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二章 討伐とその後

8 王への報告会

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 僕らの活動報告に、ふむと、王のハルトムート様は考え込む。

 事前に調書は取られてて、手元の書類を手に取り彼はうーんと唸る。
 大きな会議室にたくさんの、大臣や秘書官が勢揃いで、重苦しい空気の報告会。どの国もたくさんの死者を出してしまったから。

「火竜バルナバスか……あれマジだったんだ。前もって報告は受けていたが、お前らに聞くと実感するな」
「ええ。王家に伝わる伝説。バルナバスから聞いて、俺もあれは本当だったんだと思いました」

 アンジェの報告に他の大臣も言葉がなかった。国に広まっている創世記物語は、この部分は改定の途中でカットされたようなんだ。だから今の民は知らないし、大臣職の人は話半分で覚えている。王宮の図書館にしかカット前の本はないらしい。僕も当然知らない。

「初代王エンゲルベルト王が契約してたようで、それ以外にもなにかあるようでした」
「ふーん。助けに行く約束ね」

 約定の内容の記録はない。あったんだろうけど、今はないが正しいのだろう。
 それと細かい魔物は白の賢者が遠ざけているけど、竜が相当数住み着いてるわりにあんまり問題起こさねえなあとは、みんな思ってたそうだ。火竜は発情期が何年かに一回あって、アンの竜の取り合いがある。
 彼らは成長が遅く、何千年も生きる個体もいるそうな。その頂点がバルナバスとディルクの番だ。その子どもや他の個体でそこそこの群れになってて、あの洞窟みたいな巣はあの森に何か所かあった。僕らは復元してる最中に気がついたけど、会話が出来なさそうで怖くて中は確認しなかったし、巣の周りにはいなかったんだよね。

「たぶんですが、白の賢者だけの力で森から魔獣が出ないのではなく、火竜のなんらかの力が、森の動物たちの抑制に一役かっているのではないでしょうか」
「ああ……だろうな」

 忘れ去られた火竜との約定。僕のうちのアルテミス様も忘れられて久しい。不都合なことではないけれど、戦乱や今回の大規模討伐でもなければどちらも気にしなくても生きていける。
 思い出す時は「なにか悪い事が起きた時」なんだなあと、僕はつくづく思った。忘れられている方が幸せなんだって。

「分かった。火竜のことは記録する。なにか起きた時助けてくれる約束があって、一つだけ願いを叶えるとな」
「よろしくお願いします」

 アンジェの報告が終わると僕の番だ。賢者の力を行使して火竜を正気に戻し、森の再生を促した。しかし、獣も魔獣も再生された森には現れず、森は確かに天啓通り溢れてしまった。そして獣たちは帰って来ないし、せっかくだからと土地の地図の更新もしたことを、丁寧に報告した。

「やはりか。国に流れ込んだペット、食料用の魔獣は各領地で捕獲済みで、明日以降森に放ちに行く予定です。ただ……害にならない魔獣は捕まえましたが、中型以上は見当たらず、翼のあるものは帰っても来ない。国の上空を飛んでいたのは見ていたのに、海から帰って来る個体を見かけた者はいないのです」

 農林省の大臣の報告だ。他、国土省、外務省大臣、魔法省の副大臣の報告も同じ。森に帰る魔獣はいないって。あの戦闘でかなりの数は死んだけど、逃げた個体も多いのにな。魔法省の副大臣は、

「明日以降、森の調査をして動物の増え方を見ていきます。これから数年にも渡りの継続調査になりますかね」
「分かった。頼む」

 王はこの先どうするかの議題に移ろうと言う。宰相様に次の議題の前に僕は退席してくれと言われた。後は大臣たちとの話し合いだそうで、大臣でもない僕は、白の賢者としてここで終わりだそう。

「はい。では失礼いたします」

 席を立ち大臣たちの後ろを通り扉に向かった。扉を衛兵が開けてくれて、僕は一礼して出ようと顔を上げると、全員が僕に頭を下げた。

「あの……」
「クルト様、感謝いたします。あなたの力がこの危機的局面を打開いたしました。ありがとう存じます」

 代表で王の宰相オイゲン・ハグマイヤー様が声を掛けてくれた。大臣の中には涙ぐむ人もいた。

「はい。お役に立ててよかったです」

 僕は精一杯笑顔で応えた。

「では、本日はゆっくり城でお休みして、明日帰宅して下さいませ。この後夕食会をいたしますので」
「はい」

 僕はもう一度頭を下げ外に出た。扉が閉まり振り返ると、そこにはティモがぷるぷる震えて待っていた。

「ティモ!ただいま!」
「うっ……おかえりなさいませ。クルト様」

 目に涙をいっぱい溜めて、よかったと抱きついて来る。僕は心配掛けたねと、彼と抱き合った。

「グズっまずはお部屋に行きましょう」
「うん」

 ティモと城の二階の客間に移動して、お疲れでしょうからお風呂をどうぞって。休憩はその後にってお風呂に入り、僕の髪を梳かしながらティモはブツブツ。

「ったくバサバサになって……僕があんなに手入れしておいたのに!」
「仕方ないよ。洗浄の魔法だけだとどうしてもね」

 頭を念入りにシャンプーで洗い流し、髪に香りのいいオイルを丁寧に塗り込む。

「バリバリする……それに体にキスマークがこんなにも……あの、もっと早く帰れたんじゃないんですか?」

 まあ、少しは早く出来たかもね。でもねえ、うふふっ

「そうなんだけど、いたすと次の日は動けなかったんだよ。魔力の使いすぎっていうか、腰が抜けるような感じで、朝はほとんど動けもしなかったんだ」

 バカですか?それ根本の魔力を溜めるところの魔力切れ起こしてるんですよって。旦那様は分かってて……チッと舌打ち。いやいや、僕も分かってたよって。

「なけなしの体力と魔力を使ってまで交わらなくてもいいのではないでしょうか」

 そうなんだけどね。うーんとね?

「そこは愛し合ってるし?こんなにべったりふたりでいるのはこの二年で初めてで、僕もアンジェも嬉しくて。そのね?」

 髪を丁寧に梳かしながら分かりますがと怒っている。屋敷ではお二人が帰って来ないのに他は帰って来てるし、不安だったのですよと叱られた。

「それはごめん。どちらかというと森の再生に時間が掛かったんだよ。ものすごく燃えちゃってね」

 公爵家の土地の三倍くらい焼けて、森とはよく言ったもので、起伏も激しく大変だったんだよと説明した。

「討伐が終わった日以降も動物は逃げてたんですよ」
「そうなの?」

 ティモはペット用はもちろん、イノシシとかシカ、アウルベアじゃないヒグマやたぬき、キツネ、鳥も大群で逃げていたと教えてくれる。その間ティモは髪に丁寧にオイルを揉み込む。

「みんなどこいったんだろう?僕らが森にいる間見かけなかったんだよ」

 ティモは髪を流しますよと、お湯をザバァと掛けてくれる。そういや森の方に戻る獣は見ませんねって。

「夜中に戻ってるとか?」
「ならいいけどね」

 魔獣たちはだいぶ焼け死んじゃって、魔石がゴロゴロ動物は丸焦げ。森の再生前に魔石を全部拾って再生してると全然終わらなくて、気が遠くなったのは本当だ。中々前に進まない気がしたんだよね。

「そっか。獣とかいなくて安全だけど、手間は掛かったと」
「うん。魔石の放置はもったいないでしょ?」
「確かに」

 これは魔石商に卸して売りさばいて貰う予定。騎士の派遣、殉職の騎士の見舞金、ヘルテルからの航空隊の貸し出しのお金とか、国は支払先が多いからね。

「そうですね。うちもバルシュミーデ、ヘルテルも損しただけだもの」
「うん……シュタルクが余計なことしなければ、獣も一度に死なずにすんだんだ。こんな人的災害で死ぬ必要なんかなかったんだよね」
「ええ、森を元に戻そうとも動物は生き返りませんし」

 終わりました。湯船にどうぞと促されてタポン。あー……お湯いい……あったまるし疲れが取れるような気がする。

「ティモも一緒にはいってくれない?寝そうなんだ」
「はい」

 ふたりでゆらゆら……ねむ……

「クルト様こちらへ」
「うん」

 手を繋いでいたけど、抱いた方が安心とティモに背中を預けて……うっ…やっぱ眠い……

「支えてますからもう少し温まりましょう」
「うん…ごめん」

 僕の体が冷たく感じるからって抱かれていると、すぐに意識が途切れ、出ますよと声をかけられて目を開けた。

「ごめん。本気で寝てた」
「いいえお疲れですから。それよりもずいぶんと大人びましたね。毎日だと気が付きませんけど離れると感じます」
「そう?自分じゃ分かんないだ」

 子どもっぽさが抜けて色っぽくなり、大人のアンらしくなりましたと。

「腰のあたりとか、お尻とか。ノルンなら情欲をもつお体になりました。もうお子様を望めると思います」
「ほんと?」
「ええ。十五でも産めますが、やはり体が成熟してからの方が安産でいいんですよ」

 そんなもんか。あとね、子どもがかわいく感じられます。あんまり若いと愛情が生まれない場合ありだそう。

「ノルン、アンどちらもね。相手しかいらないってなるんです。自分たちが年取っても、その時の子はあんまり可愛くないと感じたりもあります。後の子ばかりかわいがってなんて、学園の友だちがいましたから」
「へえ……それ怖い」

 あれ?そう言えば昔何かの動物番組で、動物園のトラとか白くまとか育児放棄のを見たことあるな。親が子育てを放棄して飼育員さんが育てるとか。あはは……急いで作らなくてよかった。なんというか、この世界の人は動物の本能がたくさん残ってる感じが僕はしてるんだ。
 温まったからお風呂を出て、久しぶりにいつものティモのお水をゴクゴク。彼の作るお水が一番美味しいなあ。

「ありがとう存じます。あなたの好みで作ってますからね」
「ふふっありがとう」

 火照りが取れてからベッドに入ってそく寝落ち。お布団が気持ちいい。ワラじゃないからガサガサいわないし……幸せ。アンジェの匂いがすれば完璧なんだけど、そこまで文句は言えないか。僕は夕食会まで少し眠ることにした。



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