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二章 領地の特産品開発と拡張

7.騎士寮の増設と宿場町の偵察

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 数日後、父上は約束通り近衛騎士を十人と魔術士を派遣してくれた。この仕事の速さが、彼が臣下に慕われる所以なんだろうな。

「お前ら荷物は出したか?」
「はい!」

 家具や何もかもだぞ。出来てま~すと返事をする衛兵たち。騎士団長イサークも完了していますと。よし。

「材料は追加で用意したから。よろしく頼む」

 城から派遣された魔術士は三人。指揮官のパトリックは図面に目を落とす。

「図面の通りで変更はごさいませんか?」
「いいよな?イサーク」

 イサークは問題ありません。この通りにお願いとパトリックを見る。

「部屋数も近衛騎士の方の分と、そのうち増えるであろう人員分増やしました。これで当分変更せずとも持つはずです」
「かしこまりました。では、こちらの通りに建築致します」

 夕方の薄暗い中だが致し方ない。山を閉鎖してからでないと、衛兵とか戻らんからな。

「やってくれ」
「かしこまりました。エリオス様」

 三人の魔術士は寮に向かって両手を上げた。すると騎士寮はほんのり白っぽく光り、形が溶けるように粉々に壊れて行く。その破片がゆらゆらとくっつき再構築して行った。足りない分の石や木材も浮き上がり、その中に組み込まれて……

「すげえな」
「ですね」

 俺たち執務の者は、こうやって屋敷や寮が出来上がる所を、見てはいなかったんだ。
 城にいて図面引いてただけでな。下から上にサラサラと組み上がって行く様子は圧巻だ。
 
 後は屋根かな。
 今までと同じ赤い屋根が組み上がり完成した。ものの十分で出来上がった。

「早いんだな」

 あまりの早さに俺は驚き、パトリックは満足げに微笑む。

「ええ。図面があれば早いですね」

 ないとどうなるのかと聞いたら、私が図面を引くことになり、更に時間が掛かります。

「それに、人の図面の方が迷いがないので、制作も早いですね。自分だと、いやあそこはとか、手が止まったりもしますから、自ずと時間が掛かります」

 制作には集中力が必要だと言う。

 「筆頭になる私が図面を覚えて、残りが魔力を補います。ですから、私がどれだけきちんと図面を理解して作るか。これが決め手なんですよ。私が迷えば迷うだけ時間は掛かります」
「ほほう……」

 中を見るか。イサークや今いる衛兵とかと入ってみた。
 おお!広くなったな。部屋も増えて食堂も広くなった。うんうん。

「よし!お前ら中に物を戻せよ。終わったら屋敷の食堂で今夜は食べろ。今からじゃ、夕食作ってる時間はないからな」
「はい!」

 それと夜間の者の食事は持ち帰れよと、イサークに声がけ。彼は恐縮して、

「すみません。なにからなにまで」
「いや。いつもすまないな。警らの仕事は大変だろう。人が多くなり小競り合いも多いと聞く」
「あはは、民間人の揉め事くらいはそんなには」

 細かい揉め事は多いと街の者は言っていたがな。

「最近は多くなっていないのか?」

 イサークはええと苦笑い。

「他国からの者も多くなり、文化の違いでしょうかね。警らの部分は多少なり増えました」
「そうか。悪いが頼むな」

 はいと返事をしたイサークは、少し困ったような雰囲気に。今だから言えるのですがと、無礼を承知で聞いて下さいませと、改まった口調で話し出した。

「正直に申しますと、最初、私は地方に飛ばされたと考えました。何も不始末もしていないのに、なぜ私が行かねばならんのだと、憤りに似たものを感じておりました。ですが今は満足です。城では経験出来ないやり甲斐があります」

 うっ……すまん。そう感じていたか。

「ええ。副団長まで上り詰めたのに、公爵領の私兵団長。降格もいいところです」
「そうね。俺王子じゃないしな」

 ですが、自分で何でも出来るのは楽しいですよ。これで給金が多ければ何も不満はありませんねと。

「ゔっそこは俺のこれからに期待してくれ」
「はい!期待してます」

 そうだ。イサークたちも、いつまでも屋敷や騎士寮なのも不憫だな。

「なあ、ディエゴとの家もそろそろ欲しいだろう」

 あはは、そうですねと。

「今は完全な住み込み状態ですから、子供が欲しくなる頃までにはとは考えています」
「おう!それまでにはなんとか……出来たらいいかな?」

 なんとかして下さいませエリオス様と、鋭い目つきで言われた。うん、頑張るよ。

 翌日からは借り受けている近衛騎士は、山の警護をお願いして、今までいた者たちは街や、あの宿場町付近に配置。警ら用の建物も新たに設置して(ふふん!これは俺が建てた。パトリックに教えてもらってな)怪しい冒険者を衛兵が見張るんだ。

「思ったよりちゃんと出来てるね?」

 思ったよりとは酷いな。

「フィト、口が悪いぞ」

 ん?と俺を見上げた。

「いやね。エリオス様がセンスがいいのは知ってますが、景観に合う物を作るとなると別でしょ?」
「そうだけどさ、俺のセンスの塊、騎獣もかっこいいだろ?」

 まあねと。ひでえな、俺の側近は正直で。

「真っ白な獅子は凛々しくてかっこいい。だけどあれは想像でしょ?」

 いやまあそうだけど。

「それはセンスの良さと同じです。好きな物を作るのとは違いますからね」

 まあいいやと、フィトは中も見学。うわ~警らの建物とは思えないゴージャスな。
 なんで壁に文様が?出入り口もボタニカルな彫刻ふうの飾りが……え?なにここ。寝床が屋敷の部屋みたいだ。

「エリオス様。これ、小さめの屋敷のようですが?」
「いいだろ?寮から離れて寂しいんだからさ」

 ふん!と鼻を鳴らし、

「寂しいとか、何いってんですか!衛兵の詰め所です。分かってますか?」
「うん」

 はああと、息を吐いた。周りを見ろ!この草原の、のどかな雰囲気をと、両手を広げた。

「うん見たよ」
「合わないでしょ!」
「そうか?屋根も緑にして、外壁も生成り色にしたぞ?植物柄でかわいいし、馴染んでるだろ?」

 やめろフィト。ディエゴはクスクスと笑った。

「こういうのは、王族のセンスなんだよ。それにここはエリオス様の領地だ。これも面白かろう。余所と同じである必要もない。ここに看板もつけてあるから分かるさ」

 壁に「衛兵詰め所」と書いてある看板も設置した。お気軽にどうぞって。

「すっごいゴージャスガゼボ、住めます!って感じですが、そうですね。他と合わせる必要はないですかね。全部エリオス様仕様にすればいいか」
「そうだよ、キレイでかわいいじゃないですか」

 セリオもニコニコしてくれている。

「フィト、今はこんな田舎の宿場町って感じが、そのうち素敵な街になるかもでしょう」

 まあね。セリオ様、エリオス様に甘くて困ったもんだやれやれって。お前本気で酷えな。

「そんな事はありません。フィト」
「そんな事だらけだすぅ」

 ブツブツ文句が出るな。

「いいだろうよ。そのうちお前も俺のセンスに慣れるさ」

 フンとフィトは鼻を鳴らした。

「慣れた頃、僕は本当にフィト男爵になるんだろうね」

 なんでそんなに不満そうなんだよ。

「ならさ、次はお前が設計すればいい」
「はあ?僕が?」
「そう、お前が。お前がエントランスの壺とか絵とか集めたんだろ?いいセンスだ。これだけ言うんだから、出来るだろ?」

 はい?僕建物とか大きな物はしたことないし、図面すら引けませんよ。

「俺が教えてやるよ」

 僕のセンスがそこらに建つの?………う~んと悩み、

「ごめんなさい。僕小物専門だから建物はちょっと無理かな」

 みんなであははと笑った。なら文句言うなよ?とフィトに言うと言い過ぎましたと頭を下げた。

「みんな得意不得意があるんだよ。それを持ち寄って頑張ろうぜ」
「はい」

 ふふっとフィトは笑った。

「さて、ここから気持ちを引き締めろ。町に行く」
「はい」

 俺たちは笑顔を消し、宿屋の視察に向かった。警らの家は丘の上。眼下に宿場町を見下ろす位置にあり、少し離れている。

「普通に視察しろよ。輩をガン見もするな」
「「はい」」

 イサークを含め、護衛騎士数人と俺たち四人。宿場町に潜入……もとい視察に歩き出した。

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