ゆるゆる王様生活〜双子の溺愛でおかしくなりそう〜

琴音

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四章 イアサント共和国 筆頭国イアサント王国

16.出立の日

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 ドナシアン出撃当日が来た。

 まだ薄暗く、東の空がほんのり明るくなっているのが城壁の向こうに見える。城の正門の広い庭に戦士たちが整然と並んで待機している。五国全土とベトナージュより来てくれた戦士たちだ。甲冑は同じ物を揃えたけど色んな国、種族からだ。

 彼らの中には尻尾があったり頭部の形が少し違う人もいる。耳とかの問題でね。そんな戦士たちを眺めていたけどサミュエルが手を上げてこちらに注目を集めた。僕は正門の扉の前でみんなに代表として宣言をするため一歩前に出た。

「本日これよりドナシアン王国に攻め入る。これは前回の侵略行為以降常に不安があり、どの国にも複数のスパイが潜り込んでいたりとあちらの動きは止まらなかった。そして未だに人族、獣人の誘拐が多く減りはしていない。なぜなら王国主導でやっているからだ。これでは我らは安心して生活は出来ず、次回いつ来るかと常に怯えなくてはならない。今日今よりその不安を払拭しようではないか」

 僕は一呼吸置いて戦士たちを見回した。

「勇敢な戦士たちよ。生きて帰れる保証はないが私に付いてきてくれ!」

「「「おおおおぉ!!」」」

 戦士たちは連隊ごと千人単位で指揮官と共に次々に騎獣に乗り飛び立って行った。

「ジュスラン、留守を頼むね」
「ああ、生きて帰ってくるんだぞ!」
「うん!」
「ステファヌもルチアーノを守れよ、絶対だ!」
「分かっているさ」

 母様!と歩き出した僕に子供たちとレノーが正門で深々と頭を下げた。軽く手を振り騎獣に跨り、ステファヌとサミュエルの連隊と共に出発した。東の空は朝焼けで赤く染まっていた。

「サミュエルどのくらいで着く?」
「はい、予定では一泊二日。中継地にカルデロン王国とカベサス王国の中間地に野営です。翌朝出発して昼過ぎにはドナシアン王国に到着予定です」
「分かった」

 僕は今回は自分の騎獣でみなに着いて行けている。ここ一年、本気で練習したんだ。騎士に混じり急加速、急停止の練習。安定したスピードで飛ぶこと、振り落とされた時の緊急対応。精鋭のようには出来ないけど、入隊一年目の新兵くらいには出来るようになった。着いて行けないなど僕自身が許せないからだ。

 ランベールに入る頃には右から陽が昇り、ほんのり残る朝もやを眺めながら市街地を飛ぶ。この国の朝は早く、眼下から頑張れ!と声援が飛んだ。手を振る余裕はみんなないけど嬉しく思っているのは周りを見れば表情で分かった。

「ルチアーノ様、これより海です。三時間は陸地は見えません」
「分かった」
「疲れたら言えよ。俺のに乗ればいいからな」
「大丈夫だよ、ステファヌ」

 先行の連隊はすでに見えず、僕らは最後尾からだ。これは元からの作戦で、野営地には数日前に後方部隊が行っていて準備をしている。補給、整備、医療班も一緒に先行している。

「日差しが暑いな」
「そうだね」

 海の上は照り返しの熱と纏わり付く湿った潮風が甲冑だからか中に籠もって暑い。だがそんな事を気にしていられない。

「ルチアーノ様!前方に陸地が見え始めました!」
「よし!」

 そのまま飛び続け、カルデロン王国の上を通り過ぎる。眼下には畑や田んぼにせいを出している者たちが手を止めて何事かと見上げていた。まあ、これだけの大隊が駆け抜けて行くのだから怖いよね。通過の国の王には通達はしているけど、全部の国民が知っている訳ではないのだろう。

「ここで。一休みです。あちらに味方がおります」
「うん」

 人目に付きにくい林の中に降りていくと補給班がいた。

「お疲れ様です。こちらで食事をどうぞ」
「ありがとう」

 騎獣を降りて案内されたテーブルに付く。

「あ~疲れたな」
「そうだね。こんなに長く止まらずに飛ぶのは僕初めてだよ」
「俺もだ。長くても二~三時間だからな」

 こちらをどうぞとスープとパンを給仕が用意してくれてもぐもぐ。王族も戦士も同じ物を食べるんだ。

「緊張感で味がしねぇ気がするな」
「そうだね」

 サミュエルが疲れが取れるようにこの辺の薬草も入っていると説明してくれた。

「ふふっ変わった味ですが美味しいですよ」
「それでか。城の訓練とは味が違うと思った」

 サミュエルが野営訓練とかでこういった場所の現地調査して、食べられるものとかの調査もしますよと説明してくれた。こういった山間部では元々冒険者が薬草を取りに来たりもしますから有効な薬草は多い。そのため体力回復効果のあるものを混ぜるんだそうだ。

「まあ……味は少し落ちますが、疲れは取れるでしょう?」
「うん、そんな気がする」

 移動だけでポーションは出来るだけ使いたくない。戦闘中にどれだけ必要になるかも分からないからね。でも僕らは長距離の移動も戦闘にも慣れてはいない。前回はランベールの国内だったから、いくらでも調達出来たけど、この辺では頼れるのはカベサス王国だ。だけどポーションがなくなったからと調達に来るには遠いんだよね。

 ドナシアンの隣の二国アルマニア、ブリオネスとは国交を結んだけど、内情はまだ復興途中でカツカツ。こちらに融通できる数は少ないと言われた。そのため自分たちで用意してきた。

「ここは僕らが最後だ。みなは予定通りランベールに滞在して帰還時にまたお願いしておいてね」
「かしこまりました」
「ステファヌ行くよ!」

 はあ、とため息付かれた。

「なに?」
「お前ここ来てまだ半刻も経ってないぞ。みんなこの長距離は初めてなんだ。一時間は休ませてやれよ」
「あ……ごめん」

 僕は椅子に座り直した。気持ちが前のめりになり過ぎていたと反省。

「気持ちが急くのは分かる。だがな、戦士の身体も気にしてやれ」
「うん……」

 お茶をどうぞと給仕されてゴクゴク。はあ……コーヒー美味しい。けどいつもより濃い気がするなぁ。するとサミュエルが、

「ああ、こういった野外では鍋で煮て作りますから味は落ちますよ。カップの下に粉も溜まってますから気をつけて下さいませ」
「ありがとう、サミュエル」

 ズズーっとゆっくり飲んだ。

「ルチアーノ、顔が緊張しまくっているぞ。今からそんなでどうすんだよ」
「あ、うん……迎え撃つのとは違ってさ。こちらから出向く訳でしょ?どうもソワソワしてね」

 嫌だねえお前はと腕を組んで椅子にもたれた。
 
「お前が総大将なんだ。嘘でも余裕のある顔していろ」
「はい」

 前回ベルンハルトにも言われたっけ。頬をパンパンと叩いた。よし!僕は出来る子のはずだ!はずだよ……?少し不安だけど。

「ルチアーノ様、そろそろ時間です」

 サミュエルの声で気持ちを引き締めた。

「よし!行くか。今回はステファヌがいるだけで気持ちが違うね!」
「だろ?ベルンハルトより俺は役に立つぞ」
「うん!」

 二人で見合ってフフッと微笑んだ。サミュエルがみんなに号令を掛けて、次の野営地に向かって僕らは出発した。


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