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二章 討伐とその後
10 討伐の振り返り
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部屋に戻り部屋着に着替えたけど、向かいのアンジェはムッツリ。部屋に用意されていたワインを無言で飲んでいる。僕はどうしていいかわからず、向かいの席に座り、シードルをチビチビと飲んでいた。
「アンジェ?」
「うん……」
不機嫌ハラスメントだよ!って思ったけど、僕は見て見ぬふりすることにした。城は果物の種類が多く、季節外れのイチゴ!があって、僕はうまうまと食べていた。アンジェは考えごとに集中するとあんまり口を効かなくなるから、放っとくしかない。
「ティモ、このイチゴ美味しいよ。一緒に食べよう」
「ありがとう存じます。でも秋にイチゴとはすごいですよね。直轄地にはなにかあるのでしょうかね」
ティモが僕の隣に座り、一緒にイチゴを食べる。
「そうかもね。僕はこちらのイチゴはちょっと小さめだけど、酸味があって好きなんだ。前の世界の僕の国は甘いものばかりでね」
「へえ。甘い方が美味しくありませんか?」
「うーん。僕は少し酸っぱい方が好きなんだ」
そうですね、クルト様はお風呂の後のフルーツのお水も、レモンなど酸味がある物を好みますよねって。
「お酢が好きでね。なんか体によさそうな気もしてる。バルサミコ酢は家の名産品だけど、ワインはあんまり。僕お酢は大好きだったんだ」
「ふふっお肉に掛けたものや、サラダもお好きですものね」
「うん」
アンジェを無視して勝手に楽しんでいると、
「クルト」
「へ?はい」
「働きたいか?」
「あ、あの?」
ずっと考えていたがクルトは「白の賢者」だ。世情に疎いのは辛いかもと考えていたんだって。むいっと残りのイチゴを口に突っ込みながら、
「もぐもぐ。確かにね。訳わかんなくて戦場に出されるより、政務に関わって流れが理解が出来るに越したことはないです」
今回のは天啓があって、ひと月弱タイムラグがあった。だからどんなでもやると覚悟する時間が存在したし、対策も城から報告もあった。でも今後、人との争いに果たして天啓はあるのだろうか?とアンジェに問う。
「時と場合だな。今回は火竜が関わってたからかもしれない。確かに森は溢れ、動物は戻らなかったから溢れたは正しい。しかし人同士の争いは先触れなんて前例はない。戦いの中で神の助言とお力をお借りして、自分が持てる力より、更に力が出せるようにするのが普通だな」
「ふーん」
今回みたいに自然災害に近い厄災には先触れがあるのだと、俺も初めて知ったくらいだ。過去の記録にはそんな記述はなく、戦い方の指南とか力の増幅が多いらしい。
「だから、他国が攻めてくることには天啓がないと思った方がいい」
「そっか」
仕事かあ……僕は役所仕事はしてたんだよ。公務員で都内の役所に勤めてたんだ。霞が関ではなくて、区の出張所とか事務所とか言われる区役所でね。でも……たぶん違うんだろうな。それも騎士団だろ?自衛隊なんかなんも分からんもの。外務省なんか更にちんぷんかんぷんだ。僕に出来るのかな?
「アンジェ、奥様が働くってさ。家庭教師的なマナーや就学前の勉強とか、ダンスの先生や側仕えが多いよね?」
「ああ、アンや奥さんの仕事とはそんなだな」
民は何でもするが、貴族は他は家業とかそんな感じだと言う。
「僕が働くとしたら「ノルンと同じ業務」なんだよね?」
「そうなるな」
「出来ると思う?」
アンジェはふうとため息。そんで隣に来てくれって。僕は立ち上がってアンジェの隣にぽすんと座る。
「お前は以前の世界で文官のようなことをしていたと聞いている。だから出来るとは思うが……はあ…嫌だ」
肩の力がガクッと落ちて、ものすごくイヤそうな姿にプッ
「ならしないよ」
「でも……」
僕はアンジェのものすごく嫌そうな雰囲気にクスクス。ならば僕が出来ることはひとつ。
「アンジェがイヤがるなら、ことが起きてなにもわからなくても出撃する。その場で対応する、だね」
臨機応変はあまり得意ではないけど、やれないことはないだろうと、自分の過去を思い出していた。追い詰められれば人とは動けるものなんだよ。
「いや、それはお前の負担が大きい。理解してない戦いは大変だぞ?」
「それはみんなもある意味同じでしょ?宣戦布告がいきなりあって、そして対応なんだから」
そうだが、騎士も俺たちも準備してるからすぐに動けるが、お前は違うだろ?と。あんな場面で怯まなかったお前がどうかしてるんだという。
「じゃあどうして欲しいの?」
目をそらしあー……って。
「屋敷で俺を待ってて欲しい。俺だけのクルトでいて欲しいが本音だが、クルトの負担を考えれば……悩ましい」
「ふふっなら家にいるよ」
アンジェはなんでクルトが「白の賢者」なんだろう。俺への嫌がらせなんだろうかと、アルテミス様を恨んだりもしたそうだ。あはは……それはまた。
「僕が嫌いになった?」
「ならない。愛してる」
即答で答えるアンジェ。僕はあなたと同じ方を向いて歩ける人になりたい。あなたの背中を見るのではなくてね。ベルント様のように隣を歩きたいと話した。
「ならなくてよかったんだ。本音ではな」
アンジェはこの二年、日々愛しい気持ちが強くなっていた。一緒にいる時間は短くとも、僕がいるから頑張れたそうだ。
「ありがと」
「危険なことはさせたくない。隣にいれば絶対助けられる訳でもないのは…その、俺は理解しているんだ」
「うん……そうだね」
不意打ちなんていくらでもある。前の世界では戦争が各地で起きていた。たくさんの民間人が犠牲になって、兵士は塹壕や基地、移動中の戦車の上で世界中に動画を配信していた。見るに耐えない映像がたくさん世界中に溢れていたんだ。そして戦争を知っている世代は「いまは戦前のようだ。ポヤポヤしてたらいきなり戦争が始まり、人が死んでいくんだ」と。その足音が聞こえると言っていた。
ここも似たような世界が広がっていた。今回は相手が「人間」じゃなかっただけなんだ。死体があんまりなくて魔石になってた……だけ……で……たくさんの動物も人も……そうだ。たくさんの命が散ったんだ。僕の脳裏にはあの、森に到着したばかりの時の景色が浮かんだ。なぜここまでになる前に……
「ねえアンジェ。あの討伐は僕はもっと早くに呼ばれるべきではなかったのですか?なぜあんなにも動物も人も死んでから呼ばれたのですか?」
突然敬語になった僕にアンジェはビクッとした。一呼吸置いて彼は、
「それは……俺たちや王、大臣たちの甘い考えがあったからだ。火竜が暴れたのを確認した時点でクルトを呼ぶべきだった」
「なぜしなかったの?誰も言わなかったの?」
下を向いて手を組んで苦しそうに話す。
「はじめに戦っていたのはシュタルクの戦士たちだ。その後バルシュミーデ、ヘルテル、うちが参戦。俺たちは戦闘向きではないが、他の二国は戦闘が仕事で……その…彼らがなんとか出来ると言うのを鵜呑みにした。上手くいかない時点でクルトを呼ぶべきだったのは、今なら理解している」
「そう……それで遅れたんだね」
アンジェは膝に腕を付いてぐったりしてしまった。実はうちの戦死者は他より多くはないが、他二国は相当の被害を被ったんだそう。出来ると言った手前、最前線で戦ったから。たった三日で全ての前線合計で、千人超えの戦死者を出したそう。
「嘘でしょ?」
「本当だ。こちらは少数だがバルシュミーデは空も飛べないし、物理攻撃がメインの国でな。ヘルテルはその半分かな……」
「変な意地を張るから……」
なんてことだ。僕が助けた人なんてほんの少しでしかない。もっと早くに行ければ……仕掛けたシュタルクはともかく、他は。
「俺たちは戦闘慣れしてないことが敗因だ。彼らは慣れすぎて過信した。今後は対策をきちんと取ろうってなっている」
「うん……」
これ僕らの個人的な感情で動いていいことなのだろうか?アンジェが嫌がるからとかでさ。自分が戦術に関わった方が、死者の数を減らせるのではないかと思わないでもない。
でもなあ……僕がそんなことが出来るかは未知数だ。自分の能力がどこまであるかも分からんし、役に立たない現場もあるかもしれない。つうかさ、戦闘なんてこれまでしたこともなくて、まともな対峙は不向きもいいところ。
「ねえ、不穏になったらすぐ召集して欲しい。僕に何が出来るかは分からないけど、出来ることがあるならやるから」
「ああ」
ごめん。辛い思いをさせたと抱いてくれた。
「うん……」
落ち着いてくると色々思うところがある戦いだった。当然シュタルクが悪いんだけど、魔法使いとして僕が早めに動いていればと、後悔も募る。
「もう寝よう」
「うん」
僕らはベッドに潜り込んで抱き合った。
「ごめん……クルトはなにも知らず、幸せに俺の腕にいればいいと思ってた」
「うん」
「アンに政や戦に関わらせるなんて、俺は嫌なんだ」
「うん……でも仕方ないよね。僕、白の賢者だし」
アンジェは、はあってため息。この世界は男尊女卑とは言わないけど、アンに仕事をさせるって考え方は基本的にはない。民も経済的に困ってなければ家にいて、お母さんが普通だって、アンジェは説明してくれる。アンの方が向いている教会の孤児院や学校の先生、侍医、服飾とかもあるから、全部ではないがと前置きも忘れない。
「クルトごめん。俺たちが足りなくて……」
「もういいよアンジェ」
僕は決心した。「白の賢者」は防御と治癒に特化した魔法使いで「黒の賢者」は攻撃に特化した魔法使いとのこと。黒の賢者はゲームみたいに属性はなく、なんでも使える。彼と二人ならきっとなんとか出来るって、僕は謎の自信を持つことにした。そうしなくちゃいけない気がしたんだ。
「アンジェ、僕も訓練してもいい?近衛騎士さんのところとかアンジェのところとかでさ」
「はあ?」
「白の賢者としてなにが使えるのか術を試してみたい」
「まあ、いいけど」
不満そうに僕を見つめて、いいよって。話は通しておくって言ってくれた。
「無理はしなくていいからな」
「うん。戦い方のフォーメーションとか、魔法を試して工夫する訓練だから」
「フォーメーション?よく分からんが、危険のないように」
そんな話をしながら眠って、僕は翌日朝食後にティモと帰宅。アンジェはそのまま城の仕事に向かった。
「アンジェ?」
「うん……」
不機嫌ハラスメントだよ!って思ったけど、僕は見て見ぬふりすることにした。城は果物の種類が多く、季節外れのイチゴ!があって、僕はうまうまと食べていた。アンジェは考えごとに集中するとあんまり口を効かなくなるから、放っとくしかない。
「ティモ、このイチゴ美味しいよ。一緒に食べよう」
「ありがとう存じます。でも秋にイチゴとはすごいですよね。直轄地にはなにかあるのでしょうかね」
ティモが僕の隣に座り、一緒にイチゴを食べる。
「そうかもね。僕はこちらのイチゴはちょっと小さめだけど、酸味があって好きなんだ。前の世界の僕の国は甘いものばかりでね」
「へえ。甘い方が美味しくありませんか?」
「うーん。僕は少し酸っぱい方が好きなんだ」
そうですね、クルト様はお風呂の後のフルーツのお水も、レモンなど酸味がある物を好みますよねって。
「お酢が好きでね。なんか体によさそうな気もしてる。バルサミコ酢は家の名産品だけど、ワインはあんまり。僕お酢は大好きだったんだ」
「ふふっお肉に掛けたものや、サラダもお好きですものね」
「うん」
アンジェを無視して勝手に楽しんでいると、
「クルト」
「へ?はい」
「働きたいか?」
「あ、あの?」
ずっと考えていたがクルトは「白の賢者」だ。世情に疎いのは辛いかもと考えていたんだって。むいっと残りのイチゴを口に突っ込みながら、
「もぐもぐ。確かにね。訳わかんなくて戦場に出されるより、政務に関わって流れが理解が出来るに越したことはないです」
今回のは天啓があって、ひと月弱タイムラグがあった。だからどんなでもやると覚悟する時間が存在したし、対策も城から報告もあった。でも今後、人との争いに果たして天啓はあるのだろうか?とアンジェに問う。
「時と場合だな。今回は火竜が関わってたからかもしれない。確かに森は溢れ、動物は戻らなかったから溢れたは正しい。しかし人同士の争いは先触れなんて前例はない。戦いの中で神の助言とお力をお借りして、自分が持てる力より、更に力が出せるようにするのが普通だな」
「ふーん」
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「だから、他国が攻めてくることには天啓がないと思った方がいい」
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「ああ、アンや奥さんの仕事とはそんなだな」
民は何でもするが、貴族は他は家業とかそんな感じだと言う。
「僕が働くとしたら「ノルンと同じ業務」なんだよね?」
「そうなるな」
「出来ると思う?」
アンジェはふうとため息。そんで隣に来てくれって。僕は立ち上がってアンジェの隣にぽすんと座る。
「お前は以前の世界で文官のようなことをしていたと聞いている。だから出来るとは思うが……はあ…嫌だ」
肩の力がガクッと落ちて、ものすごくイヤそうな姿にプッ
「ならしないよ」
「でも……」
僕はアンジェのものすごく嫌そうな雰囲気にクスクス。ならば僕が出来ることはひとつ。
「アンジェがイヤがるなら、ことが起きてなにもわからなくても出撃する。その場で対応する、だね」
臨機応変はあまり得意ではないけど、やれないことはないだろうと、自分の過去を思い出していた。追い詰められれば人とは動けるものなんだよ。
「いや、それはお前の負担が大きい。理解してない戦いは大変だぞ?」
「それはみんなもある意味同じでしょ?宣戦布告がいきなりあって、そして対応なんだから」
そうだが、騎士も俺たちも準備してるからすぐに動けるが、お前は違うだろ?と。あんな場面で怯まなかったお前がどうかしてるんだという。
「じゃあどうして欲しいの?」
目をそらしあー……って。
「屋敷で俺を待ってて欲しい。俺だけのクルトでいて欲しいが本音だが、クルトの負担を考えれば……悩ましい」
「ふふっなら家にいるよ」
アンジェはなんでクルトが「白の賢者」なんだろう。俺への嫌がらせなんだろうかと、アルテミス様を恨んだりもしたそうだ。あはは……それはまた。
「僕が嫌いになった?」
「ならない。愛してる」
即答で答えるアンジェ。僕はあなたと同じ方を向いて歩ける人になりたい。あなたの背中を見るのではなくてね。ベルント様のように隣を歩きたいと話した。
「ならなくてよかったんだ。本音ではな」
アンジェはこの二年、日々愛しい気持ちが強くなっていた。一緒にいる時間は短くとも、僕がいるから頑張れたそうだ。
「ありがと」
「危険なことはさせたくない。隣にいれば絶対助けられる訳でもないのは…その、俺は理解しているんだ」
「うん……そうだね」
不意打ちなんていくらでもある。前の世界では戦争が各地で起きていた。たくさんの民間人が犠牲になって、兵士は塹壕や基地、移動中の戦車の上で世界中に動画を配信していた。見るに耐えない映像がたくさん世界中に溢れていたんだ。そして戦争を知っている世代は「いまは戦前のようだ。ポヤポヤしてたらいきなり戦争が始まり、人が死んでいくんだ」と。その足音が聞こえると言っていた。
ここも似たような世界が広がっていた。今回は相手が「人間」じゃなかっただけなんだ。死体があんまりなくて魔石になってた……だけ……で……たくさんの動物も人も……そうだ。たくさんの命が散ったんだ。僕の脳裏にはあの、森に到着したばかりの時の景色が浮かんだ。なぜここまでになる前に……
「ねえアンジェ。あの討伐は僕はもっと早くに呼ばれるべきではなかったのですか?なぜあんなにも動物も人も死んでから呼ばれたのですか?」
突然敬語になった僕にアンジェはビクッとした。一呼吸置いて彼は、
「それは……俺たちや王、大臣たちの甘い考えがあったからだ。火竜が暴れたのを確認した時点でクルトを呼ぶべきだった」
「なぜしなかったの?誰も言わなかったの?」
下を向いて手を組んで苦しそうに話す。
「はじめに戦っていたのはシュタルクの戦士たちだ。その後バルシュミーデ、ヘルテル、うちが参戦。俺たちは戦闘向きではないが、他の二国は戦闘が仕事で……その…彼らがなんとか出来ると言うのを鵜呑みにした。上手くいかない時点でクルトを呼ぶべきだったのは、今なら理解している」
「そう……それで遅れたんだね」
アンジェは膝に腕を付いてぐったりしてしまった。実はうちの戦死者は他より多くはないが、他二国は相当の被害を被ったんだそう。出来ると言った手前、最前線で戦ったから。たった三日で全ての前線合計で、千人超えの戦死者を出したそう。
「嘘でしょ?」
「本当だ。こちらは少数だがバルシュミーデは空も飛べないし、物理攻撃がメインの国でな。ヘルテルはその半分かな……」
「変な意地を張るから……」
なんてことだ。僕が助けた人なんてほんの少しでしかない。もっと早くに行ければ……仕掛けたシュタルクはともかく、他は。
「俺たちは戦闘慣れしてないことが敗因だ。彼らは慣れすぎて過信した。今後は対策をきちんと取ろうってなっている」
「うん……」
これ僕らの個人的な感情で動いていいことなのだろうか?アンジェが嫌がるからとかでさ。自分が戦術に関わった方が、死者の数を減らせるのではないかと思わないでもない。
でもなあ……僕がそんなことが出来るかは未知数だ。自分の能力がどこまであるかも分からんし、役に立たない現場もあるかもしれない。つうかさ、戦闘なんてこれまでしたこともなくて、まともな対峙は不向きもいいところ。
「ねえ、不穏になったらすぐ召集して欲しい。僕に何が出来るかは分からないけど、出来ることがあるならやるから」
「ああ」
ごめん。辛い思いをさせたと抱いてくれた。
「うん……」
落ち着いてくると色々思うところがある戦いだった。当然シュタルクが悪いんだけど、魔法使いとして僕が早めに動いていればと、後悔も募る。
「もう寝よう」
「うん」
僕らはベッドに潜り込んで抱き合った。
「ごめん……クルトはなにも知らず、幸せに俺の腕にいればいいと思ってた」
「うん」
「アンに政や戦に関わらせるなんて、俺は嫌なんだ」
「うん……でも仕方ないよね。僕、白の賢者だし」
アンジェは、はあってため息。この世界は男尊女卑とは言わないけど、アンに仕事をさせるって考え方は基本的にはない。民も経済的に困ってなければ家にいて、お母さんが普通だって、アンジェは説明してくれる。アンの方が向いている教会の孤児院や学校の先生、侍医、服飾とかもあるから、全部ではないがと前置きも忘れない。
「クルトごめん。俺たちが足りなくて……」
「もういいよアンジェ」
僕は決心した。「白の賢者」は防御と治癒に特化した魔法使いで「黒の賢者」は攻撃に特化した魔法使いとのこと。黒の賢者はゲームみたいに属性はなく、なんでも使える。彼と二人ならきっとなんとか出来るって、僕は謎の自信を持つことにした。そうしなくちゃいけない気がしたんだ。
「アンジェ、僕も訓練してもいい?近衛騎士さんのところとかアンジェのところとかでさ」
「はあ?」
「白の賢者としてなにが使えるのか術を試してみたい」
「まあ、いいけど」
不満そうに僕を見つめて、いいよって。話は通しておくって言ってくれた。
「無理はしなくていいからな」
「うん。戦い方のフォーメーションとか、魔法を試して工夫する訓練だから」
「フォーメーション?よく分からんが、危険のないように」
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