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三章 課題と改善
6.やはりエロかったか
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食堂のドアが開くと、ロドリグ様が優雅に朝食を取る姿が目に入った。
ふぐっ!
俺は飛び跳ねるんじゃないかってくらいビクッ。昨夜はいなかったはずで、俺の心臓はバクバク。周りに聞こえるんじゃないかというくらいバクバク。
「おっおはようございます。ロドリグ様」
「もぐもぐ。うん、おはよう」
美しい笑顔で、ウッ眩しい。
俺たちも席につき、メイドがテーブルに食事を用意。もぐもぐ。
なんだろうか。雰囲気が違う気がする。険しい感じがないような?
「どうした。俺の顔に何かついてるのか?」
俺ガン見してた?
「申し訳ありません」
彼はオレンジジュースをごくごくと飲んで、
「まあいい。ここの食事は美味い。あちらの国はまあ美味いんだが質素……いや、素朴で」
そう言うといちごを摘み美味しそうに食べた。
「昨夜のお帰りでしたら、お呼び下さればよかったのに」
「う~ん。本当に夜中でな。寝てるのを起こす必要を感じなかった」
おお、優しい。
いや、優しいのは元からなんだが、声色まで優しく聞こえるような?
「お気遣いありがとう存じます」
うん。そう返事するとぶどうを摘みもぐもぐ。
「朝一報告に行くから」
「はい」
彼は随分早く来ていたようで席を立ち、またなと側近と出て行った。俺は後ろ姿をぼんやり見つめていた。いつもと違う彼が気になり、意味なくもういないドアを見ていた。
「何かあったのかな。雰囲気が違う気がしたんだけど」
セリオの声に正気に返った。
「お前もそう思う?俺も変に感じた」
ドナシアンで初めて会った時、彼は威圧感たっぷりで、他国の大臣そのものだった。
ここに来る途中、来てからも険しく的確に指示を出しているのしか知らない。それが少しふんわり優しい感じになってる……気がする。
「後で分かるかな」
「そうだね。聞いてみればいいんじゃない?」
なんて事言うんだ。むり。
「イヤ」
「聞かなきゃ分かんないよ?僕はイヤだよ?」
「自分が嫌なくせに俺に聞けと?」
「うん。だって僕から聞くのも変じゃない」
そんな話をして食事をいると、フィトとディエゴも来た。フィトは中に入ると大口開いてくわ~ってあくび。
「おはようございます。エリオス様」
「ああ、おはよう。俺たちはもう済んだから又後でな」
「はい」
二人を置いて俺たちは私室に戻った。
メイドにお茶を淹れてもらい、いちゃいちゃ。俺のマイブーム、セリオを膝に乗せ耳としっぽをもふもふ触る。
「うふん。エリオス。今日からは僕から離れないでね」
ふんわりした顔で俺の頬を撫でる。
「え?ああ、分かった。ふわふわ気持ちいい触り心地。気持ちいい?」
「うん、僕も触る」
お互いの耳を触ったりキスしたり。スキンシップが楽しく幸せだ。
だが、セリオは彼が帰って来て不安なんだろう。いつもよりねっとりと俺のしっぽを触る。実は俺も不安。身の危険だけでなく、色々不安だ。
コンコン
「時間だ。エリオス」
「おう!」
ディエゴの迎えに、朝の短い楽しみは終わり。執務室に向かった。
「文官が報告書ですと届けてくれました。これを」
「ありがとう」
フィトが書類を机に置いた。先に読んでおけって事か。紙を手に取り、ふむふむ。
「やはり追い詰められて国というより、小さな領地のようになってしまったんだな」
「そうだな」
ディエゴも眉間にシワで唸っている。
今どき流行り病で人がバタバタなんてこと、どの国でもなくなったと思っていたがな。
「これが元々の財務状況だ」
「あ、うん」
次だとディエゴが書類を渡してくる。
う~ん。うちはかなりの貧乏国だと思ってたが、世界は広いな。これじゃあ民が少なかろうとギリギリの財務だと言わざるを得なかった。
「新たな情報を買い取ることも出来ず、魔力も少ない。これでは国ではなく領地だよ」
フィトも厳しい財務状況に低い声を出した。
「そうだな。貴族も手が足りず自分で畑を耕し、食い扶持を生産。漁師は海や川から魚を捕り売る…か」
俺は独り言のように呟いた。
特産品などもなく、山に囲まれた入江にある国。内陸には珍しい海の魚を売って細々か。俺の屋敷の後ろに広がる草原まっしぐらだな。
「だが、王は民に慕われているようだな。それこそ王は民と共にを現実に行い、国全体が家族のように過ごす。王は幸せだ常々思っていたと書いてある」
ディエゴの説明を聞きながらペラペラと紙をめくる。
交通の便が悪く、谷を迂回して他国に売りに行くから、労働の割に収入は少ない。
だが、国民の食べ物に困ることはなかった。海沿いだから魚は当然だし、日当たりもよく、果物も野菜もよく取れた。
病さえなければ、皆で手を取り合って楽しく暮らせたんだろう。集中して読んでいるとふいに声が。
「エリオスがやりたいってやり方だね」
「うん……」
コンコン
「待たせたか?」
「いいえ。では会議室に移動しましょう」
「ああ」
俺たち執務組とロドリグ様たちと会議室に移動し、席に着いた。俺はまず、これまでの感謝を伝えた。
「ロドリグ様。こんな小国の小さな領地のために尽力下さり、感謝いたします。本当になんと感謝していいか、言葉が思いつかないほどです」
うんと彼は頷いた。
「本来であれば、俺が出張ったりはしないんだ。こちらの魔術士は優秀でな。ドミンクス対応は何人かは出来るんだ。だが」
にっこりとなんかエロはを含んだ笑みを浮かべた。
「お前たちと初めて会った時、なんてかわいいんだろと思ってさ。だから俺」
「はあ……」
うちの国の始祖の血の流れの者は呪いか「猫族」に執着する「クセ」がある。全員ではないんだが、特別身近に置きたくなるそう。
なにそれ怖い。
「俺もそのケが強め。因みに俺の番は元王族で猫族の変体の者だ。人の姿ですら愛らしい」
愉悦にまみれた表情で、ニヤッとした。怖いよ!
「それでこちらに?」
「ああ。それとフェンリルな」
趣味というか性癖というか。気にするなと。
俺は気にしたい。横目に映る俺の側近は全員ドン引いてる。スッと気を取り直したロドリグ様は緩んだ顔を戻した。
「おう、話しが逸れた。報告書は読んだか」
「はい」
あの国はくま族の王が民と仲良く暮らしてたんだ。くましか罹らない珍しい病が流行ってな。
気の毒な有り様だったよ。城下町に残りの民を集めて、それこそ村のようだった。なのにみんな仕方なかったんだ、王様は悪くない、頑張ると笑顔だったそう。
「そんな様子に王はなんとかしたくて、フェンリルに自分の山に住んで欲しくなった。だからなけなしの金を集めてな。いけない事とは分かってたが実行」
ふう。胸が痛い。
俺も今はその気持ちは分かる。
城でのほほんと暮らしていたら、分からなかった気持ちのはずだ。俺は第二王子で責任が薄かったからな。
「ごめんなさいって謝ってたよ。ただ民の暮らしを楽にさせてあげたかっただけなんだと、泣き崩れてた」
俺たちは何も言えなかった。
王の嘆きが分かるからだ。それはフェンリルが見つかる前の俺たちと似ていたから。
「冒険者はどうされたんですか」
「ああ。雇われてただけであいつら自身はフェンリルは欲しくはないとごうも……ゲフン。尋問で確認、嘘も言ってなかったから放逐だ」
「そうですか」
拷問と聞こえた気はしたが、聞かなかったことにしよう。
「あの国はほっとくと消滅するやもしれぬ。簡単な病すら対応が難しいんだ。そして今回のことで国庫はカラ。どうするんだろうな」
口角を片方上げてニャッとした。なんか企んでるな、これは。
「どうするとは?」
ふふんと鼻を鳴らした。
「お前魚好きか」
そりゃあ猫ですからねぇ。
「はあ。我らは猫族ですから、肉も魚も好きですよ」
「だよな。お前が援助してやれよ。同情はするだろ?」
あ?まあ。けどない袖は振れない。む~んと悩んでしまった。
「お前の名前だけでいいんだ。俺がやるから」
なら最初から言え!
俺の頭ん中で数字が「お金ないよぉ」って叫んだろ!
「はあ、それなら」
「でな、ここに魚売りに来てもいいかって」
ディエゴに確認した。
「構いません、美味しいのであれば、レストランも宿屋も買い取るでしょう。我が国は内陸の国で、魚は川魚がメインですから。新鮮な海の魚は喜ばれるはずですよ」
俺も構わん。
「国内にこだわらなくてもいいです」
最初は国に金が回ればいいかって国内限定にしていたが、草原は俺の領地として開拓が徐々に広がり始めている。
今は小さな村と呼べるようにもなったし、人が増えれば食料は必要だ。
「後な、あそこ米も作ってるんだ」
米。あの池みたいの所で作る作物の?
「米とはリゾットとかの?」
「そう。あれの産地なんだ。お前買え」
イヤって言えない顔と物言いはどうなんだよ!
「はい……」
とにかくあの国の王様は可愛くいい人だったんだ。いい人過ぎてダメなタイプ。許してやれってさ。
「う~ん。被害はロドリグ様が修復してくれて、防壁も張り直してくれましたし。不問にします」
ありがとな。それでなって。え?まだあるんかよ!
「賠償金も取ろうかと思って財務状況開示させたんだが、あの書面の通りでムリ」
あそこから取るとか、鬼かよ。
「取れば即死しますよ」
「だろう?あそこの民は働き者で、貧乏気にしない。王も番も民を愛してて、なおかつ可愛くて……んふっ」
あはは。いや~な思い出し笑い。雰囲気が柔らかいのは……食ったんだろ!
ジーッと疑いの目でロドリグ様を見つめた。
その様子にディエゴが俺の耳元でヒソヒソ。
「やめろエリオス。うちにはない文化だが、人族は魔力を請われて夜を共にするんだ。仕事なんだよ」
知ってる。それで昔は魔力量を増やし爵位を上げたり、欲を満たしたり。
「理解はしがたい。番を持った今は特に」
「そうだけどさ。王族とか二重紋の人は、本気でたくさんの人を愛して、番たくさんなんて普通らしいんだ」
ディエゴとヒソヒソ。
「お前ら聞こえてるぞ」
二人であうっ!ごめんなさい。ロドリグ様はそんなに気になるなら説明してやると。
「俺たち二重紋は魔力が桁違いでお召は頻繁だ。ドナシアンの王はあんなふんわりだが、一千万超え。貴族も五百万が当たり前だ」
「うっすげぇ」
それになと諭すように話す。
「人族の魔法使いの貸出や、雇い入れにはコストがかかる。自国民なら安いだろ。だから今でもお召は掛かるんだよ。獣人の国からもな」
「あ~はい……」
やっぱり化け物並の魔力。
彼はニヤリとして俺たちの冷たい視線にお前らやだなあって。
「俺は襲ったんじゃない。請われたんだよ。こんな事がこの先起きて欲しくないからって。俺は優しいからタダで抱いたんだ。褒めてくれ」
ほほう。抱きたかっただけではないとおっしゃる。ふふん。
「さすがロドリグ様ですね。お優しい」
嘘っぽい笑顔で褒めた。
本当に請われたとしても、ウキウキで食ったろ!王様もこんな美青年に抱かれたら嬉しい……のか?分からんが。
……ヤダ。俺の隣にはかわいいはずのセリオが魔物に変身してるぅ。
「セリオ。俺は魔力欲しくないから。な?必要なら人族の魔法使いに頼むから大丈夫。魔力多い子もいらない。金は頑張ればなんとかなるさ」
鬼気迫る迫力……
「ゔゔぅ………僕が産むから。僕しかあなたの子は産ませない。魔力はごめん。でもイヤ!」
敵を見つけた獣みたいに唸るな、もう。
「あはは。セリオはエリオス一筋だな」
ロドリグ様は呆れたような、愛しいものを見るような複雑な顔した。
セリオは視線を外さず目を血走らせてロドリグ様を睨む。
「はい。ロドリグ様は触らないで下さいませ」
「はいはい。我慢出来るまではな。ふん、お前でもいいぞ」
ビクッとセリオは固まった。僕も対象なのと。
「当たり前だろ。俺は猫族大好き。ふわふわな被毛で、しっぽも耳も俺を興奮させるアイテムだからなあ」
恐怖で引いてるね。俺も怖い。
「ううっ」
「他二人はざ~んねん。匂いが合わない。ディエゴとは楽しめそうな気がする」
うぐっとディエゴは真っ青になった。
でも二人はホッとしてもいた。こんなきれいな人に迫られたらヨロヨロと抱かれてしまうかもって。対象外でよかったって。
俺たちはよくない。毎日怖い。
「じゃあ、俺は一度国に帰ってこっちに来る支度してくる。一部騎士と魔術士残して屋敷とか作らせるからよろしく。草原の土地くれ」
「どうぞ……」
さて、この後暇だから夜伽もよろしくと言われたが、そんな贅沢品はいない。
「いないのか。そっか……う~ん」
う~んと悩むな。諦めて寝ろ。
「エリオス……はセリオに殺されそうだし……イサークは?」
「やめて!俺の愛しい人です!」
ディエゴは叫び恐怖に震えた。チッお前の番かと残念そうだ。
「え~と。なら気にいった騎士食っていい?」
「はあ……番がいない者なら。同意なしはやめて下さい」
「おう。んふっありがと」
ぐたぐただったが、フェンリル事件はこれで全部終わった。
む~ん。俺の領地はいずれ強力な魔力持ちが生まれるかもしれん。あはは……
ふぐっ!
俺は飛び跳ねるんじゃないかってくらいビクッ。昨夜はいなかったはずで、俺の心臓はバクバク。周りに聞こえるんじゃないかというくらいバクバク。
「おっおはようございます。ロドリグ様」
「もぐもぐ。うん、おはよう」
美しい笑顔で、ウッ眩しい。
俺たちも席につき、メイドがテーブルに食事を用意。もぐもぐ。
なんだろうか。雰囲気が違う気がする。険しい感じがないような?
「どうした。俺の顔に何かついてるのか?」
俺ガン見してた?
「申し訳ありません」
彼はオレンジジュースをごくごくと飲んで、
「まあいい。ここの食事は美味い。あちらの国はまあ美味いんだが質素……いや、素朴で」
そう言うといちごを摘み美味しそうに食べた。
「昨夜のお帰りでしたら、お呼び下さればよかったのに」
「う~ん。本当に夜中でな。寝てるのを起こす必要を感じなかった」
おお、優しい。
いや、優しいのは元からなんだが、声色まで優しく聞こえるような?
「お気遣いありがとう存じます」
うん。そう返事するとぶどうを摘みもぐもぐ。
「朝一報告に行くから」
「はい」
彼は随分早く来ていたようで席を立ち、またなと側近と出て行った。俺は後ろ姿をぼんやり見つめていた。いつもと違う彼が気になり、意味なくもういないドアを見ていた。
「何かあったのかな。雰囲気が違う気がしたんだけど」
セリオの声に正気に返った。
「お前もそう思う?俺も変に感じた」
ドナシアンで初めて会った時、彼は威圧感たっぷりで、他国の大臣そのものだった。
ここに来る途中、来てからも険しく的確に指示を出しているのしか知らない。それが少しふんわり優しい感じになってる……気がする。
「後で分かるかな」
「そうだね。聞いてみればいいんじゃない?」
なんて事言うんだ。むり。
「イヤ」
「聞かなきゃ分かんないよ?僕はイヤだよ?」
「自分が嫌なくせに俺に聞けと?」
「うん。だって僕から聞くのも変じゃない」
そんな話をして食事をいると、フィトとディエゴも来た。フィトは中に入ると大口開いてくわ~ってあくび。
「おはようございます。エリオス様」
「ああ、おはよう。俺たちはもう済んだから又後でな」
「はい」
二人を置いて俺たちは私室に戻った。
メイドにお茶を淹れてもらい、いちゃいちゃ。俺のマイブーム、セリオを膝に乗せ耳としっぽをもふもふ触る。
「うふん。エリオス。今日からは僕から離れないでね」
ふんわりした顔で俺の頬を撫でる。
「え?ああ、分かった。ふわふわ気持ちいい触り心地。気持ちいい?」
「うん、僕も触る」
お互いの耳を触ったりキスしたり。スキンシップが楽しく幸せだ。
だが、セリオは彼が帰って来て不安なんだろう。いつもよりねっとりと俺のしっぽを触る。実は俺も不安。身の危険だけでなく、色々不安だ。
コンコン
「時間だ。エリオス」
「おう!」
ディエゴの迎えに、朝の短い楽しみは終わり。執務室に向かった。
「文官が報告書ですと届けてくれました。これを」
「ありがとう」
フィトが書類を机に置いた。先に読んでおけって事か。紙を手に取り、ふむふむ。
「やはり追い詰められて国というより、小さな領地のようになってしまったんだな」
「そうだな」
ディエゴも眉間にシワで唸っている。
今どき流行り病で人がバタバタなんてこと、どの国でもなくなったと思っていたがな。
「これが元々の財務状況だ」
「あ、うん」
次だとディエゴが書類を渡してくる。
う~ん。うちはかなりの貧乏国だと思ってたが、世界は広いな。これじゃあ民が少なかろうとギリギリの財務だと言わざるを得なかった。
「新たな情報を買い取ることも出来ず、魔力も少ない。これでは国ではなく領地だよ」
フィトも厳しい財務状況に低い声を出した。
「そうだな。貴族も手が足りず自分で畑を耕し、食い扶持を生産。漁師は海や川から魚を捕り売る…か」
俺は独り言のように呟いた。
特産品などもなく、山に囲まれた入江にある国。内陸には珍しい海の魚を売って細々か。俺の屋敷の後ろに広がる草原まっしぐらだな。
「だが、王は民に慕われているようだな。それこそ王は民と共にを現実に行い、国全体が家族のように過ごす。王は幸せだ常々思っていたと書いてある」
ディエゴの説明を聞きながらペラペラと紙をめくる。
交通の便が悪く、谷を迂回して他国に売りに行くから、労働の割に収入は少ない。
だが、国民の食べ物に困ることはなかった。海沿いだから魚は当然だし、日当たりもよく、果物も野菜もよく取れた。
病さえなければ、皆で手を取り合って楽しく暮らせたんだろう。集中して読んでいるとふいに声が。
「エリオスがやりたいってやり方だね」
「うん……」
コンコン
「待たせたか?」
「いいえ。では会議室に移動しましょう」
「ああ」
俺たち執務組とロドリグ様たちと会議室に移動し、席に着いた。俺はまず、これまでの感謝を伝えた。
「ロドリグ様。こんな小国の小さな領地のために尽力下さり、感謝いたします。本当になんと感謝していいか、言葉が思いつかないほどです」
うんと彼は頷いた。
「本来であれば、俺が出張ったりはしないんだ。こちらの魔術士は優秀でな。ドミンクス対応は何人かは出来るんだ。だが」
にっこりとなんかエロはを含んだ笑みを浮かべた。
「お前たちと初めて会った時、なんてかわいいんだろと思ってさ。だから俺」
「はあ……」
うちの国の始祖の血の流れの者は呪いか「猫族」に執着する「クセ」がある。全員ではないんだが、特別身近に置きたくなるそう。
なにそれ怖い。
「俺もそのケが強め。因みに俺の番は元王族で猫族の変体の者だ。人の姿ですら愛らしい」
愉悦にまみれた表情で、ニヤッとした。怖いよ!
「それでこちらに?」
「ああ。それとフェンリルな」
趣味というか性癖というか。気にするなと。
俺は気にしたい。横目に映る俺の側近は全員ドン引いてる。スッと気を取り直したロドリグ様は緩んだ顔を戻した。
「おう、話しが逸れた。報告書は読んだか」
「はい」
あの国はくま族の王が民と仲良く暮らしてたんだ。くましか罹らない珍しい病が流行ってな。
気の毒な有り様だったよ。城下町に残りの民を集めて、それこそ村のようだった。なのにみんな仕方なかったんだ、王様は悪くない、頑張ると笑顔だったそう。
「そんな様子に王はなんとかしたくて、フェンリルに自分の山に住んで欲しくなった。だからなけなしの金を集めてな。いけない事とは分かってたが実行」
ふう。胸が痛い。
俺も今はその気持ちは分かる。
城でのほほんと暮らしていたら、分からなかった気持ちのはずだ。俺は第二王子で責任が薄かったからな。
「ごめんなさいって謝ってたよ。ただ民の暮らしを楽にさせてあげたかっただけなんだと、泣き崩れてた」
俺たちは何も言えなかった。
王の嘆きが分かるからだ。それはフェンリルが見つかる前の俺たちと似ていたから。
「冒険者はどうされたんですか」
「ああ。雇われてただけであいつら自身はフェンリルは欲しくはないとごうも……ゲフン。尋問で確認、嘘も言ってなかったから放逐だ」
「そうですか」
拷問と聞こえた気はしたが、聞かなかったことにしよう。
「あの国はほっとくと消滅するやもしれぬ。簡単な病すら対応が難しいんだ。そして今回のことで国庫はカラ。どうするんだろうな」
口角を片方上げてニャッとした。なんか企んでるな、これは。
「どうするとは?」
ふふんと鼻を鳴らした。
「お前魚好きか」
そりゃあ猫ですからねぇ。
「はあ。我らは猫族ですから、肉も魚も好きですよ」
「だよな。お前が援助してやれよ。同情はするだろ?」
あ?まあ。けどない袖は振れない。む~んと悩んでしまった。
「お前の名前だけでいいんだ。俺がやるから」
なら最初から言え!
俺の頭ん中で数字が「お金ないよぉ」って叫んだろ!
「はあ、それなら」
「でな、ここに魚売りに来てもいいかって」
ディエゴに確認した。
「構いません、美味しいのであれば、レストランも宿屋も買い取るでしょう。我が国は内陸の国で、魚は川魚がメインですから。新鮮な海の魚は喜ばれるはずですよ」
俺も構わん。
「国内にこだわらなくてもいいです」
最初は国に金が回ればいいかって国内限定にしていたが、草原は俺の領地として開拓が徐々に広がり始めている。
今は小さな村と呼べるようにもなったし、人が増えれば食料は必要だ。
「後な、あそこ米も作ってるんだ」
米。あの池みたいの所で作る作物の?
「米とはリゾットとかの?」
「そう。あれの産地なんだ。お前買え」
イヤって言えない顔と物言いはどうなんだよ!
「はい……」
とにかくあの国の王様は可愛くいい人だったんだ。いい人過ぎてダメなタイプ。許してやれってさ。
「う~ん。被害はロドリグ様が修復してくれて、防壁も張り直してくれましたし。不問にします」
ありがとな。それでなって。え?まだあるんかよ!
「賠償金も取ろうかと思って財務状況開示させたんだが、あの書面の通りでムリ」
あそこから取るとか、鬼かよ。
「取れば即死しますよ」
「だろう?あそこの民は働き者で、貧乏気にしない。王も番も民を愛してて、なおかつ可愛くて……んふっ」
あはは。いや~な思い出し笑い。雰囲気が柔らかいのは……食ったんだろ!
ジーッと疑いの目でロドリグ様を見つめた。
その様子にディエゴが俺の耳元でヒソヒソ。
「やめろエリオス。うちにはない文化だが、人族は魔力を請われて夜を共にするんだ。仕事なんだよ」
知ってる。それで昔は魔力量を増やし爵位を上げたり、欲を満たしたり。
「理解はしがたい。番を持った今は特に」
「そうだけどさ。王族とか二重紋の人は、本気でたくさんの人を愛して、番たくさんなんて普通らしいんだ」
ディエゴとヒソヒソ。
「お前ら聞こえてるぞ」
二人であうっ!ごめんなさい。ロドリグ様はそんなに気になるなら説明してやると。
「俺たち二重紋は魔力が桁違いでお召は頻繁だ。ドナシアンの王はあんなふんわりだが、一千万超え。貴族も五百万が当たり前だ」
「うっすげぇ」
それになと諭すように話す。
「人族の魔法使いの貸出や、雇い入れにはコストがかかる。自国民なら安いだろ。だから今でもお召は掛かるんだよ。獣人の国からもな」
「あ~はい……」
やっぱり化け物並の魔力。
彼はニヤリとして俺たちの冷たい視線にお前らやだなあって。
「俺は襲ったんじゃない。請われたんだよ。こんな事がこの先起きて欲しくないからって。俺は優しいからタダで抱いたんだ。褒めてくれ」
ほほう。抱きたかっただけではないとおっしゃる。ふふん。
「さすがロドリグ様ですね。お優しい」
嘘っぽい笑顔で褒めた。
本当に請われたとしても、ウキウキで食ったろ!王様もこんな美青年に抱かれたら嬉しい……のか?分からんが。
……ヤダ。俺の隣にはかわいいはずのセリオが魔物に変身してるぅ。
「セリオ。俺は魔力欲しくないから。な?必要なら人族の魔法使いに頼むから大丈夫。魔力多い子もいらない。金は頑張ればなんとかなるさ」
鬼気迫る迫力……
「ゔゔぅ………僕が産むから。僕しかあなたの子は産ませない。魔力はごめん。でもイヤ!」
敵を見つけた獣みたいに唸るな、もう。
「あはは。セリオはエリオス一筋だな」
ロドリグ様は呆れたような、愛しいものを見るような複雑な顔した。
セリオは視線を外さず目を血走らせてロドリグ様を睨む。
「はい。ロドリグ様は触らないで下さいませ」
「はいはい。我慢出来るまではな。ふん、お前でもいいぞ」
ビクッとセリオは固まった。僕も対象なのと。
「当たり前だろ。俺は猫族大好き。ふわふわな被毛で、しっぽも耳も俺を興奮させるアイテムだからなあ」
恐怖で引いてるね。俺も怖い。
「ううっ」
「他二人はざ~んねん。匂いが合わない。ディエゴとは楽しめそうな気がする」
うぐっとディエゴは真っ青になった。
でも二人はホッとしてもいた。こんなきれいな人に迫られたらヨロヨロと抱かれてしまうかもって。対象外でよかったって。
俺たちはよくない。毎日怖い。
「じゃあ、俺は一度国に帰ってこっちに来る支度してくる。一部騎士と魔術士残して屋敷とか作らせるからよろしく。草原の土地くれ」
「どうぞ……」
さて、この後暇だから夜伽もよろしくと言われたが、そんな贅沢品はいない。
「いないのか。そっか……う~ん」
う~んと悩むな。諦めて寝ろ。
「エリオス……はセリオに殺されそうだし……イサークは?」
「やめて!俺の愛しい人です!」
ディエゴは叫び恐怖に震えた。チッお前の番かと残念そうだ。
「え~と。なら気にいった騎士食っていい?」
「はあ……番がいない者なら。同意なしはやめて下さい」
「おう。んふっありがと」
ぐたぐただったが、フェンリル事件はこれで全部終わった。
む~ん。俺の領地はいずれ強力な魔力持ちが生まれるかもしれん。あはは……
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※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
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※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
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小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
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