緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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四章 どうしてこなるんだ

最終話 忘れない愛の始まり

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 ロベールは、ずいぶん遅かったなあとお帰りのキスしてと両手を広げる。僕はその胸に入りチュッとする。

「ふふっ王妃らしかったな」
「東で鍛えられたんだ。おっかない奥様とお嬢様ばかりでね。敵視してくる方ばかりでさ。西の王妃主催の時は敵意を隠してた人ばかりだったんだ。今はみんなそこそこ仲良くしてる」
「そっか」

 疲れてないか?と言われたけど、楽しかったから特には。お茶会みたいだったからねえ。さあ、座れとソファにふたりでかけた。

「毛皮は売れた?」
「そこそこは。彼らが着てくれて、その評価次第だね」
「魔石は?」
「それはおほほほっ大盛況よ。なんちゃってピジョンブラッドと言って、みんな喜んでた」
「それはよかった。まずは国内に流通させて、各国に売り込む。そろそろ名前も考えないとだな」
「うん」

 魔石は色で値段はまちまちで、お手頃から中々のお値段まであったからね。それでもそこらの魔石よりずっと高品質。僕は一番安いので付与を試して、どこまで出来るかやったんだ。普通は重ねがけは二~三が普通。なのに四~五は出来る。それも安いのでね。これはお得。

「未来の旦那様にあげるんだって彼らは言ってた。まずは自分に、そしてそれを相手に」
「いいな。私の愛ですとあげるのか」
「うん」

 なら俺もさらに上げようかなと。限りなくピジョンブラッドに近い色をほらって手のひらに乗せてくれる。

「え?持ってきたの?」
「いいや、定期便でクオールが送ってくれたんだ。せっかくだからみんなに見せればって。とても高価でお嬢様の小遣いでは難しいだろうけど、参考にってさ。間に合わなかったけど」
「へえ。売らなくていいの?」
「これほどの物は今後もあんまり出ないだろうからお前にやる」
「ありがとう」

 うんと抱きしめてくれる。俺の愛だから、自分で好きな付与をして身を守れって。するとアンリが突然話しかけてきた。

「それに精霊魔法防御の付与しておくといいよ。リシャールは他の森の精霊王に目を付けられてるんだ。最近目立ってて、穢れた子のくせにとよく思ってないらしい」
「またなのか……」
「なにかはしてこないだろうけど、用心はしておいた方がいい。王ではなくて、別の森の精霊が奥の代理だと勝手に仕掛けてってこともあるから」
「はーい」
「後で教えてあげるね」
「うん」

 またねとハイネは消えた。それにしてもハイネは過保護だよ、ロベールもみんなもね。みんなに愛されて嬉しく思う。さっきステフィンのことを思い出したから余計かもだけど。どこか寂しかったあの頃。僕ばかりが好きだったあの頃……

「ロベール大好き」

 肩に頭を置いて、首にチュッとした。

「どうした。嬉しいけど」
「うん。少し昔のことをみんなに話したんだ。そしたら……ふふっ」
「そうか」

 この一言で聞いてこないのもロベールの優しさ。こんな優しさを当たり前として生きてる幸せは、あの頃の僕は知らない。

「ねえ、僕を見て?」「愛してるよ」「先に行かないで、僕に合わせて飛んでよ」常に思ってるか言ってた。答えは「お前が遅いんだろ」よそ見しながら「見てるだろ」とかね。エッチの時だけはみんな優しくなった。

「ロベール」
「なに?」
「僕を見て」
「うん?」

 僕を起こして、瞳を見つめてくれる。どうしたの?と不思議そうに微笑む彼の瞳に僕が映る。

「なんだ?」
「……ありがとう」
「なんだよ。俺はいつもお前を見てるのに」
「うん」

 たったこれだけ。これだけなのに……これがあの頃はなかった。手に入れた今、なかったことの辛さはあの時より強く感じる。

「なんで泣くの?」
「ごめん……ちょっと昔の……思い出に引きずられて」

 泣くなよリシャールとほら抱っこと膝の上。暖かなロベールの体、安心できる僕の居場所だ。

「もう忘れろ。俺がお前の悲しみの分愛してるから」
「うん」

 ロベールに愛されて、みんなに大切にされて幸せいっぱい。なのに過去はたまに僕を苛む。もう忘れてそんなこともあったよねって、なぜか思えない。毎日楽しく生活してるのに幸せの分、あの時の独りよがりの愛にすがってた自分が辛くなる。僕はどこまでも受け身なんだな。もらってから返してた。もらう前にあげるってことがそもそも出来なかったから。

「僕は自分から動いたものがない。あなたに請われてお嫁に来たし、ヌーマリムもそう。ロベールが仕事をくれた」
「はい?なに?」
「自分から動いてないなあって。東に来る前にも言ったけど、個が欲しいんじゃなかったんだ」

 ならなにが欲しかった?と。前も今も本当は僕だけを愛してくれる愛が欲しかっただけ。だから今は受け身でもいいかと思ってる。誰かのために動くことも楽しいし、個なんてなくても幸せになれる。

「幸せは誰かがくれるのも、僕みたいな人にはいいのかもしれない」
「なにそれ」

 ロベールはお前なに言ってんの?と体が離れた。

「お前は自分で俺との結婚を承諾したんだろ?」
「いやそうだけど、あなたからお手紙来たからが大きいかな」
「そうかもだけど、最終決定はお前だろ?」
「まあ」

 それに俺が子ども欲しいって言ったらうんって言ったろ?嫌とも言えたはず。それもお前が決めたことだ。違うの?って。違わない。

「その初めの声がけを僕はしてないかなって思って、受け身かなあと思ったんだ」
「ああそう」

 僕はこれがしたいあれがしたいって若い頃は思ったけど、テイマーの仕事は外された。今は緑の竜の仕事も要請があってから、何か起きてから。自分で動いてるのは森に遊びに行くこと。結果はなんとかなったけど、失踪したりの問題を起こした。教会もそう、ユアン様に思わせぶりな態度を取ったらしく迷惑(そんなつもりは毛頭なかったけど)をかけた。全部周りが動いて処理してくれてどうにかなっただけ。

「僕が自発的に動くと問題が起こるんだ」
「まあ……そうかも」
「なんでだと思う?」
「なんでだろうなあ」

 僕の背中を優しく撫でる。俺は構わないんだ。失踪はマズいけどそれ以外はなあって。

「リシャール」
「はい」
「きっとお前のその発案段階で裏表というか、失敗したらって発想がないからじゃないのか?」
「うん?」

 こうしたらこうなる見たいな、先を考えることではないのか?もし失敗したらこうカバーするって考えてないんじゃないのか?と。いえ、それなりに考えてたつもり。ただ僕の予想が甘いのだろう、予測してない方に動いたんだ。

「あなたとの結婚も、断ったら後がないのも分かってたし」
「それ以外だな。相手のためって気持ちばっかで周りを見ていない。ユアン様も前もっての違和感はあったはずだ。ああなる前にな」
「あ……そういや変な感じしてた」
「だろ?」

 失踪は俺たちも隙があったから責められないが、お前も考えてもよかったんだ。みんなが拐われるぞって言ってたんだからさ。それを「そんなバカな」と流したのもお前だし俺たちだと。

「ことが起きそうなことを見なかったふりをするからそうなる」
「はい……」
「なにかを受けてってのは、相手がそのリスクを計算してるから大ごとにならないだけ」
「ごもっとも」

 でもなあって僕を起こして、静かに見つめる。

「俺はバカだからそんなお前が愛しい」
「ロベール。そうやって甘やかすから僕はこんななんだよ?」
「いいんだ。失敗や、たとえ人殺したって俺が手を回す。どうにでもしてやる」
「あのねえ」
「俺の隣にいてくれ。俺が死ぬまで触れられるところに」

 彼の真剣な目に不安そうな僕が映る。綺麗な瞳に、甘えたくなって泣きそうな僕が映る。

「ロベールバカだね」
「うん。愛してるんだ。バカみたいに愛してるから、他のことはどうでもいい」
「その甘さで僕もっとダメになるかもよ?」
「構わん」

 柔らかな微笑みを見つめ、彼のためになにかをと考えるのはやめようと思った。して欲しいことを完璧にやる。それが一番役に立つはずだから。僕は彼にもう一度抱きついた。

「リシャールの考えが甘いのは、精霊の力のせいかもな。違和感を流すのはさ」
「なんで?」
「精霊は死なないし失敗を取り戻す時間は無限でを簡単に考える癖がある。そのせいかなあって。人として生きるには問題になる考え方なだけでさ。トリムがそうだろ」
「まあね。でもどちらにしても問題だよ」
「まあな」

 そろそろ夜会のお時間ですのでお支度をと、メイドさん。そうでした夜会は三日間でしたね。

「さて着替えるか」
「うん」
「だが、そんな涙目はダメだ」
「はい……」

 自分でヒールと言おうとしたら、まぶたにチュッチュッと触れた。するとまぶたの熱が取れるのを感じた。

「俺が覚えている泣き虫を治す方法だ」
「ふふっロベールったら。忘れないんだね」
「当たり前だ。あの時の、お前の俺への精一杯の愛の証だから」
「うん」

 愛してるよと僕からキスをした。重なる唇に愛を込めて。ロベールは幸せそうに僕を抱きしめる。

「俺たちはこれでいい。これからも困難なこともあるだろう。でもな、愛し合ってたら困難なんてどうにでもなる。人に助けてって言える人は強いんだ。俺は言いまくってる」
「僕もあなたに助けてと言うね」
「ああ、ふたりで乗り越えよう」

 僕はロベールと結婚できてよかったと心から思った。こんな幸せが未来にあるとあの時予想できなかったけど、結果は幸せで涙が出るくらい。傍にロベールがいればなんでも出来る気にもなる。これからもきっと問題を起こすだろうけど、ふたりなら解決出来る。

「ほらかわいくして、うちの絹も毛皮も宣伝してくれよ」
「はーい」

 これでいいんだ。ふふっ


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