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五章 未来を考えた領地運営とは

6.順調なら先手を?

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 翌日みんなで開店したドナシアン組の店を視察に来た。結局ドナシアン街を作ったんだ。その方が特区のようで華やかになるかなって。

「あっユーリ様皆様!」

 レストランの店主が看板を出していた。ユーリ樣に気がつき嬉しそうだ。

「どうだ客は」
「ええ。中継地と変わりませんね。いい具合です」
「そうか。困ったことはこのダリオにな」
「はい」

 ダリオはニコニコかしこまりましたと手を揉む。まあ、店が増えればダリオは手数料で儲かるからな。

「宿屋、宝石店他も見よう」
「ああ」

 ロドリグ様とユーリ様の後に続く。
 うん箱を開けてみれば競合するような品物もなかった。ここらの店は俺たちの付き合いのない国の商品や食事、服など目新しいものばかり。初めは売上が落ちるかもだがそのうち住み分けが出来そうと感じた。

「おう!ハリル!」
「ああ!ユーリ様、ロドリグ様皆さんも」

 宿屋の主人は嬉しそう。ユーリ人気ある領主なんだな。

「客の入りはどうだ?」
「ええ!満室ですよ」
「そうか」
「はい。うちはドナシアン、イアサント他の雰囲気を各部屋色々取り揃えています。何度来ても楽しめる作りですから。食事も大陸最南マール王国からドナシアンの上の北のフリザーシル王国までなんでも。喜ばれてますよ」

 自信満々と胸を張る。

「お前のところは多国籍が売りだもんな」
「ええ。このやり方はどの国に行っても喜ばれます」

 そんな話をしている。大国の貿易国ならではだな。店構えはイアサントふうだが装飾品とか多国籍だ。見たことない飾りもある。

「ねえ、あの天井から下がっている飾りいいね。素朴なんだけど華やかだ」
「ふーん。お前は扱ったことないの?」

 フィトは内装や置いてある小物に興味を惹かれたようで目が爛々だ。

「うん。あれ北の国の宗教的な飾りだよ。わらで作った自然崇拝のね」
「へえ」
「お祭りも頭に植物を編んだ冠を被って大きな焚き火を囲んで踊る。司祭が祈ったりさ。昼から夜にかけてやるからとても幻想的なんだよ」
「ほほう。見てみたいもんだな」
「みんなで踊っているのはなんか素敵なんだよ」

 そんな話にいつか世界中旅してみたいな。なあとセリオに声を掛けた。

「そうだね。そのあたりは大使館ないからお金貯めないとだね」
「うん。現実を突きつけないで」
「あはは」

 ふたりがこちらに振り向いた。その後ろで店主がニコニコしながら、

「皆様も食べに来て下さい。異国を感じますよ。レストランとしてもやってますからぜひ!」
「おう。今度な」
「はい。お待ちしております」

 宝石店、服屋、本屋など全部見た。うちの国にはあまり入ってない書籍、専門書など城の図書館でしか見ないような本もあった。
 当然流行りの物語も多かった。服屋もイアサント、ドナシアンが中心。刺繍、フリル、ボタンなんか細工がきれいなものが多かったし、色の多彩さも目を引いた。

「猫族の方は被毛の色が色々でしょう?ですから人族より色を増やしました。似合う色がきっとありますよ」
「へえ」

 俺はこの領地の深い赤の生地で出来ているシャツを棚から手に取った。ススっと店主が近づいてきて説明をする。

「当然こちらの紅のシルクは大評判。こちらの生地でドナシアンふうのシャツなど作っています。これがそうてすね」
「そうか。他国が来るとはこういう事なんだな」
「ええ。自国にいながら他国のものを手に出来る。我ら商人はその手助けをしております」

 エリオスそうなんだぞと二人は笑う。

「文化が混じりより良く他国に売りに行ける。こちらとの協力でお前の生地も売り捌けるさ」

 ロドリグ様は夢のある話しをする。確かに増産できれば売上が上がり税収も増える。

「おお!やるなら俺が手を貸すぞ。エリオス頑張れよ」
「あ~はい」

 一通り見てロドリグ様の屋敷に戻り問題点、課題を洗い出し解散。ユーリ様は明日の昼にはドナシアンに帰るそうだ。

「五日間は短いですね」

 俺がそう声を掛けると仕方なかろうとため息をついた。

「大臣もやってるからあまり国を離れられないんだ。中継地は日帰り可能だが最後の地からここ遠いんだよ。俺は騎獣は早く飛べないし、第一疲れる」
「あはは。そうですね」

 ゆっくり景色見ながらみたいに飛ぶとドナシアンには一泊二日になる。前回は急ぎだからぶっ飛ばしたけど、ロドリグ様のあれは戦並みの速さのはず。怖くて二度としたくない。

「だろ。騎士とかの速さは俺たちには無理だよ」
「そうか?鍛えろよユーリもさ。俺は今でも出来るぞ。腹出過ぎるとモテなくなるぞ」

 はあ?とロドリグ様ユーリ様を呆れたように見て、

「……お前と一緒にしないでくれ。たが腹は頑張る」

 そんな和やかな最後の晩餐を頂いて俺たちは各々自宅の屋敷に帰った。明日の仕事は明日の俺が頑張ればいいからな。酔ったから寝るとさっさと布団にはいった。

 
 翌日からは問題点の改善や要望などをどうやったら出来るか、みんなで考えながら仕事をしていった。

「数日経ちますがダリオ来ませんね」
「うん……茶トラの姿がないのは気味が悪い」

 理由は分かっている。俺たちがやってないから。正しくは問題が出そうなのをロドリグ様とユーリ様が潰してくれたから。
 
 商売人の国はすげぇよ。

 俺たちがやって来た事と、自分たちの経験で予測し先回り。衛兵の配置、ゴミの問題、ちょっとの風俗街で出そうなの問題を拾い上げて対策。ぬはは。自分たちの能力のなさを見せつけられただけとも言うが、勉強になった。

 これから多分ある程度街が落ち着くと、ダリオは街道の東側を開拓しようと言ってくるはずだ。あそこは農地と狩り用の森しかない。絶対に「ジビエは他領のからでいいから現地調査を!」と叫ぶはず。早めに手を打つか。

「なあ、東の森どう思う?」
「西ではなく?」
「うん。西はもうすぐ畑で半分はなくなるはずだ。だから放置予定。それになんでか分からんけどいい薬草が取れるんだ。冒険者がせっせと入っているしな」
「そうね」

 セリオに俺は思いついていることを話した。

「あ~ダリオたちなら何かありそうだね。あそこの沼のいくつかは染料が取れるでしょ」
「ああ。そのあたりは開発はしないでくれって言うだろう」

 セリオはダリオたちならそうだろうと。

「だろ?今は広大な多少の起伏しかない森だ。以前は畑とか民家とかあった場所なんだ」
「あ~以前の古地図でみたね」
「あれな」

 百年以上前は全部畑、牧畜のみの場所と記載されていた。小さな村が点在してちょっとした町もあったと。

「う~ん。どんな街にするの?」
「そうねえ。エリオス様案があるの?」
「ねえから聞いている」

 あ~とみんな無言。ディエゴが口を開いた。

「俺たちも予想はしてたんだ。だけど提案できるものが思いつかなくてさ。今の街はお前の色の城下町、ロドリグ様色のフェンリルの街、そして半分ずつの魚市場」
「うん」
「うちの国とドナシアンの色の街を全面に打ち出しているよな」
「うんうん」
「うん……終わり」
「う?」

 あははと頭を掻いてなんもないと。

「城の城下町はここの城下町に似ているよな。歓楽街がないだけでさ」
「はい」
「俺はあそこをイメージして作った」
「はい」

 俺は俯いた。

「おわり」
「おわりかよ!」
「仕方ないだろ!こんなに一気に開拓となるとは思ってなかったんだよ!先手は大事だろ!」
「はい」

 無言が長く続いてペンの走る音しか聞こえない。

「誰かしゃべれ」
「ムリ。思いつかない」
「フィト」
「僕も。ずっと考えてたけどね」
「セリオ」
「以下同文」
「お前ら使えねえな」

 ガバっと顔を上げた衣擦れの音がした。

「エリオスに言われたくない!」
「お前に言う資格はない!お前が考えて俺たちが実行するんだよ!」
「ボケェ!使えないのはお前だ!」

 一斉に暴言が返って来た。

「ふぐっ……ヒドい!俺一応ここの領主だよ?」
「うるせぇ!そういうのこそ領主の仕事だよ!ボケェ!」

 と、さらに煽ってしまった。ううっ……
 大体お前はなあと口々に不満爆発。俺たちも悪いがお前も悪い!ロドリグ様たちに相談するなりしてこいよって怒鳴られた。

「ヤダ食われるから」
「食われてこい!ちんこもげるまで食われてこい!それで案が出ればそれでオッケーだ!セリオも!」
「え?僕も?……あの……終わった後心に来るからイヤ」

 関係ねえ!お前たち領主夫婦で頑張れ!俺たちはそれを実行してやるからと更に怒鳴られた。

「「はい……」」

 あう。余計なことを言った気分になった。俺は悪くない。多分だれも悪くない。いや、思いつかない俺が悪いのかシクシク……
 あの快楽セリオの言う通り終わった後精神に来るんだよ。欲に溺れてる自分が嫌いになるんだ。はあ~





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