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三章 課題と改善
1.勝手に話しが進んでいく
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ロドリグ様が来てから早一週間。
研究室から食事以外出てこない。
初日に客間を一つか、研究室はあるかと聞かれ、魔法使いが不在だからとそこを……
「ふ~ん。いい広さだ。滞在中借りる」
「はい」
「あるものは使ってもいいか?」
「お好きにどうぞ」
好きにして下さい。俺の魔法使いには後で弁償すればいいか。痛い出費だけどな!
滞在の部屋は彼には俺の家族用。そう王族仕様の部屋。騎士たち三人も身分高いからと思って屋敷にと説明したが断られた。
「エリオス様、我らは騎士寮でお願い致します」
なんで?あそこは身分に合わないのでは?
「ですが騎士様には……」
今回の護衛騎士隊長はお気遣いありがとう存じますと微笑んだ。
「我らは上位の騎士ではございません。身分も元々の爵位も低く、才能でここにおりますので、あちらの方が気が休まります」
おおぅ……才能で取り立てるのか。すげぇ。
「ならばイサーク!案内をしてくれ」
「はっ!」
ロドリグ様は好きにやらせれくれと、独自に領地内を調査しているようだ。
俺たちは俺たちで通常通り忙しく働いていた。
「いいんですか?ロドリグ様放置で」
グッ……
「フィト、俺の目で見たいから、お前らは普通に仕事しろって言われてるの知ってるだろ」
「はあ……聞きましたけど」
彼らは俺たちになんの情報も開示してはくれなかった。
ならばと俺たちは俺たちで独自に山や草原の見張りをしている。
バンッ!と勢い良く扉が開いた。
「エリオス来い」
ノックもせず執務室に乱入か。
「ロドリグ様、私は今執務ちゆ……」
「いいから来い!」
腕掴まれて部屋の外に連れ出された。アレ?騎士たちもいるの?
「あの?」
「黙ってついて来い」
「はい」
久しぶりに食堂以外で見かけたかと思ったら強引でもう……
ダラダラと歩いていると、グズグズするな!と美しく威圧のある声で言われた。
「はい!」
もう!俺は……え?
あんなに遠くに……クソっ
俺は走って追いかけた。彼は玄関から出て行って……外の用事か?
「エリオス、悪い知らせだ」
「はい」
「輩が動く」
「ゲッ!」
彼はこの一週間の話しをしてくれた。
輩は働いてもいないのに金がある。
山に偵察に出るくらいで何もしていないのに、毎晩どんちゃん騒ぎは流石におかしいだろうと、ロドリグ様は本国の者を使って金の出どころを探っていたらしい。
「付き合いのない国の貴族だった。ここと同じようなもんだ。国の産業が漁業のみ。国費が少ない国だ」
「ああ……」
苦い顔で続ける。
「国が表立ってやれないから、代表にされているだけの貴族だった。近隣に魚を売って細々と国を維持している、くま族の国のな」
あ~くま族ね。
「エゼキエーレ王国ですか。それは」
そうだと。
あ~そこな。本気で小さいんだよあの国。他との付き合いも少なくて、内陸の国に魚を売って生計を立ててる、村みたいなやり方でさ。
「魔力も乏しく金もない。昨年タチの悪いくま族風邪が流行り、民が激減したそうだ」
あはは、小国あるあるだな。
「どうにもならなくなったのですね」
「そうらしい。それで最近同じ様な国なのに、稼ぎ出したお前の話しを耳にしたそうだ」
「はあ……」
ん?珍しい魔獣ならあそこにも……
「あそこは……海に海竜とかいませんでしたか?」
ああ?と睨まれた。怖えぇよ。
「いるが……あれば見せもんにならんどころか、見かけたら死ぬぞ?」
そうなの?キレイな鱗って聞いてたんだけど。
「あ……フェンリルとは違うんですか。大型だし話せるのかと」
「ふん。竜種は粗暴が基本だ」
青い鱗が輝き美しいが、水の中は元より空も多少飛べて見応えはある。
が、意思疎通が出来る記録はない。大体沖にしかいないしな。
あれを見かけた船は襲われて沈むし、火を吐いて燃やしてくるし……楽しいのか?と眉間にしわを寄せた。
「すみません。浅慮でした」
「まあよい。俺は他のフェンリルを見かけて契約したのだが……念話は初めキツイな」
「ええ、俺も吐きました。てか、何勝手に契約してんですか!」
あ?と不思議そう。
「別にお前の山からどっかにやろうとかしないさ。ただ話してみたくて声掛けたら、お前面白いなとなってな。あっちがしようと言ってきたんだ」
俺は疑いの目でロドリグ様を見た。
「疑うな。もしなんかあればちゃんと話す」
「……約束ですよ?」
「おう!そんな目で見るな。きちんと守る」
そんな話しをしていると、十名くらいの騎士団ががこちらに飛んでくるのが見えた。
「ロドリグ様、あれは」
「ああ、俺たちだけでもよかったんだが、あの冒険者らは捕まえてエゼキエーレ王国まで連れて行き、責任取らそうかなあと考えてな」
ええ……なんか怖い事になって来た。空を見上げていたかと思うと、クルッと俺の方を向き、
「フェンリル誘拐未遂の賠償金欲しくないか?」
「うっ……」
欲しくないと言ったら嘘になる。父上からの借入金はないことにはなっているが、絶対私費から出してるぞ、あれは。
「欲しいです……返済がありますから」
「だろう?俺たちの滞在費もかかるしな」
「ええ……」
こんだけいるといくらかかるんだろう……収入増えても、増えた分出ていくような気がする。
「ただいま到着しました!ロドリグ様」
「おう、ご苦労。隊長残して騎士寮に荷物をおいてすぐ戻れ」
「はっ!」
よく訓練されている騎士は、寮はどこだと後から来たディエゴに案内させていた。
なんかもう俺の存在が薄くなっている気がする。俺の領地なんだがな……
「では、作戦を説明する」
「はい」
うちの騎士とあちらの騎士半分ずつ組ませ、二班作って山と草原の輩を捕まえるんだ。
「今夜決行との情報の通りならば、閉山後だろう。その前に我らは麓に待機。家に残っている者もいるはずだからそれも捕縛だ」
「はっ!では戦闘に慣れたものを山に、エリオス様が草原の隊長でよろしいか?」
あ?俺も出るの?役に立たないよ?
「お前は上空で見ていればいい」
「はい……」
ドミンクスの魔法使いは二人。
一人は防壁を維持する部隊にいた生粋の魔術士で、もう一人は魔力が多い一般市民だ。だが、ロドリグ様の騎士と変わらないほどの魔力持ちと、想定されるそう。
「さすが人族の国ですね」
「ああ、あそこは特別だ。ドナシアンもイアサントも庶民にそこまでの魔力はない。古の魔力が残っているからなんだ」
「はあ……」
ロドリグ様の説明をイサークは真剣に聞いている。俺はなぜか居たたまれなくて、話し合いの輪から数歩下がった。
「エリオス、大丈夫?」
「セリオ、俺ね。役立たずで見てるだけなんだ。だから大丈夫」
悲しそうに笑ったかもしれない。
もうさ、この作戦に関して、獣人は本当に役に立たない。輩冒険者の獣人も、どこの奴らかは分からないけど、腕は立つらしくて俺の出番などなく、気持ちが沈んでいく。
「エリオス……なんて顔してるの?」
セリオは悲しそうな、心配そうな視線を俺に向ける。
「ん?……ごめんねセリオ。俺こんなふうになる予定はなかったんだ。俺はただ、フェンリルを守りたかっただけ。商売だけではなく、友人を守りたかっただけで……」
何もかもが俺の手を離れ進んでいく。
若造で経験不足、役に立たない自分の不甲斐なさを感じた。悔しくて下を向いて歯を食いしばった。
「エリオス様」
「フィト……」
お気持ちは分かります。あの方は国でも評判の魔道士です。色々極めていて、王すら反論が難しい方だと市井にまで聞こえるほどの人。
「悔しいかもしれませんが、お任せした方が面倒はないかと」
「ああ、分かってはいるんだ」
俺はお前たち四人と試行錯誤しながらここまで来た。なのにこんな領地の一大事に何も出来ないとはな……
「エリオス!来い!」
「はい!」
後ろからセリオが、エリオス……と小さな声が聞こえた。
「お前は草原の方の捕縛が終り次第、山に合流しろ」
「はい、捕縛した者はどう致しますか?」
「ここに牢屋はあるか?」
「はい。使った事はありませんが」
「そこに入れておけばよい」
離れの地下倉庫にある。
ここだけは本気の犯罪者用。魔石で増幅した術が掛けてあり、簡単には逃げることは出来ない。
「お前は今晩の作戦をフェンリルに伝えろ」
「はい」
「では、みな準備にかかれ!!」
「「おう!」」
どちらの騎士たちも忙しく動き出した。
研究室から食事以外出てこない。
初日に客間を一つか、研究室はあるかと聞かれ、魔法使いが不在だからとそこを……
「ふ~ん。いい広さだ。滞在中借りる」
「はい」
「あるものは使ってもいいか?」
「お好きにどうぞ」
好きにして下さい。俺の魔法使いには後で弁償すればいいか。痛い出費だけどな!
滞在の部屋は彼には俺の家族用。そう王族仕様の部屋。騎士たち三人も身分高いからと思って屋敷にと説明したが断られた。
「エリオス様、我らは騎士寮でお願い致します」
なんで?あそこは身分に合わないのでは?
「ですが騎士様には……」
今回の護衛騎士隊長はお気遣いありがとう存じますと微笑んだ。
「我らは上位の騎士ではございません。身分も元々の爵位も低く、才能でここにおりますので、あちらの方が気が休まります」
おおぅ……才能で取り立てるのか。すげぇ。
「ならばイサーク!案内をしてくれ」
「はっ!」
ロドリグ様は好きにやらせれくれと、独自に領地内を調査しているようだ。
俺たちは俺たちで通常通り忙しく働いていた。
「いいんですか?ロドリグ様放置で」
グッ……
「フィト、俺の目で見たいから、お前らは普通に仕事しろって言われてるの知ってるだろ」
「はあ……聞きましたけど」
彼らは俺たちになんの情報も開示してはくれなかった。
ならばと俺たちは俺たちで独自に山や草原の見張りをしている。
バンッ!と勢い良く扉が開いた。
「エリオス来い」
ノックもせず執務室に乱入か。
「ロドリグ様、私は今執務ちゆ……」
「いいから来い!」
腕掴まれて部屋の外に連れ出された。アレ?騎士たちもいるの?
「あの?」
「黙ってついて来い」
「はい」
久しぶりに食堂以外で見かけたかと思ったら強引でもう……
ダラダラと歩いていると、グズグズするな!と美しく威圧のある声で言われた。
「はい!」
もう!俺は……え?
あんなに遠くに……クソっ
俺は走って追いかけた。彼は玄関から出て行って……外の用事か?
「エリオス、悪い知らせだ」
「はい」
「輩が動く」
「ゲッ!」
彼はこの一週間の話しをしてくれた。
輩は働いてもいないのに金がある。
山に偵察に出るくらいで何もしていないのに、毎晩どんちゃん騒ぎは流石におかしいだろうと、ロドリグ様は本国の者を使って金の出どころを探っていたらしい。
「付き合いのない国の貴族だった。ここと同じようなもんだ。国の産業が漁業のみ。国費が少ない国だ」
「ああ……」
苦い顔で続ける。
「国が表立ってやれないから、代表にされているだけの貴族だった。近隣に魚を売って細々と国を維持している、くま族の国のな」
あ~くま族ね。
「エゼキエーレ王国ですか。それは」
そうだと。
あ~そこな。本気で小さいんだよあの国。他との付き合いも少なくて、内陸の国に魚を売って生計を立ててる、村みたいなやり方でさ。
「魔力も乏しく金もない。昨年タチの悪いくま族風邪が流行り、民が激減したそうだ」
あはは、小国あるあるだな。
「どうにもならなくなったのですね」
「そうらしい。それで最近同じ様な国なのに、稼ぎ出したお前の話しを耳にしたそうだ」
「はあ……」
ん?珍しい魔獣ならあそこにも……
「あそこは……海に海竜とかいませんでしたか?」
ああ?と睨まれた。怖えぇよ。
「いるが……あれば見せもんにならんどころか、見かけたら死ぬぞ?」
そうなの?キレイな鱗って聞いてたんだけど。
「あ……フェンリルとは違うんですか。大型だし話せるのかと」
「ふん。竜種は粗暴が基本だ」
青い鱗が輝き美しいが、水の中は元より空も多少飛べて見応えはある。
が、意思疎通が出来る記録はない。大体沖にしかいないしな。
あれを見かけた船は襲われて沈むし、火を吐いて燃やしてくるし……楽しいのか?と眉間にしわを寄せた。
「すみません。浅慮でした」
「まあよい。俺は他のフェンリルを見かけて契約したのだが……念話は初めキツイな」
「ええ、俺も吐きました。てか、何勝手に契約してんですか!」
あ?と不思議そう。
「別にお前の山からどっかにやろうとかしないさ。ただ話してみたくて声掛けたら、お前面白いなとなってな。あっちがしようと言ってきたんだ」
俺は疑いの目でロドリグ様を見た。
「疑うな。もしなんかあればちゃんと話す」
「……約束ですよ?」
「おう!そんな目で見るな。きちんと守る」
そんな話しをしていると、十名くらいの騎士団ががこちらに飛んでくるのが見えた。
「ロドリグ様、あれは」
「ああ、俺たちだけでもよかったんだが、あの冒険者らは捕まえてエゼキエーレ王国まで連れて行き、責任取らそうかなあと考えてな」
ええ……なんか怖い事になって来た。空を見上げていたかと思うと、クルッと俺の方を向き、
「フェンリル誘拐未遂の賠償金欲しくないか?」
「うっ……」
欲しくないと言ったら嘘になる。父上からの借入金はないことにはなっているが、絶対私費から出してるぞ、あれは。
「欲しいです……返済がありますから」
「だろう?俺たちの滞在費もかかるしな」
「ええ……」
こんだけいるといくらかかるんだろう……収入増えても、増えた分出ていくような気がする。
「ただいま到着しました!ロドリグ様」
「おう、ご苦労。隊長残して騎士寮に荷物をおいてすぐ戻れ」
「はっ!」
よく訓練されている騎士は、寮はどこだと後から来たディエゴに案内させていた。
なんかもう俺の存在が薄くなっている気がする。俺の領地なんだがな……
「では、作戦を説明する」
「はい」
うちの騎士とあちらの騎士半分ずつ組ませ、二班作って山と草原の輩を捕まえるんだ。
「今夜決行との情報の通りならば、閉山後だろう。その前に我らは麓に待機。家に残っている者もいるはずだからそれも捕縛だ」
「はっ!では戦闘に慣れたものを山に、エリオス様が草原の隊長でよろしいか?」
あ?俺も出るの?役に立たないよ?
「お前は上空で見ていればいい」
「はい……」
ドミンクスの魔法使いは二人。
一人は防壁を維持する部隊にいた生粋の魔術士で、もう一人は魔力が多い一般市民だ。だが、ロドリグ様の騎士と変わらないほどの魔力持ちと、想定されるそう。
「さすが人族の国ですね」
「ああ、あそこは特別だ。ドナシアンもイアサントも庶民にそこまでの魔力はない。古の魔力が残っているからなんだ」
「はあ……」
ロドリグ様の説明をイサークは真剣に聞いている。俺はなぜか居たたまれなくて、話し合いの輪から数歩下がった。
「エリオス、大丈夫?」
「セリオ、俺ね。役立たずで見てるだけなんだ。だから大丈夫」
悲しそうに笑ったかもしれない。
もうさ、この作戦に関して、獣人は本当に役に立たない。輩冒険者の獣人も、どこの奴らかは分からないけど、腕は立つらしくて俺の出番などなく、気持ちが沈んでいく。
「エリオス……なんて顔してるの?」
セリオは悲しそうな、心配そうな視線を俺に向ける。
「ん?……ごめんねセリオ。俺こんなふうになる予定はなかったんだ。俺はただ、フェンリルを守りたかっただけ。商売だけではなく、友人を守りたかっただけで……」
何もかもが俺の手を離れ進んでいく。
若造で経験不足、役に立たない自分の不甲斐なさを感じた。悔しくて下を向いて歯を食いしばった。
「エリオス様」
「フィト……」
お気持ちは分かります。あの方は国でも評判の魔道士です。色々極めていて、王すら反論が難しい方だと市井にまで聞こえるほどの人。
「悔しいかもしれませんが、お任せした方が面倒はないかと」
「ああ、分かってはいるんだ」
俺はお前たち四人と試行錯誤しながらここまで来た。なのにこんな領地の一大事に何も出来ないとはな……
「エリオス!来い!」
「はい!」
後ろからセリオが、エリオス……と小さな声が聞こえた。
「お前は草原の方の捕縛が終り次第、山に合流しろ」
「はい、捕縛した者はどう致しますか?」
「ここに牢屋はあるか?」
「はい。使った事はありませんが」
「そこに入れておけばよい」
離れの地下倉庫にある。
ここだけは本気の犯罪者用。魔石で増幅した術が掛けてあり、簡単には逃げることは出来ない。
「お前は今晩の作戦をフェンリルに伝えろ」
「はい」
「では、みな準備にかかれ!!」
「「おう!」」
どちらの騎士たちも忙しく動き出した。
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