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三章 東の城 

2 なんかモヤモヤ

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 叔父様が退位すると言っても、準備期間もあるから今すぐではなく、いつも通りの生活をしていた。

「落ち込んでますね。リシャール様」
「ええ。叔父様の退位の話ししてる時にロベールとケンカみたいになってしまって、それ以降なんだか気が晴れませんね」
「そう」

 オリバー様が僕の様子伺いに来てくれたんだ。そういった話はラウリル様ではなく、オリバー様の方がいいでしょうと。私は割り切りましたからって。だから気を使って呼んでくれたんだ。そんで、お庭でお茶会をすることに。

「どんなことかしら?」
「お聞きになりますか?」

 うんとオリバー様が頷くから簡単に説明した。そうしたらあー……それはねえって。

「王族には付きまといますね。夫にも大量に来ていますから」
「やはり」

 うちの夫は多少王妃の肌の色が出ましたが、そんなの関係ないってくらい来ます。あれほど文句タラタラなくせに、それはそれこれはこれと言われてるようで腹が立ちますよって。

「王には相応しくない!その肌の色は我が国のノルンの色じゃない!そんなのが次の王になって、なおかつその子が王になるなど言語道断だと、面と向かって言われたこともあります」
「はい?絞めころ……いえ、殴ってもいいのでは?」

 そうですねえってオリバー様は苦笑いした。したいのは山々だけど、

「ルーカスの迷惑にはなりたくなくて我慢したら、奥歯が欠けました。おほほほ」

 おおう……我慢強いな。こんなのなんでもないですよと笑うオリバー様はすごい。

「王族の苦労などなんにも分からないんですよ。優雅に税金で生活してると思われてますから。身近にいればそんなことないって分かるはずなのですが、まあね」
「ええ。そうですね」

 国に食べさせてもらってる分は働いてると思うね。絶対貴族の奥様より忙しく、城にいることは少ない。日帰りの慰問もあるし、それこそ祝いの席でいろんな貴族に呼ばれて、王の代理だなんだと参列するんだ。思ったより暇はない。当然夫婦同伴だし、視察にはついて行くし。

「それに、お茶会も遠くてもワイバーンでどこへでも行けと言われるしね。この間南の領地の男爵にお呼ばれしました。赤ちゃんのお祝いでね」
「ああ!お疲れ様です」

 貴族に赤ちゃんが生まれると王族が夫婦で出向くんだ。抱っこして祝詞を唱え、火竜の加護がありますようにとね。優しく強い火竜にあやかれるようにと願うんだ。その儀式に立ち会う。貴族は多いから手分けして行くんだ。当然他の国の王子誕生の祝いは王や王太子夫婦が行く。

「赤ちゃんかわいかったですよ。生まれたばかりは本当にどの子もかわいい。僕はお手製のエプロンとかドレスをプレゼントしました。喜んでくれてよかったです」
「オリバー様のは本当に良い品ですから、喜ばない人はおかしいですよ」

 ありがとううふふって。いやマジで高級品って感じなんだ。僕はもういらなくなったエプロンもドレスも全部取ってるもん。かわいいから記念にね。

「でもね。相手を信頼するって難しい。特に王族は、自分だけ愛してとは言いにくいのが実情でね」
「ええ」

 今世代は王様が嫌がって側室を持たず奥様だけだから「嫌です」と言いやすいですが、アルフレッド様は頑張ってますし、我らもいつまでわがままが言えるか分かりませんねと、難しい顔をなさった。

「分かってるんです。自分がわがまま言ってるのは。それでもロベールを独り占めしたい気持ちが強くて、そうなると疑っちゃう」
「分かります。知らないうちにどこかで……とか、僕にバレなきゃいいのでは?と考えるかもと、思いを巡らせる時もありますね」

 王族に嫁に来る覚悟が足りないと言われればそれまでなんでけど、でもね。一夫多妻の国も当然あるし……よく奥様たち仲良く出来るな。

「文化でしょうね。そういうものだと思っていれば拒否感も少ないのかも。ですが我らは違いますから……」
「うーん」

 火竜の血筋は魔力が膨大で、この国の貴族の魔力維持に役立っている。魔素の多さでカバーできない部分をカバーする。そう、その家の上限を上げるんだ。だから側室は身分の下の人もいて、その人から生まれた子を男爵家などに嫁や婿に出す。そして、領地運営は元より、国に貢献させる。国全体の魔力強化の意味合いもあるんだ。さすがに民にあげるなどはないけど、お金持ちの姫を貴族が養子にして側室に上げるは、ある。身分違いなども上位の貴族の子として養子にし、婚姻とかね。魔力と才能があればある意味なんでもありだ。

「平民からの側室はある意味出世ですから、親も待遇が分かっていても差し出しますからね」
「うん……」

 オリバー様もいつか「側室もらったから」と言ってくるんじゃないかと、不安はいつもあるそうだ。

「でもね。私は愛人の方が嫌です」
「あー……分かります」

 子は望めないけどそれは建前で、子は本妻の子として育てる。妻を見限った証が愛人なんだよね。貴族も本宅には帰らなくて、催しの時にしか夫婦は一緒にいなくなる。普段は別々の生活なんだ。

「妻も夫もどちらにもいる場合ありですし……なら僕と離婚してからにして!って気持ちになったり」
「はい。僕も常々思ってます。なんで離婚なしなんだよって」

 まあ分かるんだけどねと、ふたりで見合ってふふふっと笑う。宮中の内情を知りすぎてるんだ。外でなにか話されると不味いんだよねえ。僕らでは、その話の重要度がどのくらいなのか判断つかないものもある。それを外で口走ったら?

「そうなんですよね」
「だから、夫婦仲が悪くなったら、勝手に愛人持って死ぬまで別居となる」
「ええ」

 これ自分がやったらと考えたことはお有り?とオリバー様は微笑んだ。直近で機会はありましたが、全くそんな気になれませんでしたと話した。

「でも、この先赤ちゃんが大きくなって子を産むことから開放された時、お母様としか見なくなる旦那様多いって聞くじゃないですか」
「うんうん」

 その頃でも三十代半ばですよ?夜も誘われなくなって、かわいいとも言われなくなった時、果たして耐えられるのだろうかと考える時があります。彼の目に映らなくなった自分に、どうしようって。浮気とか愛人とか全く関係なく、そんなになったら寂しくないですか?と。自分の努力関係なく、心が離れたら?

「コワッ……家族としての気持ちもないってことですか?」
「それは多少あるでしょうけど、側仕えくらいに思われるようになったら?」

 うおーっ恐怖しかない。そしたら寂しくて自ら……ありうる!僕ひとり無理!寂しくて死んじゃう!

「でしょう?僕もです。そしたらどっかに屋敷構えて逃げようかなって」
「僕もオリバー様の近くに屋敷作ります」

 そしたら仲良く暮らしましょう、寂しくないものって笑い合ったら、ヒッとオリバー様が口に手を当てて引きつってなにかな?と思ったら、後頭部を軽くパシンと叩かれた。

「そんな日は来ないんだよ!」
「痛い。あ、ロベール。来るかもでしょ!人は分かんないんだよ!」
「おおう?言い返すのか。ちょっと来い」
「ヤダ!オリバー様せっかく来てくれたのに」

 ごめんねオリバー様。リシャール借りるねって微笑み、目は笑ってない。

「どうぞ。おふたりできちんと話される方がいいですから。僕もそうします」
「ああ。だが、ルーカスも大丈夫、そんな奴じゃないから。俺が保証する」
「はい」

 そのまま庭を引きずられてロベールの部屋に。

「まだ気にしてたのか」
「するでしょ!抱かれてもなにしても不安なんだもん!」

 あのなあってソファに座ると、僕を膝に乗せた。バカだなあって目で見つめてるけど、信用ならないとは違うけど、人の心は移ろうものだ。長く幸せに過ごす方法など十人十色で、僕は分からない。

「俺はならないよ」
「なんで言い切れるの?」
「幼い頃からお前が好きだから」
「そんなの大人になったら出会いも増えるし、これからも他国の方にもたくさん会うし、そしたらさ」
「そんなこと言ったらいくらでもだろ?でも俺は他は見ないよ」

 ムーッ大好きだから不安なの!分かってよ!僕はロベールの肩を強く掴んだ。

「分かってるけど証明なんて出来ないだろ?子どももお前もとても愛してる」
「うん……」

 僕は手を離しロベールの胸に張り付いた。他の人を抱いちゃイヤ。あなたは僕のだから。だから……

「うん。お前のだよ。だが、これは何度話し合っても答えは出ない。お互いを尊重して愛し合うしかない。後は時の運だ」

 側室は絶対に断るからそこは安心してくれ。お前より好きな人ができる可能性は……

「可能性は?」
「キスして」
「はい?」
「いいから」

 まあと、首に腕を回しチュッとした。足りないよと頭をグイッとされてんんっ…はふっ……ッ

「こうして仲良くしてれば他の人など目に入らない」
「誤魔化してる?」
「違うさ。いくつになっても交わって愛を確かめよう。年取るとしなくなるなど言うが、俺はお前が相手ならシワシワになってもするから」
「ホント?若い人が……あんっよくなるんじゃ……」
「ならないよ。約束する」

 うー……朝からこんな……ダメ。うくっ

「するならベッドへ」
「ああ、昨日してなくてな」

 ヒョイと抱き上げるとスタスタ。いろんな会がないだけで仕事はあるのにもうって、クオールはげんなりした声を出した。

「すぐ終わるさ」
「嘘です」
「大目に見ろ」

 そのまま……アアッキス気持ちいい…んふぅ…

「俺仕様になってるな。触るとすぐだ」
「ハァハァ…ロベールの触り方がエッチなの!」
「いいや、お前が感じ易いだけ」

 体を這う舌と唇が……んんぅ…うっ気持ちよくてふわふわしてると、グアッ

「クッいきなり締めんな」
「ぎもぢいいぃ……おっきぃのぉ」
「だろ?」

 そのまま楽しんで、クオールがイライラしてたから洗浄魔法のみでロベールは仕事に戻った。

「やっぱり時間かかった」
「ごめんなさい……」
「リシャール様のせいではありません。ロベール様がしたかっただけです」

 ミレーユは、リシャール様の心配は取り越し苦労なだけな気がしますよと笑った。

「こーんな仕事の間まであなたの顔が見たくて抜け出て、あなたの話を聞いて不安をなんとかして上げたいと抱いてるんですよ?要らぬ心配です」
「そうかな?」
「ええ。あなたより好きな人なんか出来ませんよ」

 えへへ。ならこの心配は一度棚上げだな。僕らが東の城に行ってからまた考えることにしよう。
 そして、準備が整い僕らは引っ越した。クオールとミケーレだけを連れてね。不安しかない。

「ようこそロベール様、リシャール様。私はここの筆頭執事マルクルでございます。どうぞよろしくお願いいたします」

 馬車を降りると四十半ばくらいのマルクルがお出迎え……つか、全員?メイドさんも文官もたくさんいる!

「初めましてだからな。出迎えてくれるんだよ」
「そうだね」

 僕らが門の前の階段を登ると全員頭を下げた。

「ここに八割方出ています。城と言っても直轄地領主くらいですから、西よりは楽ですよ」
「ああ、この一年引き継ぎもしたからな」
「ええ。あのくらいです。リシャール様が働くこともほとんどないはず、ゆったりとお過ごしくださいませ」

 僕は初めてではないけど、客間とホールしか知らんからなあ。数日は探索だね。

「あの、働かないとはどういうことですか?」

 マルクルはふふっと笑い、ここでは貴族の奥様くらいの量しか働かないんですよと。お茶会や晩餐会は西の城に出かけるくらいで、僕が主催しなければないそう。

「初めはお披露目とかありますが落ち着けば、領内の視察くらい。お家を思い出して下さいませ。そのくらいですよ」
「ああ、そっか」

 基本お暇な時は街に出て領民と触れ合って下さいませと言われた。叔父上の奥様もそんなだったそうだ。仕事はロベールが中心で、災害や土地の復旧でもなければ暇ですよって。

「はい」
「まあ初めは変な感じかもだが、慣れるさ」
「うん。頑張る」
「それと、ハリソン様とショーン様がお見えです」
「ああ、久しぶりだな」

 そんなこんなで領民へのお披露目や、東が管轄する貴族との舞踏会など諸々終わったら、あっという間に半年過ぎてた。叔父様は西に行って屋敷を構えたら、外国に遊びに行って姿を見かけないそうだ。王子たちは公爵としてロベールのお手伝い。

「ねえミレーユ。僕これからどうしたらいい?」
「なにかご趣味は?」
「あったら聞かない」

 さて、これからどうしよう。







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