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二章 緑の精霊竜として

14 大ごとになった

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 僕は仕方なくロベールの向かいに座った。ミレーユは手際よくお茶の支度をする。
 いたたまれない、愛してるからこそ言わなかったんだ。側室なんて迎える気はなかったし、彼を友たちみたいな気分では好きだったから。それ以上はなにもなかったから。
 お茶の支度が終わるとミレーユは部屋を出た。おおぅ……先ほどの大汗再び……額からの冷や汗が目に入って拭った。

「隠し事は辛いだろ?」
「はい」

 俺は怒ってはいない。でも、話してくれなかったことを悲しく思うと言われた。ごめんなさい。

「信用されてないのかなって」

 僕は飛び上がるほど胸がドキンとした。違うんだ、あなたにそんな顔させたくなくて……だから、だから……哀しい顔をするロベールを見つめていたら泣いてしまった。

「うん。お前が自分で決めて側室を取るとかは思ってはいない。相談して欲しかっただけだ」
「ごめんなさい……グスッ」

 ロベールが好きなんだ。お嫁に来てこんな日が来るとは思ってなくて、話さない方がいいかと判断した。ミレーユもいらぬことは耳に入れず、解決できればいいと言ったし、僕もそう思ったんだ。だけど、ユアン様は優秀で神殿の要だったようで、問題になった。まさか僕が軽く言ったことを彼が実行するとは思わなかったんだ。ただ彼には幸せになって欲しくて、自分ではない誰かと、ただそう思っただけなんだ。それがこんなことになって……僕は頭を下げるしかなかった。

「お前の優しさが大きな問題になった。神殿の運営は王家も関わる。彼はなあ……」

 神殿は身分の低めの方が多い。真ん中から下かな。その中で彼は高位で実力もある。そりゃあ手放したくはない。
 もし彼が還俗すれば領地の運営になるはずだ。彼のお家は手広く綿や絹を生産し、衣服などの布地を作る。染色の職人が多く、服飾の商会も多い。宮中の出入りの商会もあちらからが多く、僕の衣服もそうだ。最近羊もたくさんになり、絨毯なども手掛けるようになって、管理者が足りないそうだ。だから、戻ればそちらを手伝うはずだそう。

「親は大歓迎だろうが、神殿から見れば損失でしかない。お前が側室で抱えれば問題はないけど、俺が嫌だ」
「うん。僕も嫌です」

 泣いてグズグズしてたらおいでと僕の隣に座って抱いてくれる。ユアン様に同じことされたけど、ロベールの腕はやはり安心するし嬉しい。

「ロベールが好き。好かれるのは嬉しいけど、彼に触れられても話しても、友だち以上の気持ちは沸かなかった。それにベッドを共にしたいとは全く思わなかったんだ。触れられると嫌だって気持ちが出てしまって」
「うん」

 言葉ではうまく言えないんだけど、なんか違うんだ。本当に結婚前なら気にもしない感覚なんだけど、ダメだった。

「ロベールにしか触って欲しくない」
「うん」

 言わなくてごめんなさいと抱きついた。なんかロベールしっとりしてる。彼も僕の返答を不安視してたのかもね。ごめんね、僕は他人には、あなた以外には優柔不断だから、それを心配したんだよね。

「あはは。お前は自分をよく理解してる。でも、俺に関することは断ってくれると分かったからいいさ」
「うん」

 なんかゴソゴソ仕出したらズボンに手が入り、指がズブッうあっあ?……あん……なにこれ。お尻熱い……うっ…なにか入れた?

「超強力媚薬だ。発情期のように濡れる媚薬。ふふん」
「あっ……なんでっ」
「彼とキスしたんだろ?消毒させて」

 なら下は関係な……いやん…お尻疼くし、確かに濡れて漏れてる感じがする。

「無理やりだが許せ。俺は他の誰にもお前を触らせたくないんだ」
「うん…ウグッ……ッ」

 僕に跨がらせてグチュグチュ……愛撫もないのに気持ちいい……あっうっ……ふんうっ…

「いい。ここは俺だけが入れる場所で他人には……ハァハァ……触れさせたくない。王族としては駄目だと分かってるが、ウッ…これこっちも効く。出そ…」

 僕はとっくに出てます。これ敏感になるようで、少しで絶頂するっうーっまた!

「クッ……もげそ……」

 強く締め付けてるのを感じて溢れる。んあっもっとしてぇ

「エロいな。こんな姿は俺だけに見せてくれ」
「ハァハァうん」

 これは擬似的に発情期のようにするものだから排卵してない。子は出來ないんだ、楽しもうと効果がなくなるまでいたした。

「ロベールがいい」
「うん。かわいいリシャール、俺のリシャールなんだよ」

 抱きながら頭を撫でてくれる。んふふっ幸せだ。ミレーユがもういいかなと入って来て、お風呂どうぞって。あなたのエッチな声はここで聞きたいものですと笑う。

「私も隠したまま解決出來ればと思いましたが、ユアン様がそこまでみなに頼りにされてる人とは思わず、すみませんでした」
「いいや、神殿の内部のことはみなが知ってることじゃないからな。判断は間違ってない」
「ありがとうございます。ロベール様」

 ズルリと抜けると流れ出る。疑似の割にももの甘い香りがする。大好きなロベールの香りだ。

「ロベールキスして」
「うん」

 舌が絡むこの感じ大好き。ロベールのキスはとても気持ちよくて……んフッ…あんっ…もっと……

「ロベール様はお仕事抜けてますからそのへんで」
「ハァハァ……うん」

 そのまま抱っこしてくれてお風呂に向かう。リシャールは軽いなあって嬉しそうだ。

「鍛える?」
「いいや、この細い腰が好きだからいい」
「んフッ僕はこの唇が好き。少し厚めのここが」

 人差し指で下唇に沿う。だろ?っと微笑むロベールがかわいい。お風呂で軽く流すとロベールは仕事に戻り、僕はこの先の対策をミレーユと練る。

「側室は却下。東に行ってもらうのがいいですが、ただ異動するのは彼にとって居心地が悪くなる。さて、どうするのがいいですかね」
「うん。ちょっと伝を頼ろうかなって思ってるんだけどどうかな?」

 ミレーユに僕の案を話して了承を取り、翌日魔法省のアンリ様の元へ。僕の相談役になってくれるって言ってくれたんだ。宮中でお前をよく知ってるのは俺だって言ってね。伊達に大臣はやってなくて、俺の趣味は一人ひとりを観察すること。お前もそのひとりだと笑ってくれた。

「ほーん。また面倒臭い奴に好かれたもんだ」
「アンリ様。一言目がそれはひどい」
「お前は一部の人に人気あるからなあ。自分では気がついてなかっただろうが、結構狙ってた奴いたんだぞ」
「それは初耳」

 小動物感?っていうのかな。それを好む人がいるんだよって。俺はゴリゴリも好きだがなって。ん?その発言は愛人いるなこの人。妻は鳥族っぽい美人だからなあ。

「デカい奴の淫らな感じは堪らんからなあ。いや……ゲフン」
「はあ」

 咳払いして気を取り直し、側室にせず東にやりたいかあって。異動の時期でもなく行くのは確かに問題起こして来たって、認識されるから辛かろう。でな、とニヤリとした。

「東に淫らなことして子を授かったバカな神官が二人ほどいる。今どちらも独房にいるらしいんだ」
「ほほう……」

 そいつらがまた身分が高くてな?ユアン様の立ち位置の奴らだ。ちょうどよくない?って。さすが大臣、どこから聞きつけてくるんだか。僕は二日前に面会予約取ったのに、遠くの神殿の中をまあ。この仕事の速さは尊敬する。

「そいつらの代わりって送り込め。そこまでは俺も手を貸せるが、説得するのはお前だ。彼の心を変えるのはお前だけ。他の者の言葉は届かないだろう」
「はい。頑張ります」

 それにしてもお前は敵は多いわ、おかしな奴に好かれるわ問題がなくならねえなあって、呆れながら笑う。僕のせいじゃないもん!

「ああそれと、聞いてるだろうけどステフィン西の果ての超田舎の砦に飛ばされた。エミリアンは別の砦だ」
「はい、聞いております」

 あのふたり、僕のあることないこと話して騎士団長がブチギレて飛ばしたって。仮にも妃殿下になったリシャールの悪口は不敬だとね。元彼でも許せないって。アルフレッド様が特にキレてね。彼は体鍛えるの大好きで、近衛騎士の訓練場に出入りが多く、耳にしたらしい。

「王族の家族仲がいいのを甘く考えるからだ」
「はい。でも言われても仕方ない感じでした。僕は……そのね」

 その言葉に呆れてバーカってアンリ様。

「もっとふてぶてしくいろよ。王族だあ!偉いんだぞって。お前はそれくらいがちょうどいい」
「いやあ……それ感じ悪くないですか?」

 お前は舞踏会でもたまに姿が見えなくなるし、存在感がない。悪目立ちでもいいんだよって。嫌だよ。なら消えてた方がいい。

「目立てよ。ある意味第二の王様の后になるんだ。目立たないとダメなの!」
「そっか……頑張ります」

 なんでも卒なくこなしてるけどまあ、気配が薄い。問題起こすときだけ輝くのは違うんだ。ほかも光れって。また……アンリ様は。

「アンリ様はどこにいても目立ちますよね。美しさと威圧で」
「おう!それが俺だからな。あはは」

 話してみればとてもいい人で、面白い人でもあった。見た目で避けてたのは損した気分が今はしている。頼りがいのあるお兄様って感じなんだよね。お歳を聞いたら三十半ば。わかっ!もっと上かと思うほど落ち着いてて……見た目が怖い。いや、目つきが悪いが正しい。

「そうだな。子供の頃からこんなだから変わらん。でも変なやつが近づかなくて便利だぞ?」
「さようで」

 中身は荒っぽいロベールって感じなんだ。とてもかわいらしく聡明。そして強い。魔法だけで王族に匹敵するのでは?と噂されるくらい強い。
 前回のヘルナー討伐に彼を参加させなかった王は英断だった。彼が参加するとおほほ……あの程度の被害では済まなかっただろうと言われている。なんでもかんでも敵もろとも施設を破壊するからね。勝てばいいんだろって魔力を解放するから。

「やるなら楽しい方がいい。死ぬ時なんざ時の運。盛大に悔いなくやるんだよ」
「はあ。なんでそんなに潔いのです?」

 それはなあって、真面目な顔になった。お祖父様が大臣の時に、国内で小競り合いがあって周りに配慮した結果、大怪我して亡くなったらしい。怪我が重く治らなかったそう。

「だから、人の命は儚いと知っている。ならば討伐や争いは悔いなくやると俺は決めているんだ。その場で死んでもいいようにな」
「ふーん。素敵ですねとは言えませんよ。残る奥様やお子様が可哀想です」
「だから残すものは残している。愛人にもな」
「はあ」

 やはりいたか。おかしなこと口走ってたからな。そう言えばどこかで同じようなことを言ってた人いたなあ。マッチョが悶えるのがゾクゾクして股間の制御が効かなくて、一晩中楽しんだと。誰だっけ?まあ、いいや。

「また困ったことや疲れたらおいで。いつでも時間をとってやる。東に行ってもな。俺んち東だし」
「はい。ありがとうございます」

 アンリ様の執務室を後にして廊下を歩いた。

「説得出来そうですか?」
「分かんないけど頑張るしかないね」

 ミレーユは、やるだけ周りは手伝ってくれたから、後はあなた次第です。嫌と言ったら無理矢理もありますがと唸る。

「それは最終手段だよ。嫌だと仕事しなくなるかもだし」
「そうですが」
「それに彼の領地の兄上様は、ユアン様が帰ってくるなら大喜びって話だし、僕はすでに分が悪いんだ」

 はあ……面倒臭いとミレーユ。あなたはこんなことしょっちゅうですか?そんな話を聞きましたがどうなんですかと。その通りです。時々ちゃんと対応してるのにおかしくなることはあった。それで陰口されて参ったりしてねえ。なんでだろ。

「一部の変態に好かれる魔性の姫なんですね」
「やめて!傷つくから」
「すみません。ふふっ」

 そして翌月の慰問の日が来て……陰鬱な気分で神殿に向かう。ひとりは辛かろうと兄上がなんとか調整して付き添ってくれた。俺が子どもの相手してる間に説得しろとね。兄上は馬車の中で、

「父上は側室にして俺に子をくれ!と叫んでたけど、気にするな」
「うん、それは本当にない。兄上だから言うけど、触られた時に合わないと感じたんだよね」
「へえ……お前がそんなこと言うの初めて聞いたな。お前は好いてくれれば誰でもいいって感じたったから」
「グッ……ロベールのお陰です」
「だろうな」

 ガタゴト馬車は走る。僕自身より周りの方が僕をよく知ってるなあと、落ち込んだ。

「リシャール、お前は貴族のくせに裏表がなさすぎるんだよ。素でぶつかっていくのも大概にしろ」
「兄上!僕はそんなことしてません!」

 僕は顔を上げて抗議したが、キッと睨まれた。

「してるからこうなる」
「うっ」

 そうこうしてる内に到着。ユアン様は迎えに出てくれていた。でも笑顔が少しやつれてるような気がするかな。兄上は子供たちのところに向かい、僕はユアン様とお話だと伝えてあるから、客間に通された。

「お久しぶりですね。一回会わないだけで随分会わなかった気がしてしまいます」
「そうですね」

 神殿の下働きの方がお茶を淹れると下がり、二人っきり。でも今回はなにがあるか分からんから、扉の外に騎士を立たせている。

「動物園の寄付ありがとうございます。今少しずつ作ってます。まずはウサギやモルモットなど触れあえる生き物を用意していまして、馬や牛は今後小さな牧場を用意する予定です」
「子どもたちは喜んでますか?」
「ええ、それはもう」

 触りのあいさつがてら現状を聞いていたけど、彼の目が憂いに満ちていた。余計やつれたように見える。

「ごめんなさい。大ごとになってしまいました」
「いいえ。私が還俗したいと言い出したからですから、お気になさらず」

 無言。窓の外からは兄上が楽しませてるであろう子どもたちのはしゃぐ声がした。部屋は無音。いたたまれない空気が漂っていた。





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