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三章 どこになにが潜んでるかは分からない
8.襲われてた!
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広翔の話はこうだ。
スタッフチェンジ後はまあ、忙しくはあるけど新しい子、瀬戸さんも頑張ってくれていい雰囲気で仕事してた。彼は工藤さんとあんまり歳も変わらなかったけど、頑張りだけはすごくて、みんながかまって仕事を教えててねって。
「ここ二週間くらいは、俺のチームはいい感じだったんだ。工藤が抜けた穴を彼女は必死に覚えてくれててね。あちらもひとり抜けてるから大変だけどまあ、期間限定だからいいさって」
「うん……」
噂は広まってたようだが、表立ってなにか言って来る人もなく回ってた。でなって。
「昨日の帰りに目の据わった工藤が現れて、もう一度考え直してって来てさ。無理って言っても聞いてくんないから、ビルの公園で話してたんだ」
「うん」
人目があるのも嫌だったけどあんまりにも目が怖くて、誰かの目があったほうがいいかと思ったそうだ。そんな感じで来られたら怖いよね。
「埒があかなくて強制的に終わり!って帰ろうとしたんだ。そしたらこんななった」
手に入らないならっていきなり殴りかかってきて、広翔は防戦一方で耐えたそう。キレた人の力は凄まじく、どうにもならなかったらしい。それに後から分かったけど、刃物も持ってたらしい。俺たちの暴れてる声にみんな集まって助けてくれた。
「これはまずいって、誰かが警察に連絡したらしくて警官が来てね」
「うん」
「でね、朝になった。まあもっと早く終わってたんだけど始発なかったから」
タクシーで帰ってこい!こんな時にケチの発動はいらん!
「いやあ……会社からだと割増もあるしねぇ」
「バカ!」
「そうなんだけど、ごめん」
事情聴取っての?あれがあって、会社の人もついてきたから戻って説明してね。怪我は大したことないから適当に。工藤さんの親御さんが迎えに来て謝ってた。また後日きちんとって泣いてて。
「なんか、いたたまれなくてさ」
「うん……」
「俺こんな顔だし、問題起こしたってことで当分来んなって言われて、明日からリモートになる」
「うん……医者には?」
「うん。そこまでな気がしなかったからいいって断った。おかしかったら行けよって言われたけど」
「今からでも……」
「痛いけど刺された訳でもないからさ」
後は分かり次第ねって。
「なんでそこまで……」
「うん…彼は、俺が聞いた範囲だけど普段は明るく元気で仕事も一生懸命してたそうだ。みんなともコミュニケーション取ってて、問題はなくてね」
「うん」
「みんな分かんないって。なんでこんなになったのか、俺が好きなのは分かるけど、こんなねえ」
「うん、会社でとかね」
どこか壊れ始めてた時期と、広翔が好きってのが被ったんだろうけど、人は周りが見えなくなると怖いと思った。
「かわいい子ではあったよ?ちーに似てる気もした。でもね……俺はちーしか見えてないし、あんなにグイグイ来る子はどうもね。友だちになろうとも思わなかった」
「そう」
会ったこともないのにちーのことを悪く言うのも嫌だったし、僕が僕がって縋って来るのも怖かったそう。
「目がね……なんかイッてる感じなんだよ。俺と話し合ってた最後の頃は、もう感情も制御できてない感じで。ちーが見た頃はもうね、お前工藤?ってくらいになっててさ」
「うん…」
激しく愛してるって感じじゃなくて「狂気」を感じてたそうだ。俺がいないと世界が崩壊するくらいの勢いがあった。あれを好きになる人はいないんじゃないかなって。
「そっか……」
俺もそんな部分がないとは言わない、だけどどこか冷静な部分ってあるじゃない?って。
「うん、僕もひろちゃん好きだけど、迷惑になろうとは思わない」
「だろ?相手を我慢させてとかは違うよ」
なにが彼を暴走させたのかは今は分からない。でも自分がしない保証もない。いらねって言われた時、そうならない保証はないんだ。それくらい今は広翔を好きになってはいる。
ちょっと意地悪で、でもほんの少しの時間ですら僕に寄り添ってくれる彼が大好き。
「でも……ちーが俺を今いらないって言ったら、ああなるかもね」
「ふえ?」
「んふふっ俺の愛情を舐めんなよ?俺はねちこくてね。余程のことがなければ離さない」
「はあ……また聞くけど、マジで僕のどこがいいの?」
うん?って。何年も一緒にいるけど、ずっとこんな調子で変わらない。僕は日々好きだなぁって思ってるけど、広翔の情熱的な部分は変わってないように見える。
「ちーはいつまでも付き合い始めと変わらない部分と、俺に染まってエッチになった部分がさらに好き」
「うん……」
納得いかない?ならねえって。
「前にも言ったけど、ちーといると落ち着けるんだよ、安心するんだ。どんなに疲れてても、イライラしたことがあっても、ちーの顔見るとどうでもよくなる。ちーはそんな存在」
「そう……ありがと」
もっと喜んでよって。喜んでるよ?共働きの夫婦みたいに生活してるけど、助け合ってやってるし、いない時間も多いけど最近は慣れた。一緒の時間をめいっぱい楽しもうと思ってるし。
「ちーはそのまんまでいて」
「うん。とりあえずシップくらいは」
「ああそうだね」
「僕買ってくる!」
「ありがとう」
すぐに薬局に買いに出かけた。冷えたほうがいいよね?といろいろ手に取ってこれ!って決めてワセリンもか、口切れてたしメンソールが入ってる物はきついだろうからね。
ついでだからおやつも買って、夕飯の足りないものも……大荷物になったけど、急いで帰った。
今日は完全に働かなくていいそうだから、シップ張って口にもワセリンぬりぬり。ソファで向かいあって、血は出てないけど口の端が切れてたからね。
「乾燥すると痛いでしょ?」
「うん。キス」
「ダメ!おかしな薬は口に入れるとよくないかと思ったからこれなの。じっとしてて」
「うん」
指で優しく触ってるんだけど痛そうだね。自分で塗ればいいのにしてって。シップも。
「ちーちょっとだけ」
「もう」
チュッて軽くした。
「ふふっその困った顔好き」
「ひろちゃんが困らせてるんでしょ」
「だって俺好きなんだ。ちーの困ったり、照れてる顔はそそる」
「もう!後は自分でしなさい!」
「ヤダ」
体痛いくせに僕を抱き寄せる。僕も仕方なくってふうで体を預けた……んふふっシップ臭い。
「せっかく休みだけど、ちーを満足させられる自信がないな」
「痛いんだから少し我慢ね」
「うん」
ひろちゃん無事で……無事といっていいのか分かんないけど、僕の腕に戻ってきた。よかった、ホントによかった。
スタッフチェンジ後はまあ、忙しくはあるけど新しい子、瀬戸さんも頑張ってくれていい雰囲気で仕事してた。彼は工藤さんとあんまり歳も変わらなかったけど、頑張りだけはすごくて、みんながかまって仕事を教えててねって。
「ここ二週間くらいは、俺のチームはいい感じだったんだ。工藤が抜けた穴を彼女は必死に覚えてくれててね。あちらもひとり抜けてるから大変だけどまあ、期間限定だからいいさって」
「うん……」
噂は広まってたようだが、表立ってなにか言って来る人もなく回ってた。でなって。
「昨日の帰りに目の据わった工藤が現れて、もう一度考え直してって来てさ。無理って言っても聞いてくんないから、ビルの公園で話してたんだ」
「うん」
人目があるのも嫌だったけどあんまりにも目が怖くて、誰かの目があったほうがいいかと思ったそうだ。そんな感じで来られたら怖いよね。
「埒があかなくて強制的に終わり!って帰ろうとしたんだ。そしたらこんななった」
手に入らないならっていきなり殴りかかってきて、広翔は防戦一方で耐えたそう。キレた人の力は凄まじく、どうにもならなかったらしい。それに後から分かったけど、刃物も持ってたらしい。俺たちの暴れてる声にみんな集まって助けてくれた。
「これはまずいって、誰かが警察に連絡したらしくて警官が来てね」
「うん」
「でね、朝になった。まあもっと早く終わってたんだけど始発なかったから」
タクシーで帰ってこい!こんな時にケチの発動はいらん!
「いやあ……会社からだと割増もあるしねぇ」
「バカ!」
「そうなんだけど、ごめん」
事情聴取っての?あれがあって、会社の人もついてきたから戻って説明してね。怪我は大したことないから適当に。工藤さんの親御さんが迎えに来て謝ってた。また後日きちんとって泣いてて。
「なんか、いたたまれなくてさ」
「うん……」
「俺こんな顔だし、問題起こしたってことで当分来んなって言われて、明日からリモートになる」
「うん……医者には?」
「うん。そこまでな気がしなかったからいいって断った。おかしかったら行けよって言われたけど」
「今からでも……」
「痛いけど刺された訳でもないからさ」
後は分かり次第ねって。
「なんでそこまで……」
「うん…彼は、俺が聞いた範囲だけど普段は明るく元気で仕事も一生懸命してたそうだ。みんなともコミュニケーション取ってて、問題はなくてね」
「うん」
「みんな分かんないって。なんでこんなになったのか、俺が好きなのは分かるけど、こんなねえ」
「うん、会社でとかね」
どこか壊れ始めてた時期と、広翔が好きってのが被ったんだろうけど、人は周りが見えなくなると怖いと思った。
「かわいい子ではあったよ?ちーに似てる気もした。でもね……俺はちーしか見えてないし、あんなにグイグイ来る子はどうもね。友だちになろうとも思わなかった」
「そう」
会ったこともないのにちーのことを悪く言うのも嫌だったし、僕が僕がって縋って来るのも怖かったそう。
「目がね……なんかイッてる感じなんだよ。俺と話し合ってた最後の頃は、もう感情も制御できてない感じで。ちーが見た頃はもうね、お前工藤?ってくらいになっててさ」
「うん…」
激しく愛してるって感じじゃなくて「狂気」を感じてたそうだ。俺がいないと世界が崩壊するくらいの勢いがあった。あれを好きになる人はいないんじゃないかなって。
「そっか……」
俺もそんな部分がないとは言わない、だけどどこか冷静な部分ってあるじゃない?って。
「うん、僕もひろちゃん好きだけど、迷惑になろうとは思わない」
「だろ?相手を我慢させてとかは違うよ」
なにが彼を暴走させたのかは今は分からない。でも自分がしない保証もない。いらねって言われた時、そうならない保証はないんだ。それくらい今は広翔を好きになってはいる。
ちょっと意地悪で、でもほんの少しの時間ですら僕に寄り添ってくれる彼が大好き。
「でも……ちーが俺を今いらないって言ったら、ああなるかもね」
「ふえ?」
「んふふっ俺の愛情を舐めんなよ?俺はねちこくてね。余程のことがなければ離さない」
「はあ……また聞くけど、マジで僕のどこがいいの?」
うん?って。何年も一緒にいるけど、ずっとこんな調子で変わらない。僕は日々好きだなぁって思ってるけど、広翔の情熱的な部分は変わってないように見える。
「ちーはいつまでも付き合い始めと変わらない部分と、俺に染まってエッチになった部分がさらに好き」
「うん……」
納得いかない?ならねえって。
「前にも言ったけど、ちーといると落ち着けるんだよ、安心するんだ。どんなに疲れてても、イライラしたことがあっても、ちーの顔見るとどうでもよくなる。ちーはそんな存在」
「そう……ありがと」
もっと喜んでよって。喜んでるよ?共働きの夫婦みたいに生活してるけど、助け合ってやってるし、いない時間も多いけど最近は慣れた。一緒の時間をめいっぱい楽しもうと思ってるし。
「ちーはそのまんまでいて」
「うん。とりあえずシップくらいは」
「ああそうだね」
「僕買ってくる!」
「ありがとう」
すぐに薬局に買いに出かけた。冷えたほうがいいよね?といろいろ手に取ってこれ!って決めてワセリンもか、口切れてたしメンソールが入ってる物はきついだろうからね。
ついでだからおやつも買って、夕飯の足りないものも……大荷物になったけど、急いで帰った。
今日は完全に働かなくていいそうだから、シップ張って口にもワセリンぬりぬり。ソファで向かいあって、血は出てないけど口の端が切れてたからね。
「乾燥すると痛いでしょ?」
「うん。キス」
「ダメ!おかしな薬は口に入れるとよくないかと思ったからこれなの。じっとしてて」
「うん」
指で優しく触ってるんだけど痛そうだね。自分で塗ればいいのにしてって。シップも。
「ちーちょっとだけ」
「もう」
チュッて軽くした。
「ふふっその困った顔好き」
「ひろちゃんが困らせてるんでしょ」
「だって俺好きなんだ。ちーの困ったり、照れてる顔はそそる」
「もう!後は自分でしなさい!」
「ヤダ」
体痛いくせに僕を抱き寄せる。僕も仕方なくってふうで体を預けた……んふふっシップ臭い。
「せっかく休みだけど、ちーを満足させられる自信がないな」
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