。感動しながらスーツとか掛けてたらリビングから話し声がする。誰か来た?
作業を止めて部屋を出ると、俺の知らない人が和樹と話している。和樹より少し年上かな?
「あっ!」
ズカズカと近づいてきて俺の手を握った。
「君が智也くんだね。俺は高村蒼士だ。コレの従兄弟になる。よろしくね!」
ああ、この人が蒼士さんか。和樹と雰囲気はよく似ているなあ。和樹の一族の男性は背も高くイケメンのみか?ちょっと腹立つ。
「初めまして。楠木智也と申します」
俺は頭を下げて顔を上げると彼の隣にはブスッとした和樹。
「蒼士、いいから帰れよ」
「なんでだよせっかく来たのに。ねえ?智也くん。それに和樹冷た~い。俺もこの部屋よく知らないんだよ。買い取るなら一度は見ておきたいだろ」
ふんと鼻で息を吐いて迷惑そうにした。
「なら落ち着いてから来いよ。今日引っ越しなの言っておいただろ」
「いやさ、俺もこの時間しか暇がないんだよ」
「嘘つくな!お前サボりまくってるだろ!」
ふたりで言い争い出を始めてしまった。大声で揉めてる声を聞きながらぼんやりその様子を眺めていた。和樹……なんかかわいい。言ったら怒られそうだけど、いつもの余裕はなくて本当の弟のような感じだね。
蒼士さんが部屋をうろつき始めたら後をついて行って、触んな、見るなとか叫んでる。
「あはは、和樹かわいい!あ………ごめん」
俺が笑ったのが聞こえたのか、遠くからキッと睨まれた。
「僕のイメージが……帰れ!」
「嫌だよ。せっかく来たんだからお茶くらい出せよ」
「嫌だ!」
「なら正規の家賃取るぞ?」
「ゔっ……卑怯な」
ニヤニヤする蒼士さんの隣で拳を握りギリギリしてる。クッかわいすぎる!
「蒼士、そこ座って待ってろ」
「うん。ありがとね!」
「智も少し休んで」
「はい」
蒼士さんにおいでって言われてソファに座った。このソファ本皮かも!手で押したり、撫でたりしてると、キッチンからゴーッと大きな音がした。俺は驚いてそちらを振り向くと、見たことない物が鎮座していてコーヒーのいい香りが漂う。
「和樹それなに?」
「全自動エスプレッソマシン。拓司、兄がくれたんだ。……お嫁さん来てよかったなってお祝いだってね」
「へえ……」
それ以上突っ込んだらダメな空気があった。お嫁さんってなんだ?とは思ったが、和樹がブスッとしてて目も据わってな。これは不味いと目をそらし黙った。彼は三人分のラテを用意してくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
三人で無言で飲んだ。ウソッお店みたいな味がする!なんて美味いんだ。和樹は一口飲んでむ~ん。スッと立ち上がり、シュガーを取りに行って二本ぶち込んでクルクル。また激甘コーヒーを製造してるなあ。
「うん、美味い」
「変わんないね。お前は」
「いいんだよ。僕、甘いの好きだから」
「智也くんは入れないの?」
「あ、俺はミルクの甘さだけで美味しいです」
だよなあと和樹を覗き込んでからかってる。
「蒼士ウザい」
「あはは。和樹かわいい」
「かわいくねえよ」
二人は並んで座り、俺は一人がけの方に座っていた。顔も似てるからか、本当の兄弟のように見えなくもないな。従兄弟なのにこれだけ仲がよくなるってすごいよね。俺は大人になっても仲の良い従兄弟はいないもの。
「ねぇ智也くん。和樹はよくしてくれる?」
「ええ、とても大切にしてもらってます」
「そうなんだ、ふーん。……クッフフッうはは!」
蒼士さんは爆笑。なにが面白いの?と思っていると和樹の顔が……鬼がおる……
「蒼士……」
「あはは!ひーっお前が大切に?マジか!」
手を叩きなから楽しそうで、俺は唖然と見つめた。
「……帰れ。コーヒーも飲んだろ」
「ヤダ!あはは悪かったよ」
和樹の背中をバシバシ叩いてふうって。
「こいつ告白したことなくてな。俺は今まで相手を大切にとか、本当に好きなのか?と思ってたんだ」
「ああ、それで」
和樹の肩に腕を回して、なあ?って。
「なんとなく付き合ってんだろうなあって、俺はいつも思ってたんだよ」
「へえ……そうなの和樹?」
鬼は無言だが静かに震え出し、顔も少し赤くなって来たような。かなり怒ってるよね?俺余計なこと言ったかな?
「蒼士……僕は今までの人も愛してた」
「そう?俺にはそうは見えなかったけどね」
「お前が勝手にそう思ってただけだ」
「ふーん。今まで長めに付き合った人とすら一緒に住もうなんてしなかったじゃないか」
グッと喉が鳴ってビクッとした。鬼は反論できないようだ。
「そう思うまで続かなかっただけだ」
「ふーん。ねえ和樹。智也くんと他の人となにが違うの?」
「言う必要はない。お前はどうなんだよ!男関係だらしないくせに、僕になにか言う資格があるのかよ!」
俺?俺はなあって和樹から腕を外し、幸せそうに頬を手で覆ってうふふって。
「俺は素敵な王子様が迎えに来るの待ってるの。でも王子は白馬にも乗ってなくて、ロバですらね。う~ん王子徒歩だったり?うふっ」
なんだそれ。もう王子じゃないんじゃないの?その表現はさ。和樹がひっくい声で、
「違うだろ。蒼士が浮気するからだろ?」
「ええ……それ言う?浮気じゃないんだよ。違ったと思ったら時間の無駄。同時並行で王子探しの旅に出てるだけだよ。即行動は大事だよ」
和樹はぐったりしてガクッと頭を落とした。
「智、蒼士はこんなやつだ。恋人に対しては割り切りがすごい。見た目もお金もあるのに恋人と長続きしないのは頭おかしいと思ってるんだ」
やだなあ和樹と肩に腕を回し、ぬははと顔を覗き込んで不敵に笑う。
「だからこそおかしな人じゃ困るんだよ。パートナーとして俺と歩ける人じゃないとね」
彼はココだけの話だよって話してくれた。俺の素性を知るとみんな態度が変わるんだよって。いきなり高級な店に連れて行け、買ってくれとか。買い物や食事でも財布すら出さなくなるし、変な媚び方してくるようになるんだと嫌そうだ。
「そうなると俺はスッと気持ちがなくなる」
「ああ、それはなんとなく理解出来ます」
「でしょう?」
俺は和樹の背景を知ったら怖くなったからなあ。媚びてお金を出させようとか……俺の恋人の金であって俺のじゃないだろ。出してもらおうとは思わないな。
それに俺はサラリーマン家庭でお金がたくさんあったことはない。親もそこは正直で「私立の大学に二人は無理だからどちらかは公立でな!」と言われ頑張った。大した塾にも行かず、地頭だけで兄貴頑張ろうぜってと国立に。
「和樹。智也くんは変わらなかったのかな?」
「ああ。智は素直で相手をとても思いやるんだ。お金をせびるどころか……僕から一度逃げた」
「え?ええ!逃げた?」
蒼士さんは盛大に驚いていた。あれは……ごめん。
「ああ。あまりに自分と違うからって。俺には僕の隣は似合わないって言って」
「……うそ。どうやって取り戻した?」
興味津々で和樹の答えを待っている。
「まあ、頑張ったんだよ。あの頃は僕の方が夢中になってたんだ」
「うわぁ……」
不気味な生き物でも見てる目で蒼士さんは和樹を凝視。俺も変なドキドキでふたりの様子を窺っていた。
「お前の方が好きだった?智也くんがお前に夢中とかではなく?」
「ああ。だから手を出すなよ。たとえ蒼士でも智になにかしたら許さない」
「ああ、そんなことしないよ。和樹好きだから。でもいいなあ」
蒼士さんは呆れたように和樹を見てたかと思うと、頭の上で手を組んで天を仰いだ。なんで俺はそんな人を見つけらんないんだろって。グリッと急に起き上がった。
「ねえ智也くん。恋人にはお金じゃないものを見て欲しいんだ。でもみんな「テポ・ディ・オルキディアの御曹司」としか見ない」
「はい……」
和樹が顔や体の相性だけで選ぶからだろって冷たく言い放つ。
「そればっかりなはずないだろうよ。それも大切な要素だ。でも俺はちゃんと選別してるんだよ」
選別か。そんなこと言ってるから見つからないんだ。家族にしてもいい人を探すのも大切かもしれないが、心から好きと思える人が先に来ないとだろ。順番が逆だって。
「蒼士が相手を品定めしてる感じは伝わるはずなんだ。そしたら相手も、そんななら遊んでやるってなるんだろ。蒼士に愛されてないって感じるんだよ。きっとさ」
初めて言われたように驚いて、え?なにそれって。
「いやいや……え?………ん?俺そんなこと……ん?」
「帰って考えろ」
「ああ……ええ?俺ちゃんと愛してたよ!文哉も陽斗も!みんな!」
「そうかよ。じっくり胸に手を当てて考えろ。真実愛してたか」
「へ?……あ、愛してたよ!当たり前だろ!……だよな…?」
胸に手を当てて考えているようで、心当たりがあるのか言動がおかしい。
「和樹待て!俺まだちゃんと部屋見てない!バスルームもベランダも!」
「こっちが暇な時に出直せ!仕事に行けよ!」
「……やだあ和樹もっと遊んでぇ」
とにかく帰れと背中を押して追い出した。俺はほとんど口を挟まず眺めてるだけ。まあ、あれに混ざろうとは思えなかったけどな。
和樹は玄関から戻ると部屋に行きすぐに戻った。
「アイツ合カギで入ってきたんだ。はい智。お前のカギだ。アイツが持ってたのはしまった。匠海さんが持ってる可能性はあるけど……それも後でなんとかする」
和樹はスマホを握り、スパパパッとなにか打ち込んでよし!って。俺はその間部屋のカードキーを眺めていた。
「ふふん。これで安心のはずだ。蒼士は僕には遠慮がなくて構いすぎるきらいがあるんだ。ったく僕がいくつだかわかってんのかな」
「あはは。俺はいつもの和樹らしくなくて楽しかったよ」
「忘れてくれ」
「やだよ。じゃあ俺は片付けの続きするね」
「うん……」
そう言って残りのコーヒーを一気飲みしてキッチンに行った。イライラを隠さなくてなんてかわいいんだろう。
こんな和樹を見せてくれた蒼士さんに感謝しなきゃね。俺はフンフンと鼻歌うたいながら片付けを続けた。
都内にはよくある住宅とオフィスがセットになっているあれね。
住宅棟は二十五階建てで、その二十階に部屋はあった。元々の和樹の部屋も同じようなビルの十階にあったんだ。
「うそ……和樹はとっくに引っ越してたの?」
「うん。ここは家具付きのマンションだからね。今持って来たスーツケースの分で終わりだよ」
荷物は俺たちがいない時間に知り合いの業者に頼んでたそうだ。残したのは処分するもので、家具はやはり備え付けだったそう。
「あそこは蒼士が買った時に用意してたもので、僕に貸すつもりで買った物じゃないからね」
「へえ……ここも?だいぶ家具の趣味が違うね」
俺は部屋の中をウロウロ見ながら質問していた。
「ここは匠海さんの物だからね。匠海さんは蒼士の兄だ」
「へえ。なら匠海さんの趣味か」
「あ~業者かもね」
「ふーん」
前の部屋はダークブラウンで統一されていて、キッチンやトイレ、部屋のドアとかがその色だったからだろうと思う。
ここは明るい色の木目調のドアで、ファミリータイプっぽいね。俺がキッチンの棚とか冷蔵庫開けたりしてると、
「智、お前の部屋はこっちだ。僕の部屋がこっち」
「あ、はい」
言われて自分の部屋を見ると、角部屋だから窓多し。明るく開放感のある広い部屋だった。八帖分よりあるんじゃないのか?角の部分に柱はなくガラスのみで視界良好。すげえ!
俺は窓に近づき見下ろした。ビルの間に、椅子やテーブルがある公園があったのは来る時に気がついてて、上から見ると円形。その周りやビルの周りにはたくさん木が植えられていた。
この窓の正面下には細い抜け道があって、隣のビルが低いのもあって朝日が差し込む。ということは西日も入るのか。ほわ~なんていい部屋なんだ……お家賃いくらするんだろ?俺は一生住まない部屋だろうなあ。お金あっても選択肢に入れないと思う。
「どう?」
「いい部屋だね。あの……いくらするの?」
「んふふっ内緒」
「和樹、俺も少ないけど払うよ」
要らないって。前の部屋と同じで借りたからって。ウソだろ!ここ前の倍はあるだろ。
「蒼士さん太っ腹だね……」
「うん。だから蒼士好きなんだ。大切な兄貴だよ」
本当の兄より兄なんだと笑った。
「次は僕の部屋だ。智には寝室になる」
「うん」
隣の部屋に入るとおお!十帖以上はある。すでに和樹は家具を入れていた。ベッドは……前より大きい。それがあってもまだスペースはたっぷりだ。趣味のいい猫足の机と椅子も入ってて、これは和樹が自分で買った物だろう。前の部屋にはなかったからね。
「この扉は?」
「ウォークインクローゼットだよ」
「マジか!」
扉を開けるとすでに和樹の物で半分埋まっていた。あれ?あの部屋にこんなに荷物あったかな?
「こんなにどこに隠してたんだよ」
「ああ、実家に預けてたのを持ってきたんだ。必要な時に取りに行ってたんだけど、面倒臭くてね」
「ふーん」
和樹の実家は二十三区外の郊外にあるんだそうで、元々の自室に置かせて貰ってたらしい。一軒家で夫婦二人しか住んでないし、両親は忙しくて面倒臭いらしく、都内のマンションにふたりでいるらしい。もうね……よく分からん。
「備え付けの家具はどこまで?」
「ソファとかコンソールとかリビングのものだけだな」
「ふーん」
「智の部屋のダンスとかは僕が入れておいたから好きにして」
「うん」
自分の家では見たことない設備に家具たち。前の部屋もだけどさ、あそこより充実していた。
「これで全部見たよね。さあ、智はお片付け」
「うん」
俺はダンボールを自室に運び込み、荷物を片付け始めた。和樹が用意してくれたおしゃれなタンスに服を入れて……ん?ここ押し入れかな?と壁のドアを開けたらクローゼット兼用で、上半分には物が掛けられるようになっていた。便利だ。感動しながらスーツとか掛けてたらリビングから話し声がする。誰か来た?
作業を止めて部屋を出ると、俺の知らない人が和樹と話している。和樹より少し年上かな?
「あっ!」
ズカズカと近づいてきて俺の手を握った。
「君が智也くんだね。俺は高村蒼士だ。コレの従兄弟になる。よろしくね!」
ああ、この人が蒼士さんか。和樹と雰囲気はよく似ているなあ。和樹の一族の男性は背も高くイケメンのみか?ちょっと腹立つ。
「初めまして。楠木智也と申します」
俺は頭を下げて顔を上げると彼の隣にはブスッとした和樹。
「蒼士、いいから帰れよ」
「なんでだよせっかく来たのに。ねえ?智也くん。それに和樹冷た~い。俺もこの部屋よく知らないんだよ。買い取るなら一度は見ておきたいだろ」
ふんと鼻で息を吐いて迷惑そうにした。
「なら落ち着いてから来いよ。今日引っ越しなの言っておいただろ」
「いやさ、俺もこの時間しか暇がないんだよ」
「嘘つくな!お前サボりまくってるだろ!」
ふたりで言い争い出を始めてしまった。大声で揉めてる声を聞きながらぼんやりその様子を眺めていた。和樹……なんかかわいい。言ったら怒られそうだけど、いつもの余裕はなくて本当の弟のような感じだね。
蒼士さんが部屋をうろつき始めたら後をついて行って、触んな、見るなとか叫んでる。
「あはは、和樹かわいい!あ………ごめん」
俺が笑ったのが聞こえたのか、遠くからキッと睨まれた。
「僕のイメージが……帰れ!」
「嫌だよ。せっかく来たんだからお茶くらい出せよ」
「嫌だ!」
「なら正規の家賃取るぞ?」
「ゔっ……卑怯な」
ニヤニヤする蒼士さんの隣で拳を握りギリギリしてる。クッかわいすぎる!
「蒼士、そこ座って待ってろ」
「うん。ありがとね!」
「智も少し休んで」
「はい」
蒼士さんにおいでって言われてソファに座った。このソファ本皮かも!手で押したり、撫でたりしてると、キッチンからゴーッと大きな音がした。俺は驚いてそちらを振り向くと、見たことない物が鎮座していてコーヒーのいい香りが漂う。
「和樹それなに?」
「全自動エスプレッソマシン。拓司、兄がくれたんだ。……お嫁さん来てよかったなってお祝いだってね」
「へえ……」
それ以上突っ込んだらダメな空気があった。お嫁さんってなんだ?とは思ったが、和樹がブスッとしてて目も据わってな。これは不味いと目をそらし黙った。彼は三人分のラテを用意してくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
三人で無言で飲んだ。ウソッお店みたいな味がする!なんて美味いんだ。和樹は一口飲んでむ~ん。スッと立ち上がり、シュガーを取りに行って二本ぶち込んでクルクル。また激甘コーヒーを製造してるなあ。
「うん、美味い」
「変わんないね。お前は」
「いいんだよ。僕、甘いの好きだから」
「智也くんは入れないの?」
「あ、俺はミルクの甘さだけで美味しいです」
だよなあと和樹を覗き込んでからかってる。
「蒼士ウザい」
「あはは。和樹かわいい」
「かわいくねえよ」
二人は並んで座り、俺は一人がけの方に座っていた。顔も似てるからか、本当の兄弟のように見えなくもないな。従兄弟なのにこれだけ仲がよくなるってすごいよね。俺は大人になっても仲の良い従兄弟はいないもの。
「ねぇ智也くん。和樹はよくしてくれる?」
「ええ、とても大切にしてもらってます」
「そうなんだ、ふーん。……クッフフッうはは!」
蒼士さんは爆笑。なにが面白いの?と思っていると和樹の顔が……鬼がおる……
「蒼士……」
「あはは!ひーっお前が大切に?マジか!」
手を叩きなから楽しそうで、俺は唖然と見つめた。
「……帰れ。コーヒーも飲んだろ」
「ヤダ!あはは悪かったよ」
和樹の背中をバシバシ叩いてふうって。
「こいつ告白したことなくてな。俺は今まで相手を大切にとか、本当に好きなのか?と思ってたんだ」
「ああ、それで」
和樹の肩に腕を回して、なあ?って。
「なんとなく付き合ってんだろうなあって、俺はいつも思ってたんだよ」
「へえ……そうなの和樹?」
鬼は無言だが静かに震え出し、顔も少し赤くなって来たような。かなり怒ってるよね?俺余計なこと言ったかな?
「蒼士……僕は今までの人も愛してた」
「そう?俺にはそうは見えなかったけどね」
「お前が勝手にそう思ってただけだ」
「ふーん。今まで長めに付き合った人とすら一緒に住もうなんてしなかったじゃないか」
グッと喉が鳴ってビクッとした。鬼は反論できないようだ。
「そう思うまで続かなかっただけだ」
「ふーん。ねえ和樹。智也くんと他の人となにが違うの?」
「言う必要はない。お前はどうなんだよ!男関係だらしないくせに、僕になにか言う資格があるのかよ!」
俺?俺はなあって和樹から腕を外し、幸せそうに頬を手で覆ってうふふって。
「俺は素敵な王子様が迎えに来るの待ってるの。でも王子は白馬にも乗ってなくて、ロバですらね。う~ん王子徒歩だったり?うふっ」
なんだそれ。もう王子じゃないんじゃないの?その表現はさ。和樹がひっくい声で、
「違うだろ。蒼士が浮気するからだろ?」
「ええ……それ言う?浮気じゃないんだよ。違ったと思ったら時間の無駄。同時並行で王子探しの旅に出てるだけだよ。即行動は大事だよ」
和樹はぐったりしてガクッと頭を落とした。
「智、蒼士はこんなやつだ。恋人に対しては割り切りがすごい。見た目もお金もあるのに恋人と長続きしないのは頭おかしいと思ってるんだ」
やだなあ和樹と肩に腕を回し、ぬははと顔を覗き込んで不敵に笑う。
「だからこそおかしな人じゃ困るんだよ。パートナーとして俺と歩ける人じゃないとね」
彼はココだけの話だよって話してくれた。俺の素性を知るとみんな態度が変わるんだよって。いきなり高級な店に連れて行け、買ってくれとか。買い物や食事でも財布すら出さなくなるし、変な媚び方してくるようになるんだと嫌そうだ。
「そうなると俺はスッと気持ちがなくなる」
「ああ、それはなんとなく理解出来ます」
「でしょう?」
俺は和樹の背景を知ったら怖くなったからなあ。媚びてお金を出させようとか……俺の恋人の金であって俺のじゃないだろ。出してもらおうとは思わないな。
それに俺はサラリーマン家庭でお金がたくさんあったことはない。親もそこは正直で「私立の大学に二人は無理だからどちらかは公立でな!」と言われ頑張った。大した塾にも行かず、地頭だけで兄貴頑張ろうぜってと国立に。
「和樹。智也くんは変わらなかったのかな?」
「ああ。智は素直で相手をとても思いやるんだ。お金をせびるどころか……僕から一度逃げた」
「え?ええ!逃げた?」
蒼士さんは盛大に驚いていた。あれは……ごめん。
「ああ。あまりに自分と違うからって。俺には僕の隣は似合わないって言って」
「……うそ。どうやって取り戻した?」
興味津々で和樹の答えを待っている。
「まあ、頑張ったんだよ。あの頃は僕の方が夢中になってたんだ」
「うわぁ……」
不気味な生き物でも見てる目で蒼士さんは和樹を凝視。俺も変なドキドキでふたりの様子を窺っていた。
「お前の方が好きだった?智也くんがお前に夢中とかではなく?」
「ああ。だから手を出すなよ。たとえ蒼士でも智になにかしたら許さない」
「ああ、そんなことしないよ。和樹好きだから。でもいいなあ」
蒼士さんは呆れたように和樹を見てたかと思うと、頭の上で手を組んで天を仰いだ。なんで俺はそんな人を見つけらんないんだろって。グリッと急に起き上がった。
「ねえ智也くん。恋人にはお金じゃないものを見て欲しいんだ。でもみんな「テポ・ディ・オルキディアの御曹司」としか見ない」
「はい……」
和樹が顔や体の相性だけで選ぶからだろって冷たく言い放つ。
「そればっかりなはずないだろうよ。それも大切な要素だ。でも俺はちゃんと選別してるんだよ」
選別か。そんなこと言ってるから見つからないんだ。家族にしてもいい人を探すのも大切かもしれないが、心から好きと思える人が先に来ないとだろ。順番が逆だって。
「蒼士が相手を品定めしてる感じは伝わるはずなんだ。そしたら相手も、そんななら遊んでやるってなるんだろ。蒼士に愛されてないって感じるんだよ。きっとさ」
初めて言われたように驚いて、え?なにそれって。
「いやいや……え?………ん?俺そんなこと……ん?」
「帰って考えろ」
「ああ……ええ?俺ちゃんと愛してたよ!文哉も陽斗も!みんな!」
「そうかよ。じっくり胸に手を当てて考えろ。真実愛してたか」
「へ?……あ、愛してたよ!当たり前だろ!……だよな…?」
胸に手を当てて考えているようで、心当たりがあるのか言動がおかしい。
「和樹待て!俺まだちゃんと部屋見てない!バスルームもベランダも!」
「こっちが暇な時に出直せ!仕事に行けよ!」
「……やだあ和樹もっと遊んでぇ」
とにかく帰れと背中を押して追い出した。俺はほとんど口を挟まず眺めてるだけ。まあ、あれに混ざろうとは思えなかったけどな。
和樹は玄関から戻ると部屋に行きすぐに戻った。
「アイツ合カギで入ってきたんだ。はい智。お前のカギだ。アイツが持ってたのはしまった。匠海さんが持ってる可能性はあるけど……それも後でなんとかする」
和樹はスマホを握り、スパパパッとなにか打ち込んでよし!って。俺はその間部屋のカードキーを眺めていた。
「ふふん。これで安心のはずだ。蒼士は僕には遠慮がなくて構いすぎるきらいがあるんだ。ったく僕がいくつだかわかってんのかな」
「あはは。俺はいつもの和樹らしくなくて楽しかったよ」
「忘れてくれ」
「やだよ。じゃあ俺は片付けの続きするね」
「うん……」
そう言って残りのコーヒーを一気飲みしてキッチンに行った。イライラを隠さなくてなんてかわいいんだろう。
こんな和樹を見せてくれた蒼士さんに感謝しなきゃね。俺はフンフンと鼻歌うたいながら片付けを続けた。
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