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六章 遅いけど新婚旅行

6.まったりお茶会

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 旅行に出て半月。

 イアサントを拠点に、残りの三国にも出かけてそれはそれは楽しんでいた。
 リンゲル王国はその……なんだ。国に帰った気分の味わえる国だった。イモと牛。被毛のある種族の国。獅子の王が治める……もうね、うちのようだった。

 だけど違いは明確。王のやる気の問題。
 学問には力を入れていたね。貴族しか習わないような事も開放して、幼い頃から勉強させてた。知識は邪魔にならんからってさ。
 魔力の強いものには成人後に入る学校まで創設。城の騎士や衛兵に育てるんだ。

 他国もしてるけど志願によるんだ。だけどあの国は強制的に入れる。その後仕事に就くかは本人次第だ。なのに生徒の九割が騎士や衛兵、魔法使いになるそうな。残りは農家や店など家業に戻る。そう、他国に出るとかはほとんどないんだ。

「あれは驚きだよ。あれだけ手厚く教育したら都会にとか思いそうなもんだがな」
「本当にね。王が大好きで、王のために働きたいって……あのカリスマはどこから来るんだろうね」

 ラインハルトと三人でお茶会。他二人は実家に帰っている。当分イアサントから出ないで遊ぶ予定だから、ラインハルトだけでいいよって休暇を取ってもらった。

「あの国は、歴代の王がすごいカリスマですね。獅子の王で見た目の安定感もあるけど、民が大好きな優しい王なんです。欲がなく、余り金は国民に還元するしねぇ」
「また太っ腹な」

 ねってラインハルト。

「城もエリオス様の屋敷を大きくした程度の城で、庭もちんまり。農業大国で五国の食料庫と言われてます」
「あのさ……国として大丈夫なの?」

 俺は不安に思った。そんなんでやれるのかって。国は金なんか腐るほどあっても不安なもんなのに。するとふふっと微笑み、ラインハルトはお茶を飲んだ。

「最低限あればいいそうです。野菜も牛もその加工品も、五国全土に売りさばいてます。実際はかなり儲けてるんでしょう。溜め込んだお金は、不作の時に国民にばら撒くための資金。国のお金じゃないんですよ」
「こわっ!欲なさすぎだろ!」

 うんうんと頷き、

「だから国民が逃げません。変体したりで少し、子だくさんの家がしょうがなくです。でもお金貯めると、その子たちは農家や店をやるって国に帰ってしまう」
「嘘だろ……なんだそれ」
「ねえ。何でしょうね。居心地のいい国なんでしょうね」

 俺とセリオは言葉がなくなった。そんな国があるんだと驚きすぎた。

「あ。ちなみにルチアーノ様の祖国です」
「ふえ?あんな国からイアサントの王になったの?」
「はい。ボリボリ美味いな、うん」

 なんの冗談だ?セリオと見合って。え?

「あの。ラインハルト嘘でしょ?」
「本当です」
「じゃあ、あの武勇伝は盛ってる?」
「盛ってません。百年ちょっとで武勇伝を盛ったらバレますよ」
「グッ……」

 マジでバケモンだった。ルチアーノ様って。のほほんと農家やってて王?どうやって王族の基本を身に付けて、あれだけの功績を上げたんだ?最後は薬の研究とか。はあ?

「やっばり人型の魔物?」
「人です。美味いですね。このサレ」

 ムシャムシャ食べて平然としている。はあ。王になるために生まれた人なんだろう。俺には出来ない自信だけはある。

「あのさ。武芸や騎獣なんかはどうしたの?」

 うん?とこちらを向いて、飲んでいたカップをテーブルに置いた。

「武芸に関しては護身程度。浄化と癒やしに特化されてる方でした。エリアヒールはそれは美しい魔法陣が浮き上がり、金色の光が飛んで大勢を一気に治療していたそうです」
「うっ……うそ……」

 それは見たかったけど、そんな時が来てもらっても困る。

「魔力はあの当時、国一番の量で殲滅のオーブの使い手でもあります。今でもあれは有効に使えます。ちなみに手足の欠損も治せます」
「ひぃ。怖い……人族はやはり怖いわ」

 んふふっと微笑み、

「欠損の修復は魔力だけでは出来ないんですよ。あの方の能力です」
「おおぅ……そう」

 あのオープの話は知ってる。血の登録者を瞬時に殺す兵器だ。

「もう使うことがないのがいいんですけど、先は分かりません」
「そうね。平和でいたいね」

 セリオは何か考えていた。うーんと唸って。

「普段は僕らと変わらない生活でかわいらしい人で、戦は何万という人を瞬殺でしょ?よく心が保てたね」

 ふふっとラインハルトは俺たちを見た。

「保てるはずないでしょう。優しいリンゲルから来た青年です。一度目の戦の後病んでしまわれた」
「ですよね。どう復活されたんですか?」

 ゴクゴクとお茶を飲んで。ふう。

「王家の秘術で復活されたようです。これは王家の者しか知りません。ですがその後に強くなられました。物事に動じない、強い芯のような物を心に持たれたと記録にはあります」
「ああ……そこ知りたかったのに」

 それは相すみません。これは家臣は誰も知りません。ロドリグ様ならもしかしたらですね。

「そう。なら僕帰ったら聞いてみるね」
「あのさあ。セリオなんでそこに食いついてんの?」

 うんと俺を見た。見ていた……?だんだん目が赤くなりポロッと涙。え?

「エリオスが楽になれるヒントをと思ったんだ。あんな英雄でも病むんだもの。きっとヒントにって……だからグズっ」
「ありがとう。セリオ」

 だいぶ元気になったけど、また自分で何でも背負い込んで、辛くなるかもしれないから知ってれば対応出来ると。

「うん、ありがとう」
「エリオスふえーん」

 ずっとそんな事を考えていたか。悪かったなと、抱きつくセリオの背中を擦った。こんなにも心配かけてたんだな。

「ぼぐ……何にも役にたでないがら……グズっなにか役にたちたぐでぇ~うわーん」
「うん」

 そんな様子にラインハルトはなんとまあと。

「エリオス様は愛されてますねぇ。私にもそんな頃がありました。愛しくてどうにもならない気持ちでね」

頬を寄せていたセリオから顔を上げて、

「そうか。今でもだろ」
「ふふっはい。番は彼だけです。気の迷いもあったりしましたが、彼がいればもう」

 エグエグ泣きながら僕もエリオスだけでいいのぉって。すっと大好きだったんだ。前よりずっとって。

「うん。知ってるよ。俺もお前が大好きだ」
「エリオスぅ」
「愛しているよ」
「ゔん……」

 セリオ泣くだけ泣いて落ち着くと、ごめんなさいって。

「取り乱しました。すみません」

 セリオは姿勢を正して座り直した。

「いいえ。懐かしい気持ちがしました。きっとルチアーノ様も、ジュスラン様やステファヌ様にこうやって慰められながら復活したんですよ。隣でたくさんの愛情を示せばエリオス様が病む事はなくなりますよ」
「はい。頑張ります」

 宿屋でこうして他愛もない話しをするのもいい。セリオの愛情の深さも再確認出来たし、俺も愛しい気持ちでほわほわしたし。

 旅はいいなあ。気持ちを見直せるから。穏やかに二人でいることも幸せだと心からそう思った。







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