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一章 多分見放された

3.家臣一匹ゲット!

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 どんよりした気持ちでフィトを見たら、逃げようとしてる?

「うはは。エリオス様も大変だね!では、ここが素敵な街になった頃お伺いを……」

 ほう、ガシッと肩を掴んだ。

「お前さ。俺の家臣になれ」
「え?」
「俺な、今いる側近と側仕えと騎士は十人。魔法使い一人。今の俺の手持ちの札」

 は?とフィトは呆然。

「そんだけ?」
「ああ、そんだけでここを街にしなくちゃならないんだ」
「おのぉ、僕は貴族でもなんでも……」

 うふふ……俺は嫌な笑い方をしたはずだ。逃さねぇぞ?

「だ、大臣の道は……?」
「つまんねえからやだよ。いいじゃねえか。ここの開発!やり甲斐はあるだろ?」
「い、いや~……僕はその……」

 両手で肩を掴みギリギリと力を込める。

「あ、あのねエリオス様?」
「お前口が達者だと言ってたな?」
「あひぁ?言ってましたっけ?」

 忘れたとは言わせねぇぞ?にゃはは!

「でもね、僕働かないとご飯が……」
「んなもん俺が食わしてやるよ。そんでこの領地の管理を手伝え」
「ええぇ………」

 足りねえ人足にんそくは現地調達だよな。ぬはは!俄然やる気になった。俺は公爵になる!

「いやあ?あの……」
「お前に拒否権はない。拒否するなら罪状捏造するぞ?」
「ゲッ卑怯な……」

 痛いよもう!肩離して、逃げないからと言われて離した。

「あ~痛かった。エリオス様、僕店持ちたいって言ったの覚えていますか?」
「ん?あ~言ってたな」
「やっぱりやりたいんですよ。ですから落ち着いたらお店下さいますか?」
「あ~……お前優秀そうだから確約は出来んが、後続が育てばな」

 ふう……なら草原で拾ったのも縁ですから家臣になりましょう。よろしくお願いします。そして今日から寝るところと食べ物お願いしますと、フィトは頭を下げた。

「おお!お前いいやつだな!」

 ジーッと俺を上目遣いで見て、

「いや……あなたが脅すから……でもなんか、あなたに付いて行くのも面白いかな?って思っちゃった」

 うんうん!ありがとな!と肩をバンバン叩いて、なら俺権限で、お前今から下級貴族の男爵な。

「え?いきなり男爵とか……農民ですよ?」
「そんなもん関係ねえよ。習ってねえか?イアサント王国のルチアーノ様は農民からだ!」
「いや……僕はドナシアンですから知ってますよ。あの方は英雄でしょう?百年以上前の」
「なら、彼が出来たんだからお前も出来るさ!」

 うえぇ……あんな英雄とは違いますよ。期待はしないで下さいねと言いながらも、出来るかなとボソッと言ったのは聞き逃さないからな。んふふっ

 それからフィトと辺りを散策……ていうか、商人や旅人の通り道を歩いて土地を確認。

「このあたりはニワトリに似た魔獣がいて美味しくてね~」
「ふ~ん」
「だからよく獲って食べてました。タダだし」
「そうか……なら屋敷だけでも建て直せばなんとかなるか」

 クルッと振り返り騎士に確認。

「お前らって狩り出来る?」
「は?はあ、出来ますけど?」
「なら、明日にでも手配するかな」

 えっ?とフィト絶句。

「安心しろ、うちの魔法使い優秀よ。すぐに屋敷を建ててくれるさ」
「魔法で?」
「そうだ。建材さえあればすぐだよ」
「へえ……え?魔法使い一人のはずでは?」

 そこは大丈夫。交渉するから任せておけと大口叩いた。だが、背中に嫌な汗が流れもした。父上貸してくれるかな……まあいい、城に帰ってすぐに動くぞと騎獣を出し、フィトを俺のに乗せて戻り、彼は客間にメイドとぶっこみ、俺はサクサクと提案書を書いた。

「よし!これで大丈夫なはずだ。ぬはは」

 心配そうにセリオは俺を見て、

「エリオス様……本当に公爵になるんですか?私もそちらに異動なんですが……」
「わりといい所だったぞ?騎獣で一刻でここまで戻れるし困らんさ」
「そうですが……山の中ですか。はあ……なんでこんな事に。城勤めのはずが……」

 ふむ、そっか、そうだよな。セリオは家族とも離れるし……

「なら、別のやつ連れてくさ。悪かったな」

 ムッとして俺を睨む。なんで?

「私はあなたの学友で友達で側仕えなんですよ!離れる訳ないでしょ!」

 あ?今嫌だって。更に怒った。

「嫌なんて言ってません!あなたみたいな面倒くさい人の世話できるのは私しかいません!行きますよ!」
「あ、ああ。ありがとう」

 なんで怒るんだよ。行くのが嫌でなければなあ。そうそう、セリオは俺よりふたつ上の学友だ。なんでも適当にやってる俺を見かねて、子供の時から世話してくれたんだ。ある意味兄弟よりも信頼できるんだよ。ん?

「だって……ブツブツ……もう……なんで気が付かないんだ……もう……クソッ」
「声小さくて聞こえないぞ?」

 後ろ向いてなんかブツブツ。

「聞こえなくていいです!」
「おお?」

 お父上の所に行くんでしょ!早く行けと追い出され……

「ふん。よく纏められているな。魔道士を街の整備にか」
「はい」

 読んでいた提案書をテーブルに置くと俺を見据えて、

「城に残る気はないと?」
「はい。城の仕事に魅力を感じませんでした。王なら楽しかったかも知れませんがね」

 ほほう……ならお前がやればいい。兄に相談すればよかろうとニヤニヤ。

「それは……兄上に申し訳ないし」
「ふん、誰がやってもうちは問題ない。他国の食料庫にもなれない小国だ。隣国が遠くて逃げない民だけがいる貧乏国だよ」
「またそんな……」

 父上……私はそんな考えのあなたが嫌いです。民は宝ですよ?私は不真面目ですが、民には感謝していますと言うと嫌な顔をした。

「フン。俺は王になりたくなかったんだよ。そりゃあイアサントみたいな大国の王ならやり甲斐もあっただろうが、こんな……」

 ホント、父上は見た目だけの男だよ。そつなくこなしてるだけの凡人だ。民の事など考えてもおらず、先代をなぞるだけで発展させようなどとも思わない。イアサントが羨ましい、ドナシアンが羨ましいしか言わない小物だ。
 あそこはあの国の人が頑張って小国だったのを大国まで押し上げたんだよ。器が違う。

「父上はご自分で発展させるおつもりは?」

 お茶を手に取り、いや~な顔をした。

「ないね。俺は若い頃、身分違いだと番にするつもりのヤツと別れさせられてからな~んもやる気はない。その番も昨今病で去った。お前には悪いがあてがわれた妻はそんなには……」

 はあ……父上は俺にだけはなんでもぶっちゃけるよな。傷つかないとでも思っているのか。俺母様好きなのにさ。

「そうですか。では早々に兄上に王位を譲られてはどうですか?新たに気の合う番を探されるのもいいのでは?まだお若いですし」
「そうだな……先代が事故で身罷って跡を継いでから……はあ……俺の人生はつまらんかったな」

 憂いている父上は美しいが!中身空っぽだな。テンション低めのうちにうんと言わせよう。

「ではこの提案書の内容を受理していただけますか?」
「まあいいだろう。あそこは何もないから初期費用くらい出してやるよ」
「ありがとう存じます。ではまた夕食でお会いしましょう」
「ああ……」

 激うつの父上を置いて部屋を出ると扉を閉めた。いやっほ~い!通ったぜ!ならば善は急げだよ!くはは!待ってろ俺の領地!

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