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三章 東の城 

13 僕見た目より優秀ですッ

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 僕は職人さんを置いて作業場を出ると、ロベールはニコニコしていた。いい物が出来たんだね。

「お前は終わったのか?」
「うん。後は練習あるのみ」
「お手数掛けました。それでどのくらいで出来るように?」

 僕は作業場が暑かったから……うそ、変な冷や汗が出た。あの様子だと数日では無理。紙に書いて口に出してたのを聞いていたけど、詠唱の流れが悪く、ほとんど発音出来ていなかった。まあ、難しいんだけどね。

「おほほほ。やる気次第ですね」
「あははは……頭の出来ですか?」
「いいえ、あれは慣れですよ」
「ふーん……器用さと頭の出来と……あいつらバカだから……はあ」

 でもね。重ねるのが出来なくても、圧縮だけでも身につけると速くなる。初めは魔力の無駄遣いをするけど、慣れればいらない魔力は抑えられるから、長い目で見ればお得。

「そうですか。なら頑張らせるかな」
「ええ。彼らのスキルにもなりますからね。万が一鍛冶が無理になっても、付与だけで生計が立てられますよ」

 ですなあって。付与技師は平民では少なく、付与技師の才能でお店まであるくらいなんだ。アクセサリーにも付与するからね。それを鍛冶屋が抱えられるってのはすごいこと。どれだけの売り上げがあって、この店はよい品が揃うのかが分かる。

「さて、帰るぞ」
「うん」

 奥から待って!ちょっとだけ聞いてって職人さんが出て来て、咳払いの後、紙を見ながら詠唱。うん……頑張れ。

「なにがいけませんか?コツを」
「全部間違ってないんだけど、息の長さ、発音の正確さかな。言葉の入り方、ひとつの言葉の息継ぎの場所とかだね」
「はあ……」
「業務用の長いものではなく、誰でも使える火だけ水だけの短い物で練習あるのみ」

 僕も初めはそうだったんだ。ファイアーも呪文にすると中々の長さの呪文になる。でも、みんな魔力とイメージでカバーしてるから、普段意識なんてしてない。でも付与は、大昔の教科書のようにやるからちょっと難しい。初めは感覚じゃ出来ないんだよ。

「あの、たまに来てもらえませんか?出来を確認して欲しいのです」
「そうだね。こちらの森に来たときにでも」
「はい!出来るようになるまででいいので!」

 職人たちもこればかりにかかりっきりにはなれない、月に一度でいいからって。僕は彼らと約束して店を出た。

「お前簡単そうにやってたのに」
「あん?僕の才能だよっていうか、魔法省はエリートしかいないの。国中の才能のある人が来る」

 あそこだけは他の省とは違う。魔法学園を卒業すれば入れるものでもない。文官はともかく、魔法技師や術士は本当に優秀な人ばかりなんだ。我が伯爵家は、そういった意味でみんなに一目置かれていた。兄上が若い時から王族の護衛なのはコネではない。魔法も騎士としての技術も高いから。父上はああ見えて繊細な魔法を使う。今や宝の持ち腐れ気味だけどね。召喚だけじゃないんだよ。

「僕は召喚とこういった細かい、こだわるようなものが好きだったんだ。出来た時楽しいからね。術士は早々に首になったけど、まあ、合ってたんだ」
「ふーん。その割にアンが好きな、お裁縫とか細かいことは全部ダメだよね?」
「グッ……それとこれは違うの!」

 なら料理とかしてみたら?貴族はしないものだけど、お菓子とかさって。

「おほほほ……食べてくれるんだよねロベール?妻の手作りは嫌とは言わないんだよね?」
「あははは……失言をいたしました」

 見た目で僕にアンらしさを期待すんな!すべて壊滅だから。味はともかく見た目が「ゴミ」になる。マーブルクッキーは練り込むだけだから平気ってやったことはある。なんでみんなと同じようにしてるのに、禍々しい色になるんだよ。それにほんのり魔力を感じるブツだしさ。自分すら食べたくなかったもん。

「ロベール」
「なんだ?」
「僕に、そういった部分のお母様らしいこと、アンらしいことは求めないように」
「うん……そうする」

 馬車に揺られながら景色を眺める。もう枝豆の季節も過ぎて、豆の葉は黄色い。奥には冬の野菜がよく育っている。麦も黄金色でそろそろ刈り入れ時……なんだあのヌーマリム。大群だし、まだ暗くないよ?

「ああ、ヌーマリムなあ。このあたりでは人を舐め腐っててな。強い魔石を仕掛けると人も危なくて、それを見越してるんだ」
「え~……迷惑だな。そうだ!」

 御者のピーターに止めてと叫び、トリムと相談。

「うん。、やれると思うよ」
「ならやってみる」

 竜にならなくてもやれるとのトリムの判断で、念じる。体から緑の魔力がほんのり湧き上がると、ブワーッと畑中に走った。薄く広くね。少しするとヌーマリムが続々とやって来て、蠢く絨毯のよう。そして、話し合い。

「ねえ、なんで人の食べ物食べるの?森に食べ物ないの?」
「え?そんなの楽だからに決まってるだろ。この近くに巣を作って人のを少しもらう。なにがまずいんだ?」

 全部なんて食ってねえしなあ。そうだよ問題なんかねえだろ。なのに追い払おうとしてさ。仲よくしてくれよってあちこちから。

「人だって冬毛に変わった頃、俺たちを捕まえるだろ?それもたくさんさ。ならお互い様だろ」
「あう……そうね」

 僕は森や山に帰ってと簡単に説得できるかと甘く考えてた。仕方なくロベールに相談。

「ああ、楽は確かに。毛皮取るのも本当。うむ」

 国内の騎士や私兵、民の防寒に大量に必要なんだよね。冬のコートの裏地や襟になる。ヌーマリムの毛皮は安価で大切な防寒着……うーむ。

「なら餌場的に適当に植える場所を作るとか?間引きしたのを一か所に置いておくからそれを食べるとか」

 僕はヌーマリムに提案してみた。が、文句が出る。

「俺たちここだけじゃなくて、日陰の多い畑には結構いるぞ?そんな小さな場所で俺たちの野菜足りんの?」
「そうじゃないけど、あんまり増えてもらっても困るんだ」
「人は増えてるだろ!」

 言い訳が思いつかなくて無言。するとまあいい。俺が調整するからトリム手伝ってくれってロベール。ヌーマリムは冬眠するからそれまでにやるからって。そんな話をしてると、一匹が、

「ならさ、俺たちを飼ってくれよ」
「へ?」
「俺たちの寿命は三年くらいなんだ。子を作ることが命題のようなもの。子が作れなくなった頃お前らが殺せばいい」
「え?」

 俺たちねずみは今が楽しければいい。食べ物にに困らず雨風がしのげればなって。はい?

「なんでそんなに潔いの?」
「あん?それが生き物だろ。明日のことなど考えて生きてはいない。今を生き抜くことしか考えてないんだ」

 たくさんのヌーマリムがキュッキュッと鳴く。そっか、明日を考えるのは人だけか。ふーん。

「だそうです。ロベール」
「へえ。なら空いてる土地はあるからやってみるか」
「おい、そこの兄さん!じめついた土地でな!」
「と、ヌーマリムは言ってます」

 ロベールは少し考えた。じめついた場所ねえ。半日陰の土地。

「トリムなんかないか?」
「あー……城の東かな。あの麦畑あたりがいいのでは?」
「いや、出来れば俺たちの直轄地の農地で」
「ふむ……東過ぎると乾燥気味で寒いし、日当たりもいい。なら西側の山付近は?」
「ああ、確か別荘地であるな。ちょっと調べる」

 ロベールは来年以降になるがやれそうだなって。毛皮を売るシステムを作るよって。

「来年に声かけるよ」
「おう!俺はもういないかもだが、これだけいるんだ。覚えてるやつはいる。よろしくな嬢ちゃん!」
「う、うん」

 話が終わるとブワーッと散った。たまたまいた農夫のおじさん呆然。ごめんなさい。

「お前の能力面白いな」
「うん。まさかこんなことが出来るとは思わなかった」
「当たり前だろ?ハイネ様の力とほぼ同じになってるんだから」

 トリムは得意げだ。精霊王に出来ないことはない。動物も植物も言うことを聞く。植物はさすがに話さないけど、王の魔力には応えるんだよって。

「あのな、ヌーマリムは魔獣のエサなんだ。全部を飼ってはダメだと思う」
「ああ、それは調整する。人里の奴らだけな」
「うん」

 翌日からトリムは僕の傍にいなかった。ロベールとお仕事になったから。ミュイは僕の頭ですやすや。また秋の長雨の季節。夏前とは違い降ったり止んだりの日が続くんだけどね。

「リシャール明日は晴れそうな匂いだ」
「そう?ならお庭でお茶にしよう」

 そんな感じで冬はすぐにやって来た。トリムはロベールと忙しく働いていた。まあ僕も冬は森にはほとんど行かないからね。精霊たちも眠るし、雪の中行きたくはない。でも晴れた日はたまに。

「トリム疲れてない?」
「平気だ。ロベールいいやつだな。俺にお菓子いっぱいくれる」
「ゔっ……食べすぎないでね」
「うん。メイドの人が仕事するならってたくさん服くれたんだ。ほら、貴族みたいだろ?」

 今は遊びで作った感じではなく、丁寧な作り。普段は着ないんだけど、視察に着いて行くときとかね。らしくしたいってトリムがおねだりしたんだ。

「トリムありがとう」
「いいや、俺リシャールもロベールも好きだから構わない」
「俺もだよリシャール」
「うん。ミュイ」

 ミュイはこの一年で少し大きくなった。一回りだけどね。フェニックスとしては速いそうだ。たぶん僕ら人との時間が長いからだろうって。頭の賢さで成長が変わるらしい。魔獣は分からんなあ。
 そして春近くにはトリムも必要なくなり、僕の目の前でチョコクッキーをバリバリ。妖精サイズの食器もたくさん用意され、当然家具も。テーブルの上に並べる。

「ドールハウスごっこのようですね」
「うん。幼い頃にこれが出来てたらさぞ楽しかったろうと思うよ」
「人の子と遊ぶか。無理だな」
「分かってるよ」

 たまに素質のある子どもが同じような頭の精霊と仲良くなって念話で話すなんて聞くが、まゆつばだな。珍しすぎて本当か怪しい。

「エルフならあり得るけど、人の子はな。俺の聞いた噂もエルフの話しなんだろう」
「へえ。エルフいいね」
「エルフも長生きだからな。それにあいつらも念話を使うから」

 全員じゃないけど、ある程度の年齢になれば出来るそうだ。二百年超えたあたりだそう。人はただただ才能ありき。

「魔道具で出来るだろ?」
「出来るけど、人族は疲れるんだよ」
「へえ」
「それに遠すぎると声は聞こえなくなるし」
「俺たちはどこででもだな。距離なんか関係ない」

 トリムはなんでも出来るから精霊は争わないんだって。なんでも持ってて死なない。今日をどれだけ楽しく過ごすかに重きを置く。だから純粋無垢なんだそう。

「そう考えると短命な人族は欲深になるね」
「ああ、短い時間に詰め込もうとするからだろ?」
「そうだね」

 でもだからこそ楽しいと思う。終わりがあるからこそ世界は輝く。このテーブルの小さな花ですら美しいと感動出来るんだ。

「うん。人の生き方は眩しいと俺も思う。ないものを努力?で作り出すとかね。俺たちは初めから持ってるから欲は薄いな」
「精霊王も?」
「うん。森の維持しか考えてないだろうね」

 キスした時なにも感じなかったろ?それが本来の精霊。エッチしたいとか友達以上の者を持ちたいと考えるのは下級、若い精霊だよって。

「俺はだから妻を手放した。いなくていいと思えたんだ」
「ああ、ランクが上がったってことか」
「うん。長生きすると欲は減っていくんだよ」

 時々こうして人と精霊の違いなんかを話す。僕は力を手に入れたことで動物とも話せるようになったが、白い鹿には無視されてる。

「あはは、あれは無理だろ。精霊王くらいだよ話しするのは」
「なら同等の力のある僕にも返事してくれても」
「見た目がダメ。人の臭いがするのもダメ」
「アウッもうしょうがないか」

 ミレーユと四人で楽しい時間。精霊と遊ぶなんて経験は人にはない(精霊使いは別)から楽しいと、トリムとミュイは城の人気者になっている。そして、ふたりとも常にお菓子や食べ物を持っている……

「そろそろエサを与えるなと命令するかな」
「やめろリシャール!この城の楽しみだろ」
「いやいや、三食の食事と二回のおやつ。まだいるの?」

 僕の前に来てビシッと僕の顔に指を向ける。

「ふふーん。いるの!太っても魔力変換するから元に戻るから平気だ」
「なんて便利な……」
「俺も右に同じ。食べ物はくれ」

 人は不便だねえとミュイ。お前らは肉体改造が魔力で出来るのか。ならマッチョも自在なのか?

「当たり前だろ。ほら」

 ポワっと光ると繊細な美しさから兄上みたいになった。へえ……生き物とは不公平だ。

「うわー……トリム美人ですね。とても美しい」
「ミレーユ?」
「きれいな顔にマッチョ……ステキ」
「だろ?」

 ミレーユの夫はそこまでのマッチョでなかったはずだけどな?

「んふふっ最近彼鍛えて大きくなったのです。とても魅力的で……たまに家に帰るともうね。たまらないのです」
「へえ……」

 ミレーユの異動で彼の夫は東にに小さな支店を作った。だからミレーユは月の半分は寮ではなく夫の待つ家に帰るんだ。クオールは街に家族との屋敷があるからそこに帰る。他は元々こちらの人だから以下同文。

 なんだかんだ楽しい毎日を過ごしていた。





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