上 下
57 / 69
五章 未来を考えた領地運営とは

8.兄弟でお茶会

しおりを挟む
 執務室は穏やかというより静かになっていた。

「二人だとなんだかな」
「うん」

 新しい街は順調そのものだ。それに山も警備が行き届き、フェンリルたちもゆったりと過ごせているらしく遊びに行けば「何しに来た」なんて感じ。

「楽しんでるかな。ディエゴもフィトも。準備の時から楽しそうだったからね」
「楽しんでるだろ。これほどの長期休暇は初めてだからさ」

 二人は自分の伴侶を連れて新婚旅行にでかけたんだ。落ち着いている今を逃したら、いつ行けるかも分からないからな。

「ディエゴの所はお父様が援助してくれたからイアサントに行くって言ってたね」
「ああ。フィトは長らく帰っていないドナシアンにな。実家は隣国も近いからそこにも行くって言ってた」
「そうねぇ。北の国ってどんななんだろうね」

 隣の文官室も静かなもんだ。
 ということで俺ちは午後は城に行きファウル兄様主催のお茶会。セリオは奥様会。

「やっと落ち着いたのか」
「はい。ご無沙汰しておりました。兄様」

 俺たち兄弟だけで。こうやってお茶会するのは何年ぶりだろう。俺が城にいる頃……も誰かしらいなかったな。初めてか。

「ちい兄様ぁ」
「なんだよサントス。その呼び方は懐かしいな」
「でしょう。なんかさあ家族だけのお茶会自体しなくなったからね」

 ニコニコと楽しそうだ。

「そうですね。俺はほとんど参加しなかったし」

 イスマエルは騎士だから、あの頃は見習いで訓練に忙しくて。あんなに細かったのに今や騎士たちに混ざっても遜色ないくらい。

「イスマエルお前今役職は?」
「はい。副団長見習い」
「ほほう。頑張ったんだな」

 当たり前だろって顔である。少しむかつく。

「兄様が遊んでいる間、俺はずっと鍛えてたし、騎獣も乗りこなせるように頑張ってた」
「はい。ごめんなさい」

 真面目だからね、こいつは。

「ねえ。ちい兄様の新しい街に僕行ってみたんだ。あれなんで?なんでドナシアン?」

 あ~……

「聞かなくても分かるだろ。ロドリグ様の案だよ」
「にしてもさ。あの特区みたいなのは?」
「それは俺も気になった。なんなんだ?」

 兄様まで乗り出して来た。というか行ってたんだ。ならうちにも寄れよ。

「あれは自国の店との差別化だよ。売上が減っても可哀想だしいっそって」
「上から見てもあそこだけ他国みたいですよね」

 イスマエルもか。お前も来ればいいのに。

「ドナシアン貴族のユーリ様のお抱え商人の特区なんだ。断れなくてな」
「ユーリ様?」

 ドナシアンに魔法使いを借りに行った時の話をして聞かせた。

「あ~あれね。そっか、こちらからそんなに行ってたんだ」
「うん。同じだけ受け入れろってさ。でも競合するような店はなかったし、高いから客を選ぶ。問題にはならなかったよ」
「ふーん。街道側のいかがわしい店は?兄様にしては珍しいね」
「ゲフン……あれは」

 あれはなあ。拒否はした。したんだけど人族エロいからさあ。旅行と下半身はセットなんだそうだ。だから諦めた。
 いやあ、夜は常に人がひしめいてるんだよ。美しいエルフとか、猫族、他諸々。この国では珍しい種族が多くて特にこの国のお金持ち猫族が通ってる。ふう。

「あはは。あそこ庶民だけでなくて貴族も行ってるって噂だよ。きれいな子が接客してくれるってさ。城の催しで話してるのは耳にしたりするよ」
「へえ……」

 兄様がお前は稼ぐのがある意味下手だよねってニヤッとしている。うん?

「俺はもう父様にはお金借りてませんけど」
「そうじゃない。自分の好き嫌いでそういった店を排除するから税収が増えないんだ」
「むう……」

 どこの領地も風俗店は普通の店より売上からの税の割合が高いんだ。よからぬ輩の巣窟になりかねないからな。警備の手数料って名目でね。現実は警備を厳重にやっててもなる。無理なんだよ。

「それでもさ。儲ける気があるならばな」
「はあ。だも俺はやっばり嫌なんです。絵本の中みたいなキラキラした街にしたくて」

 うっと絶句して、ぶははと全員が笑った。

「なんだ絵本の中の街って。お前!うはは」
「ちい兄様子供かよ!あれはお金に困った者の一時的にでも支える部分もあるんだよ!あはは。ないと困るのはちい兄様だよ!あはは」

 イスマエルはさすが俺の兄様。甘いって。

「本当に変わりませんね。兄様は。かわいらしいまんま。うはは!」

 俺はみんなの爆笑を聞きながらクッキーパリボリ。いいんだもん。キレイが好きなんだもん。エロいキレイはなしか、少なくていいんだもん!

「あ~涙出た。お前はもう。だが俺はそんなお前が好きだよ。あはは」
「兄様せっかく俺の好きにできるんだもの。国の中に一つくらいそんな領地があってもいいじゃん……ボリボリ」

 不貞腐れてクッキーやサンドウィッチを食べた。家族で来ても健全!いいだろ!

「いいけどさ。はぁ。ちい兄様は変わんないね」
「本当に。ですがそんな兄様の考え方もいいと……クックッ」

 みんな呆れてんだろ。いいんだもーん。それなりの収入にはなってるからね!

「ならお前らは何やってんだよ!イスマエル!サントス!兄様も!」

 口元を隠しながらまだ笑ってるよ兄様。

「俺か?俺は父上から仕事を引き継いでいる。父上が前王から放置の案件とか、手付かずのものを拾い上げて見直しも始めた」
「ほほう。楽しい?」
「ああ。王子としての関わりとは違うからな。やり甲斐はある」

 兄様は今すぐどうこう出来る物ではないが、少しずつ変えていこうとしているそうだ。俺が他国との関わりを強く持ったからね。
 そのせいで今までの国のやり方だけでは追いつかなくなっているそうだ。

「あ~それはごめんなさい」
「いやいいんだ。鎖国してないのに鎖国状態の我が国に新しい風が入っているんだ。城下町も人族もちらほら目立つようになってきて、くま族は特にな。自分で魚屋開いたりしているよ」
「へえ……」

 ドナシアンからもき始めて、色んなお店に他国の物が並ぶようになっているそう。

「お前の所の赤の生地な。あれを買い付けに来たついでにってのが今は多い。国だけで金が回っていたのが、外貨を稼げるようになって来ているんだ。いい事だよ」
「そう言っていただけると嬉しいです」

 兄様とイスマエルはこれが本来だろうと言う。周りに国があった頃はこんなはずなんだって。

「でも人が増えると争いも増える。衛兵だけでは無理な場所も出てきて、自警団らしきモノも出来ました。繁華街や風俗街は特にね。自ら自浄しようとしてます」
「へえ。あの辺りの者は事なかれだと思ってたがな」
「それがね……」

 イスマエルは今の現状を話してくれた。
 やはり遠くに来ると色々ゆるむらしく、自国ではやらないことを平気でするようになる。
 ケンカもそうだし、そんな感じだと輩や犯罪者も住み着く。うちは風俗街すら他国よりも健全だったんだって。

「荒れた見た目の悪い者が闊歩する。経営者は嫌な雰囲気に悩みまして、こちらに相談してはくれてたんですよ。ですが我らの目をかい潜る者ばかりです。とうとうどこからかよからぬ薬も持ち込まれたようで……」
「ああ……」

 昼間っから酒飲んで路地裏で倒れている者。薬で冷たくなっているものなんか出始めた。薬はさすがに国を上げて検挙して収まりましたが、すぐにまた何か起きてもおかしくない。
 俺はそんな事に気が付きもしなかったな。うちでは見かけないし。

「いい事ばかりではないんだな」
「ええ。だから俺は兄様のやり方はいいと思いますよ。多少収入が減ろうともね」
「ありがとう。イスマエル」

 はいはい!僕も!とサントスの話になった。彼は宰相になるべく兄様の隣にいることが多い。兄様と二人で普段の様子を聞かせてくれた。

 気兼ねなくとは完全にいかない歳にはなっちまったが、やはり兄弟だ話すのは楽しい。
 俺は兄弟好きだし。城の外に出てもこうして昔と同じに接してくれる。お前は家臣だと線を引かないのがこんなに嬉しいとは思わなかった。

「んふふっ」
「なんだ?エリオス」
「兄様たちが外に出たにも関わらず、優しくて嬉しいなあって思ってさ」
「はあ?どこにいようが弟だろ」
「はい。それが嬉しゅうございます」

 何いってんだエリオスはと兄様は首を傾げたが、この気持ちは外に出た者しか分からない事なんだろう。
 その後はサントスの「番がかわいくて堪らん独演会」が続いた。

「そう言えば兄様は番とか言いませんね?」
「うん?ああ、当たり前だし、俺がそう思っていればいい」
「ファウル兄様?僕に対する嫌味ぃ?」

 ふふっと声が漏れた。

「違う。俺はみんなに分かってもらわなくてもいいと考えているだけだ。俺がかわいいと感じればそれでいい。なあイスマエル」
「はい。私もそう考えますね」

 そうね俺も同じ。俺がセリオを愛していればいい。

「みんな冷たーい!かわいいを見せびらかしたいの!僕は!」
「すればいいさ。俺たちはしないだけだ」

 こんな実のない話で盛り上がれるのも兄弟だなあ。楽しい時間はいい。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...