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二章 緑の精霊竜として

3 精霊の足跡は緑の草

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 王たちがヘルナーの屋敷に戻ると、すでに上物は消失し、土台だけになっていた。残った敵は捕縛され地面に転がっている。

「アーダルベルト様!」
「ああ、怪我はないか?」

 竜の姿から変身を解いていた王族の四人は、平気です。かすり傷でしたのでヒールでホラ、怪我はないと笑う。アーダルベルト王が戻ったのを確認した騎士団長ナタナエルは、この場の戦況を報告。他の殿下たちが戦士たちと共に、討伐を完了しました。火竜の戦闘に感動しましたと報告する。

「さすが火竜の力でした」
「ああ。戦闘経験がなくとも、なんとかなるもんだろ」
「ええ。我らも殿下方の活躍は驚きましたから」

 騎士たちは、縛り上げた捕虜を馬車に詰め込み、城に帰還し始めた。しっかり尋問しろよと王たちは送り出し、残りの戦士は現地調査を始めている。

「父上、申し訳ございません。我らだけでなんとかしたかったのですが、まさか魔族とは……」

 ふたりは項垂れた。ここまで自分たちが弱くなっているとは想定外で、魔族を相手にするとは思っても見なかった。調査が甘かったのです。それに気付かなかった我らの落ち度と謝罪した。

「いいや。私の炎は見たな?」
「ええ。あれはなんですか?見たことはなかったですが」

 王はこっちに来なさいと端に移動し、二人に説明した。

「これは王だけに遺伝する力だ。この力が宿る者が王になる。資質や性格などは考慮されず、直系の王の子どもに生まれる」

 アルフレッドにすまないなと微笑む。この力は生まれ持った力で、この力を受け継いでいる者が本来王になる。お前は次期王だが、この力はない。ロベールが持っていると話した。

「これは第一子だからあるものじゃない。平和な時は一子が王太子になるが、戦時などは持つ者が王に選ばれる。これはノルンだからアンだからは関係ない。だから王はたくさんの子を持たねばならぬ」
「ならば私は王にふさわしくはありません。ロベールに譲るべきでは?」

 アハハと笑い、不安の芽は摘んだ。お前でいいんだと、あれは王は向かぬ。今が戦時でないため、そのままでよいと王は笑う。

「ですが、私の子にその力を受け継ぐ子が生まれるのですか?」
「ああ、その確率は変わらない。先王も力がなく、東の叔父上の子どもに現れた」
「うそ……」
「私は父上の養子だ」

 王は語る。この国は五百年平和に暮らしていた。周りの国にも大きな戦もなく、小さな国々とも良好な関係を築いている。そりゃあ多少のゴタゴタはあったが、それは仕事柄、貿易のことなんかだ。税のかけ方とかそういった物で、話し合いで解決して来た。戦にならぬようリーリュシュも加わって穏便にことを進めてきた。

「アンの王もいたし、力のない王もいたんだ。だが、必ずひとりで三人以上作らないと、その王からは生まれない。だから他の兄弟から生まれないよう、王は先に三人子を持つ。歴代の王はだから側室を持つんだ」
「ああ、それで。正妻に子どもがいるのになぜ側室に?と思っていましたがそういう……」

 この話は王位継承の上位三名くらいしか伝えず、あくまで王家とのつながりを持ってもらうため、婚姻のための子どもたちだと世間には言っている。王はふたりにそう話した。

「だが、火竜の力すら発現しない者もいる。そういった子を貴族と婚姻させている」
「へえ……そんな理由があったのですか。でもなぜ三人?」

 それは竜の意志が働くからと言われている。どう言う理屈かは分からぬが、歴代そうなんだ。だから我が国の神は火竜なんだよって。これは共和国どこでもそうだ。王の血筋の子に生まれる。

「まあ、今度ゆっくりロベールも混ぜて話そう」
「はい」

 そして内乱を未然に防ぎ戦いは収束した。王はリシャールに、その場の家族に話せない部分を抜いて説明した。

「それでな?其方に頼みがある。魔族の魔石を無効化し、荒れた土地を元に戻して欲しい。モーリッツには話は通してあるから、後でやり方を聞いてくれ」
「はい……」

 僕とロベールはもう食事どころではなく、自分たちが幸せを謳歌してた時に、こんなことが起きていたなんて呆然とした。

「父上、なぜ私が外されたのでしょう。ワイバーンなら一日で戻れました。リシャールにフェニックスを召喚して貰うとかも出来ました!俺たちふたりが参戦すれば、兄上たちも苦労はせずに済んだはずです!」
「僕もそう思います。フェニックスの火力は竜に劣らないどころか、敵を焼き尽くします。残らず片付けるのならば、僕の力は大きかったはずです」

 あーそれ聞いちゃう?ってみんなの目が言っていた。王も兄弟もむーん。だけど、僕も曲がりなりにもこの国の貴族で、それも召喚術士で従魔は竜に匹敵するフェニックスだ。負けはしない。なんで外されたんだろう。

「聞きたいのかロベール、リシャール」
「はい」

 なら私がと、アルフレッド様が真面目な顔をしてロベールを見つめた。

「お前らは優しすぎるんだよ。お前は人殺せる?無理だろ」

 はあ?と変な声を出しアルフレッド様を睨んだ。

「そんなことになってたら出来ますよ!そんな……怖気づくなどありえません!」
「噓だね。兄様は無理だよ」

 なんだと!とルーカス様に食って掛かった。僕はね、兄様が魔獣討伐も嫌がるの知ってますぅ、生き物が死ぬの見るのを嫌ってるって。野外の訓練でも、牛の魔獣ですら血だらけで死んでるのを見つめて哀しそうにしてるの知ってますぅ。隅っこで落ち込んで、その日の食事すら喉を通らないのもね!

「いやそれは……肉になればそこまで気にはしないんだが、死体と叫び声がその……」
「兄様はそれでいいんだよ。優しい東の王様になればいい。リシャール様もそれが辛くて付与技師になったんでしょ?」
「いえ……僕は違う理由ですが……」

 僕は見えないようで、三人で言い争った。するとごほんッと王が咳払いして、後日話し合おうと場を閉めて食事は終わった。その夜はロベールは不貞腐れ僕を抱き枕か!って感じで抱いて寝た。そして数日後の午後、話し合いの場が持たれ、お前は特別と一緒に話を聞いた。

「其方も精霊を宿す者。ブランデンブルグ家も同じように引き継いでいくと聞いている」
「はい」

 夕食時に端折った部分をそこで聞いたんだ。王妃たちには聞かせてはならない話だそうで、僕も死ぬまで他人には話すなと。モーリッツには最近話した。それで父上は僕んちのことも話したそうで、これは王家とお前の血筋の者だけの秘密なんだ。もう、婚姻関係がなくとも、我らは一族みたいなもの。心せよと。

「かしこまりました。私が死ぬまで他言いたしません」
「そうしてくれ」

 その後父上の暇をぬって竜の教えを請い、フェルグナーの地に土地の修復に向かった。

「なんか……」
「うん」

 魔石の山から屋敷の前まで広大な面積が、この世の地獄と化していた。平和な今の時代に見る景色とは思えない、瓦礫の山を僕らは上空から見下ろしていた。

「こちらの負傷者は?」
「負傷者は多いが死者は少なかったようだ」

 父上はさすが王族だなと笑った。六匹参戦したんだから、当然だと。

「王がな、変身して実践で戦うことなどこの先ない。腕試しに行ってこいと命じたんだ」
「へえ……」

 この国の者では確かに王族の一匹ですら敵わないからね。まさか魔族が混じってるなんて思いもしなかったそう。

「建国からいたとはなあ」
「ええ」

 敵の尋問で分かったことは、隙を狙ってこの地に魔族の国を作ることが目的だったそうだ。だけど、あの頃の王族は数が多く、なおかつ大きく力の強い火竜がわんさか。手を出しても返り討ちだから静かにしていたそう。魔族もエルフ同様に長命な種族で、魔族は千年をゆうに越す生き物なんだ。好戦的でずる賢く、体も丈夫だと昔の書物にはある。交渉相手としては面倒臭い部類だね。それもあの頃の混沌の時代の魔族だからそのまんまの考え方で変わらなかった。

「もっと早く手を打っていればと思わないでもないが、今回までは多少性格の悪い一族って感じだったからなあ」
「まあ」

 魔族の本国の手下がリーリュシュの現状を確認し、ここも住みづらいと賛同し、少しずつ金も人材も何十年も掛けて集めていたらしい。周到に用意していたらしい。好戦的な魔族は今でも健在だ。

「だけどなあ、どの時代でもバカは必ず紛れ込むもんなんだよ、魔族に限らずな」

 父上はまあなんだ、後ろ暗い者たちの口に噂話として上がり始めていたのを、我が国の諜報機関が聞きつけた。そして調べたら出て来て確定。細かいことまではわからなかったけど、内乱の準備はほぼ出来ていたらしい。その訓練と称して、東のそこそこの大きさのゼグス王国を煽って、近隣と戦が続いている。

「まあ、あそこにもうちから親書を送ったから落ち着くだろう」

 ほらほら変身して、教えたようにやれと急かされワイバーンが降りた。僕は服を脱いで緑の竜になった。

「ロベール服は持っててね」
「ああ。なんの心配してるんだお前は」
「だって裸で帰りたくないもん」

 父上もなんの心配だと呆れた。いや、大事でしょう!帰りはマントでもなんでも羽織ればいいんだ!早くと。モタモタしてると夜になるとうるさい。

「なりません!まだ朝です父上」
「お前の様子ではなりそうだよ!」
「ゔーッ」

 いいから行け!と、仕方なく支度を始めた。するとスッと僕の肩にロベールが座る。落ち着けよって。

「うん。えっと……体に魔力を巡らす……と」

 目を閉じて手を組んだ。なんかゴツゴツした手で、爪も鋭く変な感じはするけどね。

「よし緑に光ったからそれでいい!さっさと歩け!」
「はい……」

 目を開けて歩き出した。焼けた土を踏みしめると、僕の足の周りから半径二メートルくらいが焼け焦げがなくなり、ザワザワと草が生えた。僕自身の背中が草原の花畑みたいになってて、それそっくりに地面が変わって行くんだ。

「すごーい」
「早く歩け!」
「父上うるさーい!」

 上空から文句ばかりだ。歩くのは僕なんだよ!
 僕が降りた場所は戦火の一番端で、目の前の道だったところをとりあえず歩いた。

「リシャールふかふかでかわいいな」

 スッと立ち上がり角を掴んでロベールは、変なことを言う。

「そう?ものすごくトカゲ的ですが」
「この鹿の角見たいなのもかわいいよ」
「えへへ」

 角を撫でてもらったら、くすぐったくて笑いが出た。ロベールはそのまま僕の肩に居座り、終わるまでここにいるからなって。やだあ、なら頑張ると嬉しくなってたら、父上がスーッと反対側にやって来て、

「遅い。走れ」
「やだよ!疲れるもん」

 クワッと目を剥いた。僕は父上はいつから魔物になったんだろうなどと思った。

「お前はどれだけ焼けてるのか分かってるのか?領地の街全部黒焦げなの!周りの畑も黒焦げなの!妃殿下の警護は人数使うんだ。何日もやってたら騎士にも迷惑だし、民も戻れないし土地の再建も始められない!」

 父上は僕の右肩にドスッと座り、クドクドとお説教。

「はあ……なら少し」
「そうしてくれ。修繕の準備は出来ていて、ほら」

 僕が歩いて、そこそこ活性化したスタート地点に馬車が多数来てて、職人さんがむっちりした腕を組みして待っていた。

「え?同時進行なの?」
「民からの要望でな。ここは鍛冶職人の街で、納期に困ると嘆願に来たんだよ。遅れると評判に関わるとさ」
「はーい」

 父上は僕の肩に乗り急かす。角掴んでほらほらあっちに歩けとかそこ抜けてるとか。うるさーい。

「リシャールごめんな。王族の火竜は普通の火竜の火と違って、火力が強くて土地を駄目にするんだ。足元をよく見てくれ」
「うん」

 よく見ると土が陶器、セラミックのようになっている部分があった。フェニックスと同じようになるんだな。

「こうなるとさ、土地が死ぬんだよ。敵も死ぬけどこちらもある意味死ぬ。街が終わったら山の方に行くけど、あっちは父上が盛大にでな……あはは」
「おほほほ……」

 想像は出来た。一瞬で敵を焼いたそうだから、周りはセラミックコーティングのようになってるかもね?

「父上、そんなセラミックみたいになってるの僕の力でなんとかなるの?」
「なるさ。記録では出来てたからいけるだろ?」
「ならいいのですが。ねえ飛んで魔力垂れ流しではダメなの?」

 あはは、と高笑いされて駄目と言われた。

「この再生に関しては土地とお前が契約してるようなものなんだ。ただ草を生やしてるのとは意味が違う」
「さようで……」

 それと歩いてて気がついたんだけど、僕軽いよね?竜や大型の動物みたいにドシンドシンとか振動はなく、まるで人が歩いてるくらいなんだ。

「当たり前だ。精霊ってその名のとおりなんだよ。重さはあるんだろうけど、常に半分浮いてるように移動するのが精霊なんだ」
「言われてみればそうだな。俺白っぽい大型の熊の精霊見たことあるけど、枝に当たる音くらいで足音させないで走り去ってた」

 ふーん。これ終わったら真面目に自分のことだし、実家に帰って調べるか。

「フン。今までしてこなかったのが悪い。アルフォンスは学生の頃から読み込でたぞ」
「すみません……力など片鱗もなかったから、そんな知識はいらないかなって……」

 お前は優秀だが興味のないこと、必要ないと感じると排除しがちだ。妃殿下はそれでは駄目だ。なんでも知識として頭に入れなければならない。雑学でも民の噂でもな。それが人の上に立つ者の仕事だ。知らないは通らないぞと。

「はーい」
「あはは。いいさ俺がお前の足りない分を補うさ」

 父上は、甘やかしたら駄目ですよロベール様。この子はあなたにべったり甘えるから成長しなくなる。妃殿下として知識の偏りがさらに大きくなるし、本人が困るんですよと苦言。

「いいよ。俺は嬉しいから構わない」
「はあ。なら私がムチを持って……」
「嫌だよ父上」
「黙れ!俺が躾直す!」

 なんて言いながら歩き回りお昼。城から来てくれたクオールたちがせっせと用意してくれた食事を食べた。

「一面草原になりましたね」
「うん」

 その一部はすでに術師と職人が手を入れていて、家の枠組みが出来て街らしくなっている部分もある。

「こんな術師がいたんだね」
「ああ。街を作る時に出張る部隊だな。お前のところにいた者たちだろ」
「そうなんだけど、普段は魔獣退治に出てた人たちだから」

 僕の見知った人も混ざっててね。そんな力を秘めてたとはと驚いている。土魔法系の人で、屋敷を作ったり道を整えたりの土木系。そんな術師は民だけだと思ってたんだ。

「そんな訳あるかい」
「父上言葉がきつうございます」
「お前の不勉強を責めている」
「すみません」

 ロベールは僕と父上とのやり取りを幸せそうに見つめていた。気負ってない僕が見えて楽しいと。

「ロベール、そう言えばここは誰が領主になるの?」
「ああ、今協議中だ。ヘルナー御用達は全部途絶えたから、商人の窓口になれる者を当てないとでな」

 個人的な繋がりはともかく、武器輸出に支障が出ていてどうするかなあって。ここほど手広くやっていた領主もいなくて、選定に時間が掛かっているそうだ。ほほう。

「輸送も商会も全部だ。ヘルナーの息のかかっている者たちは今粛清中で、国内全域で討伐している。それが終わるまでには何とかしたい」
「洗い出しに時間がですな」

 ロベールと父上はうーんと唸る。長い年月だから、どんな繋がりがどこまでと言うのが分からない。でもね、魔族の王が手伝ってくれてるから年内にはなんとかなるだろって。え?魔族の王?

「ああ、端的に言えばごめんね、後始末手伝うよって親書が来たんだ」

 ロベールはこの話は長くなるから、土地を復活しながら話すよって。僕らは爽やかな日差しの中、昼食が終わり席を立った。




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