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三章 自分を知ること

2.僕いらない子だったのかな

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 そんな道があるんだ、僕に選択肢なんてあったんだと不思議な気持ちでいた。

「キャル?」
「はっ!あまりの申し出に気持ちが旅に……」

 何だそれってあははって。

「お前には国に帰って領地を運営、ここを継ぐ、もしくはここに新たに領地を作ってもいいんだ。城に士官もある」
「はあ……」

 なんたその選択肢。どんどん増えていく。

「貴族が嫌なら商人になる道もある。そんな者がこの国ではいないでもないんだ。他国に店を開いて豪商になっている者もいるんだ」

 ほえぇ……自由があるんだな。貴族の身分を自分から捨てるとか。

「まあ、今すぐ決めなくてもいい。ここで過ごして考えろ。俺腹減った。ジョナサン」
「あら、忘れてたね」

 ジョナサンがスッと近づいた。

「ご用意は出来ております。食堂へどうぞ」
「おう」

 棚に置いてある時計を見ると二時を指していた。おお……随分話していたなあ。

「ほら、行くぞ」
「はい」

 食堂は貴族街の屋敷より豪華だった。広いしね。テーブルにはすぐ食べられるように給仕が控えていた。
 席に着くとすぐに料理が運ばれて来て、先程の話とは全く関係ない話しを楽しく話した。

「お祖父様もラムセスによく似ていてガサツでねえ」
「酷いですね。母上」

 料理を口に運びながらナムリス様はムッとした。

「ライリーがまだ騎獣に乗れない頃、乗せて庭を飛んでたんですよ。落としたらどうするつもりなのか」
「乗りたいって言うから。落ちても大丈夫な低い所を飛んでたよ」
「そうだったかしら?そんな父よこれは」
「はい」
「コレとか。口が悪いですよ母上」

 昔話は楽しかった。弟にあたるライリー様の話しは楽しかった。奥様もすぐに亡くなったけど、とても大切にしていたそうだ。

「あれは子供を産んで少ししてから床に付いてな。あっという間だった。治しても治しても繰り返してとうとう」
「辛かったですね」

 あんまり辛そうではない表情だ。もう悲しみは消化しているのだろう。

「ああ、なんだろうな。時に治らない病気がある。どんな薬でも魔法でも治らない」
「ええ。あれはあの子の体質でしょうね。あちらの家も悲しんで……」

 随分前のことだ。ライリーは母の記憶もないだろうって。

「なぜその後奥様を貰わなかったのですか?これだけの家ならば」
「ええ。なぜでしょうか?」

 僕らは不思議に思った。普通は伴侶がいないのは世間体的にまずいのに。王侯貴族は特にね。

「なんだろうな。フィデルもムリ、妻も亡くなった。俺はもう妻を持たない方がいいんじゃないかって思ってさ。なんかみんな不幸にしちゃった気がしてな」
「そんな事はないのでは?」

 そうだなあ。不安が大きかったんだって、思いだすように話した。

「ひとりの不便より、不幸を作りたくなかったんだ。もし、次がなんかあったらさすがに持たん。楽天家の俺でもな」

 確かに。次死んだり別れたりとか……怖っ
 番がいなくなるのは、本能が強い時期はかなりの負担なんだ。母様はまあ仕方なし。だけど死に別れは喪失感がかなり出ると聞く。半身を割かれるような心の痛みが出る。病む人も多いらしいんだ。

 そう考えるとこの人強いな。

「私も主人が亡くなった時は哀しくてね。少しの間屋敷から出れなかったんです。もう何もする気になれなくてね。そんな時ライリーはよく来てくれてね」

 孫はかわいいと聞く。僕には分からないけど。

「お祖母様が元気になられてよかった」
「ええ。三年前ですからもうね。気持ちは切り替えました」

 どうでもいいがお祖母様品がいいな。王族か?

「どうした?」
「お祖母様のお家はどこなんだろうと思いまして」
「ああ、王族だよ。前王の弟」
「やはり。カミーユのお家の方と似てるなあって思ったので」

 話しによると、この公爵家は時々王族からお嫁に貰うようなお家だそう。大臣とかはしていない。

「古い公爵家だからな。領地も広くて知事を各地に置いている。管理しきれんからな」
「スゴい」

 自分で全部出来ないとかどれだけだよ。

「たぶんだが、お前の国の四つくらいの領地全部だろうか。だからそこに一人ずつ家臣を派遣してる」
「うっ」

 でかいなこの国。うちが知らないだけだよこれ。倍くらい土地あるんじゃ……

「どの貴族も?」
「いや、うちは古いからだな。俺の別名辺境公爵と呼ばれてる。あーお腹落ち着いた」

 え?ここ国の端っこか?外見てないから分かんないけどさ。

「色々案内してやるよ。基本俺は暇だから」
「はい。よろしくお願いいたします」
「うん。そう言えば、お前ら魔力は?」

 その言葉にカミーユは真っ青。ここに来てから魔力の少なさに愕然としてたからなあ。国では多いほうだけどさ。庶民は一万、貴族王族は三万から五万くらい。

「あの、ぼくは五万くらいです」
「キャルは?」
「うっ二百万くらいです」
「え?」

 うわあってふたりは嬉しそうになった。

「お前そんなにあるのか。こっちの貴族と変わらないじゃないか!王族にも負けないとは」
「ライリーよりあるなんて」
「おう!初めての子だからかな?」
「そうでしょう。きっとね」

 この国では初めての子は父親に似て、魔力も同じくらいを引き継いでる場合が多いそうだ。だから長男が跡を継ぐ事になる事が多い。

「うはは。俺様すごいね。フィデルとの相性はよかったんだな」
「ええ。なんて事でしょう」

 ふたりはとても、とても嬉しそうにしている。

「あの、ラムセス様はどのくらいですか」
「俺は二百万弱。俺よりあるよ。王族も同じくらいで百八十万から二百二十万くらいだ。他国には千超える者もいるらしいが、未だ会ったことはないな」

 やはり噂は噂か。千クラスがたくさんとか伝わってたんだけどね。

「ならキャルは大丈夫だな。カミーユは魔石で補強だ」
「ええ。それで大丈夫でしょう。ダメなら護衛に乗せてもらえば事足ります」
「ああそうね。でも自分で飛んだ方が楽しいからな」

 なんの話しだ?飛ぶ?あ!騎獣か。

「まさかとは思いますが、我らを騎獣に乗せようとしてます?」
「うん。あれなら国中見て回れるから」

 ひいっ!とカミーユは息を飲んだ。

「キャル!ム、ムリだ。ぼくにはムリ!」
「いやあ、僕もそんなの……」

 ぬははと笑い慣れだよって。私兵が教えてくれるから、明日から頑張れって。はあ?

「ラムセス様!」
「やーだー父上って言って」
「ち、父上!無理です!言い方ではないです!」
「そんな事ないぞ?子供でも数日でスイスイ飛ぶんだから」
「ゔっ」

 食べかけのナシが喉に詰まりそうになった。バカ言ってんじゃないよ。空飛ぶ習慣のない国の者を甘く見ないでくれ!

「高い所いや?」
「いえ。それはそうでもないです」
「なら平気さ」

 シャクシャクナシを食べている。隣は真っ青通り越して変な色になってるし、僕も心臓バクバク。あれに乗るの?騎士に乗せてもらってでいいよ。

「まあ、明日までゆっくりな。屋敷でも散策してさ」
「はい……」

 返事をするのがやっとだよ。ラムセス様ムリ言い過ぎだ!



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