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三章 課題と改善
2.なんでこんな気持ちに?
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俺はみんなの動きを茫漠と眺めていた。
「エリオス」
なんだろう……
心をどこに置いていいか分からない……なぜだ。なんでこんな気持ちなるんだ。
「エリオス!!」
「ひゃう!」
ドスの効いた声で怒鳴られて横を見ると、美しい魔物が睨んでいた。
「何でしょうか。ロドリグ様」
「お前がなんだ?」
「は?……ええ……その……」
眉間にシワ、視線も鋭い。
でも、なんにも答えられない。モヤモヤした気持ちが払拭出来ないんだ。
はあ……と深くため息をつかれた。
「お前は人に仕事を全て任せるってしてこなかったのか?」
「え?」
俺はロドリグ様を反射で見上げた。
城で実務を習ってた頃は、下っ端で教えを請う立場。大臣の補佐か、少し責任があるくらいの立場しかしてなかった。
ここではみんなに任せて、後で視察には行ってた。だけど、新規のせいか、俺が全面に出ないと人が動かなかったから……
俺は過去を思い出し、ロドリグ様を見つめて考え込んでしまった。
「お前、自分の側近以外に、仕事の責任を持たせないのか?」
あっ……その……俺は。
「お前は何でも把握したくて自分で動き、部下にもついて行ったりしてるだろ。指示して報告を貰うだけで良しとしていない。だからそんな顔になる」
違うか?と俺の目を見る。
「……違いません」
「だろうな。だが、ここは小さくともお前が主だ。やりたいようにやるのも間違いではない。悪いとは言わないが、これからは回らなくなるぞ」
「……そうですかね」
バカだなお前はと、呆れ顔。
「何でも領主一人で領地内を回り、領民と接し仕事する。理想だが出来はしない。それの最も代表的なのが国王だ」
「あ……」
確かに父上は国内全部を回ったりも、貴族と会談も代表的な物のみ。
報告書だけが多いな……だから俺は、せっかく領主になったからと領民と……
下を向いていると、はあと聞こえた。
「お前は夜中に掃除して街を歩いているだろう?」
「はい。清掃人が間に合わなくて。綺麗な街を維持して客に喜んで貰たくて」
「それもやり過ぎ」
「はい……」
人に仕事を任せることを学べと、頭をポンポンされた。
「お前を疎外してるんじゃない。俺は依頼された仕事を責任を持ってやっている。今回はお前が全体の大将で、草原の大将だ。見て把握するのがお前の仕事。手を出すだけが仕事じゃあない」
「はい」
俺も自分の仕事をするから夕方にまたなと、騎士たちの方にロドリグ様は行った。
後ろで遠巻きに見ていたセリオたちは大丈夫?と駆け寄って来た。
「ああ……俺の至らなさを指摘されただけだ」
え?っとみんな驚き、そんな事ない!頑張っていると言ってくれた。
「エリオス様は頑張ってます。何が足りないと言うんだ!」
ありがとな。ちょっと嬉しい。
「フィト、俺は主としての心構えや、部下を信頼するって所が足りないんだよ」
フィトは不思議そうに小首を傾げて俺を見た。
「はあ……僕らは信頼されてない?そんなふうに感じたことはありませんが……?」
みんなもそんな顔だな。
「俺は自分で見て触って話して。自分で全部実感したかったんだ。初っぱなからつまずいていただろ?だからかもしれない。全権を持たせて任せるって出来てなくてさ」
それの何が悪いの?とみんなはう~んって。
「それもエリオス様らしくて、領民も観光客も嬉しそうですけど?」
ディエゴもなんで?と。
「この先さ。ロドリグ様たちに助けてもらった後、山は完全にフェンリルにとって安全で快適な場所になる。
そうすれば居心地がよくて、昼も顔出してくれるし、客は更に期待して来てくれる。人が来れば街はもっと発展する」
そうですね?あ………とみんな黙った。
「大きくなればなるだけ手厚くなんて出来なくなりますね……」
「そう。俺は目の前しか見ていなかったんだ」
そうだねと……ディエゴは一言。
「俺が将来を見据えてないから、あちら主導で動いてるのが辛かった。お前は報告を待てばよいと言われたのが、排除された気分になったんだ」
そうですね。この一週間なにも報告がなくて、聞いても「報告を待て」しか言われず。
うちの事なのに何にも出来なくて、俺も実はモヤモヤしてましたとディエゴは苦笑い。
「みんな自分で動くのが当たり前になり過ぎてて、人に任せるって出来てなくなってましたね」
セリオも、私たちが指摘しなければならない事でした。申し訳ありませんと謝ってくれた。
「いや、俺自身で気が付かなくてはならなかったんだ。俺は王子で、王の近くにいたんだから」
セリオは思い出したように。
「城では担当がいて責任持ってやってましたね。私もエリオスのお世話を仰せつかって頑張って……誰かに手伝ってもらったりなどなかったのに」
フィト以外は、いつの間にかこんなになってましたねと。
この問題に気がついた事は俺はよかったと思っている。ならば、これからどうするかだ。
「なあみんな。今から気持ち切り替えて、うちが繁盛しても大丈夫なようにして行こう」
「はい。ある程度の線引は必要ですね」
「ああ、頑張ろうな」
「はい!」
屋敷に戻ると、執務室の机の上にはロドリグ様からのものだと書類が山積み……
今回の作戦の前提と、調べた報告などがあった。
「よく調べられている」
「ええ、それも読みやすい」
「たった一週間でここまで調べられるものなんだな」
俺は一枚ずつ目を通して行った。
あの輩冒険者に頼まねばならなくなった、エゼキエーレ王国の財政は厳しい。っていうか、よくこの数字が出てきたな。
「それだけ混乱を極めているか、調査能力が高いのか」
「どちらもじゃないですか」
フィトもロドリグ様の評判はあの国の者だからよく知っているもんな。
「フィト、実の話、ロドリグ様ってどうなの?」
書類から顔を上げる。
「そうだね。彼は魔力も強く、剣術も近衛騎士並みには強いと国民は知っているね」
「ふ~ん。執務の能力は?」
その前に聞けと、彼の来歴はと話し始めた。
「彼はイアサントの始祖の一人、大賢者カジミールの子孫でね。アンセルム様の流れとして有名。ただ特殊能力は発現しなかったんだ」
「ほほう。生まれはドナシアン?」
「ううん、イアサントのアンセルム様の家系の方だよ。う~んとね、こちらのアンセルム様の家系の方が能力低めでねぇ……」
ああ……そういう事もあるか。
「そんで、あちらの二男だったロドリグ様がこちらに来て、大臣になったんだ。跡取りの方とさほど差がないらしいよ」
「へえ……本国の大臣と同じか。すげぇな」
イアサントの本家はすげえのか。ふ~ん。
「それに、あの家系の人は美形で目が眩むような美人ばかりでね。モテる」
「そうだろうよ。父上より美しい人はあちらに行って始めて見たもん」
でしょうとフィトは笑った。
「こちらの王様は負けてないよ。若い時は相当だと思うもの。エリオス様は……普通よりはステキ。うふっ」
知ってる。追い打ちかけるな。
「俺は父上に似なかったんだよ」
すると、ブツッと何か音がした気がして横を見た。フィト殺す!とセリオの目は血走っていた。
「あはは……世間一般の感想だよ。僕はステキだと思うよ、セリオ様」
「嘘は言わなくていい……ぐるるる……」
怖いよぉ~エリオス様ぁ~とおどけてる。
「お前が余計なこと言うからだろ。ゴメンなセリオ。俺かわいくないから」
「そんな事ありません!!僕は世界一だと……あの…大好きだもの……」
興奮して叫んだけど、途中で恥ずかしくなったのか声が小さくなった。
「ありがとう」
「ううん……」
かわいい奴め。
フィトは、セリオ様は置いといてねと続けた。
「彼の実務能力は庶民には伝わってはいないよ。だけど悪く言う者はいない。ということは能力は高いと思う」
「そうか……この書類見れば明らかか」
俺は書類に目を落とした。フィトはそうだねと、うんうん頷く。
「人を使うのも、内容を精査するのも得意なんだろうね」
「うん……」
俺たちは今日の仕事と並行してロドリグ様の調査結果を読み、理解していった。
そして、夕方を迎えた。
「エリオス」
なんだろう……
心をどこに置いていいか分からない……なぜだ。なんでこんな気持ちなるんだ。
「エリオス!!」
「ひゃう!」
ドスの効いた声で怒鳴られて横を見ると、美しい魔物が睨んでいた。
「何でしょうか。ロドリグ様」
「お前がなんだ?」
「は?……ええ……その……」
眉間にシワ、視線も鋭い。
でも、なんにも答えられない。モヤモヤした気持ちが払拭出来ないんだ。
はあ……と深くため息をつかれた。
「お前は人に仕事を全て任せるってしてこなかったのか?」
「え?」
俺はロドリグ様を反射で見上げた。
城で実務を習ってた頃は、下っ端で教えを請う立場。大臣の補佐か、少し責任があるくらいの立場しかしてなかった。
ここではみんなに任せて、後で視察には行ってた。だけど、新規のせいか、俺が全面に出ないと人が動かなかったから……
俺は過去を思い出し、ロドリグ様を見つめて考え込んでしまった。
「お前、自分の側近以外に、仕事の責任を持たせないのか?」
あっ……その……俺は。
「お前は何でも把握したくて自分で動き、部下にもついて行ったりしてるだろ。指示して報告を貰うだけで良しとしていない。だからそんな顔になる」
違うか?と俺の目を見る。
「……違いません」
「だろうな。だが、ここは小さくともお前が主だ。やりたいようにやるのも間違いではない。悪いとは言わないが、これからは回らなくなるぞ」
「……そうですかね」
バカだなお前はと、呆れ顔。
「何でも領主一人で領地内を回り、領民と接し仕事する。理想だが出来はしない。それの最も代表的なのが国王だ」
「あ……」
確かに父上は国内全部を回ったりも、貴族と会談も代表的な物のみ。
報告書だけが多いな……だから俺は、せっかく領主になったからと領民と……
下を向いていると、はあと聞こえた。
「お前は夜中に掃除して街を歩いているだろう?」
「はい。清掃人が間に合わなくて。綺麗な街を維持して客に喜んで貰たくて」
「それもやり過ぎ」
「はい……」
人に仕事を任せることを学べと、頭をポンポンされた。
「お前を疎外してるんじゃない。俺は依頼された仕事を責任を持ってやっている。今回はお前が全体の大将で、草原の大将だ。見て把握するのがお前の仕事。手を出すだけが仕事じゃあない」
「はい」
俺も自分の仕事をするから夕方にまたなと、騎士たちの方にロドリグ様は行った。
後ろで遠巻きに見ていたセリオたちは大丈夫?と駆け寄って来た。
「ああ……俺の至らなさを指摘されただけだ」
え?っとみんな驚き、そんな事ない!頑張っていると言ってくれた。
「エリオス様は頑張ってます。何が足りないと言うんだ!」
ありがとな。ちょっと嬉しい。
「フィト、俺は主としての心構えや、部下を信頼するって所が足りないんだよ」
フィトは不思議そうに小首を傾げて俺を見た。
「はあ……僕らは信頼されてない?そんなふうに感じたことはありませんが……?」
みんなもそんな顔だな。
「俺は自分で見て触って話して。自分で全部実感したかったんだ。初っぱなからつまずいていただろ?だからかもしれない。全権を持たせて任せるって出来てなくてさ」
それの何が悪いの?とみんなはう~んって。
「それもエリオス様らしくて、領民も観光客も嬉しそうですけど?」
ディエゴもなんで?と。
「この先さ。ロドリグ様たちに助けてもらった後、山は完全にフェンリルにとって安全で快適な場所になる。
そうすれば居心地がよくて、昼も顔出してくれるし、客は更に期待して来てくれる。人が来れば街はもっと発展する」
そうですね?あ………とみんな黙った。
「大きくなればなるだけ手厚くなんて出来なくなりますね……」
「そう。俺は目の前しか見ていなかったんだ」
そうだねと……ディエゴは一言。
「俺が将来を見据えてないから、あちら主導で動いてるのが辛かった。お前は報告を待てばよいと言われたのが、排除された気分になったんだ」
そうですね。この一週間なにも報告がなくて、聞いても「報告を待て」しか言われず。
うちの事なのに何にも出来なくて、俺も実はモヤモヤしてましたとディエゴは苦笑い。
「みんな自分で動くのが当たり前になり過ぎてて、人に任せるって出来てなくなってましたね」
セリオも、私たちが指摘しなければならない事でした。申し訳ありませんと謝ってくれた。
「いや、俺自身で気が付かなくてはならなかったんだ。俺は王子で、王の近くにいたんだから」
セリオは思い出したように。
「城では担当がいて責任持ってやってましたね。私もエリオスのお世話を仰せつかって頑張って……誰かに手伝ってもらったりなどなかったのに」
フィト以外は、いつの間にかこんなになってましたねと。
この問題に気がついた事は俺はよかったと思っている。ならば、これからどうするかだ。
「なあみんな。今から気持ち切り替えて、うちが繁盛しても大丈夫なようにして行こう」
「はい。ある程度の線引は必要ですね」
「ああ、頑張ろうな」
「はい!」
屋敷に戻ると、執務室の机の上にはロドリグ様からのものだと書類が山積み……
今回の作戦の前提と、調べた報告などがあった。
「よく調べられている」
「ええ、それも読みやすい」
「たった一週間でここまで調べられるものなんだな」
俺は一枚ずつ目を通して行った。
あの輩冒険者に頼まねばならなくなった、エゼキエーレ王国の財政は厳しい。っていうか、よくこの数字が出てきたな。
「それだけ混乱を極めているか、調査能力が高いのか」
「どちらもじゃないですか」
フィトもロドリグ様の評判はあの国の者だからよく知っているもんな。
「フィト、実の話、ロドリグ様ってどうなの?」
書類から顔を上げる。
「そうだね。彼は魔力も強く、剣術も近衛騎士並みには強いと国民は知っているね」
「ふ~ん。執務の能力は?」
その前に聞けと、彼の来歴はと話し始めた。
「彼はイアサントの始祖の一人、大賢者カジミールの子孫でね。アンセルム様の流れとして有名。ただ特殊能力は発現しなかったんだ」
「ほほう。生まれはドナシアン?」
「ううん、イアサントのアンセルム様の家系の方だよ。う~んとね、こちらのアンセルム様の家系の方が能力低めでねぇ……」
ああ……そういう事もあるか。
「そんで、あちらの二男だったロドリグ様がこちらに来て、大臣になったんだ。跡取りの方とさほど差がないらしいよ」
「へえ……本国の大臣と同じか。すげぇな」
イアサントの本家はすげえのか。ふ~ん。
「それに、あの家系の人は美形で目が眩むような美人ばかりでね。モテる」
「そうだろうよ。父上より美しい人はあちらに行って始めて見たもん」
でしょうとフィトは笑った。
「こちらの王様は負けてないよ。若い時は相当だと思うもの。エリオス様は……普通よりはステキ。うふっ」
知ってる。追い打ちかけるな。
「俺は父上に似なかったんだよ」
すると、ブツッと何か音がした気がして横を見た。フィト殺す!とセリオの目は血走っていた。
「あはは……世間一般の感想だよ。僕はステキだと思うよ、セリオ様」
「嘘は言わなくていい……ぐるるる……」
怖いよぉ~エリオス様ぁ~とおどけてる。
「お前が余計なこと言うからだろ。ゴメンなセリオ。俺かわいくないから」
「そんな事ありません!!僕は世界一だと……あの…大好きだもの……」
興奮して叫んだけど、途中で恥ずかしくなったのか声が小さくなった。
「ありがとう」
「ううん……」
かわいい奴め。
フィトは、セリオ様は置いといてねと続けた。
「彼の実務能力は庶民には伝わってはいないよ。だけど悪く言う者はいない。ということは能力は高いと思う」
「そうか……この書類見れば明らかか」
俺は書類に目を落とした。フィトはそうだねと、うんうん頷く。
「人を使うのも、内容を精査するのも得意なんだろうね」
「うん……」
俺たちは今日の仕事と並行してロドリグ様の調査結果を読み、理解していった。
そして、夕方を迎えた。
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