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一章 森の中の国
8 結婚式はバトル?
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おはようございますと、側仕えのふたりの声。寝室の扉が開いていることを不審に思ったのか、走り込んで来た。
「どうされましたか!」
「あー……話し合いに決着が付かず今になった」
王子の疲れ切った言葉にふたりは絶句。リシャール様頑固すぎと、クオール。
「分かりましたが、これから式がございます。一度休戦といたしましてお支度を」
「ああ」
僕たちは湯浴みに向かった。当然別々で支度して、寝不足のまま式に臨んだ。
僕は相変わらずの緊張感で眠けも吹っ飛んでいたけど、ロベール様は肘掛けに腕を付いて、会場を見ているような雰囲気を醸し出し、寝ている時間もあった。さすが王子、こんな中でも緊張しないんだな。そして舞踏会の時間。ふたりで中央で格闘のように踊り席に着いた。
当然といえば当然だけど、昨日も出席した貴族はザワザワ。昨日の幸せそうな雰囲気は消えているような?どうしたんだろ?と。そして最後のロベール様のあいさつ。
「みなありがとう。俺は妻を手に入れたはずだった。しかし、妻は言うことを聞いてはくれない」
「なっ!」
隣に立つ父上にシーって言われて黙った。僕は笑顔はすでに作れない。
「俺は妻の心を絶対に手に入れるつもりだ。俺は絶対に諦めない!」
おおぅ……と、なんと答えて言いかわからないような、おかしな声が会場に。ロベール様は妻をとても愛している。拒否されても愛していると熱弁し、僕らは下がった。のに、父上と王もついて来た。
「ロベール、あのあいさつはなんだ?」
「ああ、リシャールが俺の妻は無理と言った。どうしてもと言うなら愛人か側室にしてくれって」
はあ?とふたりは変な声を出し、父上は怒りがこみ上げたのか顔が赤くなった。
「なんだそれは!お前はこの結婚を納得したんじゃないのか!」
「しましたよ!ですがこの半年頑張ったけど、妃殿下に仕上がりませんでした!僕では力不足なんですよ!無理なんです!」
僕の怒鳴り声に父上はビクッとして引いた。
「えっと、そんなことはないだろう?ちゃんとしてただろ?」
王も不足を感じなかったがと顎ヒゲを擦る。
「昨日式の後お風呂で、メイドさんや側仕えの方たちに指摘されました。何ヶ月も訓練したのに臣下に敬語を使うとはなにごとだ。恥ずかしくて体も自分で洗ってしまい、叱られました」
「あ、ああ……そう……」
僕は思ったことをぶちまけた。ロベール様は愛してると言ってくれるが、それに見合うものを僕は持っていない。努力しても手に入れられないんですと。表面的に整えても他人が怖い気持ちはなくならない。僕は花嫁衣装の白の上着を脱いだ。
シャツはビッチョビチョで背中に張り付き、ズボンまで汗で濡れているのを振り返って見せた。それほどの緊張感で臨んでいたと話した。慣れたとしても対して変わらない未来しか思い浮かばず、ロベール様が愛した僕はもういないんです!と、ヤケクソのように叫んだ。
「お前、もっと早く言えよ……」
父上はなんでと弱々しい声で僕を哀れだと見つめた。
「父上。ロベール様とはそんな気持ちにならなかったから、お傍にいられるはずと思い式には出ました。しかし、部屋に下がってから気が付いたんです。四六時中他人のいる環境で心も体も休まらず、今は一睡もしてないのに気は立っている。こんなんじゃ王子の隣にいる資格は僕にはない!」
あららと王は一言。まあいい、全員座れと言われて各々座った。当然僕は父上の隣。王子はキッと僕を睨み、こっちに来いと。
「いいえ」
「なんだと!」
ロベールちょっと黙れと王が静止し、なんでそんなに卑屈に考えるんだ?今出来なくともいずれ出来る。王太子妃も、第三王子の妻も初めは似たり寄ったりだった。ちゃんと出来るようになるさと笑った。
「お二人は元がいいのです。僕とは違います」
「そんなことはない。美しさで言えば其方が一番美しかろう?」
「見た目ではありません。中身が残念なんですよ」
父上は僕の様子に不審げ。他人に向かって、これだけきちんと話している姿は見たことないと眉間に深いシワ。
「父上。こんな時におどおどしてどうするんですか。僕の人生が掛かっているのです。それにロベール様の未来の評判にも関わる。クズな嫁を貰ったもんだと世間に笑われて、家名も王家にも傷が付きますからね!」
お前どうしたの?なんか悪いもんでも食ったかと問われたが、何も食ってねえよ。食う時間なんざなかったよ!眠いし腹減ってるし、体は冷や汗で冷たくて気持ち悪い。結婚式なのに幸せな気分もないんだ。辛いばっかだよと父上を睨んだ。
「なんにもないんです!僕は大人になり切れてなかったんです!」
叫ぶように言い切った。ハァハァ……もうどうとでもなれ。
「ふむ、言い分は分かった。ロベール、お前はこれを聞いてどうするんだ?」
「振り向かせます。どんなことをしても俺を愛してもらいます」
ほほう。この頑固者がお前に振り向いてくれるのか?お前のことを見ずに自分ばかりを責めて、世間体しか見ておらぬぞって。
「それは俺の愛の伝え方が悪いからです。俺の母のことで助けてくれたのは、俺にとってとても大きな出来事でした。小さな体で年上の俺を守ろうとした。俺を悲しませないように、泣きながら笑える強さと優しさを持ち合わせている。それがこのように表れているだけと、俺は知ってます」
「ふーん」
王はだそうだモーリッツ。このまま嫁にくれぬか?と父上に笑いかけた。あの頃のままじゃないか、ロベールをきっと好きなんだな、だから大切にしたくてこのようにごねているんだ。かわいいじゃないかと。
「申し訳ございません。このようなリシャールの姿は私も見たことがなくて。でもそう言われればあの頃のままですな。あはは」
「父上!どこを見て言ってるのですか!」
まあいい、式はこれで終わりで明日からひと月休みだ。ふたりは新婚旅行に行くはずだったが、どうするんだ?と。
「俺は行きたい」
「結構です。私は城でじっとしてて、新しいお嫁様が来るのを待ちます。目障りなら病気で療養しに実家に帰ったとでも言って下さい」
ふたりはあははと笑う。なにがおかしいんだよ。王様、あなたの王子がクズの嫁を手にしたんですよ!笑ってる場合じゃない!
「リシャール少し落ち着け。なら聞くが、なぜそんなにロベールを気遣う?」
え?気遣うとは……はい?
「それは僕が王族の皆様を敬愛しているからです。王様も王子様たちも幸せに笑っててくれたらいいなって、いつも思ってます」
「ああ、ありがとう」
僕は続けた。我が一族はこの地の民族とは違う。同じ肌の白さはあるけど別なんだ。それにうちには王族の血は一滴たりとも入っていない。この国の建国から、一度も王族から姫も王子も下賜がないし、王族に嫁いだ者もいない。僕は異例過ぎるんだ。
「お前そんなこと気にしてたのか」
「父上、気にするでしょう?」
多民族の血を嫌うんだと僕は理解していた。そりゃそうだよね。竜の力が弱まっても困るし。
「モーリッツ、お前話してないのか」
「はあ……話した気がしてましたが、アルフォンスにしか話してなかったのかも……」
「そうか」
なら私が話そうと、王が話を始めた。
「リシャール、建国以来其方の家に下賜も、嫁も婿も取らなかったのは理由がある」
「はあ、他民族だからでしょう?」
「違う」
はあ、なにが違うの。ねえ父上?と聞けば、黙って王様の話を聞けと言われた。
「其方の血筋は確かに我らとは違う民族だ。同じような地域に住んではいたがな」
「はい」
西の大国リーリュシュ出身の王族と民。あの国が急激に大きくなり過ぎて、千年前に管理しきれなくなったのが原因で、戦が起きて結果、この国は生まれた。
魔法もまだ荒削りの時代で、民の気性も荒かったらしい。それで王族があちこちに小国を作り、民の移住を促したがうまく行かず、結果内乱状態に発展。
それを好機と他国が侵略して来て、グタグタの大戦に突入した。この国の始祖はエルフの国と交戦した。
初めは普通に戦っていたがそこはエルフ。精霊の力をバンバン使って攻めてくる。仕方なく、王族は火竜に姿を変えて応戦、そしてこの地を獲得したんだ。その時に一緒に戦っていたのが、我が先祖。
「其方たちは小さな小国の貴族だった。その国の公爵で王族の一員でな」
「へえ……初めて知りました」
僕はあんまり自分ちの歴史に興味はなかった。他民族ってだけで用は足りると考えていたから。
「その小国は竜の民だった」
「へ?」
その頃にはほとんど力は失われていたようだが、自然を操る竜でとても珍しい種類。今はもういない竜の血を引いている。
「父上なにそれ?」
「お前はなんにも調べなかったんだな」
「うん、興味がなくて。小さい国の貴族なんて、ただの民とか、村長みたいなもんと思ってたし」
「お前……はあ」
父上は呆れてしまったが、我が家はたまにその竜の血が現れることがある。この千年で数人生まれてて、この国の森の管理をしていたそうだ。へえ……すげえ。
「そういった血筋だから嫁に出さず、下賜も受けてなかったんだ」
「ふーん。なら僕は余計まずいでしょ」
だが、もういいかなと王と相談したそうだ。我が伯爵家はこの国と混じり合い、ここ五百年そんな者は生まれてはいない。もうほとんど力はなくなったと考えるのが妥当で、王族の竜の血に干渉しないんじゃないかとなったそう。
「我らの竜は温厚で自然を愛する竜。戦いには向かない。吐く炎は森を育て、砂漠を森にする、それこそエルフが使役する精霊のような竜だった。たぶん竜型の精霊なんだろう。そう伝わっているんだ」
王族と交わると攻撃力の高い竜の力が弱まると考えて、伯爵家なのに王族との婚姻がなかったそうだ。
「もう時効だろうと、私はロベールとの結婚を認めたんだ」
「へえ……」
その優しさや他人を思いやる心は、その竜の影響かも知れない。自分より他人をと考えるのが其方らの一族だと王は笑った。
「そうなんですね」
「ああ、お前はその影響が多少強い。だから人との争うのを嫌ったんだろうな。緑の竜は心優しく、人と暮らしていたそうだから」
父上は、あの事件から殻に籠るようになったのもそのせいだろうって。大好きな王族だから守りたかった。でも出来なかったことが深く自分を傷付けたんだ。それに僕は幼い頃ロベール様が好きだと、嬉しそうに話していたのを、父上は思い出したそう。ゔっ……
「お兄様だけど優しくしてくれる。遊ぶのがとても楽しいって」
「お、覚えておりません」
向かいに座るロベール様は幸せそうに微笑んだ。あれほど怒りを前面に打ち出していたのに、うっすら微笑んでいた。……なんか恥ずかしい。
「頭を切り替えろ。他人の幸せにばかりを気にするのではなく、自分のことも幸せにしてやれ」
「ですが、僕の能力不足は変わりません」
そんなものロベールにフォローさせればいい。数年もあれば慣れるはずだ。王太子の奥様はそのくらい掛かっていたそうで、なにかの催しの後は泣いていたらしい。次の王妃になるのにこんなで申し訳ないと泣いていた。他国との交流は特に緊張したらしく、話しが頭に入らなかったり聞き取れなかったり。その度に泣いていたそうだ。
「だが今や、あれはそんなことはなかったように立派に仕事をしている。お茶会の主催も難なくやっている。問題ないさ」
次期王妃のラウリル様は優雅で美しいんだ。お子様もかわいらしくてね。そっか……僕らには精霊の血が流れてるのか。そうだぞって父上。
「ロベール、妻のために動けるな?」
「はい父上。俺はリシャールがいればそれでいいのです。俺の隣にいてくれればなんでもします」
「なあリシャール。ロベールに人生を託してみてはどうかな。我らも力になろう」
なんか王と父上の話には納得する部分もあった。人に流されるのは揉め事が嫌いだから。付き合ってと言われれば流れで承諾し、相手のために尽くすのは当然と考え、別れたいと言われればあんまり食い下がりもしなかった。よくよく考えれば美人だからいいかと、内面は放置してたんだ。
ステフィンだけは本当に好きだったけど、好き過ぎて反論どころか好かれようと動くばかりで……そりゃあつまらんよね。
「ロベール」
「はい父上」
「部屋に戻って、ふたりでよく話し合え」
「はい」
僕たちは促されて自室に下がった。部屋に戻るとさすがに疲れてて、着替えてソファに座ると動く気力はなくなっていた。
「話は明日にしようよリシャール」
「はい。ではお休みなさいませ」
僕は立ち上がり自室に向かった。もう眠くてフラフラする。風呂も明日でいい。
「なあ、リシャール。俺と寝よう?」
「はあ……」
僕は振り返ってロベール様を見つめた。捨てられた子犬みたいな顔するのはずるい。
「ロベール様、僕はあなたがたぶん好きです。子供の頃の気持ちは忘れてますが、これだけ自分が出せる相手はあなたが初めてです」
「なら」
ふうと僕は息を吐いて、改めてロベール様を見つめた。
「王様や父上の話は納得出来るような気もしました。自分の出自も知れましたし。ですが、僕は話し合いが決着するまでひとりで寝たいのです。数日自分の気持ちを整理してしてから、そう考えます」
数日ってと呆れたような声を出したが、今日はこれだけ眠いんだからいいだろって。そうだけど、彼に抱かれてると、まあいいかとなる自分が嫌なんだ。ゆっくりでいいなら頑張れると思うし、相手ばかりではなく、自分も一緒に幸せになると心を切り替えたい。能力不足はいかんともしがたいが、時をくれるというなら頑張ろうとも思う。
「そうですね。あなたに抱かれて眠るのはきっと幸せでしょう。でもね……ねむっ」
死ぬほど眠くて頭が回らん。もう上手く言葉が出て来ない。なに言うんだっけ?
「ごめんなさい。上手く言葉が……また明日話しましょう」
「待って!」
ロベール様が立ち上がって僕を抱き締めた。
「お願い一緒に寝よ?もう初夜をする体力もないから、本当に寝るだけだから」
「うん。でも……」
うー……足に力入いんない。眠くて立ってるのも面倒臭い。
「もう立ってるのも辛いんだろ?」
「うん……」
なら俺と寝ようよと抱っこされて、ベッドに寝かされた。
「明日話そうぜ」
「うん……」
優しく抱かれると、彼の体温が心地よくてドンと扉が落ちるように意識がなくなった。
「どうされましたか!」
「あー……話し合いに決着が付かず今になった」
王子の疲れ切った言葉にふたりは絶句。リシャール様頑固すぎと、クオール。
「分かりましたが、これから式がございます。一度休戦といたしましてお支度を」
「ああ」
僕たちは湯浴みに向かった。当然別々で支度して、寝不足のまま式に臨んだ。
僕は相変わらずの緊張感で眠けも吹っ飛んでいたけど、ロベール様は肘掛けに腕を付いて、会場を見ているような雰囲気を醸し出し、寝ている時間もあった。さすが王子、こんな中でも緊張しないんだな。そして舞踏会の時間。ふたりで中央で格闘のように踊り席に着いた。
当然といえば当然だけど、昨日も出席した貴族はザワザワ。昨日の幸せそうな雰囲気は消えているような?どうしたんだろ?と。そして最後のロベール様のあいさつ。
「みなありがとう。俺は妻を手に入れたはずだった。しかし、妻は言うことを聞いてはくれない」
「なっ!」
隣に立つ父上にシーって言われて黙った。僕は笑顔はすでに作れない。
「俺は妻の心を絶対に手に入れるつもりだ。俺は絶対に諦めない!」
おおぅ……と、なんと答えて言いかわからないような、おかしな声が会場に。ロベール様は妻をとても愛している。拒否されても愛していると熱弁し、僕らは下がった。のに、父上と王もついて来た。
「ロベール、あのあいさつはなんだ?」
「ああ、リシャールが俺の妻は無理と言った。どうしてもと言うなら愛人か側室にしてくれって」
はあ?とふたりは変な声を出し、父上は怒りがこみ上げたのか顔が赤くなった。
「なんだそれは!お前はこの結婚を納得したんじゃないのか!」
「しましたよ!ですがこの半年頑張ったけど、妃殿下に仕上がりませんでした!僕では力不足なんですよ!無理なんです!」
僕の怒鳴り声に父上はビクッとして引いた。
「えっと、そんなことはないだろう?ちゃんとしてただろ?」
王も不足を感じなかったがと顎ヒゲを擦る。
「昨日式の後お風呂で、メイドさんや側仕えの方たちに指摘されました。何ヶ月も訓練したのに臣下に敬語を使うとはなにごとだ。恥ずかしくて体も自分で洗ってしまい、叱られました」
「あ、ああ……そう……」
僕は思ったことをぶちまけた。ロベール様は愛してると言ってくれるが、それに見合うものを僕は持っていない。努力しても手に入れられないんですと。表面的に整えても他人が怖い気持ちはなくならない。僕は花嫁衣装の白の上着を脱いだ。
シャツはビッチョビチョで背中に張り付き、ズボンまで汗で濡れているのを振り返って見せた。それほどの緊張感で臨んでいたと話した。慣れたとしても対して変わらない未来しか思い浮かばず、ロベール様が愛した僕はもういないんです!と、ヤケクソのように叫んだ。
「お前、もっと早く言えよ……」
父上はなんでと弱々しい声で僕を哀れだと見つめた。
「父上。ロベール様とはそんな気持ちにならなかったから、お傍にいられるはずと思い式には出ました。しかし、部屋に下がってから気が付いたんです。四六時中他人のいる環境で心も体も休まらず、今は一睡もしてないのに気は立っている。こんなんじゃ王子の隣にいる資格は僕にはない!」
あららと王は一言。まあいい、全員座れと言われて各々座った。当然僕は父上の隣。王子はキッと僕を睨み、こっちに来いと。
「いいえ」
「なんだと!」
ロベールちょっと黙れと王が静止し、なんでそんなに卑屈に考えるんだ?今出来なくともいずれ出来る。王太子妃も、第三王子の妻も初めは似たり寄ったりだった。ちゃんと出来るようになるさと笑った。
「お二人は元がいいのです。僕とは違います」
「そんなことはない。美しさで言えば其方が一番美しかろう?」
「見た目ではありません。中身が残念なんですよ」
父上は僕の様子に不審げ。他人に向かって、これだけきちんと話している姿は見たことないと眉間に深いシワ。
「父上。こんな時におどおどしてどうするんですか。僕の人生が掛かっているのです。それにロベール様の未来の評判にも関わる。クズな嫁を貰ったもんだと世間に笑われて、家名も王家にも傷が付きますからね!」
お前どうしたの?なんか悪いもんでも食ったかと問われたが、何も食ってねえよ。食う時間なんざなかったよ!眠いし腹減ってるし、体は冷や汗で冷たくて気持ち悪い。結婚式なのに幸せな気分もないんだ。辛いばっかだよと父上を睨んだ。
「なんにもないんです!僕は大人になり切れてなかったんです!」
叫ぶように言い切った。ハァハァ……もうどうとでもなれ。
「ふむ、言い分は分かった。ロベール、お前はこれを聞いてどうするんだ?」
「振り向かせます。どんなことをしても俺を愛してもらいます」
ほほう。この頑固者がお前に振り向いてくれるのか?お前のことを見ずに自分ばかりを責めて、世間体しか見ておらぬぞって。
「それは俺の愛の伝え方が悪いからです。俺の母のことで助けてくれたのは、俺にとってとても大きな出来事でした。小さな体で年上の俺を守ろうとした。俺を悲しませないように、泣きながら笑える強さと優しさを持ち合わせている。それがこのように表れているだけと、俺は知ってます」
「ふーん」
王はだそうだモーリッツ。このまま嫁にくれぬか?と父上に笑いかけた。あの頃のままじゃないか、ロベールをきっと好きなんだな、だから大切にしたくてこのようにごねているんだ。かわいいじゃないかと。
「申し訳ございません。このようなリシャールの姿は私も見たことがなくて。でもそう言われればあの頃のままですな。あはは」
「父上!どこを見て言ってるのですか!」
まあいい、式はこれで終わりで明日からひと月休みだ。ふたりは新婚旅行に行くはずだったが、どうするんだ?と。
「俺は行きたい」
「結構です。私は城でじっとしてて、新しいお嫁様が来るのを待ちます。目障りなら病気で療養しに実家に帰ったとでも言って下さい」
ふたりはあははと笑う。なにがおかしいんだよ。王様、あなたの王子がクズの嫁を手にしたんですよ!笑ってる場合じゃない!
「リシャール少し落ち着け。なら聞くが、なぜそんなにロベールを気遣う?」
え?気遣うとは……はい?
「それは僕が王族の皆様を敬愛しているからです。王様も王子様たちも幸せに笑っててくれたらいいなって、いつも思ってます」
「ああ、ありがとう」
僕は続けた。我が一族はこの地の民族とは違う。同じ肌の白さはあるけど別なんだ。それにうちには王族の血は一滴たりとも入っていない。この国の建国から、一度も王族から姫も王子も下賜がないし、王族に嫁いだ者もいない。僕は異例過ぎるんだ。
「お前そんなこと気にしてたのか」
「父上、気にするでしょう?」
多民族の血を嫌うんだと僕は理解していた。そりゃそうだよね。竜の力が弱まっても困るし。
「モーリッツ、お前話してないのか」
「はあ……話した気がしてましたが、アルフォンスにしか話してなかったのかも……」
「そうか」
なら私が話そうと、王が話を始めた。
「リシャール、建国以来其方の家に下賜も、嫁も婿も取らなかったのは理由がある」
「はあ、他民族だからでしょう?」
「違う」
はあ、なにが違うの。ねえ父上?と聞けば、黙って王様の話を聞けと言われた。
「其方の血筋は確かに我らとは違う民族だ。同じような地域に住んではいたがな」
「はい」
西の大国リーリュシュ出身の王族と民。あの国が急激に大きくなり過ぎて、千年前に管理しきれなくなったのが原因で、戦が起きて結果、この国は生まれた。
魔法もまだ荒削りの時代で、民の気性も荒かったらしい。それで王族があちこちに小国を作り、民の移住を促したがうまく行かず、結果内乱状態に発展。
それを好機と他国が侵略して来て、グタグタの大戦に突入した。この国の始祖はエルフの国と交戦した。
初めは普通に戦っていたがそこはエルフ。精霊の力をバンバン使って攻めてくる。仕方なく、王族は火竜に姿を変えて応戦、そしてこの地を獲得したんだ。その時に一緒に戦っていたのが、我が先祖。
「其方たちは小さな小国の貴族だった。その国の公爵で王族の一員でな」
「へえ……初めて知りました」
僕はあんまり自分ちの歴史に興味はなかった。他民族ってだけで用は足りると考えていたから。
「その小国は竜の民だった」
「へ?」
その頃にはほとんど力は失われていたようだが、自然を操る竜でとても珍しい種類。今はもういない竜の血を引いている。
「父上なにそれ?」
「お前はなんにも調べなかったんだな」
「うん、興味がなくて。小さい国の貴族なんて、ただの民とか、村長みたいなもんと思ってたし」
「お前……はあ」
父上は呆れてしまったが、我が家はたまにその竜の血が現れることがある。この千年で数人生まれてて、この国の森の管理をしていたそうだ。へえ……すげえ。
「そういった血筋だから嫁に出さず、下賜も受けてなかったんだ」
「ふーん。なら僕は余計まずいでしょ」
だが、もういいかなと王と相談したそうだ。我が伯爵家はこの国と混じり合い、ここ五百年そんな者は生まれてはいない。もうほとんど力はなくなったと考えるのが妥当で、王族の竜の血に干渉しないんじゃないかとなったそう。
「我らの竜は温厚で自然を愛する竜。戦いには向かない。吐く炎は森を育て、砂漠を森にする、それこそエルフが使役する精霊のような竜だった。たぶん竜型の精霊なんだろう。そう伝わっているんだ」
王族と交わると攻撃力の高い竜の力が弱まると考えて、伯爵家なのに王族との婚姻がなかったそうだ。
「もう時効だろうと、私はロベールとの結婚を認めたんだ」
「へえ……」
その優しさや他人を思いやる心は、その竜の影響かも知れない。自分より他人をと考えるのが其方らの一族だと王は笑った。
「そうなんですね」
「ああ、お前はその影響が多少強い。だから人との争うのを嫌ったんだろうな。緑の竜は心優しく、人と暮らしていたそうだから」
父上は、あの事件から殻に籠るようになったのもそのせいだろうって。大好きな王族だから守りたかった。でも出来なかったことが深く自分を傷付けたんだ。それに僕は幼い頃ロベール様が好きだと、嬉しそうに話していたのを、父上は思い出したそう。ゔっ……
「お兄様だけど優しくしてくれる。遊ぶのがとても楽しいって」
「お、覚えておりません」
向かいに座るロベール様は幸せそうに微笑んだ。あれほど怒りを前面に打ち出していたのに、うっすら微笑んでいた。……なんか恥ずかしい。
「頭を切り替えろ。他人の幸せにばかりを気にするのではなく、自分のことも幸せにしてやれ」
「ですが、僕の能力不足は変わりません」
そんなものロベールにフォローさせればいい。数年もあれば慣れるはずだ。王太子の奥様はそのくらい掛かっていたそうで、なにかの催しの後は泣いていたらしい。次の王妃になるのにこんなで申し訳ないと泣いていた。他国との交流は特に緊張したらしく、話しが頭に入らなかったり聞き取れなかったり。その度に泣いていたそうだ。
「だが今や、あれはそんなことはなかったように立派に仕事をしている。お茶会の主催も難なくやっている。問題ないさ」
次期王妃のラウリル様は優雅で美しいんだ。お子様もかわいらしくてね。そっか……僕らには精霊の血が流れてるのか。そうだぞって父上。
「ロベール、妻のために動けるな?」
「はい父上。俺はリシャールがいればそれでいいのです。俺の隣にいてくれればなんでもします」
「なあリシャール。ロベールに人生を託してみてはどうかな。我らも力になろう」
なんか王と父上の話には納得する部分もあった。人に流されるのは揉め事が嫌いだから。付き合ってと言われれば流れで承諾し、相手のために尽くすのは当然と考え、別れたいと言われればあんまり食い下がりもしなかった。よくよく考えれば美人だからいいかと、内面は放置してたんだ。
ステフィンだけは本当に好きだったけど、好き過ぎて反論どころか好かれようと動くばかりで……そりゃあつまらんよね。
「ロベール」
「はい父上」
「部屋に戻って、ふたりでよく話し合え」
「はい」
僕たちは促されて自室に下がった。部屋に戻るとさすがに疲れてて、着替えてソファに座ると動く気力はなくなっていた。
「話は明日にしようよリシャール」
「はい。ではお休みなさいませ」
僕は立ち上がり自室に向かった。もう眠くてフラフラする。風呂も明日でいい。
「なあ、リシャール。俺と寝よう?」
「はあ……」
僕は振り返ってロベール様を見つめた。捨てられた子犬みたいな顔するのはずるい。
「ロベール様、僕はあなたがたぶん好きです。子供の頃の気持ちは忘れてますが、これだけ自分が出せる相手はあなたが初めてです」
「なら」
ふうと僕は息を吐いて、改めてロベール様を見つめた。
「王様や父上の話は納得出来るような気もしました。自分の出自も知れましたし。ですが、僕は話し合いが決着するまでひとりで寝たいのです。数日自分の気持ちを整理してしてから、そう考えます」
数日ってと呆れたような声を出したが、今日はこれだけ眠いんだからいいだろって。そうだけど、彼に抱かれてると、まあいいかとなる自分が嫌なんだ。ゆっくりでいいなら頑張れると思うし、相手ばかりではなく、自分も一緒に幸せになると心を切り替えたい。能力不足はいかんともしがたいが、時をくれるというなら頑張ろうとも思う。
「そうですね。あなたに抱かれて眠るのはきっと幸せでしょう。でもね……ねむっ」
死ぬほど眠くて頭が回らん。もう上手く言葉が出て来ない。なに言うんだっけ?
「ごめんなさい。上手く言葉が……また明日話しましょう」
「待って!」
ロベール様が立ち上がって僕を抱き締めた。
「お願い一緒に寝よ?もう初夜をする体力もないから、本当に寝るだけだから」
「うん。でも……」
うー……足に力入いんない。眠くて立ってるのも面倒臭い。
「もう立ってるのも辛いんだろ?」
「うん……」
なら俺と寝ようよと抱っこされて、ベッドに寝かされた。
「明日話そうぜ」
「うん……」
優しく抱かれると、彼の体温が心地よくてドンと扉が落ちるように意識がなくなった。
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俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
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