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六章 遅いけど新婚旅行

最終話.俺はこれからだよ!

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 こんな感じで三日ほど過ごしていて四日目。

「うぐっ……エリオス具合悪いかも」
「え?つわりか?」
「たぶん。記憶にある具合の悪さが……」
「まずいな。これは……寝てろ。ギュンターに相談する」
「うん」

 朝早くてどうしよう。すると小さな扉からメイドが出て来た。

「おはようございます。どうかされましたか?」
「おはよう。セリオがつわりみたいで」

 え?っと驚いが、すぐに、

「それはまずいですね。すぐに医者を連れてまいります」
「頼む」
「エリオス様はセリオ様の側にいてあげて下さい」

 そう言うと外に駆け出した。それからすぐにギュンターが来てくれた。

「こんなに早くつわりが出るとは……」
「うん。前も酷かったんだ」
「そうですか。妊娠は薬がありませんからねぇ」

 そう言って顎を撫でた。何か思案しているように上見たり下見たり。

「よし!馬車で帰宅とすると何ヶ月にもなります。揺れに耐えられないでしょうから、産まれるまでここに住みましょう」
「はあ?それは迷惑だろう」
「構いません。私は暇ですし」

 いやいや。それとこれは関係ない。せめて大使館に行くよと言ったが、

「ふふん。うちの方がいいですよ。ここは本家からも近いですし、温泉地の医者も呼びやすい。不測の事態が起きれば城から呼べますし」
「そうだけどさあ」

 私はこれから手配するので、ここにいろとなぜか楽しそうに出て行った。

「セリオ」

 俺はベッドに座り、セリオを撫でた。

「うん。ごめんね。前よりは辛くないんだけど、だるくて頭痛い。めまいも少し」
「そうか。後でご飯もらってくるから横になってろ」
「うん。幸い気持ち悪くはないから食べる」

 頭を撫でて医者を待っていた。わりと早く来てくれた。

「特に問題はありません。魔力差での不調でしょうから安静にして出産を待ちましょう。猫族は三ヶ月くらいですから、療養と思ってここにいればいい。私も時々来ますよ」
「ありがとう」
「これ薬湯です。気休めにしかならない方もいますがどうぞ」
「ああ。ありがとう」

 俺が薬湯を受け取ると医師は帰って行った。

「では私がこちらを」
「うん」

 薬湯を持ってギュンターは給仕用のカートで作って……くうっ!くさっ!苦臭く酸っぱい、もわ~んとした薬の臭い。

「すげぇ臭いだな。うちと違うけど?大丈夫なのか?」
「はい。うちの国は薬の研究が進んでますからね。でも……臭く不味くなりましたね」
「そう……」

 セリオを起こして飲ませた。

「おおぅ……すごい臭い」
「な。無理ならいいぞ?」
「いや!飲む」

 ゆっくり何回にも分けて飲んだ。間に水飲みながら。

「よし!飲みきったぁ……ゲフッ。ごめん、はしたなくて」
「いいよ。俺飲みたくない臭いするもん」
「だねぇ。産後の薬湯よか…いや、あんまり変わらないね」
「あれもすざましい味するもんな」
「うん。毒レベルの不味さだからね」

 横になれと寝かせて、俺は朝食を食べに行って部屋に戻ったら。本を読んで待っていた。

「エリオス」
「え?起き上がっても?」
「うん。なんともないんだ。うちの国のはほとんど気休めだったけど、これは効いた」
「へえ……それはよかった」

 人族すごいね。だけど害はないのか?こんなに効くのは。

「ないですよ。この国の獣人も飲んでますから。人族には未だに微妙な薬なんですが、獣人の中にはよく効く人がいるんです。獣人に人気の薬ですね」

 メイドのミレールは手際よくお茶を淹れてくれる。

「ほう。人族はどうしてるの?」
「魔法も受け付けませんし、人によるのは同じです。まあ、つわり自体少ないですね。魔力差のない人と結婚しますから」
「そうね……そこよね」

 貴族は伴侶自体選ぶ時に気をつけていて、それでも好き合えばなくもない。庶民はあまりその辺考えないらしい。お金持ちは別だが、そんな事を気にして結婚しませんと話してくれた。みな似たような魔力だし、物語のような身分差があるとかでなければ起きないってさ。ふーん。

「うちは貴族でも魔力の大小が大きいんだ。下級でも多い者、上級でも少ない者がいる。それがセリオだ」

 ミレールに僕はね少ないんだよって。

「一族の中で特に少なかったんだ。最低限は魔法も使えるけど、それだけ。仕事も騎士なんかまず無理。文官になんとか滑り込んで、エリオスの側仕えに変更したんだ」

 また、珍しい事をミレールは驚いていた。

「逆は多いですけどね。うちの国は」
「いや、どこの貴族もそうだよ。僕はエリオスの奥さんになりたくてね」

 ああ!と微笑んだ。

「ならそれもありですね。エリオス様は幸せ者ですね」
「ああ。とても幸せだよ」
「それはようございます」

 薬湯のお陰で特に問題もほとんどなく三ヶ月過ぎた頃、赤ちゃんが生まれた。真っ白に少しだけ銀色の髪が混じったセリオ似の子供。

「エリオスの白にうーん。結構僕に似てるかな?」
「うんそうだな」

 出産もほとんど苦しまずでよかった。ここは前回と同じ。ランドール様は乳母も付けてくれて快適に過ごしていた。

 屋敷の図書室で本を読んだり、体力回復のために散歩したり。ここの庭は広くて歩き甲斐はあった。噴水に花畑、後ろに畑もあってさ。
 それに温泉は効果抜群でなあ。温泉の目的を思い出したよ。お風呂を楽しむだけではなかったね。そうこうするうちにイアサントに来て半年が過ぎていた。

「お世話になりました。ギュンター、ミレール。みんなも」
「いいえ。楽しい日々でした。またいらして赤ちゃんが大きくなったのを見せて下さいませ」
「うん。きっと来るよ」

 さすがに騎獣での移動は無理だから馬車で。この期間、ラインハルトたちは一時的にロドリグ様の所に戻っていた。俺たちに護衛が必要なかったからな。帰還に合わせて来てくれた。

「では参りましょう」
「おう」

 みんなに別れを告げて三週間とちょっと。半年ぶりの我が家だ。この旅のお金はランドール様がくれた。返さなくていい祝だって。さすがに帰ったら返すと言ったが、いらないって。感謝して受け取った。俺はくれるものは受け取る。施しとは思わない、あったかい頭の持ち主だからな。

 そして俺はこの半年色々考えていた。ランドール様にも相談したりしてな。

「俺は何をするにもそんなに根詰めてやらないんだ。どんなに忙しくてもな。どこか心にゆとりを持つようにしてるんだ」
「どうやって?」

 んふふっと微笑み、

「意識するんだよ、常にな。自分の行動を見失わないように、忙しい時ほど立ち止まるんだ。公私をきちんと分けるだけでも違うぞ」

 そっか。視野が狭くなるんだよな。ゆとりかあ。

「はい。ありがとう存じます。具体的にどうしてます?」
「おう。俺は執務室出たらな。仕事は可能な限り忘れるようにしている。この後のしたい事に意識を向けるんだ」
「ほほう」

 優雅にお茶を飲み、にやり。

「妻をどう抱こうかとか。よそにいる番とどう楽しませようかとか……かな。あっ友だちとの遊びもあるよ?」
「はい……」

 まずちんこの話しをぶっこむのは人族特有か?まあいいや。

 俺の反応にお前は真面目だなあ。そういう所は若い頃のロドリグに似ていると言われた。あれは忙しくなると険しくなり、ぶっきらぼうに磨きが掛かって面倒臭くなるんだ。アラ探し見たいな話し方になるしって楽しそう。

「そんな時はロドリグ様にみな様はどうしてたんでしょう?」
「みんなで注意してやったさ。すると元に戻ってたな。お前も周りにきちんと助けを求めろ。強い者とはな、人に頼ることが出来る者の事だ。腹心を大切にな」
「はい」

 なんて、ロドリグ様と同じ事を言われた。

「兄も同じ事を言ったか」
「はい。これからは注意します。みんなに助けを求めます」
「そうしろ。俺も元気なうちは助けてやるさ」
「はい」

 長い新婚旅行になったが、得るものもたくさんだった。ロドリグ様に落ち着いた頃に報告に行ってあんあんもして来た。久しぶりで気持ちよかった。

「エリオス様!」
「おう。ダリオ」
「お子様おめでとうございます。お祝いはこれどうぞ!それでですね……」

 ディエゴもフィトもクスクスと笑った。ダリオは、エリオスが帰ってくるのを指折り数えてたからねって。

「本当にいつかいつかと待ちわびておりました!」
「聞いてやれよ、エリオス」

 ディエゴは楽しそうだ。

「ああ。ダリオ話せよ」
「はーい!」

 俺の領主人生は始まったばかり。頼もしい仲間と、愛しい妻と夫。まあ夫か。
 これからも街を作り、畑の住人も増やさなくてはならない。草原もあるしね。国一番の公爵になってみようじゃないか。

 さーてダリオの話しを聞くか!
 ニャハハハ!!俺はこれからだ!!




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