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一章 森の中の国

7 結婚式当日

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 僕らの結婚式が厳かに始まった。

 まだ暗い中から準備して、朝の十時から城の敷地内にある教会で神に宣言。お式が終わるとそのままガーデンパーティ。少し時間を空けて夜に舞踏会。国内の貴族が集まり、盛大に行われた。この国での皇太子以外の結婚式はふたりでニコニコ手を振っているだけ。口を開くところはほとんどないんだ。全部王か宰相様が僕らの来歴や功績を話して、僕らは中央で神妙にしている。あくまで皇太子の補佐をする者たちって扱いなんだ。

「まあ貴族より楽だろ」
「そうですね」

 確かに自分であいさつしないからね。僕らはニコニコ手を振りながら全てをこなしていった。夜の舞踏会すら、ふたりで最初に踊れば会場の階段の踊り場にある、豪華な椅子から立ち上がらない。ニコニコ微笑んで座っているだけ。みんなには僕らの顔を覚えてもらえばそれでいいんだ。

「俺は早く終わらないかなあって今思っている。リシャールを早く抱きたい」
「ブッ……」

 僕は飲みかけのお酒を吹いた。あなたそれしか考えてませんね?と問えば、

「当たり前だよ。この半年、お前に似た人見かけると襲いそうになってたもん」
「ほほう……」

 襲ってはいないよ?禁欲して我慢してたんだからね!疑わないでよって。……普段の評判から嘘くさいが、信じますと淡々と答えた。

「大丈夫、俺と寝れば分かるよ。気持ちよくてすぐイクから」
「さようで……」

 お酒を口にしつつ眺めていると、新婚のお二人はここで下がりますと、宰相様が高らかに宣言。会場からは盛大な拍手が沸き起こり、ここで初めてロベール様が発言する。

「みなありがとう。急な結婚になってしまったが、私はリシャールを誰にも取られたくなかった。そのために期間が短く、皆にも無理をさせた」

 ロベール様の友だちだろうか、気にすんな!ずっと狙ってたのが叶ったんだ、おめでとうと声があちこちからした。その声にザワザワと会場がし出し、なにそれって。ふたりとも恋人いたじゃない?どういうことなんだと、特に年配者はヒソヒソし出した。

「みな静粛に!王子続きを」

 ああとロベール様は襟を正し、会場を見渡した。

「俺はリシャールの幸せを強く願っていた。俺でなくとも幸せならといいと。しかし、俺が夜の散歩中に泣いていた彼と出会ったんだ。そこから……」

 僕らの出会いと、その後自分が思ったことをロベール様は話した。

「嬉しくて堪らなかった。今ならきっとと」

 会場からは神のご加護かもねと声が上がる。この国の信仰の神は竜だ。王の強さの「血」を信仰するんだ。きっと先祖が引き合わせてくれたんだよって笑いが起きた。

「その通り!俺は神に感謝して教会に寄付もしたんだ。それほどリシャールを妻にしたかったんだ!」

 それから少し話して僕らは下がった。僕は隣でニコニコするのが仕事。踊り場の横の扉が閉まるとドッと疲れが出た。この扉の中は小さな控室になってて、ふらふらと僕はソファに座った。

「大丈夫か?」
「はい。本日の分が全部終わったと思ったら気が抜けてしまって、すみません」

 目が覚めてから今までずっと気を張ってたからね。彼に迷惑をかけるような粗相をしてはならないと、ずっと考えてたから精神がすり減ったんだ。
 父上にも母様、兄上にも家を出る時、きつく言われてたから。あんな王子だけど、王族で一番優秀な人だ。皇太子よりも、仕事も人望も民にも貴族にもある。その名を汚すなと、ものすごく念を押されたんだ。

「ロベール様もお疲れ様でした」
「いいや、俺はこういうの慣れてるからそんなでもないさ」
「そうですか」

 さすが王子。僕はニ番目の子だからそこまで躾もキツくはなくて過ごしてきたし、晩餐会に参加は食べてるのがメイン、舞踏会も仲間で固まってお話してることが多かったそう。
 お部屋にご案内しますと担当の文官の声に僕らは立ち上がり、廊下を歩いた。人の気配の少ない城の中は静かで、靴の音がカツカツと響く。こんな時間に廊下を歩かないからなんか不思議。私棟の前に着くと、

「では、明日お迎えに参ります」
「うん。お疲れ」

 文官は一礼して下った。すると入口の衛兵にロベール様、リシャール様おめでとうございます。リシャール様はこちらへと言われて近づくと、これをとブレスレットを渡された。

「これなに?」
「王族のプライベートゾーンに入るためのカギのような物です。これが防壁を無効化します」
「ふーん」

 王子が隣で俺もつけてるよって手首を見せてくれた。彼とはデザインも違うし、石の色も彼は青で僕は緑。

「このブレスレットのデザインは俺が発注した。お前が普段付けてても美しいように、それと石は俺の目の色だ」
「へえ……ありがとうございます」

 僕は金で出来たブレスレットを腕にはめた。平打の金を曲げて金具で止めるものだけど、その平たい部分にはとても細かい蔦の細工が彫られている。カギと言われなければ、ただのアクセサリーにしか見えない物だ。 
 そしてこのプライベートゾーンに入る者は、全て解除の付与がされている石を体に付けているそうだ。メイドや側仕えはネックレスの者も多いそう。手首だと邪魔だから。

「さあ、部屋に行こう」
「はい」

 僕はロベール様について歩いた。お前は中を見ていなかったはずだから、俺の部屋までを説明すると、楽しそうに笑う。入口のこの小部屋が衛兵の詰め所で、隣が倉庫兼メイドたちの近道。後ろの作業部屋から調理場への近道だそうだ。そして次の二つが末の弟の部屋。次が元々の俺の部屋で今は空き部屋。その隣二つが兄様夫婦の部屋。一つ飛ばして幼い子供用の部屋で隣が母上の部屋。

「そしてここが、王の部屋」
「へえ……」

 ここだけ明らかに作りが違い、扉も重厚。衛兵もふたり立哨している。王子が軽口でお疲れ!って言うと、ふたりは敬礼しておめでとうございますと微笑んだ。

「ありがとう」

 またなと手を上げて通り過ぎると、大きな掃き出し窓があった。ここからと向かい側に扉があって、中庭に出られるそうだ。

「暗いからあんまり見えてないだろうが、噴水の音が聞こえるだろ?」
「はい」

 パシャパシャと水の落ちる音がしていた。薄っすらと廊下の光で噴水のらしき物も見える。まだ先だから歩くぞと、円の三分の二を回った頃、ここだと言われた。

「ここが俺たちの部屋。結婚した第二王子以下が使用する部屋なんだ」

 第三王子は今後ここを出て敷地内の屋敷に移るから、子どもの時の部屋のままなだけで、本来はこちら側の部屋に移るのがしきたり。兄様は王太子だから子供の頃からあの部屋で、隣は奥様が来るまで空き部屋となる。王が退位したら隣に移るそう。

「さあどうぞ。俺は少し前からここに移ってたんだ」
「ありがとうございます」

 彼の後に続いて入ると、僕の側仕えと見たことない人がいた。

「お初、ではございませんね。私は王子の側仕えクオールと申します。今後ミレーユと共にお世話させて頂きますので、よろしくお願いいたします」
「はい。こちらこそお願いいたします」

 まずはあなたのお部屋を見て下さいと、ミレーユと内扉から隣に向かった。

「うわー……素敵だ」
「気に入っていただけたようで安心しました」

 明るい色の壁紙に明るめの腰板、それに合わせたような家具。奥にはかわいらしいフリルの多いカバーのベッドがあった。

「この部屋には寝室はございません。あのベッドもお昼寝用と申しますか、お風邪など引いてロベール様と共にいられない時に使用します」
「はい……」

 王子のお部屋の寝室があなたの寝室ですよと。へえ……この部屋だけでも僕の自宅の部屋より広く、僕の部屋は寝室は別ではなかったから、このほうが落ち着くかな。城は客間に寝室があって驚いたくらいだし。

「あの部屋は他国の王族用なんですよ」
「ゲッそんなお部屋を使わせてもらってたんですか」
「ええ。職人や日替わりのメイドなど、人が多く出入りしますから逃げ場所と、不寝番の部屋が必要でしたので」
「ああそういう理由ですか」

 宮中であなたに万が一があってはなりません。婚約が決まった時点で準王族なようなもの。警備は万全でないと困りますからねって。

「まだあ?」
「今行きます。ロベール様」
「早くリシャール。部屋なんか明日でも見れるよ」
「はい」

 僕は王子の部屋に戻り、隣に座った。

「ほとんど食べられなかったろ?少し食べな」
「ありがとうございます」

 舞踏会に出されたものを調理場が少しずつ取り分けていたそうだ。こういった結婚式は朝食べ終わると、その後ほとんど食べられないからねって。

「お酒しか口に出来なかったから嬉しいです」

 ミレーユがお皿に少しずつお肉とか取ってくれでどうぞって。ロベール様とふたりお酒を飲みながら食べた。美味しい、お腹空いてたから余計美味しい。

「ローストビーフもテリーヌも美味しいです」
「よかった」

 食べている間、おしゃべりなロベール様なのにあんまり話さない。一緒に食事を楽しんでるだけで、美味いか?とか、おかわりとお酒を頼む程度。やっぱり疲れたのかな。

「ではお風呂の支度も出来ましたのでどうぞ」
「はい。あの僕のお部屋にもありますよね?」
「ええありますが……その…」

 側仕えのふたりは黙った。どうしたんですか?と聞いたけど、目が泳いであうっと声を出して、あなたが言いなさいと押し付け合いに。なに?立ち上がるロベール様が、

「リシャール。一緒に入ろう?」
「えっな、なにを……」

 あーあ、と側仕えふたりは肩を落とした。本来ありえないのですが、ふたりで入りたいってロベール様が。ですので、あなたの部屋のお風呂は支度されていませんと、申し訳なさそう。

「ロベール様、いくらなんでも初夜なんですよ。裸はベッドの上でしょう」

 一緒にお風呂とかなに考えてんだ。せめて、明日以降だろ。

「いいじゃん。お互い初めての相手でもないんだし」
「そうですが、あなたとは初めてです」

 そうだなあと言いながら腕を引かれて脱衣所に連れ込まれた。この人なに言っても聞かないんだな。ならもういいや。

「脱がせて下さい。ミレーユ」
「は、はい」

 ロベール様はとっくに脱いで、扉を開けて浴室に入って行く。

「すみません。ロベール様はこの日をとても楽しみにしてました。結婚式はどうでもよくて……とはいいませんが、夜をそれは楽しみに……もう待てなかったんでしょう」
「そんな感じですね」

 先ほど無口だったのも、なにか悶々と考えてたからではないですかねって。あはは……
 全裸になり浴室に入ると、すごーい。別荘のお風呂みたいだ。大きな浴槽にテーブルとソファにたくさんの植物。体を流すところも広く、石鹸となにかのピンが置いてある。髪の毛の香油かな?
 僕は体を軽く流してもらって浴槽に入った。大きな浴槽で、中が椅子みたいに段差になっているからそこに座った。柔らかいお湯で、少しぬるめでいい気持ち。

「なあ」
「はい」
「なんでそんなに離れてんの?」
「あー……なぜでしょうか。すみません」

 動物の本能で危険と感じたのかもね。やはり僕の中ではまだロベール様は知らない人枠なんだろう。妃殿下教育で習った王子の来歴など、本当の彼を表してはいない。僕が知らなくてはならないのは仕事もだけど、それ以外なんだから。

 まあここで嫌がっても始まらないと、僕は浴槽から出て王子の隣に入り直した。

「触っていい?」
「え?ええ……」

 前を向いたまま、ロベール様はそう口にした。僕が横を向くと頬を赤く染めて、ゆっくり僕の肩を抱いて自分の側に寄せる。

「ごめん……お前が言う通り別々に入るべきだったんだ。でも明るいところでお前を、その、全部見てみたかった」
「はい……」

 キレイだ……俺は手に入れたんだなお前をと、誰に言っているふうでもなくなく呟く。肩の手が少し震えてる?え?具合悪いのか!

「ロベール様お体が……大丈夫ですか?お手が震えて」
「ふふっ違うんだ。我慢してるからだ」
「え、なにを?」

 言わせんなと笑う。あーあほら見ろ。だから一緒はまずいと思ったんだ。初めて体を合わせるのが風呂場とかないからな。

「キスだけさせて」
「ダメ。止まらなくなってここですることになるから。初日くらい僕を大切にして下さいませ」
「うん、ごめん」

 なんでそんなに悲しげなんだよ。僕がいじめたみたいだろ。はあ……のんかかわいいとか思っちゃった僕が負けか。

「少しだけね」
「ああ」

 嬉しそうにニコッと微笑んで顔を近づく。

「お前は俺を好ましいくらいにしか思ってないんだろう。だけど俺はずっと好きだったんだ」
「あの……」
「明日以降に話そう」

 ふわっと優しく重なり舌が絡む。ンっ……アッ…

「やっぱりお前とのキスは気持ちいい」
「ハァハァ……僕も」

 ロベール様は軽く味見するような感じで切り上げてくれた。

「暑いな。体洗って出よう」
「はい」

 メイドさんが僕らを洗ってくれて、股間はご自分でしますかと聞かれた。

「そうします……」

 キスで勃起してて、萎えきらなくてね。抜くならやりますがと。いいえいらないです!と自分で洗った。お尻はどうされますかと、同じく聞かれだが、自分でしますと。指を軽く入れて洗浄魔法を唱えた。

「リシャール様、今回はお聞きしましたが、出来れば我らに全てお任せ願いたのです。交わりで傷がないかなどの確認も、お風呂での我らの仕事となりますから」
「はい……すみません」

 敬語もおやめください。あなたは妃殿下です。我らとは身分が違うのですから、臣下に対する言葉遣いをして下さいませと叱られた。

「あんまり強く言うな。リシャールは周りに気を使う子なんだから」
「申し訳ありません。出過ぎた真似を……」

 メイドさんはそれ以降無表情になり、淡々と洗ってくれた。あー……この人たちは僕らの担当なんでしょ?僕が妃殿下として仕上がらなかったばかりに迷惑掛けちゃった。どうにかしたいとは思うけど、家の家臣やメイドさんくらい仲良くなんないと、敬語は取れなさそうと感じる。反射で敬語になるんだよね。はあ……







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