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四章 どうしてこなるんだ
7 カノン近衛騎士団長
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帰るのが遅くなってしまって、僕は無事ですって言おうかと執務室に行ったら、もうそれはそれはミレーユもクオールもみんな叱ってくる。わざとじゃないもん!と言い訳してると、ロベールだけは叱らなかった。そういう時もあるさって。
「お前はなにしてんだかなあ」
「だーって麦畑食い荒らすぞって感じで、ヌーマリムが群れで走ってるのが見えたんだもん」
俺の対策が遅れたからだが、まあごめんって。もうあの当時頭回ってなくて、側近やクオールたちが言ってることをやるだけで精一杯だったそうだ。うん、帰った日の顔を思い出せばだろうと思う。
「俺は本当に弱いと身にしみたんだ。妻がいないだけでこんなになるとは思わなかった」
「うん……ごめんね」
思い出せば母上が亡くなった時、父上も姿を見せなくなってた。そして部屋から出てきたらげっそりして目も虚ろでさ。それを見ている俺たちも悲しかったなあって。
「俺は父上の弱っちいところが似たんだ。王族なのにな」
僕は何も言えず、ロベールの膝にゴソゴソと座り、首に腕を回した。
「お前、ここ部屋じゃないんだぞ」
「うんすぐ降りる。ごめんなさい心配かけました」
「わかってるならいい。もうすぐ夕食だから部屋で待ってろ」
「うん」
ロベール様はリシャール様に甘いなあ。いくら精霊の心配がなくなっても、それ以外の危険はなくなってないのに。盗賊もヌーマリムとか動物ではない生き物が襲うかもしれない。それなのにとクオールの小言は止まらない。でもロベールはその言葉を無視して、マットたちの背中を見た。
「お前の護衛何背負ってんだ?」
「ああ、快気祝い?みたいな感じで街の人がくれたんだ」
「あははっそりゃあお前の視察の賜物だな。でも変なカバンだな」
散歩に持っていかなかったから、草で編んだと伝えた。へえ……そんなこと出来るのか。お前器用なところあるじゃないかと、頭を撫でてもらったけど……おほほほっ精霊のおかげです。
「なーんだ。見直したのに」
「いきなり出来るようになるはずないでしょ」
「そうだな」
僕は膝から降りてまたねと部屋を出た。クオールはお部屋の支度をして来ますって先に部屋に戻り(帰りが遅く心配で何もしてなかった)、護衛のふたりは、
「だから言ったでしょう。俺たちは森の散歩は止めようって」
「荷物のせいでしょ」
「そればっかじゃありませんよ」
俺たち騎士寮に帰ったら怒られるんですよ?リシャール様のわがままでさあってブチブチ。なら、
「ミレーユ、このカバンをメイドさんに渡して。お菓子は僕の部屋に、野菜は調理場にね」
「はい。どこに行かれますか?」
「騎士寮に。僕が悪かったって謝りにさ」
騎士たちは驚いて辞めてぇ!もっと怒られるってふたりは騒いだ。
「僕騎士寮の中ほとんど入ってないんだ。訓練には行くけどさ。だから見学!」
ええ~マジかよ。また今度にしましょうよとうるさい。
「夕食まで時間あるし、ロベールはまだ終わらなそうだし?」
「そうですが……」
辞めましょうよぉーとか言ってる二人を無視して、ミレーユに夕食までには戻ると言って向かった。
騎士寮は東の端に別棟であって、手前は訓練場やワイバーンや馬小屋。その奥に騎士寮がある。寮とは言っても寝起きするばかりではなく、執務関連も全部そこなんだ。
「あれ?リシャール様、こんなに遅くどうされました?」
いろんな入口の衛兵は不思議そうに聞いてくる。そのたびに、騎士団長に謝りに行くんだと話しながら進んだ。僕の後ろを歩く二人は、いつしか無言。諦めたというかなんというか目が虚ろ。
「カノン団長、リシャール様がお見えです」
「え?はあ、どうぞ」
部屋の中から声がすると僕の後ろで、俺たちが悪かったごめんなさいと騒いでるけど、無視して案内の騎士が開けてくれた扉に入る。
「リシャール様、こんなお時間にどうされました?それにお前らはなんだ」
カノン・スリーマイル。東の騎士団長で西の団長の次に強く、優秀と言われている。とても美形で、長い金髪も薄い金色の瞳もお顔立ちに似合っててね。それに、程よいマッチョで背が高く、微笑んだらアンはイチコロだ。そんな人。言葉古いけどね。
「帰宅が遅くなったのは僕の判断ミスで、農夫の方のグチの止めどころが分からずなので、ふたりを叱らないで下さいね」
「はあ、まあ構いませんが……」
なんのことやらって表情だけど、ふたりは僕の後ろに完全に隠れている。
「お前らはその時なにしてた?」
「私たちも同じでして……申し訳ございません」
「ふーんそうか。分かった、もういい下がれ」
「ハッ」
ふたりが下がると、こちらへと応接セットにどうぞって。僕はお言葉に甘えて座る。
「リシャール様、俺に用とはそんな話ではありませんよね。なんですか?」
初めはそうだったんだけど、カノン様に謝ってないなあって思ったんだ。僕迷惑かけたのにね。でも、それ言うと会話が終わってしまうから、
「少し夕食まで時間もあったし、僕この騎士寮の中ほとんど知らなくて、見てみたかったんです」
「そうですか。どうでしたか?」
少し口角を上げて微笑んで聞いてくれるカノン様。彼は侯爵家の方で、僕の元の身分よりずっと高い。武芸に秀でていて頭脳明晰、お兄様は領主と法務省の大臣をなさっている。とても古い家柄で、僕んちとそれほど変わらない。
「無駄のない作りですね。飾りも少なく華やかさはありませんが、ここも騎士らしいお部屋です」
壁は木目調で年季の入った色で、棚の飾りも王からの表彰や申し訳程度の飾り。そして団長の席の後ろには、王家の紋の幕と剣がクロスして二本飾ってある。
「ふふっ騎士に華美な装飾はいりませんからね。二階はこのような事務関係が多く、文官の執務室や会議室、保健室などです。一階はご存知でしょうが、食堂や屋内訓練場や倉庫ですね」
一階は武器や甲冑、ポーションや他諸々倉庫と、屋内訓練場ばかりで、三階は騎士たちのお部屋なんだ。魔法省の訓練施設もある。西とは違うんだ。
「それと、僕の失踪でご迷惑をおかけしました。いつか直接あいさつをと思ってたのですが、カノン様お忙しいから、今ならいらっしゃるかなと思ったのです」
「そうですね。私はロベール様の護衛ですから、彼が城にいれば私もおりますよ」
それに失踪のことは気にせずにと笑ってくれた。あなたが悪いわけじゃないと言ってくれる。
「ここ東の森には、大昔から精霊王の城があると噂になってました。誰も見たことはないし、西のような大きな木もない。でもあるんだと昔から。本当にあったんだなあとみな驚いてます」
それはここに来て聞いていた。僕もまゆつばくらいに思ってたんだよね。
「あの城は強い結界が張られています。人では敷地にすら入れませんね」
「やはり。どのあたりです?」
話しても行けないだろうとは思う。
「カノン様が行っても分からないと思いますよ。あそこは近くに行ってもただの森にしか見えず、特に他と変わった様子もない。視認出来ないのです」
一応場所はこの城を背に東の森。その中にあると説明すると、ああ、やたら精霊が多いところですよねと。そうなの?
「ええ、若い精霊がたくさんいる場所があるんですよ。その近くですよね」
「そうなのかな。僕はいつも森に行くとたくさんの精霊が遊んでくれますから、その場所がどこかは分かりません。分からないけど行けます」
なら、万が一、また拐われたらそこに行きますよって。はい?嫌だよもう。どんぐりとか木の実だけで生きるとかなんの拷問?
「そうですね。もうないでしょうが、目星はあった方がいいですから」
あなたとお父上は今特別と思われています。精霊が拐わなくても人が拐います。トリムもミュイも必ず連れて歩いて下さいと言われた。それと、
「西にはない古い物語がこちらには多く、あなたの先祖のお話しも少し残っています。大戦の前でしょうかね。竜は時々現れて人と遊んでいたって話です」
「どこかに書物が?」
本はなく記録にもないが、口伝えの物語であるそうだ。子どもの寝物語として母親が枕で話す。へえ……ハイネ人里で遊んでたんだ。うんって頭に声が響いた。まだ人が少ない頃だね、子供のフリしたり、旅商人のふりしたり。そのまま竜で出かけて遊んだりしてたよって。あの頃は人と精霊は近くて、友だちだったよって。へえ。
「どんなお話しですか?」
「他愛もないことですよ。ある日緑の竜が森からやってきた……」
彼の話はこうだ。
緑の竜は子どもたちと村に近い森でお花を咲かせたり、自分に乗せたりしていた。そのうち作物に困る民がいると手伝ったり。災害があれば一緒になって修復を手伝ったりしていた。子どもも大人も竜が大好きで、村に遊びに来てくれるのを楽しみにしていた。
「なのに、突然姿を見せなくなった。待てど暮らせど遊びに来ない。でも、楽しかった思い出はその地の人々の心に残り、緑の竜はかわいくて優しいと、伝わってるのです」
へえ。ハイネ本当に人が好きだったんだね。
「あの大戦の少し前に来なくなったと、私は聞いてます。その村は今はなく、古地図で確認されるとよいですが、森が切れた場所にあったらしいです。民はこの国にいますがね」
「なんかおとぎ話みたいですね」
そうですねって。その末裔があなただ。東の民はだからあなたが好き。まあ、全部ではありませんが、あの村の末裔たちは好きですよって。
「ちなみに私もそのひとり」
「え!そうなんですか?」
「ええ。あの村の者は精霊が保護してくれて、戦火を逃れこの森にいたのです。精霊が手引きしてくれてね。戦が終わるまで助けてくれたと我が一族には伝わっております」
そっか、本当に初期の頃はとても近い存在だったんだね。今は人と手を取り合うなどほとんどないけど。ハイネは暇な時に話してあげるよって。
「そろそろ夕食ではございませんか?」
「え?ああっカノン様、お時間を取らせました。お忙しいのにすみません」
「いいえ、リシャール様とゆっくり話すことはありませんでしたから、ロベール様が城にいる時は私もおりますので、お暇ならおいで下さい。訓練にも付き合いますよ」
「ええ。ありがとう。またお願いします」
僕は焦って団長室を出て、食堂に走った。
「お前はなにしてんだかなあ」
「だーって麦畑食い荒らすぞって感じで、ヌーマリムが群れで走ってるのが見えたんだもん」
俺の対策が遅れたからだが、まあごめんって。もうあの当時頭回ってなくて、側近やクオールたちが言ってることをやるだけで精一杯だったそうだ。うん、帰った日の顔を思い出せばだろうと思う。
「俺は本当に弱いと身にしみたんだ。妻がいないだけでこんなになるとは思わなかった」
「うん……ごめんね」
思い出せば母上が亡くなった時、父上も姿を見せなくなってた。そして部屋から出てきたらげっそりして目も虚ろでさ。それを見ている俺たちも悲しかったなあって。
「俺は父上の弱っちいところが似たんだ。王族なのにな」
僕は何も言えず、ロベールの膝にゴソゴソと座り、首に腕を回した。
「お前、ここ部屋じゃないんだぞ」
「うんすぐ降りる。ごめんなさい心配かけました」
「わかってるならいい。もうすぐ夕食だから部屋で待ってろ」
「うん」
ロベール様はリシャール様に甘いなあ。いくら精霊の心配がなくなっても、それ以外の危険はなくなってないのに。盗賊もヌーマリムとか動物ではない生き物が襲うかもしれない。それなのにとクオールの小言は止まらない。でもロベールはその言葉を無視して、マットたちの背中を見た。
「お前の護衛何背負ってんだ?」
「ああ、快気祝い?みたいな感じで街の人がくれたんだ」
「あははっそりゃあお前の視察の賜物だな。でも変なカバンだな」
散歩に持っていかなかったから、草で編んだと伝えた。へえ……そんなこと出来るのか。お前器用なところあるじゃないかと、頭を撫でてもらったけど……おほほほっ精霊のおかげです。
「なーんだ。見直したのに」
「いきなり出来るようになるはずないでしょ」
「そうだな」
僕は膝から降りてまたねと部屋を出た。クオールはお部屋の支度をして来ますって先に部屋に戻り(帰りが遅く心配で何もしてなかった)、護衛のふたりは、
「だから言ったでしょう。俺たちは森の散歩は止めようって」
「荷物のせいでしょ」
「そればっかじゃありませんよ」
俺たち騎士寮に帰ったら怒られるんですよ?リシャール様のわがままでさあってブチブチ。なら、
「ミレーユ、このカバンをメイドさんに渡して。お菓子は僕の部屋に、野菜は調理場にね」
「はい。どこに行かれますか?」
「騎士寮に。僕が悪かったって謝りにさ」
騎士たちは驚いて辞めてぇ!もっと怒られるってふたりは騒いだ。
「僕騎士寮の中ほとんど入ってないんだ。訓練には行くけどさ。だから見学!」
ええ~マジかよ。また今度にしましょうよとうるさい。
「夕食まで時間あるし、ロベールはまだ終わらなそうだし?」
「そうですが……」
辞めましょうよぉーとか言ってる二人を無視して、ミレーユに夕食までには戻ると言って向かった。
騎士寮は東の端に別棟であって、手前は訓練場やワイバーンや馬小屋。その奥に騎士寮がある。寮とは言っても寝起きするばかりではなく、執務関連も全部そこなんだ。
「あれ?リシャール様、こんなに遅くどうされました?」
いろんな入口の衛兵は不思議そうに聞いてくる。そのたびに、騎士団長に謝りに行くんだと話しながら進んだ。僕の後ろを歩く二人は、いつしか無言。諦めたというかなんというか目が虚ろ。
「カノン団長、リシャール様がお見えです」
「え?はあ、どうぞ」
部屋の中から声がすると僕の後ろで、俺たちが悪かったごめんなさいと騒いでるけど、無視して案内の騎士が開けてくれた扉に入る。
「リシャール様、こんなお時間にどうされました?それにお前らはなんだ」
カノン・スリーマイル。東の騎士団長で西の団長の次に強く、優秀と言われている。とても美形で、長い金髪も薄い金色の瞳もお顔立ちに似合っててね。それに、程よいマッチョで背が高く、微笑んだらアンはイチコロだ。そんな人。言葉古いけどね。
「帰宅が遅くなったのは僕の判断ミスで、農夫の方のグチの止めどころが分からずなので、ふたりを叱らないで下さいね」
「はあ、まあ構いませんが……」
なんのことやらって表情だけど、ふたりは僕の後ろに完全に隠れている。
「お前らはその時なにしてた?」
「私たちも同じでして……申し訳ございません」
「ふーんそうか。分かった、もういい下がれ」
「ハッ」
ふたりが下がると、こちらへと応接セットにどうぞって。僕はお言葉に甘えて座る。
「リシャール様、俺に用とはそんな話ではありませんよね。なんですか?」
初めはそうだったんだけど、カノン様に謝ってないなあって思ったんだ。僕迷惑かけたのにね。でも、それ言うと会話が終わってしまうから、
「少し夕食まで時間もあったし、僕この騎士寮の中ほとんど知らなくて、見てみたかったんです」
「そうですか。どうでしたか?」
少し口角を上げて微笑んで聞いてくれるカノン様。彼は侯爵家の方で、僕の元の身分よりずっと高い。武芸に秀でていて頭脳明晰、お兄様は領主と法務省の大臣をなさっている。とても古い家柄で、僕んちとそれほど変わらない。
「無駄のない作りですね。飾りも少なく華やかさはありませんが、ここも騎士らしいお部屋です」
壁は木目調で年季の入った色で、棚の飾りも王からの表彰や申し訳程度の飾り。そして団長の席の後ろには、王家の紋の幕と剣がクロスして二本飾ってある。
「ふふっ騎士に華美な装飾はいりませんからね。二階はこのような事務関係が多く、文官の執務室や会議室、保健室などです。一階はご存知でしょうが、食堂や屋内訓練場や倉庫ですね」
一階は武器や甲冑、ポーションや他諸々倉庫と、屋内訓練場ばかりで、三階は騎士たちのお部屋なんだ。魔法省の訓練施設もある。西とは違うんだ。
「それと、僕の失踪でご迷惑をおかけしました。いつか直接あいさつをと思ってたのですが、カノン様お忙しいから、今ならいらっしゃるかなと思ったのです」
「そうですね。私はロベール様の護衛ですから、彼が城にいれば私もおりますよ」
それに失踪のことは気にせずにと笑ってくれた。あなたが悪いわけじゃないと言ってくれる。
「ここ東の森には、大昔から精霊王の城があると噂になってました。誰も見たことはないし、西のような大きな木もない。でもあるんだと昔から。本当にあったんだなあとみな驚いてます」
それはここに来て聞いていた。僕もまゆつばくらいに思ってたんだよね。
「あの城は強い結界が張られています。人では敷地にすら入れませんね」
「やはり。どのあたりです?」
話しても行けないだろうとは思う。
「カノン様が行っても分からないと思いますよ。あそこは近くに行ってもただの森にしか見えず、特に他と変わった様子もない。視認出来ないのです」
一応場所はこの城を背に東の森。その中にあると説明すると、ああ、やたら精霊が多いところですよねと。そうなの?
「ええ、若い精霊がたくさんいる場所があるんですよ。その近くですよね」
「そうなのかな。僕はいつも森に行くとたくさんの精霊が遊んでくれますから、その場所がどこかは分かりません。分からないけど行けます」
なら、万が一、また拐われたらそこに行きますよって。はい?嫌だよもう。どんぐりとか木の実だけで生きるとかなんの拷問?
「そうですね。もうないでしょうが、目星はあった方がいいですから」
あなたとお父上は今特別と思われています。精霊が拐わなくても人が拐います。トリムもミュイも必ず連れて歩いて下さいと言われた。それと、
「西にはない古い物語がこちらには多く、あなたの先祖のお話しも少し残っています。大戦の前でしょうかね。竜は時々現れて人と遊んでいたって話です」
「どこかに書物が?」
本はなく記録にもないが、口伝えの物語であるそうだ。子どもの寝物語として母親が枕で話す。へえ……ハイネ人里で遊んでたんだ。うんって頭に声が響いた。まだ人が少ない頃だね、子供のフリしたり、旅商人のふりしたり。そのまま竜で出かけて遊んだりしてたよって。あの頃は人と精霊は近くて、友だちだったよって。へえ。
「どんなお話しですか?」
「他愛もないことですよ。ある日緑の竜が森からやってきた……」
彼の話はこうだ。
緑の竜は子どもたちと村に近い森でお花を咲かせたり、自分に乗せたりしていた。そのうち作物に困る民がいると手伝ったり。災害があれば一緒になって修復を手伝ったりしていた。子どもも大人も竜が大好きで、村に遊びに来てくれるのを楽しみにしていた。
「なのに、突然姿を見せなくなった。待てど暮らせど遊びに来ない。でも、楽しかった思い出はその地の人々の心に残り、緑の竜はかわいくて優しいと、伝わってるのです」
へえ。ハイネ本当に人が好きだったんだね。
「あの大戦の少し前に来なくなったと、私は聞いてます。その村は今はなく、古地図で確認されるとよいですが、森が切れた場所にあったらしいです。民はこの国にいますがね」
「なんかおとぎ話みたいですね」
そうですねって。その末裔があなただ。東の民はだからあなたが好き。まあ、全部ではありませんが、あの村の末裔たちは好きですよって。
「ちなみに私もそのひとり」
「え!そうなんですか?」
「ええ。あの村の者は精霊が保護してくれて、戦火を逃れこの森にいたのです。精霊が手引きしてくれてね。戦が終わるまで助けてくれたと我が一族には伝わっております」
そっか、本当に初期の頃はとても近い存在だったんだね。今は人と手を取り合うなどほとんどないけど。ハイネは暇な時に話してあげるよって。
「そろそろ夕食ではございませんか?」
「え?ああっカノン様、お時間を取らせました。お忙しいのにすみません」
「いいえ、リシャール様とゆっくり話すことはありませんでしたから、ロベール様が城にいる時は私もおりますので、お暇ならおいで下さい。訓練にも付き合いますよ」
「ええ。ありがとう。またお願いします」
僕は焦って団長室を出て、食堂に走った。
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