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三章 東の城
12 ロベールの剣の新調
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今日は朝早くから、前回約束したロベール御用達の武器屋へ馬車で向かう。これは都にはなくて、あのヘルナーの地に近いシルク様の領地にある。
「大豆が育ってるね」
「ああ、あれな。今くらいの大きさを取って茹でて食べると美味しい」
「なにそれ」
他国に行った時に酒のつまみに出てな。塩味だけなんだけど美味いんだと言う。へえ、そんな食べ方があるんだ。
「朝取ってすぐに茹でないと不味くなるらしいよ」
「へえ……帰りに農家によってみる?」
「俺は農家に知り合いはいないよ」
「いやいや、うちの領地でだよ。僕の仲良し農家なら、僕らが食べる分くらいなら分けてくれるはず!」
「そうかよ」
まあ、頼んでみろって。お金はあるかとクオールに聞けば、豆ぐらいのお金は充分ですって。よし!そして武器屋。僕はソファに座りうつらうつら。興味ないとこうなるのは僕の悪い癖。鞘の装飾とかは楽しいからいいけど、ロベールは本体の方が大事だからね。
「ロベール様、注文書のまま作りました。確認を」
「ああ」
全体の確認後鞘から抜いて……ここからが長い。重さや刃の感じや付与の……あれ?その刃は付与ないね。
「ロベール付与は?」
「ああ、どうしようか悩んでてな。俺は火属性だから、それを増幅するのは当然だが、物理防御、魔法防御と、苦手だが風とかいいかなって」
「ふーん。なら僕出来るよ」
「え?あ、お前付与技師か!」
「うん。僕は一番上の一級付与技師だったんだ。上手いよ」
リシャール様が付与技師なのは知ってたけど、そんな上でしたかと職人さん。ならば俺より上手いはずだから、もしよろしければ見本を見せてって。いいよ。
これ売り物の剣ですが、まだなにも付けていない。核はここに埋め込んでいますから、どうぞって剣を渡された。
「なにつけるの?」
「そうですなあ、火属性がいいです。でも強いのは無理ですから、中くらいでお願いします。火属性と、物理防御軽減、魔法防御軽減も」
「はーい」
僕は火属性と他の防御の圧縮魔法を核のところを握り唱える。ボワッと掴んでる手が薄い紫に光り、それを確認し本文を唱える。この核もう少し余力がありそうだな。物理防御上昇に変更。よし、耐えられるな。そして光が消えて終わり。
「出来ましたよ」
「早い!さすが魔法省の技師。でもなぜそんなに早いので?」
「ああ、圧縮魔法だからだよ。一個一個してたら時間ばかり食うでしょ?呪文は長いし定着したのを確認後次とかしてたら、数がこなせないでしょう?」
え?と店主たちが止まった。圧縮魔法?それ上位の魔法使いしか出来ないやつじゃ?と声を震わせる。
「ついでに核に余力があったから、物理防御上昇に変更しておいた」
「ええ?」
あの核余力あるの?そんなの俺わかんないって、職人さんは真っ青。え?握れば分かるよね?
「分かりませんよ!説明書のランクを信じるしか……ええー城の技師すげぇ」
なんか場がおかしくなり、ロベール無言。お前何者って目が言ってるし。あなたの妻だよ!
「あー……付与はいいや」
「ああはい」
それからお前後ろで待っててと下がり、剣の重さとか他諸々の調整に入る。くわーっ眠い。後は僕には分からないからクッションを枕に惰眠を貪る。いい感じで寝てたらクオールに終わりましたよって。ああそう、起きるか。座り直すと店主は僕の手を握り、
「リシャール様が寝てる間に先ほどの剣売れました」
「はい?」
「Cランクになったばかりの冒険者でね。とてもいいと褒めてました。これ報酬です」
「いや、入りませんよ」
小さな革袋をくれる。いやいや、大したことしてないよ。
「まあまあ、先週本の大量買いしたんでしょう?この帰りにも寄るそうじゃありませんか。お使い下さい」
「そう?ならありがとう」
中を開けると銅貨と銀貨がたくさんだ。これかなりあるよ?
「ええ。いい値で売れたのです。想定していたよりもね」
「ふーん。ならありがたく」
うちの鍛冶屋はこのあたりじゃ一目置かれる店。それよりもすごいとは恐れ入る。付与はやはり特別ですなぁって。
「確かにね。僕と同じランクは数人しかいなかったんだ。城でも珍しいんだよ」
「ほう。お辞めになったのはさぞかし損失でしょう」
「うーん、でもアンリ様何も言ってなかったなぁ」
言う訳ねえよ、俺との結婚だ。文句のつけようがないからなって。それもそうか。
「まあ、僕は召喚術士ー崩れだからね。喜ばしいことではないんだよ」
「え?それはどういう……」
さらっと自分恥を話すとそれはまあ、聞いてた通りですねと店主。人は卑屈になってる時ほど自分の力を発揮出来ない。それは貴族も職人も同じ。当たり前のことだから恥じてもなんでもない。今はロベール様のおかげで本来のあなたのでしょう?ならば問題ない。また来てねって。
「ロベール様を見限ったらうちにどうぞ。高給で雇いますよ。お城並みに払いますから」
「本当?」
「ええ!もちろん」
よし!無職の汚名はないな。ふふっと喜んだらそんな日は来ないと、後頭部をペシって叩かれた。
「お前を俺が飽きたり手放したりすると思うのか?」
「いえ……」
店主にもそんな日は来ないから期待するなって。
「ええ……では、お暇の時に指導には?せめて圧縮の指導を……なあ?」
「ええ、俺含めてもう一人います。早くやれるなら仕事が捗るのですが」
「だって、ロベール」
圧縮って才能だろ?誰でも出来るのかって。まあ、二~三個なら練習でなんとかなるけど、核の感じとかはまあ、人によるのかもね。僕は十前後出来るけど、これは魔力の多さにも比例するからなあ。どうなんだろ。
「それはまあ、俺たちは上位の貴族様並みに魔力はありませんからね。子爵様くらい、貴族の中間くらいですか」
「ふーんならそこそこは出来るかな」
魔法省にそのクラスは……付与技師にはいなかったけど、他にはいたな。身分じゃないんだよね。魔力至上主義だからあそこ。平民もいたし、騎士の家系の人もいた。アンリ様はバケモンだけど、それなりに家の「バケモン」が来てたからなあ。まあ、やってみるか。
「いつ来ればいい?」
「いつでも!今からでも!」
「それはちょっと……フラって来てもいい?」
「いいてすよ!時間なら作りますから!」
「なら今度ね」
「はい!」
次回手直ししたのを確認して、鞘と柄の装飾をそちらの職人工房に回すから、二週間後に来てくれって。その時でもいいって。なら来るか。
「本屋の時間は少ないから急げよ」
「うん」
すぐに本屋に向かうつもりだったけど、農家に直行。大豆を分けてもらったら時間切れになって本屋は無理になった。そして夜のサロンで、
「うまっ!なにこれ美味い!」
「リシャール美味しいぞ!これいくらでも食べられる!」
「ミュイこれ好き。美味しい」
ロベールの幸せそうな視線の中、僕らは無心に食べていた。これマジで美味しい。
「美味いだろ?」
「うん。あり得ない美味さだよ」
枝豆って言うそうだ。北寄りの地域の特産品で、そのあたりの貴族も平民もよく食べるそうで、大豆用とは分けて育ててるそうだ。ほほう……ゲフッ
「リシャールこれダメだよ。止まらない」
「そうだね」
ミレーユたちも本当に美味しいと驚いている。こんな食べ方があるのですねって手は止まらない。お皿に山盛りだったけど、あっという間に半分になった。うん、腹だけ出そうだな。
「あちらの地域はこれと……なんだっけ?麦の酒があってな。それのお供だな」
「へえ。それ美味しいの?」
「苦みと甘さと炭酸だな。慣れないと苦みを強く感じるけど、慣れれば美味い。冷やしても常温でも美味しいよ」
「ふーん」
誰も手を止めない。空のさやは増えていく。これダメだよ。食べ過ぎる。
「あ、我らまで……ごめんなさい」
「いいよ。まだお豆の時期だからまた行って来るよ」
「お願いします。出来れば納品を願って下さいませ」
「ああ、はい」
ロベールの一言は城の人の心を動かしたんだ。もう枝豆ブームと言ってよくて、ついでにって麦の酒ピールも輸入した。初めはこれってなに?とブツブツ言ってたけど、慣れればこれほど美味しいと思える物もなかった。冷やすと一日の疲れが取れる気がするって騎士たちに大人気で、すぐに定着。枝豆は時期が過ぎたがビールは残り、民もみんな楽しんでいる。お肉によく合うんだ。
「うーっ美味しい!」
「俺はワインも好きだよ」
「それはそうだよ。一杯目だけビールがいいの」
「ふーん」
ワインより悪酔いしないし、炭酸がよくてたくさん飲める。アルコールが低いらしいんだ。いつか国産!とは思うけど、今議題にのぼったから、いつかな。
「当分先だろ」
「だよね」
ちなみにずっと先のことだけど、うちの国の売りに「ビール」が加わる。特に暑い地方の国に大人気で、元々の国は小国で注文が多すぎてパニック状態。注文と生産の比率がおかしくて、工場を増産してもしても追いつかない。嬉しい悲鳴でその感謝の気持ちだと、翌年その王国からロベールに枝豆が大量に届いた。食べたらもう別物で、甘くて美味すぎだんだ。あちらは改良を重ね枝豆用の品種なんだって。
これを我が国でもと種を分けてもらおうとしたけど、門外不出。国内消費用で土地に依存してて、他所の国では同じ味はならないらしい。クレーム対策で外に出さないそうだ。
そして二週間後、武器屋に行ってロベールがなにかやってる間に職人さんに付与のコツを伝授。当然簡単には出来ない。
「圧縮はとりあえずひとつをまずね」
「はい!」
これは感覚によるところが大きく、自分でその感覚を掴まなくてはならない。手に魔力を集中させて核との対話をする。いや、核は喋らないんだけどさ。そう習うんだ。
「自分と核を介して魔力を循環させる練習ね」
「はい」
物と自分を繋ぐことは普段してるから分かるはず。ふたりは早くに習得した。
「自分の呪文をこう……練り上げる。例えば全部唱えると……そうね。字で書くと横一列で三メートルとしよう。それを三十センチにする感じだね」
「え?」
僕は手でギューッと潰すイメージで手を寄せる。文字は縦長になり短くなる。これを詠唱する。へ?って言われた。
「えっとね。このさ単語の頭の言葉を唱えると後も補足するんだよ。当然魔力でね」
「え?」
だから「あ、そ、う、き」とか、単語の頭を唱えるの!待って?それ覚え直しですよね?と。当然だよ。あ、そ、う、き、とかの羅列は覚えるんだ。抜けたら失敗で剣や甲冑にヒビか折れる。それだけ圧縮は石にも素材にも負担を掛けるんだ。さあ、分からなければ紙に書いて羅列を覚えよう。もしくは表を作れと教えた。ふたりは無理と紙に呪文を書き出した。だがいくつも重ねるとは?と聞くから、間に他の呪文をひとつずらしていくつも入れて一つの呪文にする。それに頭を高速で唱える。
「マジか……俺出来るかな?」
「慣れだよ」
定番の重ねなんかは表にしておいて繰り返し唱える練習だね。木の枝でもいいから掴んでやる。慣れたら魔力を安定して石と自分に流すんだ。
「嘘でしょ……こんなに難しいとは」
「そう?覚えてしまえばそれほどでもないよ。術のクセも感じるようになるから、新たな呪文も覚えやすい。まあ、初めだけだから」
「はい……」
これ自頭の問題もあるんじゃね?とふたり。いや、訓練です!
「僕これを二年ちょっと……いや術士は早々に外されたから……五年在籍中四年近くしてたかも。おおぅ技師の方が圧倒的に長かったな」
四年?そんなで一流になるの?なにそれって。俺はもう十年やってんのに、貴族すげぇって。税金むしり取るだけのことしてんだなって。してるよ!当然でしょ!
「すみません……」
この技術は隠すことではなく、冒険者も出来るはずなんだ。敵を打ち破るのに何重にも術を重ね威力を増す。基本は同じなんだよ。
「それBより上でしょ?」
「かもね」
これ身につけるまでに時間かかるぞってブツブツ。リシャール様は天才の部類なんだよ。その冒険者たちもなと話し合ってる。呪文は発音がムズい。その頭だけでも複雑で普通の呪文すらね。でもこれは重ねて圧縮する場合のみだ。普段は「いでよ火!」でどうにでもなるし、イメージさえ掴んでれば、無詠唱でどんな強いものでも出せる。これはもう慣れだよ。
「出来るやつはそう言うんだよ」
「なあ、これ頭の中で唱えるにしてもなあ」
もういいやと、伝えることは伝えた。頑張れと放置して僕は離れた。
「大豆が育ってるね」
「ああ、あれな。今くらいの大きさを取って茹でて食べると美味しい」
「なにそれ」
他国に行った時に酒のつまみに出てな。塩味だけなんだけど美味いんだと言う。へえ、そんな食べ方があるんだ。
「朝取ってすぐに茹でないと不味くなるらしいよ」
「へえ……帰りに農家によってみる?」
「俺は農家に知り合いはいないよ」
「いやいや、うちの領地でだよ。僕の仲良し農家なら、僕らが食べる分くらいなら分けてくれるはず!」
「そうかよ」
まあ、頼んでみろって。お金はあるかとクオールに聞けば、豆ぐらいのお金は充分ですって。よし!そして武器屋。僕はソファに座りうつらうつら。興味ないとこうなるのは僕の悪い癖。鞘の装飾とかは楽しいからいいけど、ロベールは本体の方が大事だからね。
「ロベール様、注文書のまま作りました。確認を」
「ああ」
全体の確認後鞘から抜いて……ここからが長い。重さや刃の感じや付与の……あれ?その刃は付与ないね。
「ロベール付与は?」
「ああ、どうしようか悩んでてな。俺は火属性だから、それを増幅するのは当然だが、物理防御、魔法防御と、苦手だが風とかいいかなって」
「ふーん。なら僕出来るよ」
「え?あ、お前付与技師か!」
「うん。僕は一番上の一級付与技師だったんだ。上手いよ」
リシャール様が付与技師なのは知ってたけど、そんな上でしたかと職人さん。ならば俺より上手いはずだから、もしよろしければ見本を見せてって。いいよ。
これ売り物の剣ですが、まだなにも付けていない。核はここに埋め込んでいますから、どうぞって剣を渡された。
「なにつけるの?」
「そうですなあ、火属性がいいです。でも強いのは無理ですから、中くらいでお願いします。火属性と、物理防御軽減、魔法防御軽減も」
「はーい」
僕は火属性と他の防御の圧縮魔法を核のところを握り唱える。ボワッと掴んでる手が薄い紫に光り、それを確認し本文を唱える。この核もう少し余力がありそうだな。物理防御上昇に変更。よし、耐えられるな。そして光が消えて終わり。
「出来ましたよ」
「早い!さすが魔法省の技師。でもなぜそんなに早いので?」
「ああ、圧縮魔法だからだよ。一個一個してたら時間ばかり食うでしょ?呪文は長いし定着したのを確認後次とかしてたら、数がこなせないでしょう?」
え?と店主たちが止まった。圧縮魔法?それ上位の魔法使いしか出来ないやつじゃ?と声を震わせる。
「ついでに核に余力があったから、物理防御上昇に変更しておいた」
「ええ?」
あの核余力あるの?そんなの俺わかんないって、職人さんは真っ青。え?握れば分かるよね?
「分かりませんよ!説明書のランクを信じるしか……ええー城の技師すげぇ」
なんか場がおかしくなり、ロベール無言。お前何者って目が言ってるし。あなたの妻だよ!
「あー……付与はいいや」
「ああはい」
それからお前後ろで待っててと下がり、剣の重さとか他諸々の調整に入る。くわーっ眠い。後は僕には分からないからクッションを枕に惰眠を貪る。いい感じで寝てたらクオールに終わりましたよって。ああそう、起きるか。座り直すと店主は僕の手を握り、
「リシャール様が寝てる間に先ほどの剣売れました」
「はい?」
「Cランクになったばかりの冒険者でね。とてもいいと褒めてました。これ報酬です」
「いや、入りませんよ」
小さな革袋をくれる。いやいや、大したことしてないよ。
「まあまあ、先週本の大量買いしたんでしょう?この帰りにも寄るそうじゃありませんか。お使い下さい」
「そう?ならありがとう」
中を開けると銅貨と銀貨がたくさんだ。これかなりあるよ?
「ええ。いい値で売れたのです。想定していたよりもね」
「ふーん。ならありがたく」
うちの鍛冶屋はこのあたりじゃ一目置かれる店。それよりもすごいとは恐れ入る。付与はやはり特別ですなぁって。
「確かにね。僕と同じランクは数人しかいなかったんだ。城でも珍しいんだよ」
「ほう。お辞めになったのはさぞかし損失でしょう」
「うーん、でもアンリ様何も言ってなかったなぁ」
言う訳ねえよ、俺との結婚だ。文句のつけようがないからなって。それもそうか。
「まあ、僕は召喚術士ー崩れだからね。喜ばしいことではないんだよ」
「え?それはどういう……」
さらっと自分恥を話すとそれはまあ、聞いてた通りですねと店主。人は卑屈になってる時ほど自分の力を発揮出来ない。それは貴族も職人も同じ。当たり前のことだから恥じてもなんでもない。今はロベール様のおかげで本来のあなたのでしょう?ならば問題ない。また来てねって。
「ロベール様を見限ったらうちにどうぞ。高給で雇いますよ。お城並みに払いますから」
「本当?」
「ええ!もちろん」
よし!無職の汚名はないな。ふふっと喜んだらそんな日は来ないと、後頭部をペシって叩かれた。
「お前を俺が飽きたり手放したりすると思うのか?」
「いえ……」
店主にもそんな日は来ないから期待するなって。
「ええ……では、お暇の時に指導には?せめて圧縮の指導を……なあ?」
「ええ、俺含めてもう一人います。早くやれるなら仕事が捗るのですが」
「だって、ロベール」
圧縮って才能だろ?誰でも出来るのかって。まあ、二~三個なら練習でなんとかなるけど、核の感じとかはまあ、人によるのかもね。僕は十前後出来るけど、これは魔力の多さにも比例するからなあ。どうなんだろ。
「それはまあ、俺たちは上位の貴族様並みに魔力はありませんからね。子爵様くらい、貴族の中間くらいですか」
「ふーんならそこそこは出来るかな」
魔法省にそのクラスは……付与技師にはいなかったけど、他にはいたな。身分じゃないんだよね。魔力至上主義だからあそこ。平民もいたし、騎士の家系の人もいた。アンリ様はバケモンだけど、それなりに家の「バケモン」が来てたからなあ。まあ、やってみるか。
「いつ来ればいい?」
「いつでも!今からでも!」
「それはちょっと……フラって来てもいい?」
「いいてすよ!時間なら作りますから!」
「なら今度ね」
「はい!」
次回手直ししたのを確認して、鞘と柄の装飾をそちらの職人工房に回すから、二週間後に来てくれって。その時でもいいって。なら来るか。
「本屋の時間は少ないから急げよ」
「うん」
すぐに本屋に向かうつもりだったけど、農家に直行。大豆を分けてもらったら時間切れになって本屋は無理になった。そして夜のサロンで、
「うまっ!なにこれ美味い!」
「リシャール美味しいぞ!これいくらでも食べられる!」
「ミュイこれ好き。美味しい」
ロベールの幸せそうな視線の中、僕らは無心に食べていた。これマジで美味しい。
「美味いだろ?」
「うん。あり得ない美味さだよ」
枝豆って言うそうだ。北寄りの地域の特産品で、そのあたりの貴族も平民もよく食べるそうで、大豆用とは分けて育ててるそうだ。ほほう……ゲフッ
「リシャールこれダメだよ。止まらない」
「そうだね」
ミレーユたちも本当に美味しいと驚いている。こんな食べ方があるのですねって手は止まらない。お皿に山盛りだったけど、あっという間に半分になった。うん、腹だけ出そうだな。
「あちらの地域はこれと……なんだっけ?麦の酒があってな。それのお供だな」
「へえ。それ美味しいの?」
「苦みと甘さと炭酸だな。慣れないと苦みを強く感じるけど、慣れれば美味い。冷やしても常温でも美味しいよ」
「ふーん」
誰も手を止めない。空のさやは増えていく。これダメだよ。食べ過ぎる。
「あ、我らまで……ごめんなさい」
「いいよ。まだお豆の時期だからまた行って来るよ」
「お願いします。出来れば納品を願って下さいませ」
「ああ、はい」
ロベールの一言は城の人の心を動かしたんだ。もう枝豆ブームと言ってよくて、ついでにって麦の酒ピールも輸入した。初めはこれってなに?とブツブツ言ってたけど、慣れればこれほど美味しいと思える物もなかった。冷やすと一日の疲れが取れる気がするって騎士たちに大人気で、すぐに定着。枝豆は時期が過ぎたがビールは残り、民もみんな楽しんでいる。お肉によく合うんだ。
「うーっ美味しい!」
「俺はワインも好きだよ」
「それはそうだよ。一杯目だけビールがいいの」
「ふーん」
ワインより悪酔いしないし、炭酸がよくてたくさん飲める。アルコールが低いらしいんだ。いつか国産!とは思うけど、今議題にのぼったから、いつかな。
「当分先だろ」
「だよね」
ちなみにずっと先のことだけど、うちの国の売りに「ビール」が加わる。特に暑い地方の国に大人気で、元々の国は小国で注文が多すぎてパニック状態。注文と生産の比率がおかしくて、工場を増産してもしても追いつかない。嬉しい悲鳴でその感謝の気持ちだと、翌年その王国からロベールに枝豆が大量に届いた。食べたらもう別物で、甘くて美味すぎだんだ。あちらは改良を重ね枝豆用の品種なんだって。
これを我が国でもと種を分けてもらおうとしたけど、門外不出。国内消費用で土地に依存してて、他所の国では同じ味はならないらしい。クレーム対策で外に出さないそうだ。
そして二週間後、武器屋に行ってロベールがなにかやってる間に職人さんに付与のコツを伝授。当然簡単には出来ない。
「圧縮はとりあえずひとつをまずね」
「はい!」
これは感覚によるところが大きく、自分でその感覚を掴まなくてはならない。手に魔力を集中させて核との対話をする。いや、核は喋らないんだけどさ。そう習うんだ。
「自分と核を介して魔力を循環させる練習ね」
「はい」
物と自分を繋ぐことは普段してるから分かるはず。ふたりは早くに習得した。
「自分の呪文をこう……練り上げる。例えば全部唱えると……そうね。字で書くと横一列で三メートルとしよう。それを三十センチにする感じだね」
「え?」
僕は手でギューッと潰すイメージで手を寄せる。文字は縦長になり短くなる。これを詠唱する。へ?って言われた。
「えっとね。このさ単語の頭の言葉を唱えると後も補足するんだよ。当然魔力でね」
「え?」
だから「あ、そ、う、き」とか、単語の頭を唱えるの!待って?それ覚え直しですよね?と。当然だよ。あ、そ、う、き、とかの羅列は覚えるんだ。抜けたら失敗で剣や甲冑にヒビか折れる。それだけ圧縮は石にも素材にも負担を掛けるんだ。さあ、分からなければ紙に書いて羅列を覚えよう。もしくは表を作れと教えた。ふたりは無理と紙に呪文を書き出した。だがいくつも重ねるとは?と聞くから、間に他の呪文をひとつずらしていくつも入れて一つの呪文にする。それに頭を高速で唱える。
「マジか……俺出来るかな?」
「慣れだよ」
定番の重ねなんかは表にしておいて繰り返し唱える練習だね。木の枝でもいいから掴んでやる。慣れたら魔力を安定して石と自分に流すんだ。
「嘘でしょ……こんなに難しいとは」
「そう?覚えてしまえばそれほどでもないよ。術のクセも感じるようになるから、新たな呪文も覚えやすい。まあ、初めだけだから」
「はい……」
これ自頭の問題もあるんじゃね?とふたり。いや、訓練です!
「僕これを二年ちょっと……いや術士は早々に外されたから……五年在籍中四年近くしてたかも。おおぅ技師の方が圧倒的に長かったな」
四年?そんなで一流になるの?なにそれって。俺はもう十年やってんのに、貴族すげぇって。税金むしり取るだけのことしてんだなって。してるよ!当然でしょ!
「すみません……」
この技術は隠すことではなく、冒険者も出来るはずなんだ。敵を打ち破るのに何重にも術を重ね威力を増す。基本は同じなんだよ。
「それBより上でしょ?」
「かもね」
これ身につけるまでに時間かかるぞってブツブツ。リシャール様は天才の部類なんだよ。その冒険者たちもなと話し合ってる。呪文は発音がムズい。その頭だけでも複雑で普通の呪文すらね。でもこれは重ねて圧縮する場合のみだ。普段は「いでよ火!」でどうにでもなるし、イメージさえ掴んでれば、無詠唱でどんな強いものでも出せる。これはもう慣れだよ。
「出来るやつはそう言うんだよ」
「なあ、これ頭の中で唱えるにしてもなあ」
もういいやと、伝えることは伝えた。頑張れと放置して僕は離れた。
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