捨てる神あれば拾う神あり こんな僕でいいってどこ見て言ってんの?

琴音

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おまけ

一話の出会い 広翔side

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 引っ越しって何度やってもマジ疲れる。俺はダンボールをたたみながらため息が漏れた。たいして荷物ないと思ったのになあ。

 帰還休みは引っ越しの後片付けでほぼ終わってしまった。あ~あ
 そんで会社も少し遠くなった。広いところで予算に合うところが数件で、電車の乗り換えがないのここだけだったから仕方なし。でもまあ駅前にはスーパーもコンビニもたくさんあるし、生活はしやすそうかな。そこそこ気に入った。ぬはは。
 せっかくの暇だからこの期間だけでも料理にせいを出そうと思ってスーパーに日参した。

「肉ばっかりもなあ体によくないし……や、さ、い~」

 肉売り場から野菜売り場に、あれ……なんだろうあの小動物感たっぷりの俺好みな男。ブロッコリーを手に品定めしてて、歳も近そうだ。
 俺は商品を選ぶフリして近づいて、ピーマンを持ちながら横目でチラチラ。

「やべぇ、マジ好み。このかわいい感じ大好き」

 口に出しそうになるくらい好みだ。体つきもいいし、なんと言ってもかわいい。こんな人が恋人になってくれたら嬉しいのに。
 あうっ……彼はスタスタとブロッコリーをカゴに入れて移動していく!後ろ姿もかわいい……うわぁ……お近づきになりたい。ピーマン片手にぼんやり彼に見惚れてしまった。

 それから彼を時々見かけた。大体同じくらいの時間にスーパーにいることが分かり、見かければ少し距離を置いて観察。分かりにくいけど多分ゲイなはず!動きがどうも怪しいんだよ。
 そんなある日、ぼんやり魚売り場で買い物してて、鍋のセットを見つけてこれでいいやって手に取ろうとしたら、手が。

「あ、ごめんなさい!」
「い、いえ。俺こっちにしますから。最近良く来てますよね?」
「え?」

 かわいい!声もかわいい!どうしよう。もう俺は見てるだけは辛くなってて、まあダメで元々、印象だけでも残そう!彼が不審そうに立ち去ったから印象は変えないとだ。
 俺は買い物を済ませて外で彼を待った。レジ袋を手に出てきた彼は俺に気がついたのか、あって声。

「あの!さっきはごめんなさい」
「ああ、気にしてませんよ」

 少し怯えた感じで気にしてないって、よかった。でも彼は苦笑いを浮かべた。

「最近この辺に引っ越してきて、僕土地勘なくてこの店しか来てないんです。だから見かけてもおかしくないんですよ」
「そうなんですか。俺もこの辺です。自炊好きでここはよく来るんです」
「へえ」

 ふたりとも言葉に詰まった。印象を残したかったのに言葉が思いつかない!

「あの、失礼します」
「あ、はい」

 あ~行っちゃう!俺のハムスターちゃん!仕方なく俺も帰ろう。もうすぐマンションってところで彼発見。俺のマンションに入って行くの?マジで?ウソだろ!ならば、会う機会はたくさんあるはずだと思ってたんだけどね。
 俺が少しずつ帰宅が遅い日が出てきて同じくらいに帰宅出来ず。でも、付け狙ったお陰で俺の中で彼はゲイ確定。ならチャンスの日があれば声かける!もうこの早く帰れる日は残り少ないんだよ。

「こんばんは」

 スーパーで久しぶりに見かけて俺は逃すまいと、出来るだけいい人そうに見えるように営業スマイル。

「こんばんは……」

 でも、彼は警戒してる感じだな。なんで?

「今日は何にするんですか?」
「はあ、今日はお肉にしようかと」
「そうですか。俺もそうしよっかな」

 離れるもんか!もしかしたらこの先うまく会えないかもしれないし、彼にくっついて肉売り場に移動した。

「このお肉いいなあ」
「そうですね」

 俺が肉を見ている間に彼はひとつを掴むと足早に消えた。なんで?俺もその肉を手にしてレジに行ったけど見当たらない。そんな逃げなくでも……ならば追いかける!レジを済ませて急いだ。

「ああ、よかった追いついた!」
「うっ」

 エレベーターの前にいた!チャンス!

「なんで先に行くんですか。同じマンションなんだから一緒に帰りましょうよ」
「はあ……でもあなたと友だちでもないですし」
「ああ、そうでした」

 ふふっとかわいい声にうっとりして声が出てしまった。嬉しくてついね。

「なら友達になってもらえませんか?」
「え?」

 振り返った彼は驚いて固まった。でも俺は怯まない! 

「俺こっちに戻って来たばっかりで、この辺に友達いないんですよ。ぜひ」

 エレベーターのドアが開いて、ふたりで乗り込んだ。これを逃しては絶対ダメだ、なら押すのみだ!

「ダメですか?」
「いえ、ダメではないですけど……僕つまんないですよ」
「そんな事は仲良くしてみなきゃ分かりません」
「はあ……」

 五階に着いて俺も降りた。なんで?って顔。

「あの、ここ五階ですが?」
「友達になって下さい」

 すごく悩んでいるけど、俺は引き下がるつもりはない。

「僕恋人と別れたばかりでテンション低めですよ?」

 よっしゃあ!恋人なしだ!神様ありがとう!

「あらそれは……なら友達がいれば気持ちが紛れますよ!」
「そうかな」

 心は飛び上がるほどだが、冷静に自己紹介。

「ええ!俺は武田広翔たけだひろとと言います。二十七です」

 落ち着いてたつもりだけど、声が大きくなったな。

「僕は斎藤千広さいとうちひろと申します。二十八です」
「そっか。同い年になるのかな。俺は今年二十八になるんです」
「あ~僕はもうすぐ九になるから一つ上だね」
「そっか。斎藤さん週末暇ですか?」
「ええ、いつでも暇ですね」

 よし!押せ俺。不思議そうに彼は小首を傾げているが、俺も暇ですと伝え、俺の部屋に遊びに来ませんかって。

「なんで?」
「お昼御飯一緒に食べませんか?俺作りますから。お友だちになるにはたくさん話さなきゃ」
「あ~でも大変じゃないですか?外でもいいですよ」

 時間制限あるのは嫌だから、俺の部屋にしましょうって提案した。じっくり話し合って、あわよくば!絶対逃さねえ。

「せっかく同じマンションだし、人のために作るって楽しいじゃないですか!」
「まあ……」

 迷ってるようだけどこれはオッケーかな。

「斎藤さん、電話番号教えて?」
「あ、はい」

 番号を交換して俺はすぐに部屋に戻った。しつこくしても印象は悪くなるもんね。よかった、万が一ゲイでなくとも落とすつもりだ。それほどまでに俺の好みなんだ。……抱いたらきっとかわいいはず。あの声で広翔ってゾワゾワする。いやいや……その前に好かれなくちゃだろ。ワクワクが止まらない、叫びたいほど嬉しい!週末が待ち遠しくて震える。
 
 それにしても、あんなかわいい人が同じマンションとかなんてツイてるんだろう。ホントにハムスターみたいな……俺の腕にすっぽり入りそうできっといい声で俺を……
 夕飯すませてソファで横になってると、さっきのことが何度も頭をめぐり、抱きたい気もちが強くなった。俺の頭エロばっかになって……嫌だよ俺。

 そしてあっという間に週末になった。


 


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