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二章 緑の精霊竜として
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なんとなく落ち込んだまま帰宅して、ミレーユにお茶を淹れてもらう。一口コクリと飲み込んだ。
「なんかあったのですね」
「うん」
あったことを話すと仕方ありませんよと。肌感覚で違うと感じる相手は、たとえ結婚前に出会ってても続かない。まあ、あなたもロベール様も子供っぽいから、合う人なんざそうそういないでしょうよと言いながら、隣に座って抱いてくれる。
「でも、とても愛されてるのを感じて、罪悪感を持ったのですね」
「うん」
今までの彼とは違ったんだ。とても大切に思ってくれてるのは感じた。軽い気持ちで側室にしてくれと言ってなかったんだ、彼は。
「そりゃあそうですよ。神官を辞めてまであなたと共にいたいと願ったのですから」
「うん」
僕は彼の覚悟を理解してなかった。側室は表に出られなくなり日陰の身になる。身分だけは準王族でお金に困らなくなるだけ。その他は全部困るんだよ。主人が飽きれば放置になって、生涯ひとりぼっちだ。主人によっては愛人は不可と言われ、本気で寂しくなる。または
側室を止めた時、金銭の関係で家族がどう出るかも分からない。辞めた後の生活の心配もある。彼はどれだけの覚悟で僕に言ったのだろう。
「それを未然に防いだのですから、よかったのですよ」
「そっかな」
「ええ。彼がいい人であるのはみな知ってます。神殿の風紀を取り締まってるのも彼です。孤児が飢えないで生活出来てるのもね」
「優秀なんだね」
彼が神殿に入ってからここ十年と少し。寄付も多くなり神殿の修復も捗っている。彼の功績は大きいんです。次期司祭の候補になってますよって。
「なんでそれを簡単に捨てようとしたのかな」
「簡単ではありませんよ。それだけあなたとの生活を夢見たんです」
触れ合いは少なくてもそれでもと。ミレーユの言葉にさらに落ち込んだ。彼の期待には応えることは出来ない。少しの気持ちも彼に向けることが出来ないと思うんだ。無理にしてもバレるだろうし。
「彼ならそれでも嬉しいと思ったかもですが、長い目で見れば残酷です」
「うん」
そんなことがあって僕は気持ちを立て直せなくて鬱々と過ごしてた。当然ロベールは不審がってたけど、気にするなと言い含めて我慢させてた。そして、翌月の慰問の日が近づいたが。
「ミレーユどうしよう。どんな顔して行けばいい?」
「なら、公務が入って今月はおやすみーとか言って、行かないってのはどうでしょう」
「それ先延ばしにするだけだよ」
「それもそっか」
行けばなんとかなるんだろうけど、腰が上がらない。あんなに好かれてたんだもん。彼も会いたくないかもしれないしなあ。コンコンと誰が来た。ミレーユが扉を開けるとゴソゴソと話し、閉めた。
「お父上が御用だそうですよ。客間に来てくれって。慰問は午後ですから大丈夫です」
「うん」
外の客間に向かい中に入ると鬼がおる。なんで?兄上もいるし。
「ご、ごきげんよう父上」
「フン。座れ」
「はい……」
僕なんかしたかな?特に思い当たらないけど、鬼ふたりは僕を睨みつける。なんでぇテーブルの椅子をミレーユが引いてくれて座ると、メイドさんがお茶とお菓子を置いて出て行った。なんで出て行く!ミレーユも下がるしなんでじゃ!
「リシャール」
「ひゃい!」
父上は怒りを抑えつつ話し始めた。
「ユアン様となにがあった?」
「うっ……」
その名前に戦慄した。バレてる!
彼は身分は低いが神殿では上位の貴族。それもかなり優秀なのに還俗すると言い出したんだそう。あう……
「な、なにかあったのでしょか?おほほほ」
「お前は知ってるはずだ。言え」
久しぶりに全身から汗が吹き出してくる。なんて言ったらいいの?話すの?ユアン様はなんか言ってんのかな?どうしよう。かなり挙動不審になったけど、ニッコリして黙った。
「俺が何も知らないと思ってるのか?」
「はい……」
父上は国の諜報も担ってましたね。非公式だから「王の話し相手」って事になってるけど、本業はこっち。王個人の諜報部隊の長でした。隠しても無駄か。あーあ。
仕方なくあったことを感情を含めず、箇条書きに話した。
「そんなことがあったのか」
「父上、なら仕方ないのかも知れませんね」
うーんと唸り、側室にして子をもうけ我が家に下賜してくれればいいものをと、ボソッ
「父上!それは僕にも彼にも失礼です!」
「そうだが、我が家系も召喚術士の才が減っててなあ。こちらも切実なんだよ」
「父上、それとこれは一緒にしては」
「うん。魔族の血かあ、捨てがたい」
「はい?」
今我が国は荒野の開拓を国を上げて始めている。東の山から魔石と金属の鉱脈を見つけたんだ。でもその山と国の端っこの領地からもとても遠く、通うのも難しい。鉱山村を今建設中で、いずれ領地にまで大きくしたい。何年もかかるけど、今は僕がいるから農地はすぐに出来る。今までの何倍も早く領地に出来るから、急いでいるそうだ。そう、いずれ僕の管理する地域だ。また、このあたりの森が魔獣が多く大変。お前はこれからそこにかかりっきりになるはずだ。それなのに神殿を荒らすなどもっての外。国の邪魔をしたと怒鳴る。
「わざとじゃありません」
「んなもん分かってる。恋心など制御は難しいのはな。引き止めろ」
「ふえ?」
「お前を慕っているなら、その恋心を利用して東の神殿に行かせろ」
なに言ってんの?彼の人生で還俗したいってならさせてあげればいいのでは?
「ボケッ!下位の身分であそこまで自分を律せる者はいない。お前の顔を見たくなければ東の神殿長にしろ。行く頃には心は整理出来る」
「そうですが……」
兄上も彼は学園の頃から優秀。人に興味なさそうではあったけど、人当たりはよく見目麗しいからいつも周りには人がいた。その人の心を掴むとはお前は本当に……なんだクソだ……いやその、悪いやつだと。僕のせいかい!
「僕は普通に慰問に行ってただけです。なにもしてません!」
「だろうがな。一部の人に人気な姫だったんだよ」
「うっ……」
そうだよ。普通の貴族のアンは選ばなきゃ周りにノルンはたくさんだよ。でも、群がるノルンは容姿や身分で群がるから選ぶ対象ではない。それに、僕にはそんな人たちはいなかったしね!あはは。学年の頃はモテなかったんだよ。頭で悪態をついていた。
「まあなあ。この国で素直で純粋なんてモテる要素ではないしなあ。大方は強く自分を持った者を好むんだ。美しさもマッチョが一番モテるし」
兄上がアワアワして父上を止めた。
「父上、リシャールが死にます」
「ああ……ごめん」
僕涙目。親に全否定とかどんな拷問?自分だってマッチョで美しい母様もらっただろ!そう言うと、
「あいつは完璧だ。体も顔も心もな。俺はあれほどの姫をあの当時見たことはない」
「惚気は控えて、父上」
兄上は焦って止めたけど僕もそれは知ってる。母様あの当時の絶世の美人。引く手あまたを父上は射止めたんだ。どれだけ周りに憎まれたかは想像に難くない。僕らの自慢の母様だ。
「お前は顔も体もあちらの家に似たよな」
「はい……いけませんか?」
「いいや」
ジーッと僕を見つめる。穴があくよ。
「自分の子だから愛しいよ?王族との繋がりも物理的に作ってくれて自慢の子だ。が、ロベール様の足を引っ張ってはならぬ」
「はい……」
出来るなら側室にして子を俺にくれ。出来ぬのなら神殿から出すな!分かったか!と怒鳴られた。それとこの話はロベール様にも伝えてある。自分で言い訳しろって。ウソだろ!
「父上ぇ…なんで余計なことを」
「夫が知らぬなどありえんからな。側室を持つんだから」
「ぎゃあ!持ちません!」
どっちにしろ還俗はさせるなと兄上と席を立つ。リシャール無理はしなくていいからな。彼の人生だから、言うだけ言って彼に任せろと、サッと僕の耳元でコソコソと言って出て行った。兄様はお前の味方だよ、愛してるって。んふふっ兄上大好き。だが、これは慰問どころではないな。てなことで、帰り道警護の詰め所に向かい、兄上に慰問を頼んだ。
「俺が行くの?」
「たぶんロベールが怒り狂うから」
「ああ、そっか。なら俺が、司祭にお前がユアン様に面会に来るまでは逃がすなと言っておく」
「お願いします」
それを伝えて庭を突っ切って部屋に戻った。部屋に入るとゲボッロベールがいる。お仕事はどうしたのかなあ?なんでこんなに昼食前の忙しい時間に、なぜいるのかな?あう……
「おかえりリシャール。俺に話すことあるよな?」
「……はい」
もう逃げ場はなかった。ミレーユに目をやるとごめん!って小さくなっていた。
「なんかあったのですね」
「うん」
あったことを話すと仕方ありませんよと。肌感覚で違うと感じる相手は、たとえ結婚前に出会ってても続かない。まあ、あなたもロベール様も子供っぽいから、合う人なんざそうそういないでしょうよと言いながら、隣に座って抱いてくれる。
「でも、とても愛されてるのを感じて、罪悪感を持ったのですね」
「うん」
今までの彼とは違ったんだ。とても大切に思ってくれてるのは感じた。軽い気持ちで側室にしてくれと言ってなかったんだ、彼は。
「そりゃあそうですよ。神官を辞めてまであなたと共にいたいと願ったのですから」
「うん」
僕は彼の覚悟を理解してなかった。側室は表に出られなくなり日陰の身になる。身分だけは準王族でお金に困らなくなるだけ。その他は全部困るんだよ。主人が飽きれば放置になって、生涯ひとりぼっちだ。主人によっては愛人は不可と言われ、本気で寂しくなる。または
側室を止めた時、金銭の関係で家族がどう出るかも分からない。辞めた後の生活の心配もある。彼はどれだけの覚悟で僕に言ったのだろう。
「それを未然に防いだのですから、よかったのですよ」
「そっかな」
「ええ。彼がいい人であるのはみな知ってます。神殿の風紀を取り締まってるのも彼です。孤児が飢えないで生活出来てるのもね」
「優秀なんだね」
彼が神殿に入ってからここ十年と少し。寄付も多くなり神殿の修復も捗っている。彼の功績は大きいんです。次期司祭の候補になってますよって。
「なんでそれを簡単に捨てようとしたのかな」
「簡単ではありませんよ。それだけあなたとの生活を夢見たんです」
触れ合いは少なくてもそれでもと。ミレーユの言葉にさらに落ち込んだ。彼の期待には応えることは出来ない。少しの気持ちも彼に向けることが出来ないと思うんだ。無理にしてもバレるだろうし。
「彼ならそれでも嬉しいと思ったかもですが、長い目で見れば残酷です」
「うん」
そんなことがあって僕は気持ちを立て直せなくて鬱々と過ごしてた。当然ロベールは不審がってたけど、気にするなと言い含めて我慢させてた。そして、翌月の慰問の日が近づいたが。
「ミレーユどうしよう。どんな顔して行けばいい?」
「なら、公務が入って今月はおやすみーとか言って、行かないってのはどうでしょう」
「それ先延ばしにするだけだよ」
「それもそっか」
行けばなんとかなるんだろうけど、腰が上がらない。あんなに好かれてたんだもん。彼も会いたくないかもしれないしなあ。コンコンと誰が来た。ミレーユが扉を開けるとゴソゴソと話し、閉めた。
「お父上が御用だそうですよ。客間に来てくれって。慰問は午後ですから大丈夫です」
「うん」
外の客間に向かい中に入ると鬼がおる。なんで?兄上もいるし。
「ご、ごきげんよう父上」
「フン。座れ」
「はい……」
僕なんかしたかな?特に思い当たらないけど、鬼ふたりは僕を睨みつける。なんでぇテーブルの椅子をミレーユが引いてくれて座ると、メイドさんがお茶とお菓子を置いて出て行った。なんで出て行く!ミレーユも下がるしなんでじゃ!
「リシャール」
「ひゃい!」
父上は怒りを抑えつつ話し始めた。
「ユアン様となにがあった?」
「うっ……」
その名前に戦慄した。バレてる!
彼は身分は低いが神殿では上位の貴族。それもかなり優秀なのに還俗すると言い出したんだそう。あう……
「な、なにかあったのでしょか?おほほほ」
「お前は知ってるはずだ。言え」
久しぶりに全身から汗が吹き出してくる。なんて言ったらいいの?話すの?ユアン様はなんか言ってんのかな?どうしよう。かなり挙動不審になったけど、ニッコリして黙った。
「俺が何も知らないと思ってるのか?」
「はい……」
父上は国の諜報も担ってましたね。非公式だから「王の話し相手」って事になってるけど、本業はこっち。王個人の諜報部隊の長でした。隠しても無駄か。あーあ。
仕方なくあったことを感情を含めず、箇条書きに話した。
「そんなことがあったのか」
「父上、なら仕方ないのかも知れませんね」
うーんと唸り、側室にして子をもうけ我が家に下賜してくれればいいものをと、ボソッ
「父上!それは僕にも彼にも失礼です!」
「そうだが、我が家系も召喚術士の才が減っててなあ。こちらも切実なんだよ」
「父上、それとこれは一緒にしては」
「うん。魔族の血かあ、捨てがたい」
「はい?」
今我が国は荒野の開拓を国を上げて始めている。東の山から魔石と金属の鉱脈を見つけたんだ。でもその山と国の端っこの領地からもとても遠く、通うのも難しい。鉱山村を今建設中で、いずれ領地にまで大きくしたい。何年もかかるけど、今は僕がいるから農地はすぐに出来る。今までの何倍も早く領地に出来るから、急いでいるそうだ。そう、いずれ僕の管理する地域だ。また、このあたりの森が魔獣が多く大変。お前はこれからそこにかかりっきりになるはずだ。それなのに神殿を荒らすなどもっての外。国の邪魔をしたと怒鳴る。
「わざとじゃありません」
「んなもん分かってる。恋心など制御は難しいのはな。引き止めろ」
「ふえ?」
「お前を慕っているなら、その恋心を利用して東の神殿に行かせろ」
なに言ってんの?彼の人生で還俗したいってならさせてあげればいいのでは?
「ボケッ!下位の身分であそこまで自分を律せる者はいない。お前の顔を見たくなければ東の神殿長にしろ。行く頃には心は整理出来る」
「そうですが……」
兄上も彼は学園の頃から優秀。人に興味なさそうではあったけど、人当たりはよく見目麗しいからいつも周りには人がいた。その人の心を掴むとはお前は本当に……なんだクソだ……いやその、悪いやつだと。僕のせいかい!
「僕は普通に慰問に行ってただけです。なにもしてません!」
「だろうがな。一部の人に人気な姫だったんだよ」
「うっ……」
そうだよ。普通の貴族のアンは選ばなきゃ周りにノルンはたくさんだよ。でも、群がるノルンは容姿や身分で群がるから選ぶ対象ではない。それに、僕にはそんな人たちはいなかったしね!あはは。学年の頃はモテなかったんだよ。頭で悪態をついていた。
「まあなあ。この国で素直で純粋なんてモテる要素ではないしなあ。大方は強く自分を持った者を好むんだ。美しさもマッチョが一番モテるし」
兄上がアワアワして父上を止めた。
「父上、リシャールが死にます」
「ああ……ごめん」
僕涙目。親に全否定とかどんな拷問?自分だってマッチョで美しい母様もらっただろ!そう言うと、
「あいつは完璧だ。体も顔も心もな。俺はあれほどの姫をあの当時見たことはない」
「惚気は控えて、父上」
兄上は焦って止めたけど僕もそれは知ってる。母様あの当時の絶世の美人。引く手あまたを父上は射止めたんだ。どれだけ周りに憎まれたかは想像に難くない。僕らの自慢の母様だ。
「お前は顔も体もあちらの家に似たよな」
「はい……いけませんか?」
「いいや」
ジーッと僕を見つめる。穴があくよ。
「自分の子だから愛しいよ?王族との繋がりも物理的に作ってくれて自慢の子だ。が、ロベール様の足を引っ張ってはならぬ」
「はい……」
出来るなら側室にして子を俺にくれ。出来ぬのなら神殿から出すな!分かったか!と怒鳴られた。それとこの話はロベール様にも伝えてある。自分で言い訳しろって。ウソだろ!
「父上ぇ…なんで余計なことを」
「夫が知らぬなどありえんからな。側室を持つんだから」
「ぎゃあ!持ちません!」
どっちにしろ還俗はさせるなと兄上と席を立つ。リシャール無理はしなくていいからな。彼の人生だから、言うだけ言って彼に任せろと、サッと僕の耳元でコソコソと言って出て行った。兄様はお前の味方だよ、愛してるって。んふふっ兄上大好き。だが、これは慰問どころではないな。てなことで、帰り道警護の詰め所に向かい、兄上に慰問を頼んだ。
「俺が行くの?」
「たぶんロベールが怒り狂うから」
「ああ、そっか。なら俺が、司祭にお前がユアン様に面会に来るまでは逃がすなと言っておく」
「お願いします」
それを伝えて庭を突っ切って部屋に戻った。部屋に入るとゲボッロベールがいる。お仕事はどうしたのかなあ?なんでこんなに昼食前の忙しい時間に、なぜいるのかな?あう……
「おかえりリシャール。俺に話すことあるよな?」
「……はい」
もう逃げ場はなかった。ミレーユに目をやるとごめん!って小さくなっていた。
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