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五章 僕のこれから

1.次期王の選定

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 僕らは朝の日差しの中庭で日向ぼっこ、寄り掛かるステファヌの胸が気持いい。子供たちも下の子が成人し、午後から三人の魔力測定をしてこれにより王二人を選定する儀式に臨む。残り一人は上級貴族になり、公爵家を新たに創設する予定。ぼんやりと呟いた。

「どうなるかな……」
「どうだろうな」
「あの三人は仲もいい。臣下になっても宰相は確定だから仲良く国を作っていくだろ」
「そうだねえ……」

 これからの事を思い呟く。風の吹き抜けるガゼボでこれからを思った。僕らもいい歳になってね。以前は落ち着いてから子を増やす!とか息巻いたけど、いざ余裕が出来ると、もうは三人で良くないか?となり今に至る。

 家臣たちはそれこそ作れとせっついたけど、どうにもそんな気になれなくてね。たくさんいればいいもんでもないかな?お嫁や婿に出す子が増えるだけか?となり、一気に増やさなくてもいいかなあなんて思ったり。急激な変化は何が起こるかわからないし、ゆっくりでよくない?と、僕らの中でなった。

「公爵家は増やしたいけど、あいつらが産めばいいしな」
「そうだねえ……上二人は可愛らしいジュスランみたいだし、エルネストは王向きじゃない気はするかな?」

 ステファヌが僕の頬を撫でて、

「俺の子だからな。繊細なんだよ」
「んふふっそうだね。とても線の細い優しい子に育ったね」

 なあなあ俺とイアサントがダメみたいに聞こえるぞと、ジュスランはムッとした。

「そんな事ないよ。彼らは自分を持ってる大胆な子になったよ」
「そうそう!お前によく似て芯の強いいい男に育ったよ」

 んふっってジュスランは微笑み、

「お?そう?ふふっ」
「お前やっぱり単純だな」

 呆れたようにジュスランにステファヌが言う。

「ああ?ステファヌ、深く考えればいいってもんでもねえぞ?幸せになるためにはな」
「そうかよ」

 なんて言い合う二人に僕は頬が緩む。エルネストは甘えんぼにでね。性格もアンよりで僕に似てるからかな。ステファヌの優しさを凝縮したような……でも恐ろしく賢いんだ。思慮深く、何でも裏を取るような……石橋は叩き割る!とばかりに慎重だね。

「皆さん時間ですよ!」
「おう!」

 レオンスたちが迎えに来た。先導する側近について、僕の国内の戴冠式をした小さめの玉座の間に移動。大臣たちはすでに来ててみな席についていた。僕らも玉座に座り、彼らが入場するのを待つ。横に立つアンセルムは感無量とばかりに、

「ようやくこの日が来ましたね」
「うん、アンセルム。長かったね」
「ええ、これで執務がすぐに楽になるわけではありませんが、彼らが二十四~五歳頃には引退も可能になるかもしれませんね」

 うん!これを待っていたんだ。病や他諸々研究に僕は時間を使うんだ!今でもしてるけどそんなに時間が取れないし、ジュスランたちと一緒にもいたい。

 王子が到着いたしました。フェリクス様、アンベール様、エルネスト様ご入場!

 その声と共に扉の騎士が開いた。かしこまった表情の三人が正装してこちらに歩いてくる。初めての自分たちの式典に、顔が引き締まりいい顔だ。玉座の下に揃い僕らに口上を述べる。代表でフェリクス。

「陛下におかれましては………」

 堂々と練習の通り……ヤバッ感激で涙出そう。

「エルネストの成人の祝いと王選定の儀の開催を心より感謝いまします」

 アンセルムがでは魔力測定をみなの前でいたしますと宣言すると、担当者が測定魔石を配り三人は手に握る。どうだろうかと貴族たちはザワザワ。俺は本国の王はフェリクス様がいいと思うとか、いやアンベール様……今は落ち着いているからエルネスト様でも……なんて口々にヒソヒソ。

「ではみなに見えるように見せてください」

 三人は自分の魔力量を確認して数字がみなに見えるように手を上げた。

「では遠くの者は見えづらいと思いますので私が」

 アンセルムがフェリクスから発表。

「フェリクス様、二百十万!」

「「おお!」」

 とどよめいた。我らも増えてはいるが王族はこれ程とはとザワザワ。

「アンベール様、百九十万!そしてエルネスト様、百九十万!」

「「「え?同じか?」」」

 そんな声が一斉に。アンセルムは正確に言いますねと読み上げた。

「えーっと端数が……アンベール様は千二百ちょっとでエルネスト様は五千ちょっと……少しですがエルネスト様のほうが多いですね」

「「「おお!」」」

 と声援と盛大な拍手が沸き起こった。

「ではこの結果に基づきフェリクス様がイアサント王国の王。エルネスト様がドナシアン王国の王。アンベール様が新たな公爵家を設立し臣下となります」

 おめでとうと喝采が起きる中エルネストが慌てたように発言した。

「待って下さい!皆様!聞いてください!」

 え?何を?みんなえっ?とシーンとした。僕らも何だと声が出なかった。

「この結果が全てと分かっております。ですが私は王に向きません。どうか僕を公爵家にして下さい。お願いいたします!」

 会場に向かって頭を下げた。誰かがなぜですかとエルネストに問う。顔を上げたエルネストは、

「私に人を率いる能力はございません。そんな魅力もごさいません。それはここにいる大臣のみなさんがよくご存知のはずです。兄上たちに比べ僕にはその能力が足りません」

 そんな……僕もなかったけど出来たよと声をかけたら、

「ルチアーノ陛下。あなたは自分を過小評価されています。今はあなたの王たる魅力、政策でこの国は成り立っています。父上たちもですが僕にはその能力がありません」
「そんな事はないぞ?」

 んふふっと微笑みジュスランの言葉を否定した。

「父上、贔屓目ですよ。分かっておられるはずです」
「いやしかし!」

 ステファヌは微笑んで何も言わない。こんな事になるのではと予想していたような態度だ。アルベールがお前はそれでいいのか?ここで決まれば変更はないんだぞとエルネストに問う。フェリクスも同じくいいのか?と。

「ええ、兄様たちの補佐をさせて下さい。僕にはその方がやり甲斐もあります」

 会場はザワザワ……魔力量が王の資質の第一条件なのに、慣例を無視するのか?この先の王族決定に問題は出ないのか?と紛糾。当然の反応だ。アンセルムは確認するようにエルネストに質問する。

「エルネスト様は王をやりたくないと言うことですね?」
「はい。以前のような戦がもし僕の治世に起こったら、僕は対応出来るとは到底思えませんし、みながついてくるとも思えません」

 そんな事はやってみなければ分からぬだろうとザワザワ。だが確かになと言う声も少しは聞こえて来る。戦時は王の有無を言わさぬ魅力に惹かれ付いて行くところもあるのも確かだなと。見た目似ているルチアーノ陛下は、確かに従いたいという気持ちを持たせてくれるが、エルネスト様がそうなるとはわからぬな……などなと。

 あちらこちらから思っても見なかったエルネストの辞退にみなが真面目に考え始めた。

「ほらな、こうなると俺は思っていたよ。魔力量の問題じゃない。あいつは俺とルチアーノの地味な部分を凝縮したような……だからな」
「ステファヌ……僕たち親は分かってはいたけど、やる気になれば変わるんじゃないのかなって」
「そうだぞ?俺もやれば出来る子だと思っているよ」

 ジュスランも秘めた力はきっとあると信じているとステファヌに訴えた。

「そのやる気があいつにはないんだよ。兄を後ろから助けて国を運営する。今の俺たちのようになりたいって思ったんだ。実は俺は相談されていた」
「ゲッ!なぜ言わない!」

 お前らに言ったらやれるよって推すだろ?あいつはそれが嫌だったんだよ。だから産みの母親の俺にいいに来た。なんでだよ……

「なんで……母様ってあんなに慕ってたのに……」

 信頼されてなかったのかと僕は呆然とした。

「それは今でもしてるさ。お前が努力の人だと知っているし、俺たちとは違うお前の人を魅了する力にも子供の時から気がついていたんだ」
「そんな事聞いた事もないのに……」

 あははとステファヌは笑い、

「お前の事をエルネストは生きてる聖人くらいに思ってるんだ。あれは真似できないと近くにいたからこその感想だそうだ」

 む~ん……僕にはそんなつもりはなくて……無理を言ってたのかな?

「そうじゃない。肌で感じたそうだ。母様は別格だとな」
「父様たちもいるじゃない!」

 僕は食い下がった。

「ん~……俺たちのような魅力もないと言われたよ。お二人は華やかな雰囲気を持ってるけど、それも僕にはないとね」

 そんなに卑下しなくとも……

「卑下じゃないさ、あれの自己分析だ。俺もそう思ったんだ。あれは宰相向きだよ」
「エルネスト!気持ちは変らない?」

 僕を見上げて微笑んだ。

「ええ!陛下、僕の気持ちは変わりません!お願いいたします!」

 ステファヌはアンセルムに向かって、

「だそうだ。アンセルム、それで決まりだ」
「かしこまりました。では陛下もそれでいいと言われましたのでエルネスト様を臣下に、宰相に任じます!」

 まだザワザワが収まらないけど、パラパラとした拍手でみんな納得はしていないかな?僕は立ち上がり会場に向かって話した。

「みなも知っての通りエルネストはこんな子だ。賢いが表に出る事をよしとはしない。研究とか政策とかを考えるのに向いている」

 ですが……とか聞こえるね。

「だから、魔力量が僅差の場合に限り、本人の意向を汲むと言うのはどうだろう。きちんと法律にもして何かあったとしても変更不可でだ。どうだろうか」

 今まで通り王の死去や病で先がないとかの規定は変わらずでどうだろう?とみなに問う。それでも不安なら魔力で契約を縛るのもありだ。

「いやそこまでは……」
「ならばこれで決定だ!みなよろしく頼む!」

 僕は皆に頭を下げた。するとルチアーノ様が言うならまあいいかと。なら頑張れと拍手が沸き、めでたい雰囲気に会場は包まれた。その後は祝賀会で会場を移動した。

「エルネストおいで」
「はい母様」

 会場の椅子に二人で座りエルネストをナデナデ。

「本当にこれで後悔はない?」
「ええ……兄様たちのお手伝いが僕には向いています」
「そう……ならアンセルムに付いて習ってね」
「はい!頑張ります」

 お前ばかり母様を独占すんな!とフェリクスとアンベール二人がやって来て隣に座る。

「母様、俺たちも頑張るから教えてね」
「うん!期待しているよ!アンベールは来年にはドナシアンに行ってセレスタン樣に教えてもらいなさい」
「はい!セレスタン様は見た目怖いけど優しいのは知っております」

 母様母様と纏わりつく子供たちにニヤニヤしてしまう。お前らいくつなんだ!恥ずかしいぞ!とジュスランたちが笑いながら近づいて来た。フェリクスは僕に抱きついて、

「父様?母様は子供から見ても美しく素敵なんです!……恥ずかしい事かも知れませんがずっと抱っこされていたい………」
「お前ら……」

 三人が抱きついて二人を睨む。

「あはは。甘えんぼは治りませんでしたね」
「アンセルム」

 呆れたように僕らを眺めてため息。あれだけ愛情掛けた子供はどんな子になるのだろうと思ってましたが、ルチアーノ様そっくりになりましたねと笑う。遠くでその様子を見ていた僕の両親は聞こえたのか真っ青になりワタワタ……

「俺たちもこんなになるとは予想外だよ。ほらお前らは踊ってこい!母様は俺たちのものだ!」
「ええ~……」

 シッシッと追い立てて僕の隣に座った。

「ルチアーノは俺たちを見てればいい」
「見てます!愛してるよ」
「こっち見て言えよ」

 ごめんねと二人の頬にチュッ

「もうすぐ三人だけでいられる時間が増えるな」
「そうだねえ……」

 三人は大臣たちと楽しそうに踊っている。

「こんな日が来るとはねえ。僕は夢を見ているようだよ」
「ああ、そうだな」

 キラキラと輝く中央のダンスを眺めながらジュスランの胸に抱かれていた。王は死ななくては代替わりはしないが、僕らの時で前例を作ったからそんなに待たなくてもいいはずだ。

「二人と朝から晩までずっと一緒で……」
「ああ……楽しみだな」

 この先の幸せを思い描いてふわふわとした幸せに浸った。

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