俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音

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二章 領地の特産品開発と拡張

5.フェンリルに会いに行く

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 夕方が近づき、庭で騎獣を出して準備を始めた。俺とセリオ、ディエゴと騎士たち。そしてサントス。

「連絡しておいたからフェンリルに会えるよ」
「うん、楽しみ!」

 結婚式の後、来てくれた貴族の街の案内やら、新しい染め物なんかを他領に売り込んでたら、結構時間がかかってしまった。そんで、昨日最後の貴族も帰り、全員帰った。父上は結婚式の翌日に。まあ、近いとはいえ、王が城に不在は諸々困るからな。

「魔法省大臣の派遣か。まあ、いいだろう。お前から連絡しろ」
「はい。ありがとう存じます」

 それとなと、父上。

「もう少し顔を見せてくれ。城に来ても私のところには来ていないだろう?」
「ゔっはい。寄った時には顔を出します」
「そうしてくれ」

 俺は現王の息子だから、特例で城を好きに使わせてもらっているんだ。泊まりも王族の私棟、俺の部屋も使わせてもらっている。まあ、そろそろ結婚もしたし、辞めなければならないかもね。

「いや、そんなものは気にしなくていい」
「ええ?父上、兄様のお立場もありますから、今後は客間に泊りますよ」

 マジで?と顔に書いてある。

「ふむ、そうか……寂しいものだな」

 え?父上何を?
 そんな父上の様子に、サントスは困ったもんだと苦笑い。

「兄様、父上はあなたが一番かわいい息子なんだよ」
「いや、そんな事は……」
「そうなの!僕らとは違うんだよ」

 父上?困ったなと下を向いて、

「あ~……お前が一番気が合うんだよ」
「ね?」

 だから、お金もバンバン使って、応援してたでしょう。あのお金は、父上の私費から出てたんだよ、知ってた?とサントス。

「は?父上……」
「そんな事はいいんだ」

 なんとも言えない居心地の悪そうな。

「ありがとう存じます。そんなにも気に掛けて下さって」
「う、うん。領地が軌道に乗れは返ってくる金だ。気にするな」

 あはは、俺そうとう愛されてたんだな。

「そうだよ?兄様は父上にとって特別な子供だよ。顔出して上げてね」
「ああ」

 お前も大切な子供だとサントスに言うと、取ってつけたように言わなくてもいいですよと。

「じゃあまたな」
「はい、ご足労ありがとうございました」

 そういうと馬車に乗り込み、帰って行ったんだ。そんな事を思い出しながら山に繰り出した。

「ねえ、柵開けても防壁で入れないよ?」

 防壁に手を当てて文句を言う。

「待て」

 俺が防壁に触れると、人一人通れるくらいの穴が空いた。

「ほほう。兄様だけが開けられるのか」
「そうだ。俺が契約してるから、他の者には開けられないようにしてるんだ」
「ふ~ん」

 柵の先の獣道を歩いていくと、少し開けた場所がある。そこに真っ白な毛並みの俺の友達。

「うわあ……フェンリルだ!大きい」
「パトリシオ、大勢で済まない」
「いや、いいさ」

 足元には以前より大分大きくなった子どもたち。

「お?僕にも聞こえるね」
「そうか、お前も魔力多めだったな」
「うん」

 パトリシオはほほうと笑った。

「お前はエリオスの身内か?」
「うん、第三王子のサントスだ。よろしくね」
「そうか。何しにここへ?」

 それは君を見るためだよと微笑んで、おろろろ……と吐いた。

「うっいきなり……グッめまいがして気もぢ悪い……」
「あはは、俺も最初なったんだ。念話慣れしないときついんだ」
「そうなんだ……うっぷ……」

 そのうち慣れるさと、パトリシオは楽しそうに笑った。

「パトリシオ、山はどうだ?」
「ああ、相変わらずうるさいな。前よりはいいが」
「やはりそうか」
「昼間に外に出ようとは中々思えない」

 ごめんな。それでな?父上にお願いして、ここに防音の術を掛けてもらう約束を取り付けたと話した。

「そうか、ならば静かになるのだな?」
「ああ、お前がここは静かであって欲しいと思う場所に術をかけるよ」
「分かった。全くの無音になるのか?」
「いや、そこの調整は術者と協議だな」

 それなら問題はないと納得してくれた。サントスは鬼牛サイズの子供に触って、ふかふかと大喜び。

「なんてかわいいんだ!」
「だろ?親は美しいが、子供は愛らしいだろ?」
「うん!」

 横になるフェンリルの子供の腹に埋まってご満悦。セリオとディエゴもそれを見て、一緒にふかふかと楽しそうだ。

「お前たちも触らせてもらえば?」
「え?私たちもよろしいので?」

 騎士たちも触りたそうにガン見してるから、どうぞと。パトリシオも構わんと。

「うわあ……気持ちいい……長い被毛がなんとも……」
「気持ちいいし、かわいい!」

 騎士たちも三匹いる子どもの被毛に埋もれて楽しそうだ。

「お前たち、加減はしろよ。人は脆いからな」
「キャンキャン!」

 ありがとう……彼らが遊んだつもりでも俺たちは死ぬかもしれんからね。そのアドバイスはありがたい。

「うるさい以外の要望はあるか?」
「うん?特にはないな。獣も多く飯には困らん」
「そうか……仲間がいないと寂しくはないか?」

 ふふっとパトリシオは笑った。

「お前には言ってなかったが数匹来ている。いい山だと教えたら来たいって言ってな」
「そうか!だからフェンリルを見かけると観光客が言ってたのか。お前は巣穴から出てないのに変だと思ったよ」

 子育て中の親以外は、うるさいのを気にもしないからな。まあ、この山くらいなら私を含め二~三匹が限界だ。これ以上は増えないさ。増えるようなら火山の森に帰ると。

「そうか。仲間がいれば寂しくはないな」
「ああ」

 陽も完全に暮れようとする時間になり、帰ろうとなった。サントスたちは名残り惜しそうに子供たちを撫でて、またねって。パトリシオにありがとうと感謝して、屋敷に帰った。そして夕食の時間。

「本当に美しく、かわいいんだよ。ファルも来ればよかったのに」

 ゔっ……と言葉を詰まらせた。

「いえ……俺は犬系苦手なんだ。昔小さなフェンリルに噛まれて、そこから怖くて……」
「そうなんだ」

 サントスが興奮しながらファルに話して聞かせていた。

「仔犬ならいけるか?欲しい」
「あれなあ……城では飼えないよ」
「うん……言ってみただけ」
「餌の用意がな」

 だよねえ……直轄地の山にいてもらうなら出来るかもだけど、城に常時はね。

「兄様。僕らは明日の朝帰るね」
「ああ、長く滞在させて悪かったな」
「ううん、街にも行って遊んでたから別に。街のレストランも美味しかったし、変な輩も目立たず、いい街だったよ」
「うん、ありがとう。でも、その輩対策が今後の課題なんだ」

 そうなの?ともぐもぐ。

「ああ、新規の領地だし、観光客メインでやっていくつもりなんだ。冒険者はお肉を取り、薬草を探す。ランクの低い者たちで事足りるんだ」
「ふむふむ」

 なのにさ、最近ごっつい冒険者なのかどうかすら怪しい、変な奴らが入り込んで来て。

「あ~でっかい剣を背中に背負ってたね」
「あんなもんが必要な獣も魔獣もうちにはいないんだよ」

 草原に作った宿場町に、どうも住み着いてるらしくてさ。その宿場町の近くにも農家が来てて、民家もたくさんになっているんだ。ここの野菜の美味さに、移住してくれる農家がいるんだ。なのによ……

「不穏な空気を撒いていると」
「うん。なんの目的でいるかも分からんし、この国の者かも分からん」

 ソテーされた人参をプスッとフォークで刺し、パクって食べながらサントスは、

「嫌な想像だけど、フェンリル狙いじゃないの?他国に売りつけるためとか」

 そう考えるよな。

「そうでしょうよ。今この領地のフェンリルは、他国にも知れ渡っているんだよ?だから観光客もわんさかなんでしょ?」
「うん」
「なら、鬼牛くらいの仔犬なら、なんとか捕まえられるかと、狙ってもおかしくはない。もぐもぐ」

 だよなあ……

「兄様、早めの対策しておいた方がいいんじゃないの?」
「うん、パトリシオには伝えるよ」
「それだけじゃなくてさ。衛兵も増やせば?」

 かああ!簡単に言ってくれるじゃねえか。そんな金はねえよ。

「んふふっこんな時こそ父上だよ。兄様に甘いんだから甘えればいい」
「え……それはちょっと。やっと何とか貰わなくても行けそうって時に」

 もぐもぐ……ば~か。こんな時に変なプライドなんて無駄だよ。このまんま稼いで行けば、いけるんでしょ?なら先行投資だよ。ケチってフェンリルが怪我とか捕まったら困るでしょって。
 確かにな、今山に十人くらいの衛兵を行かせているんだ。昔からの獣道のあたりにと、休憩所や、山頂の出店の警備にな。

「その獣道って防壁張ってるだけなんでしよ?」
「うん」
「なら、僕らの国より魔力が強い者は、他国には庶民でもたくさんいるんだ。衛兵増やしたくないなら、人族にお願いするのも手かもね」

 そうだな。人族も最近多く見かけるし。

「うちの付き合いでかあ……」

 ワインをグビグビ飲みながら、

「一番近い、ドナシアンの王族に頼んでみたら?」
「ええ!そんな付き合いこの国あったか?」

 んふふっない!社交辞令的な付き合いのみだよ。

「それ無理なんじゃ……」
「無理かどうかは、やって見なくちゃ分からない」
「そうだけどさぁ」

 フェンリルは俺の生命線だ。何としても守りたい。それは変らないが。俺の懐は寒い。

「父上に相談してさ、面会出来るようにしてもらえば?」
「う~ん」

 俺がウジウジ言ってたら、

「お金ケチりたいならそうなるでしょ!」
「はい。やってみます」

 じゃあまた明日ねと、サントスは食堂を出て行った。

「エリオス、お金がないのは確かです。魔法使いを一時的に貸し出してもらう方が、節約にはなるのではないですか?」
「そうだな」

 私もそう思いますとディエゴ。

「衛兵を増やした所で弱くては効果は薄い。ならば他国の強い魔法使いに頼るのもありかと思います」

 あの辺りにいる不審な冒険者はランクも上であろう見た目です。我らですら勝ち目があるかどうか。獣人は魔力が多い者でも、人族の足元にも及びません。あの輩たちは人族も混じっております。危険ですとディエゴは熱弁。

「はあ……父上に手配してもらうか」
「僕もそう思います。我がふるさとの王族は強いですよ」
「フィトもそう言うなら頑張るか」

 新婚早々嫌なことは後回しとは行かず、

「ごめんな、セリオ。新婚旅行ドナシアンになりそうだ」
「ふふっいいですよ。あなたとならば仕事でも嬉しいです」
「そう言ってくれるとありがたい」

 そんでな。大使館にお泊まりで……ふわふわな旅行にはならんよと。もっとこう、ごめん。

「あなたの隣ならば、いつでも僕はふわふわな気分です。エリオス」

 なんていいヤツなんだ、お前は。

「俺もお前がいればどこでも楽しいよ、きっとさ。んふふっ」

 あ~やだやだ。フィトとディエゴは新婚さんは暑苦しいよと笑った。

「お前らも新婚だろ!」
「ふん!僕らは人前でいちゃいちゃしませ~ん!」
「すればいいだろ!」
「はしたない事しないも~ん」

 フィト!ムカつく!

「いいなら俺はしようかな……」

 小さな声でディエゴは呟いた。聞き逃さねえぞ!

「そうだ!お前もイサークとすればいい!」
「……イサークは騎士だからあんまり出来ないかもだけど……いいのかな?」
「いいぞ!うちは若い者しかいないんだし、新婚が多いからな」

 そう?とディエゴは嬉しそうだ。彼の番イサークは俺の私兵の騎士団長だ。マッチョ……ではないのに強い。魔力はそう多くはないが、剣術に長けている。父上が連れてけと近衛騎士副団長をくれたんだよね。イケメンで優しげなヤツだ。

 なんて話をして、翌日サントスと一緒に城に向かった。早い方がいいかと思ってさ。

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