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一章 森の中の国

3 僕がこんなになった理由

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 翌日、お昼すぎから両親と兄と四人で話し合い。母様以外は全員午後休みを取ってね。こういった物は早めに解決して置いた方がいいと、父上の提案だ。

「……と言うことです。父上」
「そうか」

 僕はこの話し合いの前に、僕の部屋で兄上と打ち合わせをした。昨日の夜は突然だと僕は感じていたからね。朝食の時、兄上にロベール様がなぜ僕を好いているか聞いたけど、答えてはくれなかった。

「覚えてないのか?」
「はい。なにも」

 俺は覚えているんだがなあって。でもあの年頃であの揉め事なら、仲がよければ特別なことではなく、でもロベール様の心には深く残った事件があったらしい。

「リシャール、王子は王族では変わり者の部類で、明るく華やかで優しくモテる」
「それは付き合いがなくとも知ってます」

 いつも周りに人がいるような感じでね。王太子と下の殿下のキリリとした雰囲気はない。王太子のアルフレッド様は王同様、他国から奥様をもらった。まあ、他国と言ってもリーリュシュ王国由来の王族の姫だから、こちらの貴族の反発もない方でね。下の王子ルーカス様は、うちと同格の伯爵家から。我が家と同じ、王家に忠誠を誓う家柄の方だ。お二人ともとても幸せそうな様子は見て取れる。だって末の王子は新婚なんだもの。
 兄上は俺から言うのはなんか違う気がするからなあってゴニョゴニョ

「事件はお前が思い出すか、ロベール様に聞け」
「ええ~……」

 俺はお前と王子は体の相性は良さそうとは感じたが、なにせ相手がお前だから、他はなあとむーんと腕組み。それは僕が一番理解しております。

「あのさ。お前ロベール様とは普通にしゃべっていたな」
「え?……えっと……そうだね。なんだろう、緊張せず話せたね。まあ眼中にないのもあったのかも」
「ふーん」

 眼中にねえのかふーんと、ニヤニヤしだした。なんですか兄上。

「いやさ、お前はそんなの関係なく人と話すの苦手だろ?なのにきちんと話せる人物ってことだろ?」
「まあ。でも学園では友だちと普通に話してたよ。だからちゃんと授業でもフェニックス家族の召喚出来てたんだ」
「ああそうだな」

 俺はフェンネルだと懐かしそうだ。最近呼び出してないな、あいつと遊ぶか?と独り言。ちなみに王族に召喚術者はいない。この国の貴族では、召喚術者の家系はうちくらいなんだ。そう、この才能も気に入られ貴族になったんだ。
 僕らはこの国になにかあった時、この力で王族と共に従軍する。まあ、僕らがいなくても勝てるだろうけどね。王族は秘術で敵を殲滅すると記録にはある。その秘術がなんなのか開示はされてないから分かんないけど、竜に関することだとはみんな分かっている。
 現在西の大国リーリュシュが筆頭国で支配しているこの地域は、我が国などの共和国の繋がりで纏まり、もう何百年も戦などなく安定していて、商業も旅行業も盛ん。たくさんの人種が街を行き交っているんだ。

「お前が嫌でないなら嫁に行けばいいと、俺は思うよ」
「はい……」

 と言う話し合いはしたけどね。

「リシャール、お前はどうなんだ?その体たらくで王族の妻が勤まるのか?」
「あの父上。嫌な予感しかしません」

 母様もため息。これは僕の正直な気持ちだよ。だーって城に住むんでしょ?王妃のようにしなくちゃなんでしょ?あはは無理。ロベール様が好きだからだけじゃどうにもならん。

「嫌なら俺が断ってやるぞ」

 その言葉に、兄上が間髪入れず父上を否定した。

「父上、王子は聞き入れませんよ。彼ははずっとリシャールが好きで、常にきっかけを探してましたから」
「ああそう……そうか」

 父上は手で目を覆い、なんでリシャールなんだと脱力した。王族は敬愛してるけど、これはなあと哀愁漂う雰囲気に。嫁に出したくないとか、リシャールの能力の問題じゃない。何人にもつまんないと振られるような性格が問題。俺は不安だよと。こればかりは母様も、

「お嫁に行けばいいとは言ったけど、王族はねぇ。リシャール、僕も不安だ。親としては苦労して欲しくないからもある」

 母様の言葉に父上も当然だよと。だよね、自分が一番信じられないもん。

「ひ弱な見た目だが、能力は高い。俺たちの子とは思えない美貌だし、消極的で恋人には嫌がられようとも……俺はそんなところもかわいいと思っている」
「僕もだよ。リシャール」

 ふたりは褒めてるのかけなしてるのかは分からんが、愛してくれてるのは伝わった。断ることは無理そうだし、万が一不仲になっても離縁は出来ない縛りもある。僕はロベール様とのキスが頭に浮かんで、背筋がゾワッとした。今まで感じたことのない気持ちよさで……なんか抱かれてるのも悪くないかもと思わせる、居心地のよさは感じたんだ。

 コンコンコン

 僕らは客間で話してたんだけど、ノックの音?深刻な話だから、父上は部屋に近づくなと家臣には言ってたはずだけどな。父上がなんだと返事した。すぐに扉が開いてこちらが届きましたと、父上の側近ジルが手紙を差し出す。父上が受け取り裏返すと、封蝋は王家の紋章だった。早いなロベール様。

「なんとも手際のいいことだな」

 父上は封を破り中を確認、お前も読めと母様に渡した。あら、本当に求婚の手続きの予告だよと、驚いたのか母様は口元を隠した。逃さないつもりだなあって。

「あちらは本気だぞ。どうするんだ」
「どうするも……行くしかないのでは?」

 まあ第二王子だから王太子ほど忙しくはない。だが、他国へ行くことも、国内の祝賀や使者の歓迎会、簡単な晩餐会から盛大な物まで多岐に渡る行事の参加。王や王太子の代理で国内の移動もそれなりにあるが、お前は全て着いて行くことになる。優雅な宮中生活はその隙間だけ。貴族の妻とは訳が違うぞって。

「俺たちには手が出せない範囲が多い。助けてやれない部分が……だから」

 申し訳無さそうというか、困った子を助けたいけど出来ない辛さと言うか、そんな雰囲気だ。

「父上、僕は何人付き合っても同じ理由で振られてたんです。自己主張が足りなくてつまらない、物足りないって」

 あー……なんか分かるなと。正直親でも見惚れるくらいに美しくはなったが、それだけでなあって。バカやろう、父親がそんなこと言ってどうする!と、母様が焦ってみぞおちを殴り、父上はぐおぉー……と呻いた。

「リシャールに合う人がいなかっただけだよね?ねえアルフォンス!」
「え?ええ!そうですね!」

 あははとみんな変なテンションで笑い始めた。家ではちゃんと話せるし自己主張もするけど、他人は怖く感じるんだ。なんでだろうと独り言を言ってたら兄上がやはり心に傷があったんだよなあって。

「あの時お前も怖かったし傷ついたんだよな」
「あの、なにが?」

 兄上は両親に、リシャールは子供の頃はこんなじゃなかったはずだ、覚えてますかと。誰とでも話してたし、俺と走り回ってた。あのリーリュシュの使者の園遊会の後だと俺は思うと話し出した。あのリーリュシュの園遊会とは、はて?

「お前がロベール様に好かれる原因になった……あっこれ言うと分かってしまうな」

 もういいからしゃべろと両親に言われ、兄上は続けた。

 お前が学園に上る前の年、子どもも参加するリーリュシュ園遊会でのこと。子どもはそれぞれ仲のいいグループで遊んでいたそうだ。俺とお前は父の仕事の関係もあって、上の王子ふたりと公爵家の子どもと走り回っていた。あの頃から前王妃は体調を崩し始めていて、上の王子はすでに学園四年生で、その辺の公私は別けられていたが、下のロベール様は二年生。
 俺たちと離れていたロベール様に、普段から王子たちが気に入らないヘルナー子爵家のガンブケ様が王妃のことで嫌がらせをしていたそうだ。

「ロベール様、王妃はもうすぐ死ぬんですよね?俺の母様が言ってました。あの病気は治らないって」

 ロベール様はそんなことを聞かされてなくて、驚いてパニック。それを見たガンブケ様は取巻きと一緒にからかい始めた。ロベール様は必死に言い返したそうだ。

「母様は死なない!俺たちを置いていくなんて絶対ない!それに父様はそんなこと言ってなかったもん!治るって!国一番のお医者様が診てるからきっとよくなるって!」

 僕とロベール様を囲み、暴言を吐きながら手が出始めた。

「王子が役に立たないから話さないんだろ。後妻が来て優秀な子が生まれたら、お前なんかいらなくなるんだ」

 そんなことない!と殴りかかるロベール様を、片手一本で背の高かったガンブケ様は押さえていた。ロベール様は泣きながら嘘だ!母様の悪口を言うなと応戦。
 その時俺たちは上の王子と遊んでて気がつかず、ロベール様が大変だぞって迎えに来てくれたやつがいて、俺たちは急いで駆けつけた。

「ヤバッアルフレッド様が来たぞ!逃げろー!」

 誰かがそう言うと、ガンブケ様が泣きじゃくるロベール様をつき飛ばし逃げて行った。転んで座り込んで、ウワーン母様は死なないもん!と天を仰いで泣く姿は可哀想で、俺たちの仲間数人がいじめた奴らを追いかけた。アルフレッド様と俺は泣くな、母様はきっと良くなるから、お医者様を信じようと慰めていた。

「するとお前は、どうしてガンブケ様はあんなこというの?と、聞くから簡単に説明したらなあ」
「ああ……そんなことがあったのか」

 お前はロベール様にそっと抱きついて、大丈夫だよ、母様はいなくならないよロベール様。ロベール様がいい子にしてればきっと元気になる。ほら泣かないの。ロベール様かわいいから台無しだよ?ってポケットからハンカチを出して、涙を拭いてあげていたそう。

「なにそれ……その記憶はないです」

 アルフレッド様もそうだぞって頭を撫でたり、俺も声かけたりしてる内に落ち着いて泣き止んだが、目が腫れて真っ赤だった。

「お目々痛い?」
「平気だよ……グスッ」

 いたいのいたいの飛んでけーって言いながら、チュッチュッとまぶたにキスしてあげたそう。

「おおぅ……幼い僕積極的だね」
「あの頃のお前は誰にでも優しかったよ」

 そしたらロベール様は真っ赤になって照れていた。年下に慰められたからかと俺たちは見てたんだが、どうも違うように感じてはいたそう。お前は当然可哀想って気持ちだったんだろうがなって兄上。ロベール様を抱きながら泣かないでって。ロベール様はありがとうと耳まで真っ赤、でかわいかった。お前も嬉しそうでな。

「ここからは心配だから、俺たちとロベール様も一緒に過ごしてたんだ」
「ふーん」
「問題はその後だ」

 何だそれと父上が兄上に聞くと、あー……って。子ども同士のことだから親には報告してなかったんですが、あの子爵家のガンブケ様は、リシャールが慰めてたのを見ていたらしく、それをネタにふたりをいじめ始めた。僕はあの揉め事以降ロベール様と仲良くなって、ふたりでいつも遊んでいたらしい。ガンブケ様は大人の隙を見つけては嫌がらせをしていたそうだ。

「そう……いつからか僕お茶会とか行きたくなくてね。そっか……覚えてないけどガンブケ様に会いたくなかったのかも」
「たぶんな。学園は教師の目もあるし、寮の棟が違ったからだろう」
「うん」

 成人するまでは、宮中の催し物で魔法は使えないから陰湿だったよって。お前は外見と民族の違いをネチネチと言われてて、お前よそ者だろ?この国の貴族に相応しくない!お前は両親の本当の子なのか?似てないぞって。そこまで話すと両親の目が血走って怒りに震えていた。

「あのクソガキ……今も生意気だがそんなことがあったのか」
「ふふん……モーリッツどうする?」
「ああ……」

 不穏なオーラを出し始めた両親に兄上は黙った。続けていいのかなって僕を見て苦笑い。

「ここまで話したからお願いします」
「うん」

 兄上はとりあえず聞いて下さいと両親を宥め、続きを話し始めた。





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