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三章 東の城 

8 穢れとは酷くない?

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 ムカつくったらありゃしない。城に帰っても腹は立ちっぱなし。僕らの存在も否定されてるじゃん。もう!

「まあねえ」

 ミレーユはあちらから見ればそうなじゃないのですかと、お茶を淹れてくれる。

「そうですか。ミレーユも僕の一族は穢れと」
「嫌ですよ。そうではなくてですね」

 見る立場が違えばそうなるのは当たり前と言ってるだけだって。

「穢れと言うくらいですから、精霊にとって人との交わりは禁忌の所業なのでしょう。言われても仕方ないですよ」
「そうだけどさ。自分がばっちいみたいじゃん!」

 向こうからみれば人とのハーフでばっちいのでしょうよって。清廉なのが精霊なのですから、人の血で穢れてしまったと取れるのでしょう?と。

「ミレーユは精霊王の味方ね。ふーんだ」

 ヤレヤレって手を広げた。ムカついて冷静に考えられないだけでしょうが、王妃がそれでは困ります。落ち着いて相手の立場の目も持ちましょうって言う。
 なら人族と獣が交わって出来た子を、世間がどのように思うかご存知でしょう?と睨まれた。

「僕はなんとも思ってないよ」
「それはあなたがです。我が国では気にする者はいませんが、他国では違います。穢らわしい子と言われ、まともに就職すら難しい。獣人の国では特にです」
「……うん」

 その種の血を尊ぶから……はあ同じか。分かってるんだ。うちの国は商売っ気が強くて人種など気にもしない。だけど他は違う。

「ごめん……」
「いいえ。気持ちは分かりますよ。自分が否定されたような気がしたんですよね」
「うん」

 交わったのが精霊だから誰も文句など言わず、逆に喜んだ。なら、他だったら?貴族に取り立てられるどころか、差別され今や僕らは血も途絶えていたかもね。

「王族も然りですよ。力の強い人好きの火竜だったからみんな喜んだ。それがただの獣人だったら?今は王にもなれてなかったでしょうね」
「うん……」

 精霊王の言う穢れた子でしかなかったはずです。あなたたちは人族にとっては奇跡の子どもたちなのですよって。それが続いて人族の繁栄に貢献している。誇っていいですとミレーユは真面目な顔になり、

「胸を張りなさい!あなたは特別な一族の生まれで、国の大切な術士です。そして東の王妃、なにも恥じるものなどない!」
「うん……」

 ウジウジしない!こちらから見れば貴重な人材です。特別な火竜の妻で自然を操れる竜なのですから、堂々とふてぶてしく生きなさいって、強い口調。

「精霊王の言葉など忘れなさい。あれはあちらの見識なだけ。こちらとは違うのですよ」
「うん。少し考えます」

 そうしなさい。この大陸中を見ても王族やあなたのような者はおりません。それほど特別な交わりの結果。気にするべきは、夫や子どもたちだけでいい。民と仲良くこの地を治めることですと、ほら料理長のケーキです。あなたの好きなフルーツのタルト。夕飯前ですがどうぞって。

「きちんと食事もして下さいね」
「うん。ありがとう」

 今日のフルーツは黄桃ですよって。とてもいい桃の香り。一口に切ってパクリ。

「美味しいーッエッチなロベールを思い出す」
「……やめて」
「はい……」

 そして就寝前のベッドでロベールにくだを巻く。やはり穢れと言われたことは簡単には消化出来なかった。

「あはは。当然だろ?俺もお前もあちらから見れば穢れた子だよ。なんだ今さら」
「あの?ロベールそれで納得なの?」
「ああ、種を守りたいって本能だからな。責められることではない」

 そっか……うちの伯爵家はこの力を誉れとずっと言ってきて、負の側面は教わらなかった。父上も兄上も、この力が術士としての能力の底上げをするから、我らは胸を張れると。

「お前が繊細だから、その部分に触れなかったのだろうな。モーリッツは」
「うん……」

 言われて当たり前なんだ。ハイネだっけ?お前の先祖は。彼が変わってただけだよ。当然俺たちの先祖もな。人が大好きで遠くの大陸からわざわざ来るとかどうかしてるんだ。あははとロベール。

「俺もお前の始祖の話しは初めて聞いたよ。確かに文献はないんだ。なぜ人と交わったのかなんてな」
「やっぱりそうなんだよね」

 僕らは二匹ともこの世の最期かと思ってたからね。全く違ったけどさ。力のあるはみ出し者だっただけ。

「はあ……俺は嬉しいよ。あの火竜に仲間がいるんだって。ひとりぼっちじゃないんだって。今いないのは帰ったのかもな」
「うん。魔獣は人と交わっても病にはならないらしいから、きっと」

 いつか会いに行きたいが、行けないんだよなあ。何年掛かるかわからないし、その大陸がどれほど離れてるかも定かではない。それに隣の大陸の人とは交易もなにもかもないんだ。無理だけど夢は膨らむね。

「そうだねえ。多分言葉も違うだろうし貨幣の価値も違うだろうから、何年分もの食料を持って?とか、無理だね」
「ああ。だが、解明されただけでも幸運だ」
「うん」

 アウッ……なんで突っ込まれてんの……やん気持ちいい。

「考え事してるから勝手にな」
「なんでいつもそうなの?同意を求めてよ」
「え?嫌な日あるの?」
「……ないです」

 エッチなリシャールが俺を拒むなんて、風引いてる時くらいだろ?と笑う。

「そうだけどさ。それでもね?」
「分かったよ。入れるよって言うさ」
「いやいや、する?しない?とまずは聞いてくれ」
「ええ、そこ?」

 まあまあと唇が触れるともうダメ。気持ちよくてふわふわする。何年経ってもロベールのキスは……あぁ…もっと……僕は欲しくて頭に手を回した。

「すぐこんなになるんだから、声がけなんかいらんだろ?」
「いるの……夫婦でも……はふっ言葉はね。それによって気分は高まるから」
「ふーん……エッチな頭に切り替わって、俺を求めてくれるのか。なら聞く」

 もう黙れと言われて激しく腰を振り、僕の体をなめ回す。念入りに乳首を舌で転がし、吸い付く。堪んない快感に力が入って腰が浮く。

「乳首硬い……新婚の頃より大きくなったな」
「ハァハァ…あなたが責めるから……んんっ」

 上に乗るロベールの体に股間も擦れてもう……あうっ…出ちゃ……あーッ

「リシャールエッチだな。もうイッたか」
「だってぇ……」
「前は熱くて硬く、中は俺を締め上げる。うん?ほんのり花の香りを感じる。そっかもうすぐ発情期だな。楽しみ」
「ああ、それでこんなに早くイッちゃうのか。忘れてた」

 リシャールの淫らな具合は毎回楽しみなんだ。お前は辛いだろうが、俺は誘われて発情するその辛さすら楽しい。セックス好きなんだよ。お前とするのが好きなんだと頬を撫でる。

「好きな人が自分を激しく求めるんだ。これほどの幸せはないよ」

 だが、アンの発情期は誰でもよくなるから、城からは出るなよ?部屋からもなって。

「いやいや、毒飲めば平気だよ」
「ボケェ。俺は以前、多少しの香り漏れの文官にフラフラってしたからやめて」
「え?」

 あわわわ……と激しく腰を振って誤魔化そうとする。ククッかわいいなあ。この隠し事できない感じが好き。仕事のことはきちんとしてるのに、こんなことは隠せない。

「ハァハァ……お前のことになるとダメなんだよ。不安になって話しちまう」
「うん。だから信用出来る。僕も隠し事しな……あっ」

 そういや精霊王とキスしたよ?でもあれは力を分け与えるものらしいから違うのかな?と思ったけど話した。とても気持ちのいいキスなのに、欲情しない変なキスだった。

「ふーん。なんだろうな」
「分かんない。股間も体もなんにも反応しないんだ」
「でも嫌だな」
「ごめん……」

 まあいいさ消毒だと唇が重なる。んふぅ……あなたのはものすごく欲情します。

「この顔は俺だけに。俺のリシャール」
「うん……もっとロベール」

 そして翌日は雨。ふむ、お外はないな……いや。僕は城の裏口から傘を差して森の中に入った。そしてキョロキョロ。よし、人はいない。全裸マントで出てきてたんだ。んふふっそれっ

「おお!竜の姿で雨の中気持ちいい!雨に魔素たっぷりな気がする」
「なにしてんだか」

 ミレーユは呆れた顔で僕を見上げる。まあ、城の敷地で遊ぶ分にはいいですけどねって。

「雨の中で竜になったことなかったんだ。いいね」
「さようで」

 楽しくて歩き回った。竜になって見る景色は、人の時とはなんだか感じ方が違うんだ。視線の高さだけじゃなくてね。雨だとさらに違う気がする。体を流れる水が心地よく感じ、植物が喜んでるのも感じる。こうしてると精霊なんだなと思う。

「リシャール、俺は濡れるの嫌い」
「うん。トリムはミレーユといてよ」

 トリムは僕と契約してくれたんだ。精霊王との別れの後、彼が追いかけて来てね。お前俺がいた方がいいんじゃないのか?精霊王はお前を追いかけるぞって。ハイネ様の話は今でも時々出るんだ。側近の精霊も、時々懐かしそうに話してるのも見かけるから、そのうち拐うかもなあって。お前は人でありたいのだろう?なら助けてやるって。

「俺なら精霊の気配を察知出来る。前もって逃げることが出来るよ」
「いいの?」
「ああ、俺はリシャール好きだから、お前が死ぬまで傍にいてやる」
「ありがとう」
「でも、力の差があるから絶対とは言えない。それは覚悟してくれ」

 僕は森を踊るように歩き回って楽しんでいた。

「トリム、ありがとう。そこは覚悟してるよ」

 そしてトリムの提案でミュイも出しっぱなしに。フェニックスの悪意を感じる能力は必要だ。精霊王の心の機微を拾えるはずだかから、肩に乗せとけって。ミュイは孤児院の慰問のおかげか、言葉は流暢になっているから問題なし。僕の警護は鉄壁だ!あはは。

「リシャールは雨の中、なにが楽しいんだか」
「私も分かりません」

 ミレーユの頭に乗ってふっくら座るミュイ、肩には妖精トリム。華やかだなとか思いながら雨の中を楽しんでたら、雨がやんだ。早いよ!ほんの三十分もなかった。

「雨がやみました。ほら、雲の間からお日様も見えますよ。通り雨には期待できません」
「うん……」

 外に出るのが遅かった。仕方なく変身を解いて城の軒先に入り、ミレーユからタオルを受け取る。

「でも楽しかった」
「それはようございました」

 冷たい目で言われた。そりゃそうか。ミレーユたちは楽しくないもんね。またマントを羽織り部屋に帰って服を着て、本日は図書館!新作の物語を街で買って来てたんだ。それを読む。トリムとミュイは適当に城で遊んでてと解放し、僕は読み耽る。ミレーユはお茶とお菓子を用意してくれて、一緒に。

「姫!俺はあなたを諦められない!」
「いいえ」

 姫は首を横に振り涙を流す……グスッ

 家に居場所がなかったノルンが冒険者になり、侯爵家の姫の護衛を旅先で請け負った。平坦な旅ばかりでなく、嵐や獣に襲われたりもした。その長い護衛の間にふたりは恋仲になる。が、彼は子爵家の三子。彼の家はそれほど手広く活動してなくて人手は足りていた。それにアンならまだしもノルンは余剰だったんだ。彼は文官としての能力も高くなく、婿入り先に難航し、なら剣術はそこそこだから、冒険者になった。なんとなく残念な人。

「私には許嫁がおります……無理なのです」
「クッ……姫のためなら俺は何でもするのに!」
「そうはいかないのを、あなたはご存知のはずです」
「クソッ」

 ならば思い出に、あなたを忘れぬように抱きたいと姫に申し出る。姫もいいよとベッドをその日から共にし出し、姫は発情してしまう。これ大問題。

「どうすんのこれ」

 このまま嫁には当然行けない。元々の発情があるから、どう誤魔化すのか。この物語の時代は、まだ貴族のフリー恋愛の頃じゃないんだ。親が決めるのが当たり前の頃。僕はドキドキしながら読み進めた。
 静かな図書室。時々文官が資料を取りに来るくらいで音もなく、なんて優雅な時だろう。僕はお茶を片手にうふふっ

 いきなりバンッと派手な音にビクッ

「リシャール!」
「え?」

 聞き覚えのある怒鳴り声。入口の方を向けば父上。とうとうここまで乗り込んで来るようになったか。

「ロベール様からの書状が先ほど届いて、俺はワイバーンで全速力で来た。このまま西の城に行って説明しろ」
「なにを?」

 はああって怒りに満ちた息を吐き、目が怖い。父上そんなにひん剥くと目玉落ちるよ?

「うるさい!早く来い!」
「ええー……ミュイ、トリム来て」

 その声に一分もせずふたりは僕の肩と頭に乗る。父上はなんだそいつらって目を向ける。

「昨日から僕の護衛になった精霊のトリムです。頭のはミュイ、知ってますよね」
「ミュイはまあ、精霊を使役?俺たちでは無理じゃ……」

 彼は何年もの付き合いで僕を好いてくれて、僕が死ぬまでの契約をしてくれたんだ。いいでしょうと笑ったら驚愕し、スンとした。

「どうやって精霊を騙した」
「失礼な。僕の人柄です!」

 まあいい、ワイバーンは用意してるから騎獣服に着替えて庭に来いと言い残し消えた。

「昨日のことですね。私も行きましょうか?」
「いいよ。王たちと父上兄様だけだろうから」
「俺たちがべったり付いてるから大丈夫さ」

 まあそうでしょうが、トリム、あなたはなにが出来るのですか?とミレーユは問う。

「俺が得意なのは風魔法だ。リシャールに仇なす奴は切り刻む」
「いや……それは止めて。他は?」
「そうだな。嵐を巻き起こしたりかな?後は言葉を遠くに伝えるとか。風に乗せてどこまでもね。知ってる人のところならどこへでもだよ」

 それすごい。お手紙いらずだね。

「そうさ。精霊同士なら念話も可能だけど、リシャールは竜になってないと他のやつの言葉は分からないからな」
「うん。未だに分からん」

 ミレーユはええ?って。だからピンポイントで遊びに行ってたのかと驚いた。

「うん。俺が今日いる場所に遊びにおいでって誘ってたんだ」
「へえ……」

 ああ!感心してる場合ではない。お父上がさらにキレるから早くって言われて部屋に戻り、ダッシュで着替えて庭に向かった。庭には父上とロベール。

「おそーい!リシャール!」
「すみません!でも急だったから」
「言い訳はいいから早くしろ!」

 ほれ乗れってロベールに抱えられてワイバーンに乗せられた。俺が後ろに乗るからなって。

「西のワイバーンだから帰りは馬車かな」
「ふーん」

 馬車は後から追いかけてくれるそうだ。あ?日帰り……

「出来る訳ないだろ」
「はい」

 肩にふたりを乗せてると、飛ばされるかもだから胸に入れた。

「リシャールあったかい」
「いい子にしててね」
「ああ」
「俺はいつもいい子だよ」

 行くぞと父上が言うと護衛とともに飛び上がる。そしてあっという間に加速して……グッ

「父上速い!」
「キレてたからなあ」

 いつもなら三時間掛かる距離を二時間弱で到着。ハァハァ……苦しい。最近はベルグリフにもあんまり乗ってなかったから辛かった。

「お前は訓練サボり過ぎだ」
「はい。少し森あそび減らして訓練します」

 父上は颯爽と降りて僕の腕を掴む。おいおい、逃げねえよ。

「王が詳細を聞きたがっている。急げ」
「はい」

 相変わらず怖い。なんかお嫁に来てから父上怖いばっかなんだよ。優しかった父上はどこかに消えた。

「それはお前が問題ばかり起こすからだ!」
「ええ?なんもしてませんよ」
「胸に手を当てろ。いくつもあるだろ」
「はあ」

 今はいいから早くと引きずられながら、城の正門の扉を潜ったんだ。あーそれ、僕が主体で起こしてないもん!濡れ衣だよとブツブツ思った。




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