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四章 領主として俺

7.心の奥底が抜けた

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 あれから三週間。街は完成、街道も白い石畳の素敵なものが出来た。
 思いの外石材も近くにあったから運ぶ手間が少なかったんだって、魔法使いたちから聞いている。

「早かったですなあ」
「ああ、引っ越しは出来そうか」
「もちろん!新規の店舗もまだかと待っておりました」
「それはよかった」

 それにしてもこの街はどこ?ってくらいドナシアン。それとよく分からん国のが混じっている気がする。

「この街どう思う?ダリオ」

 ゔっと息を飲んで、

「えーっと……他国かな?って感じですね。市場もそうですが……あはは。ロドリグ様遠慮がないですなあ」
「やっぱりそう思うよな。もう少しこちらに配慮してもよさそうなんだが」

 でもねぇとダリオ。

「ロドリグ様の魔法使いは、あんまりこちらの国を見てないんじゃないですかね。知らないからこんな感じなのでは?」
「そうかな……なんか半分嫌がらせのような」
「いやいや……」

 安く作ってもらったんでしょ?なら諦めも肝心です!決して悪い訳では無いし、噴水はフェンリルですし!一応あるじゃないですかと。そうね。

「う~ん……言いたくはないがお召を拒否ってるから?」
「はあ……どうでしょう……か。お噂は聞いてますが……」
「お前抱かれてこい」

 ダリオは飛び上がった。

「嫌ですよ!私は妻を愛してますから!それにおじさんですし!」
「……あの人に年齢は関係ない」
「うっイヤです」
「俺もイヤ」

 なら諦めろとダリオ。そうね。

 それから二週間くらい掛けてお店が入居。うん、人がいるといいね!ヤシの木がなんで山の中に?と思わないでもないがまあいい。ケバい花は……いずれ植え替えよう。

「エリオス様!」
「あれ?お前……」
「はい!初めの頃に入植した家の三男ルイです!」
「そうそう!お前農家は?」
「あはは。三男に仕事はありませんよ」
「畑なら用意するぞ?」
「やだなあ、街に出たかったんですよ!」

 彼は街に住みたかったそうだ。農家もいいけど、数年前の結婚式でこちらに来た時に衝撃を受けて、成人したら来るんだって決めていたそうだ。

「おう!どこの店?」
「あちらの宿屋の食堂で働きます」
「そうか。忙しいからな。身体に気をつけて働けよ」
「はい!頑張ります」

 そんな話をしているとエリオス様!と集まって来た。店を任された子供たちや、農家の二男三男なんかが多かった。みんな俺は知っている者たちだ。

「エリオス様、俺は親父に認められてここに。こんなに早く店を持てるとは夢にも……ありがとうございます!」
「うんうん。頑張れよ」
「はい!」

 みんな今ここにいる説明をしてくれた。新しい街で頑張るんだって、キラキラした目がいい。

「エリオス様、この者たちのためにも頑張って下さいませ」
「ああ。みんな頼むな!」
「「はい!」」

 うん、みんなの笑顔が眩しいね。俺たちも頑張って後押ししなければな。

 そして数日後街を開いた。

「エリオス!ゴミが!」
「エリオス!魚が人混みで搬入出来ません!」
「エリオス様!小競り合いが頻発で衛兵が足りません!」

 くそう!やはりこうなったか!

「衛兵は待機の者を出せ!」
「ゴミは俺が夜中になんとかする」
「魚はイサークの班を出して客を威嚇しろ!」
「「はい!」」

 ふう……どうして毎回対策取ってるのにこうなるんだ!つい声が出してしまった。

「お前の準備が足りんからだろ」

 うお!どこから現れた!と反射で叫んだ。

「人聞きの悪い言い方するな。どうしてるかなって見に来たらやっぱりだ」

 やっぱりとか酷い。

「すみません……前回を踏まえて用意したんですが……」

 規模も城下町より小さいから大丈夫かと思ったんだけど、あちらに人がかなり流れたんだ。二度三度来ている者は特に……

「読みが甘い」
「追い打ちかけないで」

 ふう……嫌味いいに来たのかよ。

「違う。お前さ」
「はい?」
「俺が少し実務を教えてやろうか?」
「え?」

 俺も領主で領地の運営はしていたんだ。国は違えど役に立つはずだがなって。

「ロドリグ様の領地とは雲泥の差ですよ?」
「観光地に特化しているなら似てるだろうよ」
「そうですが……」

 せっかく来てくれたし色々聞くか。

「ついでですから聞きますね。あの町並みは嫌がらせ?」

 ん?と不思議そう。

「そんなつもりはない。うちの方で人気の街を作っただけだ」
「ほほう。なぜこちらの雰囲気を一切入れなかったんですか?」
「フン。城下町はお前のデザインなんだろ。なら趣が違ったほうがいいかなと。魚市場も左右で違うだろ?」
「ああ……」

 俺が悪く受け取っていたか。

「すみません。忙しくて卑屈になってました」
「構わん。そんな時もあるだろう」

 彼は俺の机の隣、セリオの席に座った。

「お前はなんにも知らないでここまでやったのか?」
「いえ。城で少し習いました。国と領地は違うって所だけ」

 ふーんって。

「実務もそうだが心構えが特に足りん。お前の周りは甘くてなあ。困ったら助けるって具合でさ」
「分かってます。お金も人も父上が手助けしてくれて、ここまでなんとか来ました」

 分かってたのか。ふむって。
 分かってたさ自分が足りないのは。だからみんなに迷惑かけて、結果行き当たりばったりみたいになってさ。悔しくない訳ないじゃないか!

「こんなでも……みんな着いて来てくれました。感謝してます」
「うん。それはお前の力だな」

 頭をポンポンって……
 もう!忙しいのに色々思い出して涙が……グスッ

「泣くな。知らないなりに頑張って来たんだろ?」
「うん……」

 ふわって抱かれた。その優しい腕につい……うわーん!

「俺頑張ったんだ。自分で公爵になるって決めたから。だから領地を運営してみせるって……なのに、なにやってもつまずくんだ。そんでみんなに迷惑をかけて……」

 セリオにも子供が産まれたのにあんまり子育てさせてやれないし、みんなも……グタグタと今までの後悔を垂れ流した。

「そうだなあ。やってる事は間違ってないんだが、見通しが甘い。それを指摘出来る経験者もいない。だから見切り発車になる」
「ズズッ……分かってるんです。俺たちには経験が足りない。出来る側近もいない……」

 自分で始めたから誰かに助けてって言えなかったんですって泣いた。

「俺はお前の魔法使いだが、そういった事も相談してくれてよかったのに」
「だって……グスッお願いに行くと身の危険を感じて怖かった」
「そっか。それは悪かったな」
「はい。グスッ」

 扉が開いて閉じた音が何度かした。ごめん……みんなに言えなかったんだ。

「ならさ。今度は魔法使いだけでなく、他でも相談に来い。襲ったりしないからさ」
「グスッ本当に?」
「ああ。キスくらいか、抱きしめるくらいで我慢するさ」
「それもイヤ」
「それくらいの報酬はくれよ」

 抱かれて泣いているといきなり声がした。

「それくらいなら僕我慢する。エリオスごめんね。泣くほど辛かったって分かってあげられなくて」

 僕隣にいながら……ごめんねって涙ぐんでいた。

「セリオ……俺こそごめん」
「僕こそだよ。ごめんね」

 なら先に報酬をくれ。これからの事を手伝ってやるからってロドリグ様は言った。セリオはスッと後ろを向いた。

「エリオス俺はな。もっと欲しいけどお前が好きだから我慢する」

 頭を抑えられて……んっ……あふっ……やばっ気持ちいい……あう……腰に力が入んない……んんっ……ねっとりと唇を奪われた。

「んふふっ美味かった。大丈夫か?」
「ハァハァ……大丈夫……」

 怖い……これはマズい。ロドリグ様に簡単に溺れる自信がある。キスだけなのに気持ちよすぎだ!

「では、この先の話だ。まず城下町の衛兵をある程度あちらに回せ。落ち着くまでな」
「あ、はい」
「その間に衛兵を雇い対応していけ」
「はい」

 彼はエロから切り替えるのも早く細かく指示してくれた。ゴミもお前が動くのではなく、うちの魔法使い使え。領主が簡単に動くな。後魚は配達時間を変えろ。今より早くか逆に人が減った夜にしろ。今はいつ頃来てるんだ?と。

「うーん。大体俺たちが朝食食べている頃から昼頃の間です。向こうの港から取れたてを持ってきてるので」
「ふむ。保存箱に入れているんだ。時は止まっている。朝取ったものを夜に着くように対応しろ」
「はい」

 それとセリオ。彼は厳しい視線でセリオを見た。

「はい」
「何でもエリオスの言う事を肯定するな。おかしいと感じたり、間違ってると思ったら問いただせ。それも側近の仕事だ」
「はい。申し訳ありません」

 お前は特に愛しているから甘くなりがちだ。仕事中は気を引き締めろって。

「すみません……どうしても……」
「ああ。お前の話しは聞いている。番にして欲しくて頑張ったんだそうだな」
「はい」
「だが、伴侶と領主は区別しろ」
「はい」

 そこで聞いてるな!ディエゴ、フィト!とロドリグ様は怒鳴った。すると扉がギーっと開いて二人はゆっくり入って来た。

「お前らはエリオスがこんなにも追い詰められていたのを気が付いていたか?」

 ビクッとして二人は俯いた。

「すみません。気が付いていませんでした」
「僕も……」

 お前らはエリオスの右腕だろ?そんなでどうすんだって静かに叱った。

「申し訳ありません。俺は昔からの友でいつもと変わらない笑顔を信じてました」
「僕は付き合いが短いですが、いつも明るくみなの世話しているのしか知らなくて……」

 ディエゴは論外だ。友なら虚勢張ってるのを気付いてやれって。フィトは商売人だったのだろう?ならば人の顔色を伺うことは得意なはずだ!お前らたるんでる!と声を張り上げた。

「ごめんなさい……」
「俺も気が付かずごめん」

 こんな若い者が一人でここまでにするのは実際難しいんだ。王様も分かってて助けたんだろう。だが、王の助言も必要だったんだよ。エリオスは能力以上の事をしてたんだと静かに話した。

「お前らは自分の領地を思い出せ。親はここまでしてたか?一人で何でもかんでもさ」

 してません。家臣が動いてましたと。

「だろう?手足となって動くのも大切だが、領主の心の支えにもならなくてはな」
「はい」

 みんなエリオスに甘えるばかりだ。セリオさえもな。だから一人で何でもやる「クセ」が付いた。悪いクセだとロドリグ様は俺を見た。

「エリオス。俺は初めの頃に言ったよな。周りに頼れ、任せろと」
「はい」
「それは実務だけじゃない。心の負担「も」のつもりで言ったんだ」
「ごめんなさい……」

 はあと息を付いた。お前らはどうしようもないなあって。

「説教は終わりだ。動け!」
「はい!」

 今の指示を伝えに隣の部屋にみんな行ってしまった。文官も息を殺してたのか静かだったが、ザワザワしだした。

「お前も我慢するんじゃなくてな。俺もオリヴィエも相談には乗れる。お前がその気になるまでは襲わない。約束するから屋敷に来い。こちらに呼んでくれてもいい。な?」
「はい……ありがとうございます」

 俺も眺めていたのは謝る。気がついてはいたが、こちらの側近たちがなんとかするかと思っていたんだ。すまんなって。

「いえ……俺も悪いんです。王族のクセですね」
「そうだろうな。弱さを見せるなと躾けられるから。それは大切だが王も愚痴を言うところはあるんだ」
「え?父上は……」

 バカだなあ。クレメンテが聞いてるはずだよって。

「でも……この間は泣いてましたが?」

 フンと鼻を鳴らし、

「赤裸々なのは言えなかったんだろう。だが、お前が相手をしている。話す所があるだろ?」
「あはは……そうですね。そうだ……父上はクレメンテや俺がいたんだ。俺には……」

 俺は誰に愚痴を?どうにもならない辛さや哀しみは誰が聞いてくれるの?

「それが側近だ。セリオは妻だから言いにくいならディエゴでもいい。フィトはしがらみのない家臣だろ?我慢するな」
「はい……」

 俺はここにいようか?と微笑んだ。

「ありがとう。ですが頑張ります。泣いたらスッキリしました」
「そうか。愚痴は俺でもいい。頼れ」
「はい」

 じゃあなとロドリグ様は帰って行った。
 本当に困った時に現れる気がする優しい人だね。普段はエロしかない人だけど。父上とは違う優しい人。

 よし!お金はマイナス!これから回収しないとみんなが困る。
 俺は書類を見直しこれからギルドがなんか言ってきそうな所を点検していった。






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