ゆるゆる王様生活〜双子の溺愛でおかしくなりそう〜

琴音

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プロローグ

2.見つけた(ジュスランside)

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 東の空がうっすらと明るくなりはじめた頃ビクンッとして飛び起きた。

「ハァハァ……はは!!見つけた!!」

 強い魔力を感じる。浄化と癒しの力が強いな……だが近くにはいない。まだ目覚めたばかりの……北か。索敵魔法で感じるのはこの程度か。ふん、まあいずれ城に来るだろう。ん~と伸びをして横になると、すぱ~ん!と張り倒された。

「お前は……!今のを感じてなお寝るのか!」
「だってすぐ来ないでしょ?なら寝ようかと」

 隣の部屋から駆け込んで来た凄い形相の弟に睨まれた。ったく気の短い……ヤレヤレと鼻で笑ったら更に叩かれた。

「お前は!!」

 大声に側仕えたちが慌てて控え室から飛び出て、ステファヌを抑え込んだ。

「ステファヌ様!ご兄弟とは言え王に対してそのご無体はおやめ下さい!」
「うぅ~!煩い!このバカは!」

 両腕掴まれて唸って……あ~ヤダヤダ。

「そうだぞ?魔力量で王は決まるんだ。きも~ちだがお前の方がが少かったんだ、諦めろ」
「ふん、そんな事はどうでもいい!何故動かない!」
「動いてどうなる?その内中央に来るだろ?」

 ガァ!!と……お前は魔物か何かか?

「あれの魔力は……あれはまずいんだよ。感情が暴走したら辺りが吹き飛ぶ!」
「文献には確かにな。必ず起きる訳でもないんだろ?」
「そうだが……しかし!」

 は~面倒くせぇな。仕方ない迎えを出そう。アンセルムを出せばいいだろ?と言いながら、

「ほらおいで。一緒に寝よ?」

 あ……手に魔力が溜まってる?……気の短い奴め。スッと手を空中を平行に切り裂くように障壁を張った。ドフンッと俺を包む防御壁に、ステファヌの魔力が当たり反射した魔力は、窓を突き破り飛び出て、庭の何かがガラガラと崩れる音。同時に庭師たちのぎゃあっと言う叫び声が。

「一度落ち着け。気を揉んでも変わらん」
「はあ……もういい。後で庭は直すから……横空けてよ」
「……ほらどうぞ?」

 布団を捲ると側仕えは手を離し、ステファヌはゴソゴソとベッドに入り私に抱きついて……

「ジュスラン……兄様……不安なんだ」
「ああ……」

 弟の頭を撫でながら……あの者が来なければ我が王国は終わる。そう……この辺り五国全部終わるんだ。王国一の俺たち双子では現状無理なんだ。始祖の血縁でなければ……俺たちは確かに王の血縁なのだが、父から引き継いだ城の心臓である供給の間のオーブに魔力を注いでも術が発動しなかった。

 オーブとは半透明の球体に表面が水に油を垂らしたような虹色にユラユラ輝き、空中に魔力ではないのか?良くわからない力で浮いている一メートルくらいの球体だ。これは他四国は知らない得秘事項なんだ。

 実はこの場所は人が住めるような土地ではない極北の地。ここに始祖が移住を決めたのは、始祖の魔力が桁違いで兄弟たちに迫害されて逃げて来たから。始祖はここにオーブを設置し城を建てて、周りには連れて来た臣下の屋敷を設置し、国を作った。

 ここに国ができた頃は魔物もおらず、他国との交易も出来て、人の流れもあった。だがオーブの負の部分か。森に魔物が少しだが出るようになり、途中から軽い鎖国状態になると晩年は完全に鎖国状態に。冒険者でもなければ通ることが出来ないくらいの魔物が出るようになった。今は鳥族の者が空を移動するか、手練れの冒険者でもなければだな。

 始祖はオーブに十年に一度魔力供給をしていて、始祖が生きていた頃は魔術師なら誰でも出来たらしいが……時と共にその方法が解らなくなり、王族の魔力しか受け付けなくなった。このために我らは窮地に陥ったのだ。

 この事態に城の大賢者たる魔道師アンセルムに鑑定させた所、我らは始祖のアンの時の流れで、我らは先代のノルンの子ではなかったらしい……父方、先代王の流れの始祖の血は百年前に疫病が流行った時に、我らの父の血脈以外消滅していると初めてこの時聞いた。

 だが父が身罷った時、大賢者はアンでも大丈夫だと楽観視していたそうだ。アンでも親は同じだしと。だが結果はこの有り様だ!その頃俺と弟は予知夢を見た。父方の末裔が現れて、この国の始祖のような多大な魔力を持つ者が現れると!

 どれほど嬉しく……そして悔しかったか。俺たちでは役不足だと言われたのも同然で、王の称号も大魔道士の称号も虚しく感じた。そして供給が出来なくなって早二十年。滅亡まで後何年有るかどうかすら怪しいと、我らの魔道士としての直感が全身で叫んでいる。だからこれは吉報でしかないのに……

「大丈夫だ……俺が子を産めばいいんだから。新たな王が来て治世を収め、先も続く未来になるはずなんだから……」
「うん……ジュスラン」

 どの様な者が来るのであろうか。好みだったらいいなぁ。本来起きる時間まで不安に震える弟を優しく抱いて目を瞑った。



 朝日が登り爽やかなのに僕の実家は重苦しい空気で、母は泣き崩れていた。

「なんでお前なんだ!ヨハンと近くでずっと……うわ~ん」
「母さん……」

 椅子から立ち上がって駆け寄り、逞しく分厚い胸に抱かれる……涙が溢れた。

「王都に行ったらどうなるの?」
「さあねぇ……ファンダル様のこの王国は人になる者が少ないから身内にも村にもいないんだよね」
「父さんは聞いた事ある?」

 頭をワシワシと掻きながら、

「ああ。俺はイアサント王国にも行商で行くからな。人になった獣人は城で見習いとなり、魔力の適性で先が変わるんだ」

 ふう……と下を向き、

「俺達は獣人の姿では魔力があったしても発動はしない。人に変化した後でないとな。はあ……お前のキレイな赤毛が人の姿によく似合ってるよ。私によく似たいい男だ……」

 歯を食いしばり無理やり笑顔で……涙がテーブルにポタポタと……

「なんでこの歳で変体を……聞いたことがない。遅い者でも十六の誕生日までには変体するのに。十八とは……今月には十九だ。遅すぎる!!」

 そう言われても人になってしまった。元に戻れる訳でもなく……城に登城しなくてならない。

「いつ出発するんだ?」
「この姿はここでは目立つから……今日中には……母さん父さん。きっと落ち着いたら会いに来るからね!」

 苦しいくらい母は抱きしめてくれた。この逞しい腕が安心で僕は母が大好きだ。僕は父に似て細くて、被毛が無くなったら余計……

「父さん……」
「ルチアーノ……お前が幸せである事を願ってる……いつか……いつか……会いに来てくれ……」
「うん……」

 母に抱かれてる僕ごと三人で抱き合った。今生の別れになるかもしれない……僕の魔力次第だけど。

 両親に別れを告げて店に戻り、ヨハンを横目に旅支度を始めた。イアサント王国の王都まで歩きで三日か四日くらいだと父が教えてくれた。

「ルチアーノ……」
「ごめんなさい。大好きでした……新しい恋人見つけて……幸せに…グスッなってね」
「……嫌だ!行かないでくれ!俺と他国に逃げよう!な?」

 ふふっ無理と分かってて……それでも嬉しく感じた。現実では冒険者はAランク辺りを数人お願いしなければ森も山も超えられない。あっという間に魔物に食われてしまう。鳥族や竜族には……目眩がする金額だよ。そんなお金は僕たちにはない。借金ならあるけどね。

「気持ちだけ……ありがとう。お店の借金のお金は送るから……ごめん」

 背中に抱きついて泣いて……うなじを舐めて……?

「ダメ!!!」
「なんでだよ!お前は俺の番だろ?」
「もう番じゃない!噛んたらヨハンが新しい番を選べなくなる!僕もね!」
「クソッ!独り身でいいじゃないか!」

 馬鹿なことを……番のいない獣人はゆっくりおかしくなり、四十になる前には狂って死ぬ。子を作る決心をしたカップルが初めてうなじを噛むのは、番になるという事が生死を掛けることでもあるからだ。途中で番に死なれた者も二十年くらいで同じになる。だから、歳を取ってから出ないと悲惨な最後になる。僕は以前ガリガリに痩せて、魔物のような姿で森の入口に倒れて蠢いてるのは見た事はある。あれは番が亡くなったかそれとも……

「僕はヨハンには素敵な恋人を作って欲しいから……お店も大きくしてね?ヨハンの料理は評判いいんだよ?」

 牙が唇に当たったのか血が口から垂れて……そっと指でなぞり……チュッ

「僕を子供の頃から今まで愛してくれてありがとう。幸せにね」

 荷物を持ちヨハンに深々と頭を下げて感謝の言葉を伝えた。これからどうなるか分からないけど……猫族改め人族になったのだから、その運命を受け入れ幸せにならなくちゃいけないんだ。父さん母さんのためにも!

 昼過ぎの眩しい日差しの中、人族の王都を目指して歩き出した。
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