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三章 課題と改善

10.ロドリグ様のお屋敷訪問

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 本日はロドリグ様からお屋敷にご招待。

 セリオと二人でお邪魔した。まあ、側近としてディエゴとフィトも連れてきたから、いつも通りの顔ぶれだ。

「おう!よく来たな」
「ご招待ありがとう存じます」
「あいさつは後で。まあ入れ」

 う~ん。庭は見てるが中も豪華だな。

 舞踏会が出来る吹き抜けの広い玄関ホール。中央には赤い絨毯が敷かれ、二階に上がれる階段が末広がりに設置されている。床の石もモザイク柄でなんてキレイなんだろう。

 先祖の肖像画だろうか。壁に掛けてあるね。

「凄いね」
「うん」

 セリオと小声で話す。

「間取りは似たような物なのに、こんなに見た目が違うとはな」
「うん……」

 玄関の扉の文様も、天井のシャンデリアも、端に置いてある椅子すらも、うちの国とは違い華やかだ。

「こっちだ」
「はい」

 ロドリグ様が直々に案内をしてくれ後に続く。が、屋敷の説明はない。

「ロドリグ様」
「なんだ」
「あのですね。初めて伺ったのですから何かその……お家のお披露目などの説明はないのですか?」

 うん?と不思議そう。

「お前んとこと変わらんさ」
「変わりますよ!全然違うでしょ!」
「そうか?」

 ならばするかと。おお!うんうん楽しみ!

「え~っと。ここが庭。連絡通路から出られる。こっちがサロン……え~あっちがお茶会とか……」

 面倒くさそうに指をさしている。

 お~い!使用目的だけだよ!そうじゃないんだ。意匠とか文様の説明とか、文化の説明を……

「ふう。俺はなエリオス」
「はい」

 素敵な廊下の途中で彼は立ち止まり、クルッと俺に振り返った。そして俺の肩に両手をポン。

「家は住めればいい。分かれ」
「へ?」
「雨風防げて眠れればいい」
「……はい」

 とても美しい瞳で見つめられて……うふ~ん。

「エリオス……」
「ギャッ」

 お尻をつねられた!

「セリオ……」
「見ちゃダメ!僕だけを見て!」
「ごめん、つい」

 あはは、相変わらずセリオはエリオスだけだな。お前も大変だと笑いながら客間に通された。

「では、改めて。お招きありがとう存じます」
「ああ。たまにはこちらで話すのもよかろうと思ってな」
「はい」

 こちらのメイドがお茶やお菓子を用意してくれている。ドナシアンで見たチョコレートのお菓子もある。支度が終わると壁際に下がった。

「それでだ。不本意だが公爵の身分を賜り、お前の領地のお抱えの魔法使いとして就任はした」
「はい」

 ふんと鼻を鳴らし、お茶を一口。

「俺はこの国をあまり知らなくて、ここ数ヶ月遊びながら調べていたんだ」
「ほほう」

 遊びながらね。俺は激務でしたが。

「ここは思っていたより豊かだな」
「そうでしょうか」
「ああ」

 国土は確かに狭く畑や放牧地が多い。観光と呼べるものも温泉かお前のところくらい。猫族が七割以上の単一民族で他の獣人も少ない。

 そんな俺に取っては当たり前をロドリグ様は話した。

「ええ、昔は周りにたくさんの別の獣人の小国があったらしいんですけどね。今や森や草原となっています」
「そうだな。地図などを見るとこのあたりはポツポツと国があるように見える」
「そうですね」

 やりようによっては国土は増やせる要素はある。なあ、エリオス?と俺を見た。

「はい。そうですね」
「でだ」
「はい」

 はあとため息交じりに息を吐いてお茶を飲み、お菓子をボリボリ。

「この間な。王に謁見してきた」

 うっ……父上に会ってきたのか。
 まあ、そうするのが当たり前だが、俺にも声を掛けてくれ。

「城に行く時はお声がけもお願いします。それで……」
「あ~普通にお前をよろしくってさ。城しか知らない子だからって」
「あはは……」

 それは嘘じゃない。公爵になってから知った事の方が多いからな。

「それで少し引っかった」
「はあ、何か言いましたか。父上」

 う~ん……と思い出しているようだ。

「空いてる土地多いし、公爵だし。領地はいかが?というニュアンスが含まれた会話があってだな」
「ほほう」

 だろうな。王家由来でなくとも公爵は俺たち王族と変わらないくらいの権力はある。
 
 今はロドリグ様に国から金は出ていないが、出してもいいから領主になってもらいたいのだろう。
 そうすれば国土は増えるし、税収も……一番は人族が増えるからかな。

「なんとなく父上の目論見は理解出来ます」
「だが、俺はイヤだ」

 ドナシアンの領地に子供を置いてきたのは、なんのためだと思ってるんだ。早いけど跡を継がせて、妻を連れてここに遊びに来たのにさって。

「やなこったい」
「あはは……」

 なんも言えねえ。

「もし、気が変わったら仰って下さい。俺はなんでもしますよ」
「変わらないからいい」

 む~ん。本気で遊ぶつもりだな。

「俺はお前らの側にいて楽しむんだ。魔法に関しては、未開の地に近いこの国を探索して、新しい魔獣を探したり、契約したり。夢は膨らむ」
「そうですね。魔力が少ない我らには見つけられていない物もあるやも知れませんね」
「だろう?フェンリルしかりだ」

 楽しそうだな。俺もいつかこんな事考えられる時が来るのだろうか。

 その時、コンコンと扉をノックされた。

「ロドリグ、よろしいですか?」
「おう」

 ぐはあっ!

 扉の前にはなんてかわいい。歳はロドリグ様より少し下かな。金髪でオレンジの瞳。スラッとした体躯に……やだ……生めかしいタイプだ……

「エリオス」
「……」
「エリオス!!」
「ひゃう!」

 はあぁ……とため息。

「お前はもう」
「すみません……美しい人見るの好きなんです」

 俺以外もぼうっと見ていた。

「彼は俺の番、オリヴィエだ」

 彼は扉から一歩前に出て、

「オリヴィエです。初めてまして」

 俺とセリオも立ち上がり、

「お初にお目にかかります。私がエリオス、隣が番のセリオでございます」
「ふふっロドリグの話の通り。かわいらしいですね」

 大国の王族は立ち居振る舞いは違うな。
 優雅で指先の動きまで美しい。

 いいからお前ら座れと言われ座り、メイドがオリヴィエ様のお茶を用意し下がった。

「これから俺たちは二人でここに住む。子供は置いてきた。話したよな」
「はい」

 呼んだのは、オリヴィエに会わせたかったからなんだと言いながら、彼の肩に腕を回す。

 ほほう……随分普段と雰囲気が違うな。
 
 険しさは微塵もなく、愛しいという気持ちがダダ漏れだ。オリヴィエ様もロドリグ様が本当に大切って気持ちが表情からも分かる。

「俺の用事は済んだ。オリヴィエ後を頼む」
「はい。ロドリグ」

 え?

 オリヴィエ様にチュッとキスするとマジで部屋を出て行った。ええ!?

「すみません。今ポーションの改良が楽しいみたいで研究室に篭もっているんです」
「あ……はあ」

 苦笑いのオリヴィエ様は……恐ろしくかわいい。いやいや……そうじゃない。

 俺はセリオと見合ってなんなのと。だけどセリオはクスクスと口元に手をやり笑う。

「いつも通りですね。ロドリグ様」
「あ、ああ」
「気にしないで下さい。彼は子供の頃からあんなです」

 へぇ……
 オリヴィエ様は彼の事を話してくれた。

「私と彼はイアサント出身です。四家の彼は幼なじみですね。彼の兄や私の兄弟と城の庭でよく遊びました」
「幼い頃からあのまんま?」

 ふふっとオリヴィエ様の口から声が漏れた。

「もう少し可愛らしかったですね」
「ですよね……」

 小さい頃からあのふてぶてしい感じはないか。

「彼が愛想がないのは変わりませんが、何か困った事や、大変な事があると必ず手を貸してくれて話も聞いてくれました」

 とても思いやりがあって信頼出来る方です。私はそんな彼が好きでした。
 一方、彼の兄は正反対の明るく人を惹きつける魅力に溢れて、仲間も多かったです。
 彼と兄を比べる方も多く、お兄様の方がモテてましたと、楽しそうに話してくれる。

「オリヴィエ様はお兄様の方は……」

 う~んと顎に指を当てて腕組みして悩む。

「外見はよく似ていました。二人で並ぶと目の色が違うくらいですかね」

 ですが、個人の持つ雰囲気は、「陰と陽」くらい違いましたねって。

「彼は冷たそうに見えますが、中は暖かな……お兄様はどちらかと言うと割り切りの早い、ドライな方でしたね」
「兄弟あるあるですね」
「ええ」

 俺も自分の兄弟の話をした。ロドリグ様そっくりなイスマエル。だがあいつは心が暖か……かな?俺が知らないだけか。

「クスクス。番の候補がいるならば、きっと優しいんですよ。お兄様には見せない所があるんです」
「そうですかね。いつも私には"兄様が慣れてくださいませ"キリッとされますが」

 あはは。本当に似てますね。ロドリグもそんなでした。お兄様には恥ずかしくてそんな態度なんですよって。

 そうかなぁ……性格悪いだけじゃないのか?サントスや兄様、俺とは明らかに違うぞ?

 たまに甲冑と話してる気がするんだが。う~ん。

「素が出せるって事は、好かれているんだと思いますよ」
「はあ。幼い頃はもう少し可愛げがあった気はしますけど」

 セリオも、彼はよくお庭で小さいお花を、嬉しそうに眺めていた事がありましたよと、クスクス。

「イスマエル様もきっとね。エリオス」
「そう?お前がそう言うなら」

 それからも、オリヴィエ様の事や、お子様のことなど楽しく話してお暇した。

 ロドリグ様の番とは思えぬ、穏やかでふんわりした方だった。
 よく射止めたもんだよ。ロドリグ様。



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