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三章 東の城 

4 精霊たちとの語らい

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 東の城サバリーゼ城に来て早二年。ロベールの仕事は落ち着き初めていた。僕も苦手なお茶会などを開催し、この地の奥様らとも顔見知り程度にはなれた。まあ、西でも会ってたから知ってはいたけど「知ってるだけ」だったんだ。なぜか僕の交友関係が西に振り切っててね。それがこんなに苦労する原因になるとは、泣きたくなったのも本当。それでもちょっと荒い奥様たちとも世間話が出来るようにはなり、僕は相変わらず晴れた日は森の散歩を続けていた。

「リシャール!また来たの?」
「うん。君たちは水浴び?」
「そうだよ!精霊は水浴び好きだしね」

 顔見知りの風の精霊や俗に言う木霊たちと語らう。彼らは僕の肩や座る膝に乗ったり、顔の周りを飛んだりして話しかけてくれる。

「リシャールの護衛、まーだ僕らの声聞こえないの?」
「聞こえてるけど言葉が分からないって」
「え?そっか……リシャールの言葉は分かるのにそういや、僕らも人の言葉は分かんないね」

 この精霊の言葉を理解するのはエルフやドワーフたちだ。後は彼らを使役する魔法使い。僕も竜に変身しなければ分からない。

「リシャールは召喚術士なんだろ?なんで人だと僕らの声が分からないの?」
「ゔぅ……それは僕の能力不足で、魔獣に特化してるからだと思う」
「ふーん」

 時々精霊たちは僕の心をえぐる。術士には「くせ」があるんだよ。万能な人は見たことも聞いたこともないもん。魔獣も精霊も使役する人なんかいるのかな?精霊たちはなにか考えてるのか、顎に指を置いてうーんと。綺麗でかわいいなあ。

「大昔……俺は見たことあるかな」
「へえ。タリムはあるの?」
「うん」

 タリムは僕がここに来始めた頃から来てくれて、仲良くなったんだ。この中では彼はかなりの長生き。少しだけなら人の言葉も分かるそうだ。

「あのね、まだ戦があった頃かな。その頃はいた。でも人は今より怖かった」
「どこが?」

 みんなの顔が曇った。この森に来る人は基本魔法使い。俺たちを強制的に使役するため集めに来てたから。

「俺たちは人が持ってる力を増幅したり、代わりに術かな?人的に言えば。それが出来るから契約に来てた」
「うん。契約といえば聞こえはいいけど、強制だから僕らの意思は関係ないし、僕らも意識がなくなる。楽しくないんだよ」
「ふーん」

 風、火、雷、土など属性が精霊にはある。それ以外にも木霊や花の精霊もいる。万物に魂は宿るんだ。それが精霊までになるのがこの国は早い。だからエルフの里があったんだとみんな。

「今は楽しいよ。人の精霊使いがいないとは言わないけど、少ないからね。それにさ、エルフたちみたいに僕らに協力してってスタンスなら、遊ぶようなものだからいいのになあ」

 人の戦や争いになんて興味はない。手伝うのも遊びの一環でしかないんだ。この国の森は精霊王が管理してて、過ごしやすい。人の管理もありがたいよ?むやみに開拓しなくなったからねと、ブンブン飛び回り笑い声が響く。

「今開拓してるの草原や砂漠っぽいところでしょ?あの辺りには僕らは住まないから気にしてなーい。キャハハ」

 僕の護衛たちも僕の横に簡易のピクニックセットを持ち込み、お茶したりなんか食べたりして待ってくれる。だって危険は精霊が前もって教えてくれるから間に合うんだ。まあ、魔獣来ましたとかだけどね。それも精霊たちが追っ払うから困らない。今は森の街道沿いならほぼ危険もないくらいだ。

「でもね。俺リシャールの見た目に記憶があるんだよ。誰かの記憶をみた気がする」
「いつごろ?」
「分かんないけど、俺が生まれたばっかの頃だと思うけど……」

 タリムは僕の頭に座っていつだろうかと悩んだ。タリムが西で覚醒した僕のことが精霊たちの噂になって、領地の惨状を復興をしてたのをみんなで眺めてて、それで思い出したそう。

「景色がこのあたりの植物ではないんだ。だから遠くだと思う」
「そう」
「たくさんの精霊と遊んでて……でもその竜は一匹しかいなくて……」

 やはり、千年前にはもう僕の先祖は一匹だったんだ。それが変身体か本来の精霊かは分からない。僕の中の血は語りかけてはくれないんだ。王族の火竜は、過去の記憶を多少見せてくれるらしいのにね。僕は黙ってしまった。見せたくないなにかがあるのか、それともそんな力はないのか。

「ねえ、精霊王ってどんな人?」
「王はねえ。人の姿のリシャールのように細くて僕たちを何倍も美しくした人。物腰は優雅でふわふわした人だよ」
「へえ、会ってみたいな」
「キャハハ無理だよ。王は城から出ないから」

 そろそろ夕方だ。僕らはねぐらに帰るってみんないなくなった。帰る時はみんなあっさり帰る。人のような名残惜しそうにはしない。

「僕も帰るかな」
「はい。では支度しますね」

 護衛のふたりが荷物をまとめると僕も人に戻って飛び立った。最近は馬車で来なくて飛んで来るんだ。行きつけの店のように場所を決めてるからね。だってそこに行けばみんなと会えるし、他を巡っても、もう変化がないことに気がついたんだ。それに獣道禁止だし……

「それは仕方ありません。以前言ったでしょう?精霊は大戦の頃使役されて怒ってる者も結構いて、こんな人の近くには出て来ない者も多いと」
「うん」

 長生きの精霊は人を嫌う。嫌な記憶が多いからってね。それと大きな魔獣がいる。この間追いかけられて空に逃げたんだよ。ロベールには内緒だけどさ。いのししの魔獣の団体が来てさ。俺たちには手に負えないから逃げようって。

「あれは怖かったです。俺たちが対応すると森が焼ける。水魔法が使えないんです」
「分かってます」

 ふたりは火と風。火災を煽るだけになるからね。それに、僕は戦力にならない。攻撃魔法を調べたけど何もなかったんだ。俗に言う「光魔法」ばかり。癒しや再生、もしくは土地や植物の生気を奪う。森の管理人のような力しかなかったんだ。

「俺思うんですけど、生気を奪うのはやり方次第では武器になりませんか?」
「あー……あれ相手に触れないと出来ないんだ。敵に触れるとか怖すぎ」
「あはは、そうですね。触れる前にやられるか」

 この竜の体は怪我はしにくいけど、ロベールたちの火竜に比べればヨワヨワ。鱗が薄いし背中には草が生えている。燃えて火だるまになるしか想像出来ないんだ。確実に死ぬ……

「リシャール様の仲間は森林火災とかでいなくなったのかな?」
「やめて!それ事実っぽいから!」

 そんな話をしながら城に帰還。夕食には間に合ったね!この間精霊の恋愛事情なんか聞いてたら盛り上がって、城に着いたら真っ暗。めっちゃ叱られたんだ。

「今日はなにしてたんだ?」
「うんとね。いつもの池でトリムたちとおしゃべりしてた。いつもなら精霊王の話はスルーされるんだけど、見た目と人柄を少し聞けたんだ」
「へえ……仲良くなったんだな」
「うん!」

 ロベールに話すと、想像してる王と同じだなって。精霊の親玉だからきっと美しくふわふわな感じとは思ってた。でも、それは表の顔だろうって。

「王はそれだけじゃ出来はしない。これは人も精霊も変わらないだろう。たぶん人より力がある分怖いよ」
「そっか。みんな慕ってる口ぶりだからそりゃそうか」
「ああ、やる気があればこの地なんか廃墟に出来るはず。しないのはそこまで怒ってないからだろう」

 そうだ、昔の文献に精霊王には色んな属性の側近たちがいて守っているとあった。かわいらしい大きな木に、城を構えて住んでいるそう。それがどこかは分からないけど、確かにあるそうだ。そんな文献があるということは、以前は人と交流があった証拠かな。

「俺たち火竜とは違うんだ。精霊は家族の範囲が大きい。すべての精霊が家族と言っていいと聞く。全員精霊王の子どもと認識してるんだろ」
「人も出来たらいいのにね」

 夢だなあって。人や魔獣、動物はそんな意識で生きてはいない。難しいなあってロベールは微笑んだ。

「いつか会えるといいな」
「うん。そうしたら僕のことも分かるかもだから」
「ああ」

 僕の家にはたくさんの、精霊に関する記述の本はある。だけどそれは、能力や使い方、その結果だけ。竜がなぜ人と仲良くなったのか、なぜ人と交わったのかは記録にはない。火竜のようにひとりぼっちが寂しくてって考えられて来たけど、精霊たちと話してるとどうも違う気がする。僕の竜は王の側近のひとりのような気もしているんだ。なにかあって離れたんだろうか。その理由が知りたいと思う。僕んちの歴史だからね。




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