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二章 緑の精霊竜として

9 オリバー様……

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 内扉を開けるとやっと来たかと、ロベールは冷たい目を僕に向ける。ごめんなさい。

「まあいい。おいで」
「うん」

 ソファの隣に座ると肩に腕が回り、僕は胸の前の手を握った。んふふっなんか夜こうしてるのは久しぶりだ。嬉しい。

「ロベールごめんね」
「まあいい。母親とはそういうものなんだろ?」
「うん」

 なんか赤ちゃんの傍にいないと不安だったんだよねなんて考えていると、でも俺そっくりになったあってポツリ。うん、巻き毛くらいしか僕には似てなくて、ほとんどロベールなんだ。王族の血は強かった。

「あなたにそっくりだからかわいいんだよ」
「そっか」

 それとな、公務に戻れるくらいに体力は回復してるのか?と言われた。まあ、平気でしょう。

「よかった。冬の災害が東管轄の北側の領地で起きててな。土砂の片付けの後の依頼だが、栄養のない土が畑に流れ込んでしまったんだ」
「ああ、土地の活性化をするんだね」
「そうだ」

 緑の竜がいない時は、何年も掛けて肥料を入れたりして頑張るんだけど、今は僕がいるからお金も時間も節約出来るんだ。僕の派遣は王族だから格安で実費のみ。

「恩を売るチャンスで、味方作りの意味合いのある派遣なんだ」
「はい」

 それに助ければ間接的にだけど、税の免除申請が来ないから得はするし、北は大雪の時に土砂崩れとか、雪解け水での洪水が大規模に起きる時がたまにある。それが今回起きてしまって、畑に作物が植えられないんだ。僕も依頼が来たの時は産後過ぎて行けなくて、今は放置されてるんだって。

「悪いが急いでくれって」
「分かった」

 北の春は遅く今が早春だ。もう五月になるのにね。これから畑を耕し作物の苗を育て始める。そして畑に苗を植える頃にはひと月は過ぎてしまう。だからあちらは早く育つ品種ばかりなんだ。後はクマ魔獣の討伐だな。北はピジョンブラッドのクマ魔獣など大型の魔獣がいる確率が高い。冒険者は一攫千金狙いでたくさん来てるんだ。

「雪山だから上級者ばかりのパーティだな。それにクマ魔獣は凶暴だし」
「普通のクマですら凶暴なのにね」

 当然騎士団の討伐班も向かっている。お金は邪魔にならんからね!それに見つければ売り上げ以外にも騎士らに報奨金も出るし、この季節は彼らの気合が違うんだ。

「いつ行くの?」
「お前がよければいつでも」
「ならヨルク先生の許可次第だね」
「ああ」

 翌日侍医のヨルクに聞くと、うーんと唸った。

「竜になる予定ですか?」
「うん」
「そう……ですか」

 普通の活動なら許可するのですが、竜になって力を使うのかって。今までの王族の血筋の奥様も、産後すぐにそういった公務に出た記録がありません。どうだろう?って悩んでしまった。

 毎日少しずつとか?はどうでしょうか。いつもみたいに朝早くから夕方までとかしなくて、それなら無理しないし出来るのでは?と聞いてみた。

「あのですね。あなたはもう伯爵家の姫ではないのです。妃殿下なのです。なにかあっても困るんですよ」
「はあ……そうですね」

 そんな話を子ども部屋でしていると、どうだ?とロベールが入って来た。

「ダメそうです」
「え?」

 ロベールが椅子に座ると、ヨルクが先ほどの説明をもう一度してくれた。

「そっか……そうだよな」

 そのままロベールは腕を組んで黙ってしまった。ヨルクは、前の記録ではノルンが緑の竜の覚醒をする話しばかりで、調べた限りではアンが覚醒する記録はなかったらしい。だからわからないって。やれるかもだしダメかもしれない。判断が出来ませんって。

「なら僕試しに行ってみるよ」
「なに言ってんの?具合悪くなったらどうすんだ!父上に俺が断って来る」
「え?あの!」

 止めるのも間に合わないくらいサッと出て行ってしまった。唖然と見送るしかなく……

「私も半年は待った方がいいかと存じます。無理なさって体調不良になられても、この先に響きますし、万が一、二人目が産めないのは嫌でしょう?」
「うん……」

 ヨルクは民の気持ちに寄り添うのは大切ですが、まずご自分を大切にして下さい。赤ちゃんかわいいでしょう?災害は待つことは出来ますが、お母様はあなたしかいない。王族や貴族は親がなくとも子は育ちます。ですが、私は実の母に勝るものはないと考えます。半年後に行くなら、体はたぶん負荷に耐えられるくらいにはなってるはずだって。

「うん。そうする」
「ええ。私は母が無理して早世してましてね。もうこんな年ですが、やはり思うところはあるんですよ」

 ヨルクは今四十は過ぎで、母の記憶は全くないそうだ。生まれてすぐにご病気が見つかり、それでもと公務に子育てにと無理をされて天に帰ったそう。継母はよくしてくれたけど、やはりって心に引っかかるものがあると微笑む。実の親のようには懐けなかったそうだ。

「弟たちを見ていたらやはり……ですね」
「そう……」

 しんみりしてるとロベールが戻り、断ったと。え!そんなこと出来るの?

「当たり前だ。俺は結婚した時言ったろ。出来るだけだがお前を一番にすると」
「ああ…言ってたけど、でもこれ公務でしょう?」

 ヨルクは口を挟むようにそれがようございます。もしなにか言う者がいれば、私が味方しますよって。

「産後の肥立ちなど人それぞれです。こんな時に甘えなくていつ甘えるんですか」
「それもそうか」

 てなことで、お断りした。そして……うん。宮中でもいろんな催しでもヒソヒソ、まあよく聞こえる雑音。宮中では王族が災害の手助け断るとか何様と、産後の待機の時期は過ぎたんだろ?と、特にノルンのおっさんたちがね。僕はこんなセリフが浮かぶ時点で、そこんちの奥様は可哀想なことになってそうと哀れんだりもした。
 それに僕もお母様になったからには強くならなくちゃと無視。……気にならないと言ったら嘘になるけど。

「そうですよ、お母様は強くなきゃ。僕外見がこんなでしょう?王族の中じゃ浮くんですよ。でも気にしなーい。んふふっ」

 オリバー様はかわいらしい笑顔を浮かべた。今日は朝から雨でお庭にも出れなくて、オリバー様が僕のお部屋でお茶にしませんかと、誘ってもらったんだ。

「こちらに始めて入りましたけど、オリバー様らしいお部屋ですね」
「でしょう?かわいいものが好きなんです」

 動物のぬいぐるみもたくさんあって、部屋全体が暖色系の優しい色。端っこには作業用の場所があって、棚にはたくさんの布地や糸が並んでいる。まるで服屋さんみたいだ。

「僕小さい頃からお裁縫が好きでね。剣とか武術は本当はやりたくなかったんです」
「へえ……」

 オリバー様は、お友だちや親戚の大人しいタイプの方と、ここに飾ってあるぬいぐるみや刺繍をして遊んでたそう。

「僕の身近な人以外は武闘派と思ってるはずです。でもねぇ、見た目と中身が同じとは限らない」
「ですね。僕はこう言ったお裁縫は苦手です。母も祖母もですね。体鍛えるの大好きな人たちでしたので。僕はただ単に苦手」

 リシャール様のお家はそうでしょうね。とても文官の家系とは思えないくらい……文武両道ですから。モーリッツ様も奥様も、僕と変わんない見た目ですもんねと笑う。

「昔から僕は「お前どこからもらわれたの?」とかよく言われました。あはは」
「あら、お母様によく似てらっしゃるでしょう?オーランド家のお顔立ちですよね」

 はわあ……嬉しい。オリバー様はよく見てくれてたんだ。そう母方のオーランド家は美形揃いでなおかついい体の多く、美形の家柄と評判が高い。

「ありがとうございます。僕は祖母によく似てるんですよ。体型はアレですが、あちらの一族には細めの方も多いんです」
「ええ。リシャール様はお兄様とはあんまり似てませんが、目元はよく似てますよ」
「そう?嬉しいです」

 ああそうだ。これこれと側仕えの方から缶を受け取ると、僕に見せてくれる。

「この缶ね。獣人の国から来た紅茶なのです。南の国のじゃないんですよ。ぜひ飲んで下さいませ」
「うわー楽しみです」

 それと、これをあなたにも一つねって。金色の同じ缶の新品くれた。数が少なく、オリバー様の御用達のお店にたまたま入ったらしい。

「どうぞ、リシャール様」
「ありがとう。デビット」

 新しく淹れてもらった紅茶はとてもいい香り。一口飲むと自分が買っている物とはやはり違っていて、フレッシュな感じがする。発酵が弱い感じだけど、それが美味しい。

「これはストレートで飲むお茶ですね」
「そうなんです。なにか入れるには味が弱い。でもそれがいいんですよ」
「ええ。とても美味しいです」

 僕が貿易港から持ち込んで飲んでいるのがみんな気になったらしく、みなさんも取引先から色々探しているらしい。オリバー様はハーブのお茶も美味しいけど、こちらの方が好きかなって。だから最近宮中での催しで振る舞われるのは今まで通りで、この私的なお部屋では大体紅茶に切り替わったそう。おおぅ……

「ノルンの方たちはお茶なんかなんでもいいって人が多いですけど、やはりアンはこういった物を拘りたいですものね」
「あはは。そうですね」

 それにこうやって、兄弟やその奥様がなにやってるかすぐわかるのもあと少し、寂しくなりますねって。オリバー様たちは屋敷の改装が終わり次第出るそうで、あと数ヶ月くらいだそう。

「そうですか……せっかく仲良くなったと思ったのですが」
「ええ。もう少しここにいないかと夫に言いましたが、そう言ってたらずっと出なくなるからダメって」
「まあ……」

 ふたりで無言でズズーッとお茶をすする。僕ここまで仲良くなった方あんまりいなくて(彼氏以外)本気で寂しい。

「でも僕も公務では来るし、この部屋もそのままです。その時またお茶しましょう。数年すれば赤ちゃんも歩くし、一緒に遊びましょうよ」
「ええ!」

 そんなこんなで数ヶ月。オリバー様たちは屋敷が完成して引っ越してしまった。その頃僕も北の領地に出向き、土地の活性をして戻っていた。遅くなったけど、何年も改良しなくてすむからありがたいと喜ばれた。

「体調はどうだ?おかしくないか?」
「うん。平気だよ」

 ロベールは心配して毎晩聞く。そりゃあヨルクのお墨付きをもらってから行ったんだから、なんもないよと何度も言ったよ?それでも気になるからとベッドで僕をひん剥きペタペタと触り、探る系の魔力を流し確認する。

「うん。熱もないようだし、皮膚の色もおかしくない」
「まあ……あれから十日は経ってて今更おかしくなるとは思えないよ」
「そうだけど、遅れて出るかもだろ」

 ロベールは、自分たちが力を使うとかなり消耗するから不安はなくならないと言う。たぶんだけど、僕は精霊の力だから違うと思うんだ。精霊は魔素を取り込んで力を発揮する。自分の魔力を大量に使うこととは違うんだ。
 特に北は大規模とはいえ、あの戦の跡のような感じではなかったしね。あれは大気の魔素も土地からの魔素も少なくて苦しんだけど、今回は違うから。

「分かってるんだよ。でもなの!」
「はい。愛されて嬉しゅうございます」
「だろ?」

 中も確認するって僕をうつ伏せにして、香油を塗りつけてズブッ

「アーッなにすんの!」
「だって……触ってたらしたくなって」
「したくなってじゃ……あっんふぅ……腰振らないで」
「ムリ」

 ロベールは、ヨルクの話では産後発情期が簡単には来ないと聞いたから、なら今はやり放題だろ?って。お前の体を心配してるのは本当だけど、欲は抑えられない。愛してる気持ちが欲に繋がって愛し合いたくなると、エロくハァハァと喘ぐ。ったくもう!二週間しか我慢出来ないんかい!

「俺としては我慢した」
「あんっそうですか」

 本当に我慢してたんだろう、すぐにドクドクと果てた。僕まだイッてないけどまあいい。

「ゴメン……持たなかった」
「ふふっいいよ。本当に出してなかったんだね」
「うん」

 修復にも同行してくれてたけど、僕を抱くことはなかった。万が一があったら困るしと、抱っこしてるだけでね。かわいいなあロベール。

「もう少し抱きたいけどいいか?」
「ダメ」
「イッてないだろ?」
「いいの」

 そうとズルンと抜いて自分の上に僕を乗せた。

「ごめん。したくて……その、あの……お前を気持ちよくするとか全く出来なくて悪かった」
「あはは。いいよ」

 なんてかわいいんだ。捨てられた子犬みたいになっちゃってもう。うふふっこの胸に抱かれていればそれでいいと思えるんだ。多少の欲は受け止めるさ。セックス自体は嫌いじゃないからね。

「あのね、ロベールは毎晩に近いくらいするから、もう少し減らしてくれると嬉しいかな?」
「なんで?」
「なんでって……眠くてぼんやりする日があるの。公務で目が据わって、一瞬寝ちゃう時があるんだ」
「そっか。なら公務の前の日は止めとく」

 ……そう来るか。全体に減らそうとはしないのか。

「当たり前だ。一回でいいから毎晩交わりたい。リシャールを堪能して幸せに浸りたいんだ」
「ふう。なら仕方ないか」

 仕方ないとか母親になったらリシャール冷たいなあって。いやいや、あなたも父親の自覚を持ってくれ。

「持ってるけど、俺はそれとこれは別なんだ。いつまでも恋人のようにリシャールを愛していたい。勃たなくなるまではな」
「あら、ロマンチックなことを言うね」

 失礼な!俺は股間で物を考えている訳じゃない。連動してるだけだよと笑う。

「心はいつもお前に守られていた頃と変らない。大好きなリシャールなんだ」
「うん。いつまでも大好きなお兄様のままでいて欲しい」
「いや、それはちょっと。俺が守るんだよ」
「あはは。そうだね」

 いつまでも新婚の頃を忘れたくないと思う。愛しくて堪らないって気持ちを、僕は持ち続けたいと思った。ロベールが変わらなければ僕も変わらないと思うんだ。受け身の考え方だけど、妻はこれでいいと事前教育で習ったから、愛されるように努力しようと思ったんだ。





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