緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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三章 東の城 

3 精霊と友だちになる!

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 とりあえずロベールにやることないかとお伺いは立てたけど、今はないそうです。で、思いつきでこちらで僕の護衛騎士になった、マットとラインハルトを連れて森に出かけた。

「よし、ここまでくれば大丈夫だな」
「あの、なにが大丈夫なのですか?」
「いいから!」

 不安そうな彼らをそこて待っててと静止し、僕は藪に隠れてスッポンポンになり変身。よっしゃあ精霊の友だちを探すぞ!召喚術士の力の友だちではなくてね。

「はあ……」

 お出かけするから着いて来てと、目的を言わずに連れて来たからボーゼンとしている。が!

「僕に着いて来るだけでいいから」
「はっ」

 気を取り直したのか着いて来てくれた。

「こんな森の中を歩いてるだけで見つかるのですか?」
「分かんない。あちこちにいるけど、キャハハって笑うだけの子たちばかりだね。西の森もそうだったんだけどさ」

 こちらも西と変わりませんとふたりは渋い顔。

「こちらでも、そんな長く生きてる精霊は簡単には見つからないと思いますよ。長い者は人を警戒しますから」

 だよねー。そんなのは分かってるから、暇を持て余してる今なら捜す時間たっぷりでしょ?だからだよーん。

「こんな妃殿下初めだよ」
「なあ」

 ヒソヒソ聞こえたけど無視!いっくよおって歩き出した。森の中は気持ちいい。魔素も多くて疲れない。竜になってるからか吸収がいいような気がする。あっ池だ。なにかいないかな?

「ああいますね。いますけど、あの種はほとんど話せませんよ」
「そっか」

 僕の足元でマットは高位のはいませんねえって。まだ歩き始めたばっかだよ!池の周りを歩いていると話し声がする。え?どこだろう。キョロキョロと見回した。

「ねえねえあなた誰?」
「はい?」

 耳元で聞こえたから目を向けると、いつもの若い精霊、なのに話し声がする!

「なんであなたの声するの?」
「そりゃあ君も精霊だからでしょ?」
「そっか!僕この姿だとみんなの声が聞こえるんだね?」
「はあ?なに言ってんの?」

 精霊は怪訝そうにした。羽の生えたザ、フェアリーって感じの子だった。前は聞こえなかったのに。っていうか、森の中で変身したことなかったな。

「あのね。僕は人族なんだ。大昔精霊と交わった末裔なんだよ」
「ああ、君か。変な気配が最近するんだよねってみんなで話してたの。でもこんな強力な精霊は精霊王くらいなはずなのに、他にいる。なんでだろってね」
「精霊王?」

 うんとニコニコしている。あなたと同じ強い力のある僕らの王だよって。

「どこにいるの?」
「キャハハッ教えないよ!あなたそんな姿だけど、人族なんでしょ?なら教えなーい!」

 そう言うとまた会ったら遊ぼって仲間と消えた。ほえ……精霊たちが見えなくなると、

「リシャール様、その変な言語はなんですか?」
「え?僕普通に話してたよ?」

 聞いたことない言語で話してて、不気味。ちなみになにを話されてたんですか?と、眉間にシワで不審げなマットたち。

「次あったら遊ぼって言われたのと、精霊王がこの近くにいるらしい」
「え!噂は本当だったのですか!」

 この東の地の伝説で、この地域の精霊王の居城があるらしいって言われてるそうだ。ほほう、なんとか会ってみたいな。

「無理でしょ。人前に出てきたとか聞いたことないですし、生態が分からないから怖そう」
「確かに」

 まだ歩くよと池を離れて歩く。あの、リシャール様。ここは他国に抜ける道で、人も多く通るから大物はでてこないんじゃって足元から。

「そうなの?ならそこの獣道!」
「はい?やめましょうよ!まだ初日ですし、他の精霊とお話するだけに留めましょう」
「そう?」

 ウンウンとふたりは頷く。もげそうなくらい首を振る。嫌なのね。

「当たり前です!獣道は魔獣が出てもおかしくないのです。この森は熊やトラなどの大型が多くいます。あなたそのナリでも戦闘に向かないのでしょう?西とは違うんですよ」
「うん。攻撃の魔法はほとんどなくて、光る目眩まし?で逃げるかな?」

 ならダメ!って強く言われた。もし行きたいのなら俺たちだけじゃ足りないから、なんかの訓練にでも着いて来てくれって。そっか。戦力にならないもんなあ。つか、なんか攻撃魔法なかったかなあ?暇だし実家で調べるか。そうしよ。

「あ、フェニックス呼べばいいのか」
「それもやめて!森が燃えちゃう!」
「もー……全部ダメダメってつまんない」

 当たり前です!貴人なのを自覚して下さいませと、怒鳴られた。むーっ

「リシャール様はもう……奥様が森で遊ぶとかなんの冗談なんだよ」
「だって暇なんだもん。お茶会は毎日出来ないし、遊んでくれる仲のいい方なんてまだいないしさ」

 オリバー様たちが懐かしい。暇ならお庭やお部屋でとりとめのない話しして楽しんでたから。元気かなあ……随分会ってない。
 僕は道に立ち止まって項垂れた。寂しい……僕お友だち少なかったから、兄弟増えて嬉しかったんだ。兄上だけでアンの兄弟もいなかったし。

「辛い……」

 なんか西の城での楽しかった日常が思い出されて視界が滲む。こんなに寂しいと思うとは考えもしてなかったんだ。そのままポトリと大粒の涙が地面に落ちた。ヒッと声がして、

「ご、ごめんなさい!言い過ぎました!精霊探しに行きましょう!俺たち付き合いますから!」
「うん……」

 昼過ぎから出かけて、結局普通のどこにでもいる風や水、木霊の精霊にしか会えなかったけど、お話は出来た。けどさ、みんななんか隠してる気がしたんだ。精霊王のことだけじゃなくて、僕を見てなにかを。
 夕食の時にロベールに今日のことを話したら盛大に叱られた。

「暇だから竜になって森に精霊を探しに行ったあ?バカ!」
「なんでよぉ僕も精霊の一匹だし、護衛もつけたもん」

 そういうことじゃなくてさ。精霊ってよく分ってないところが多い生き物なんだ。エルフはそのあたり開示しないから、人が知る部分は少ない。へんな魔法で拐われるかもだろ!と、ものすごく叱られた。

「最悪フェニックス呼ぶもん」
「竜の姿じゃ術の展開出来ねえの知ってるぞ!」
「うっ……」

 危ない時に人に戻って呼ぶのか、ああん?と、嫌味っぽく言われた。くぅーっなんも言えねえ。

「精霊探しは禁止だ」
「やだ、なんで?」
「危険だからだよ!」

 護衛が言ってたように、訓練で大人数の時に着いて行けよ、行きたいならなって。それ、人の姿でお話出来る子絶対出て来ないやつでしょ……ヤダ。

「お前自分の立場を考えろよ。東の王妃なんだ。それなりの地位なんだぞ。自重しろ」
「うー……はい」

 はいとは返事はしたけど、ならこの暇な時間なにしてればいいの!と怒鳴り返したかったが、まだ慣れきっていないこの城では我慢しろってさ。僕はブッスーと夕食を食べてさっさと部屋に戻った。ロベール置いてね!

「リシャール様」
「なにミレーユ」

 暇でオリバー様も、ラウリル様もいらっしゃらないから気持ちは分かりますが、ロベール様の言い分が正しいですよ。万が一お怪我や拐われたりとかあったらと、声色が説教モード。

「ロベール様が可哀想です」
「うん……うーん……」

 手際よくお茶を淹れてどうぞ、気持ちが落ち着くハーブティーですよって。お気遣いありがとう。

「ミレーユ、森に行っちゃダメってさ。後なにして過ごすの?読書は趣味だからするけど、そればっかはさあ。観劇に毎日行くわけにもいかないし」

 そうですねえって悩んでくれ、そうだって僕を見る。

「この際お裁縫を極めては?」
「ゲッ無理……オリバー様くらいになるとは思えない」

 あははっ誰と比べてるんですか。職人のようなオリバー様に近づけるはずないでしょう。あははって大笑い。失礼だけどその通り。

「ちょっとでもお母様が作りましたって、リーンハルト様にハンカチとかポーチとか小物をね?」
「うーん。赤黒い水玉模様でもいい?」
「いい訳ないでしょう。頑張ればいつかきちんとしたものが出来ますよ」

 それならベルグリフの背に乗って、高速を耐えられる訓練の方が早く身に付きそうだよ。

「あー不器用ですもんね。ビアノもギリギリ聴ける感じだし」
「知ってるわ!だからロベールとの演奏もあんまりにも、あんまりにもな僕の出来の悪さにしなくなったの!」
「はあ、まあなんでしょうか。プロと見習いくらいの違いが」

 念押すな!はああ……ため息しか出ない。ロベールは本当に忙しくて相手してくんないし、子育てもお母様がベッタリは自立心が育たなくなるから短時間でと追い出されるし。なにしたらいいの!

「リシャールうるさい」
「ごめんなさい」

 置いていくとか酷いなと言いながら、僕の隣にポフンと座る。

「ごめんな。今な、西の城より忙しいんだ。覚えることが多くてさ」
「ごめんなさい。わがまま言いました」

 夜こうして一緒に食事を取れるように調整してくれてて、ものすごく忙しいのは知ってるんだ。たまに廊下で見かけると、真剣な顔してコートを羽織り、駆け足で出ていくのを見かけるから。ロベールが動いてくれるから僕は暇なんだ。

「目にクマ……大丈夫?」
「ああ、あと半年くらいなんだ。そうすればある程度落ち着くから」
「うん」

 だから俺が一緒に遊べるようになるまで自重してくれ。俺がいれば護衛なんざいなくてもなんとかなるからさって。そうだけど、あと半年?長くね?

「僕はここに来て趣味らしいものがないのに気がついたんだ。オリバー様はお裁縫、ラウリル様は乗馬、王妃様はハープがとても上手くてね」
「母上は楽器なんでも好きだから上手いな」

 グッ……喉が鳴った。僕、嫁入り前は暇ならフェニックスのベルグリフやミュイを呼び出して遊んでたんだ。背に乗ってどこまでも飛んで、いろんなところに行ってた。まあ、危ないから降りはしなかったんだけど、上空から地上を見るのが好きでね。自分で飛んでもいいけど、そんなに遠くまでは行けないからね。

「お前……それ普通の人の遊びじゃない。家のワイバーンを遊びで使える頭数揃えてる家はないからな」
「そうだね。これは家ならではの遊び。兄様……いえ兄上はフェンリルに乗ってさ」

 贅沢な遊びだことと笑う。ある意味ペットと遊ぶのが趣味だよね、これ。今や自分がその使役される側だけど。

「そんなつもりはないぞ?」
「でも、人やエルフは精霊を使役するでしょ?僕を王族が使役してるんだなあってたまに思う」

 あー……お前ここに来て暇になって悪く考えるようになってるな。仲良かったオリバー様がいないのがそんなに寂しいか?と問われて、当然と答えた。あれほど仲良くなった人いないんだ。それも兄弟なんだよ。どれだけ嬉しかったか。

「ふむ。東に学友はいないのか?」
「それがね。みんな西の領地の人ばかりだったの。なんの奇跡かってくらい。こちらは名前しか知らないような人ばかりだよ」
「あらら、そっか」

 そっかあって天を仰ぎ、なら街道だけなら遊びにいってもいいよ。石畳のあるところまでな。それ以上はベルグリフとか使って遠くに行ってもダメだし、護衛のふたりで対処出来る場所だけなと、僕の頬を撫でた。

「いいの?」
「ああ、その辺にいる風や、水の精霊となら遊べばいい。動物の精霊は驚くと攻撃してくるかもだから気をつけろよ?」
「はいっやったあ!」

 あーあ、かわいくて許しちまったと額に手を当ててロベールはぐったり。クオールはリシャール様に甘いからなあとボソリ。西にいる時もひとりは寂しかろうと、昼食以外にも顔見に行くから仕事が止まって困ったんだよねって。

「え?暇だから来たってウソ?」
「はい。同じ建物にいるんだから逃げないのにね」
「やめろクオール。俺が会いたくてしてたんだから」
「はーい」

 ロベール様のリシャール様への愛は、暑苦しいほどてすよって。その表現はどうなの?とロベールは嫌な顔をし、クオールの差し出したワインのグラスを受け取った。いい香りだなと匂いを嗅ぎながら、

「俺はバカみたいにリシャールが好き。母上のことはもちろんだが、もうなにが好きなのか本当のところ分からない。全部好き」
「やだ……なんの告白?」

 真面目な顔で言うから、顔が赤くなった。これはいつも思ってるんだ。こんなわがまますらかわいくて、自分が折れてしまうくらいなんだとキッと睨む。

「でも危険なことはしないでくれよ?城の近場で遊んでろ」
「うん。んふふっ」

 僕はロベールのグラスを取って飲んだ。あれ、これ美味しいなあと全部飲んだ。

 欲しいなら別のグラスにもらえよと言われたけど、飲み終わったグラスをテーブルに置いて、よいしょっと。膝に乗ってチュッとした。

「なんの風の吹き回しだ」
「んふふっ僕もロベール大好き」
「知ってる」

 抱きつくと胸の鼓動が早い。お酒のせいだね。この暖かい温もりが好きだ。抱きつくと仕方ないとばかりに体に腕が回るのも好き。

「どうした」
「うん。くっついていたいの」
「そうか」

 時々夢に見るんだ。これは夢で、僕はステフィンに振られて、その後誰にも見向きもされなくて、未だに旦那様探しをしているんじゃないかって。好きだと言ってくれる人を待ち望んで、舞踏会に参加してるんだ。

「なに考えてる?なんか悲しそうだぞ」
「うん。これ夢かなってたまに思うんだ。ロベールに大切にされてるのは僕の願望で、屋敷のベッドで早くお嫁に行かないと父上に殺される!って怯えてるんじゃないかって」
「いいや、これは現実だ。俺が貯水池でお前を捕まえたんだ」
「うん」

 そう、ロベールに大切にされて、僕も大切に思ってる。なんの不安があるのか。あったかい……

「リシャール?」
「ん……」

 眠いのかと聞こえたけど、森に出かけたのが思ったより疲れたのか、ロベールの声が遠くなって行く……



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