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三章 東の城 

9 ロベール壊れる

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 正門を通り抜け王族の私棟に向かっているようだ。が、手前で曲がり王の執務室に到着。

「リシャール様、到着いたしました」
「入れ」

 中から声がして入ると兄上とロベールの兄弟、そして王。文官や側近は外に出されているようで、他の人はいなかった。

「久しぶりだね。リシャール様」
「はい。ルーカス様。ご無沙汰しております」

 優しくルーカス様は話しかけてくれる。オリバーが寂しがってるから、たまには催し以外も遊びに来てよって。はい、僕もそうしますと話しながら、大きな会議用のテーブルに付けと言われた。

「リシャール息災か?」
「はい。アーダルベルト様、元気に過ごしております」
「孫は元気か?」
「はい。上はもう学園に行きましたし、下も乳母が精を出して躾けております」

 矢継ぎ早に質問され、そうかとアーダルベルト様が微笑む。和やかに話しているのに隣の父上は、目から血が出そうって感じで、歯をギリギリ言わせている。むーん。

「さて、今日呼んだのは昨日か、精霊王に会ったのは」
「はい」
「ふむ。その時の話しをしてくれまいか」
「はい」

 僕は精霊王が現れた時から、僕がブチギレて帰るまでを詳細に話した。聞きたかったのは僕らの出自だろうけどね。

「うーん……そうだったのか。火竜は生きている可能性があるのか」
「はい。どこに行ったかまでは聞いておりませんが、そのうち聞けるかもしれません」

 父上はうちは……はあって項垂れた。そうか、うちは死んでいないのかと、がっかりを隠さなかった。

「精霊王は兄と言ったな。ならば彼も同じ緑の龍なんだろうか」
「たぶん。人の姿をしてましたが、髪も目も緑でした」
「そうか……お前いじられてるって?」

 感情を込めずに事実だけを伝えた。変に挟むとわけわかんなくなりそうだからね。

「ええ。すごく体が軽くなりました。魔素の取り込みも楽になりましたし、疲れにくくなってます」

 父上は、なあ、俺たちは無理か?と上目遣いで聞かれたけど、竜に目覚めてない者には効果が薄いらしいので、無理と言ってましたと伝えた。

「そう……上手くいけばと考えたのだが……仕方ない。お前がたくさん産め」
「嫌ですよ。我らは人になるのでしょう?」

 速攻拒否したけど、そうだがとゴニョゴニョ。精霊の力は術士の才を強化してるようで、その力は欲しいかな?あははと焦ったように笑う。

「なくても父上は才能はありますよ」
「まあ」

 モーリッツちょっと黙れと王に静止され、黙る。仕方ないって感じてね。

「リシャール、精霊王自体はどんなだった?」
「うーん……物腰は柔らかですが、言葉はぶっきらぼうかな。そして相手が傷つくことも平気で口にします」

 アーダルベルト様は察したのか少し言い淀んだ。でも、不服そうには見えない。

「うーん……我らを穢れと言ったそうだな」
「はい」

 まあ、そうなんだけどなって。ロベールと同じ反応をここにいる人たちは示した。あちらから見れば、我らは穢らわしい生き物なのだろう。どっちつかずで人でも竜でもない。不完全な生き物に映るのだろうって。なんで納得してんのと僕は心の中で憤慨。

「モーリッツがブチギレてお前たちを連れてきてしまった。時が経ってなくて内容は少ないが、我らの出自とまだ火竜はたくさんいるのが分かってよかったよ」
「はい」

 いつか捜索隊を出して、火竜に我らも力の調整をしてもらいたいもんだなと王は笑った。出来るならばなあって。そこへ王太子アルフレッド様は異を唱えた。

「父上、我らは千年近くこの力に頼っています。あの頃より体は小さく、白い炎を吐ける力のある竜は王のみにしか現れない。それがどういうことかと思いませんか?」

 王様は王子の冷たい声にちょっと引いてまあなあって。

「分かっているのだ。この力のおかげで国は安定しているが、人としては駄目なのはな」

 そうですよ。人としてのポテンシャルのみで国を動かしてこそ王族です。他国はそれを実現している。我らもいつかそうならねばならぬのですよ。ですから捜索隊など派遣してはならぬのです。いつか力のなくなった我が国は防御の力が弱くなる。王族が強いというものがたとえなくなっても、今を維持出来る対策を取るのが当然で、軍事力を高めるの方法を探るのが肝要と力説。

「竜頼みの政治政策だけでは駄目なのですよ」
「ああ。絶対のこの力は他国の牽制になる。アルフレッド、我が国は武器商人なんだよ。周りから恨まれてもいる。それを抑える手立てなど簡単ではないのだ」

 王子は、私は以前から考えていました。武器ではなく、生活に密着した魔道具の製品に変えていかなくてはならない。そして、他国と国交を結び、軍事での抑制ではない方法で治世を安定させるべきなのです。ここの地域の安定を、軍事ではない方法でやらねばならない。すぐにどうこうではないですが、その方向でやるべきと私は考えていますと、真剣に王に訴える。

「この力が今日明日なくなるはずはないので、その時が来るまでに体制を整え、準備を始めるのです」
「ふう。そうだな。やはり人は人にならねばか」
「はい」

 もしくは捜索隊を出して完全に竜になるかだなと、寂しそうに笑う。この問題は本国も関わる。我らの一存では動けない問題だ。だが、この力のある王族が治めている国はみんな同じ状況だ。この話を通達すれば捜索隊を出すところもあるだろうと、王は難しそうなお顔。

「まあ、これは足並みを揃えないとではありますが、他とうちは違う。我らは武器商人の色が強すぎるのです」
「うん。だからこそ、力のなくなる恐怖も大きいんだ」

 ルーカス様も父上も兄上も難しい顔になった。この火竜の力で周りを牽制しているんだ。恨みを買っても返り討ちに出来る圧倒的な力。するだけ無駄と思わせる王族は「武器」なんだよ。

「まあ、この話は追々だな。それよりリシャールは力が増えてなにが出来るようになったのだろう?」
「分かりません。魔素の吸収がいいくらいしか」

 その話をしていると、肩に乗るトリムが、リシャールは精霊王くらいのものは全部出来るはずだと言う。

「森を操ることも出来るし、多少ならば天気すら変えることが出来るはずだよ」
「へ?」

 森を操るとは?と父上が食いついた。

「それはねえ。全精霊を敵に向かわせるとか、森の木や草を自在に操って、敵を追い詰めるとかかな?人が必要なのは。俺たちに死の恐怖があまりないから、使役に拒否感がないんだ」
「え……」

 みんな絶句。トリムは他はねえって話す。

「森の動物、魔獣の一部は精霊王の配下だから、兵士っての?それになれるし、俺たち話せる精霊が手を貸せば、人と同等の動きをさせることも可能。術士の力なんてなくても、少しの動物も使役出来るんだ」

 なんだそれ……と、父上は一言絞り出すのが精一杯だった。

「一騎当千の火竜とは根本が違うんだよ。この世界の自然を味方につけることが出来るんだ。誰よりも強いよ」

 僕も驚いてしまった。そんな強い力がハイネにはあったんだ。

「あはは……トリムそれ本当?」
「うん。ハイネ様の力なら出来るよ。どちらかと言うと今の王よりハイネ様の方が力があって、いなくなるまでは王はハイネ様だった。でも人が好きでね」

 俺全部知ってたんだ。ごめんねリシャールって。王が話さないことは口に出来ず、俺もそんな顔のリシャールを見たくなかったから言わなかったそうだ。

「精霊王はこの地を人の理とは違うもので守ろうとする。エルフたちみたいに、この森を捨てるななんて出来ないんだよ。王はこの土地の命そのものだから」
「リシャール……お前はこれから産めるだけ産め。王族の使役獣になれ。そうすれば変革などなくともこの国は安泰だ」

 はあ?父上なに口走ってるんだ!さすがの僕も怒るよ!

「モーリッツ口が過ぎる。そんなことは求めていない」
「ハッ失礼を」

 アーダルベルト様はモーリッツは極端すぎる。国を維持したいのも、威嚇の意味のある力も欲しいのは本当。だが、ブランデンブルク家を使役するなぞ以ての外だ。誰かを犠牲にして国を維持するなど、私には出来ないし、したくないといい切る。王族が維持するからこその国。

「困った時手を貸してくれるだけでいい」

 王がそう言うと、トリムはそうだなあと。

「うーんとね。リシャールが手を貸すってことは、この国以外を敵と見なす時だよ。精霊王が本気で力を解放したら、敵を殲滅するまで止まらない。それだけの力が精霊王にはあるんだ。この地に自分たちだけでいいと思えたらお願いすべきだね。最大の力を発揮した精霊王の力は止められなくなるんだ」

 なんだそれ。本当に厄災並みじゃないかって。兄上もみんなも。

「そうだよ。精霊王は自然そのものだからね。とてつもなく強い。正直火竜とは違うんだ。天変地異に近いかな?」
「そ、そう……」

 だから本当に困ったら、その鱗片を見せて追い返すのがいいかな?とトリムは思うそうだ。俺は生まれたばっかの頃その鱗片は見ている。だからこの地は生き残ったんだよって。少しの力を借りるのがいいそうだ。

「精霊王はエルフたちにかなり怒ったんだよ。無謀な戦を仕掛けたからね」
「あの大戦のことか?」
「そうだよ」

 エルフの王は精霊王が全面的に人を追い返してくれると信じていたらしい。だけど精霊王は手を貸さなかった。自分で始めたのだから自分で始末しなさいって。精霊城近くに兵士が来た時だけ追い払ってたんだ。トリムの話しは記録にはない。戦記の記録には精霊王の話しはなにもないんだ。

「そんで、今この城があるあたりは焼け野原でね。この大樹以外はなにもない感じで、エルフたちは諦めて逃げたんだ。味方につけてた青竜も死んじゃったからね」
「そうか。ありがとう話してくれて」

 おう!俺はこの見た目だけど、お前らの先祖がこっちに来る少し前に生まれたんだ。長生きなんだぞと胸を張る。横でミュイが、人なら成人したばっかくらいだろ、トリムはさあって。

「そこは内緒だよ!」
「ふーん。俺もまだ百年だしなあ」
「ならお前に言われたくないね」

 ふたりは揉めだして部屋中を飛び回る。うん無視しよう。

「リシャール……どうするの?」
「え?どうもしませんよ。僕はロベールのかわいい奥さんでいます」

 発言しなかったロベールを見つめれば、なにが?って僕を微笑んで見つめる。

「俺はお前がなに者でも構わん。リシャール大好きだから」
「んふふっだからロベール好き」
「うん」

 ああそうってみんな冷たい声。でもこれは一代限りの……やっぱりお前もう一人は産め。ロベール様の子ではなく誰かの子を!と父上がいきなり叫んだ。

「はあ?」
「王族との子は王族の血が勝つ。だからだ」
「嫌です!リシャールは俺だけのもの。他に触らせるなどありません!」

 いやいや発情期に何度かな?って父上。側室とは違う。本当に産むだけの……その子種だけをそのな?って。

「父上、それは子種の方に失礼です」
「うん。そうなんだが、王族が弱った時に役に立つだろ?武器になる」

 隣のロベールが拳を握り、ブルブル震えだした。怒りで震えてるのは見れば分かる。

「モーリッツ、俺に殺されたいか?」
「い、いえ……出すぎたことを」

 父上はあまりの怒りに引いた。赤いオーラが肩から少し見える。すると行くぞリシャール。もう話すだけ話したから終わりだ!部屋に帰ると腕を引かれた。

「トリム!ミュイ!主が行くぞ!」
「はーい」

 ブチギレたロベールがスタスタと入口に向かう。その後ろをトリムたちが飛んで来て、僕の肩にストンと止まる。

「父上、モーリッツ。俺は兄上に賛成です。リシャールはやらない!」
「いやあの…ロベール様。くれとは違って、その」
「うるさいモーリッツ!」

 そのまま激しく扉を閉めて、ここにいた時の部屋に向かった。ミレーユは来なかったから、部屋にはこちらのメイドさんがいた。

「あら、お早かったですね」
「ああ、悪いが酒をくれ」
「え?ええ、お待ちを」

 乱暴にソファに座るロベールに、メイドさんは慌てて用意するために部屋を出た。

「ロベール」
「嫌なんだ。お前に側室とかありえん」
「僕も嫌だよ。でも、精霊王に言われたんだ。次の子は確実に竜になれる。、その後も当分の世代は血が薄まらずになれるって」
「そんなのはお前に聞いたから分かってる」

 それでも嫌なんだと、膝に肘を付いて頭を抱えた。みんな俺のリシャールへの愛情を簡単に考えすぎる。だが俺も王族の一員でわがままだってのも分かっているんだ。火竜と緑の竜が揃っていたら誰も攻めては来ない。圧倒的な力になるのは分かっている。でも……お前が誰かの子を産むなど耐えられない。それに、その子を愛せる自信もないし、自分の子とは到底思えないと冷たい声で。

「お前の子でも無理だ」
「うん」

 僕はロベールにふわっと腕を回した。こんなに思ってくれるなんてなんて、僕は幸せものだ。こんな時なのにとても嬉しい。

「ありがとうロベール」
「時が来たら分からんなどと言ったが、やはり無理だ」
「うん」

 俺は独占欲が強かったんだなと失笑した。俺がする分にはお前が耐えれはいいなどと、ズルいことを考えていたんだ。妻がなど思ってもみなかった。ユアン様を断ったから安心してたんだ。バカだ俺はと、体を震わせる。

「俺だけのリシャールなんだ」
「うん。愛してる」

 おまたせしましたと、メイドさんがお酒の準備をしてくれた。それを奪うようにして自分でグラスに注ぎ一気飲み。

「はあ……どう考えても嫌だ」
「うん」

 僕はロベールは怒りが収まらず、夕食には出られないだろうとこちらに運んでとメイドさんにお願いした。かしこまりましたとまた出ていく。

「ズボン脱いで」
「はあ?」
「俺のリシャールだから今抱いても問題ないよな?」
「はい?」

 いいから脱げと言われてイヤ待てと抵抗したけど、力で叶うはずもなくズブリ。香油もなく突っ込まれたからちょっと痛い。

「ここは俺だけしか入れないんだよ。お前と繋がれるのは俺だけなんだ」
「うっ……っ」

 伝えてきましたってメイドさんが戻ると、ヒッの声とともに消えた。ほら見ろ。

「誰が見ようといいんだよ。リシャール」
「あーはい」

 そのまま太もも掴まれて持ち上げ、ベッドに連れ込まれた。。それも激しく俺のだ!って叫びながら。痛いだろ?って香油を股にぶっかけて動けなくなるまで抱かれていた。

「ごめん……」
「ハァハァ……いい」

 怖くて不安なんだ。王族としては断っては駄目な案件なんだとゼイゼイしながら。それは僕も分かってる。子は多分父上が拐って行くだろう。伯爵家の子として育て、いつか王族の専属の護衛として差し出す手筈になる。その子にはたくさんの子どもを産ませるか、作らせて身内を増やすようになる。

「イヤと言えたらどんなにいいのだろうね」
「ああ……」

 明日帰ろうってぼんやり言う。僕はうんと答えた。そして本当に夜明けと共に帰宅。ロベールは父上に、

「当分お前の顔は見たくない。東の城は出禁な」
「御意……ですが、今の状況をご理解頂きたく存じます」
「フン、言ってろ。俺は絶対承諾せん!」

 そう言って馬車に乗り込んだ。そして僕は遊びにも出ず城に籠もった。ロベールが確実におかしくなってるから。部屋に僕がいないと半狂乱になってどこにいると探し回るから。やばくてどこにも行けない。

「不安だから執務室にいてくれ」
「え?それは……」

 クオールもそれはちょっとと止めた。あの環境で普通に過ごせは酷ですよと。それもそうかと僕を膝に乗せてずっと抱いている。夜は当然抱き潰し、朝は朦朧と仕事に出て行く。

「ロベール様、そろそろ倒れますね」
「うん。僕もそう思う」

 あの話し合いからひと月。寝不足極まって目の下真っ黒で、ワイバーンから落ちそうになってるそうだ。ヤバくて馬車に変更したら仕事が遅々として進まない。夜は遅くなり、さらに追い詰められて今に至る。クオールは、

「ロベール様あんなだけど一途だからなあ」
「うん。最近はそんな価値が僕にあるのかと不安になって来ているんだ。能力ではなく僕個人としてね」
「ああ、なんか分かります。愛されすぎると怖くなりますもんね」

 ミレーユもウンウンと頷く。私なら一緒におかしくなってそうってため息。

「僕がこの時代にいるからいいけど、その先を考えるとね」
「ええ。特別な力は人を狂わせますね」

 なんともいえない空気が城を包んでいた。文官たちも主のおかしさに参ってるし、僕の話などロベールは聞ける精神状態でもない。

「王様にお手紙書くよ」
「はい。ご用意いたします」

 僕は執務机に座り、出来るだけ丁寧に文章を書いて封筒に手紙を入れ、封蝋を溶かして印を押す。

「僕を差し出したらロベールは完全に壊れますと書いたよ」
「ええ。見ていれば分かります。それでよろしいですよ。あちらがどう考えるかは分かりませんが」
「うん。もしどうしてもって言うなら僕は離縁します」
「え?」

 それほどの覚悟で書いたんだ。ロベールを愛してるから…これ以上つらい思いをさせたくないから。クオールに西の城行きのワイバーンに託してもらった。返事はどう来るかは賭けだ。








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