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二章 お互い足りない
3.知らない広翔がいた
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有給休暇とは法律で決まっている日数がある。年五日間は義務だ。だが、最近は時間でとか半休とか取れるようになっている。広翔の会社は当然、大手になればなるだけね。その積み重ねて五日間にしてる忙しい人もいる。
そう、僕の十一月と十二月の有給申請は取り消されてしまった。
「何でこんなことに……」
「仕方ないさ。人がしてるんだから、手違いは起きる時は起きるもんだよ」
「うん……」
僕にはよく分かんなかったんだけど、何かがごっそり抜けてて人事はパニック。みんなで年内に仕上げなくてはならなくなったんだ。担当者がやったつもりになってて、そのしわ寄せでみんなの普段の仕事が僕に。もう休みなんて取れるか不明で、残業でなんとかなるのか分かんないらしい。
「僕のクリスマスの計画がぁ……」
「いいよ。こんな時もあるさ」
今年は土日に上手く当たっていたから、色々作って楽しもうってレシピも調べてたのに。 その日は終わらなきゃ仕事……
「恋人たちにとってクリスマスは特別だよ!もう!」
「日本だけだけどね。海外は家族の楽しみだよ」
「いいんだよ!ここは日本だから!」
「ごめん」
毎年広翔は三が日くらいしか暇はないんだよ!他はその時に応じて毎年違うのにぃ。食事だけでも豪華にしたかったのに!
「あはは。その気持ちだけでいいよ」
「ふうぅ……ひろちゃん」
お茶を飲みながら悪態を付いていた。僕なりにクリスマス楽しもうとしてたのにさ。お茶を片手に、
「俺はイベントって相当上手くやらないと難しいんだよね。それがたまたま千広にも来ただけ。来年もあるさ」
「うん……」
結局クリスマスは買ったものばかりになってしまった。来年こそ!そして正月もあっという間に過ぎ去り、日常が戻った。
「千広待った?」
「ううん」
嘘、カフェで時間潰してた。
「飯は?」
「食べたよ」
「よかった。なら行こうぜ」
行きつけのバーに行こうって言われて、会社帰りに待ち合わせした。初めて言われたけど、そんな店あったんだね。今まで誘われたことないけど。駅を出て少し歩くと、あれ?このあたりは……
「こんばんはママ」
「あっ!ひろちゃんお久しぶりぃ」
うおっ!やっぱりゲイバーだ!何年ぶりだろう、苦手で近づかなかったんだ。僕の行きつけはマスターとボーイのいる店で、普通のショットバーだから。
ママがマッチョでツーブロック、でもなんかかわいい感じの人。
「あら……まあいいわ。座って」
「うん」
僕らはカウンターに座り、広翔がいつもの二つって注文してくれた。ボーイの格好してる小柄なかわいらしい子がふたり、せかせか動いている。お尻には白いうさぎのしっぽ。
「初めてじゃないだろ?」
「う、うん。ずいぶん久しぶりだけど」
緊張していると、お酒が出てきた。
「どうぞ。ずいぶん来てなかったわよね?」
「うん。彼が出来たから」
「ふふっいらっしゃいませ。お名前は?」
「千広です。斎藤千広です」
そう、ちーちゃんねってニッコリ。
「ちーちゃんとどこで出会ったの?」
「近所のスーパーでナンパして手に入れた」
「スーパー?」
驚いてママの手が止まった。まあ、そうだよね。
「うん。すっけぇ好みがいるって思って隠れて追い回してた。ストーカーばりに」
「ゲッひろちゃんそんなだっけ?」
「おう。どうしても仲良くなりたかったの」
「へ、へえ……」
ずいぶん通っている店のようだね。ママとも砕けて話しているし、経緯を説明して驚かれていた。
「以前の彼とはずいぶん雰囲気違うよね」
「ああ。好みは変わるんだよ」
「うーん、見た目は似てるかな?」
「だろ?そこは変わらん」
ママがくりっとこっちを向いて、
「ねえ、コレうざくない?」
「へ?いえ……」
何言ってんの?とドギマギしてると、
「うぜえのは慣れてくれたし、まだ俺は全開じゃない」
「マジか!ちーちゃん頑張れぇ」
「あははっ」
あっひろだ!久しぶりってさっきのボーイのひとり。
「おう、元気か?」
「当たり前さ?恋人に大切にされてるもん。ここも楽しいしね。ねぇママ」
「ええ。この子は長いわよね」
「うん。ひろと歳は近いし、店にひろが来るようになった頃俺ここに入ったしね」
そりゃあ良かったなって。広翔は懐かしいであろうお店の人と楽しそうに話している。そっか、僕と付き合う前はよく来てたんだねふーん。目の端にチラチラとこちらを見る目がある。そういうお店かな。
「ちーちゃん。こういうお店苦手?」
「い、いえ……」
実は苦手。広翔にはっきり苦手って言ったことはないけど、この品定めするような目が怖くて。僕ワンナイトも苦手で……一度誘われてついて行って……うん、忘れよう。
「なんか嫌な目にでも?」
「あ、そんなことは……」
全員がジーっと僕を見つめる。うっ変な汗が出る。みんなの目が言えと言ってるよ……
「ふう……ずっと前に、あんまりいい思い出にならないことがあって」
「あ~……」
と、みんな察した感じになった。
「ちーちゃん、人は選ばないとね。いい人ばかりじゃないから」
「はい……」
ママは優しく微笑んだ。
昔、そういうお店に行けばいい人いるよって、僕がゲイだと知ってる友だちが言ってて、興味で適当な店を探して行ったんだ。その店の傾向とかも知らずにね。
「千広はそれからこういう店来てた?」
「ううん。僕の行きつけはショットバーだよ。広翔がいない時に時々行ってて、普通のお客さんと他愛もないこと話したりしてる」
「そっか……この店はママがこんなだから、変な人少ない優良店なんだ」
ああ?ってメンチ切ってきた。こえぇ
「こんなって何よ」
「あはは。見た目通り強いんだよ。格闘技やってるし」
「え?」
「ほら!」
二の腕をムキッとさせた。ほえ~すごく太い。
「こういう店はまあね。警察はあてにならない時もあるから」
「こないだもママつまみ出してたもんね。あはは」
「やめてよ。優しく退店してもらっただけよ」
ボーイの彼の言葉に微笑んでるけど、目は怖かった。
「かなり酔って、声かけたやつがヤダとか言うと暴れたり、ケンカになったりな」
「ああ……」
全部男だから激しく、キャバクラとは違うらしい。
「ちーちゃんキャバクラ行くの?」
「ええ、仕事の付き合いでですかね。僕カミングアウトしてませんから、無になってます」
「あはは。あたしたちじゃ楽しくないわよね。まだホストの方がいいわ」
「確かにな」
あ~あの子たちね。僕は苦手、華やかでもう生き物が違うんだと思ってるもん。
「ねぇねぇ、ちーちゃん。ひろどう?うざい?ガサツ?」
「ぷっあはは。優しくてかわいいよ」
「やめろよ。ゆう!」
焦って口を挟んでくる広翔かわいい。
「かわいいだって。こいつ見た目はイケメンだけど、中身がねちこいし下品なはず」
「千広は知ってていいって言ってくれるの!ほっとけ!」
「ふーん」
コレ運んでってママに言われてゆうさんは立ち去った。
「僕の知ってる広翔じゃないね」
「うっ……そりゃあ人前では甘えないよ」
「口調も違うよ?」
「そうか?」
俺仕事中とか外ではこんなだよ。千広だけにしか見せてない部分もあるんだって困り顔。
「あら~見てみたいなあ、あたし」
「見せねえよ。千広だけの俺でいたいの!」
「ふーん、ケチ」
こんばんはって入って来たお客さんが、あ!広翔がいる!って指さして声を上げた。振り返ると笑顔で近づいて広翔の肩に手を置いた。
「お前何してたの?全然顔見せなかっただろ」
「おう!彼が一番でそっちに振り切ってた」
「へー、こちら?」
「うん。千広だ」
僕の方を向いて、人好きのする弾けるような笑顔でこんばんはって。
「始めまして。俺学生の頃からの友だちで佐久間太陽って言います」
「始めまして、斎藤千尋です」
うわあ……かわいいね。リスみたいな感じでかわいいと。リス?
「だろ?この小動物感が堪らん」
「ふーん……どこで拾ったんだ?」
「近所のスーパー」
はあ?スーパーってなんだよ?そんなとこで声かけるってなんなの?と呆然。
「まさか、ノンケ?」
「違う。俺の嗅覚と行動力の賜物だ!うはは」
「すげぇ。初めてお前を尊敬した」
だろう?って、自慢の彼だよって。何してる人?って広翔の隣に座って聞いてきた。
「ソフト開発関係の会社の人事担当です」
「へえ……そんな感じだね。同じ会社にしては毛色が違うなって」
「お前さ、同じ会社とかないよ」
「俺の元彼は同僚だよ?今は別部署だけど」
俺はそういう肝っ玉はないのって、うははとふたりで笑っている。
「このふたりはここで出会って恋仲にもならず、友だちになってんの。今はどちらも忙しくて会ってなかったみたいね」
「へえ」
ママの解説。間違いはあったかもしれないけど……どうかなって。お互い好みでないから、なさそうよって。確かに男同士の親友って感じだね。
「心配はいらないかな、何もないと思う」
「あはは」
佐久間さんはガッチリ体系のスポーツマンって感じで、見た目通りの豪快な人そう。何してる人だろう。
「彼の仕事は?」
「ああ、不動産やさん。販売・管理のはずよ」
「ああ」
なら納得。不動産関係は運動部多いもんね。先輩後輩で伝もあって。会社の名前は有名デベロッパーの一つだ。
「ひろちゃん、ちーちゃん放っといていいの?」
「あ、よくない。ごめんね。久しぶりに会ったから」
「千広さんごめんね。俺は邪魔だからあっち行くよ」
「え?いえ!気にしないで下さい!積もる話もあるでしょうし」
「千広?いいのか」
「うん」
なら俺がと隣に座り、ゆうさんが相手をしてくれた。
「ママ僕にもお酒ちょーだい」
「はーい」
彼は隣に座って広翔の話をしてくれた。
「彼は社会人になりたてから、二年くらい前までは時々来てたんだ。イケメンだからモテてね。持ち帰りもしてた」
「ふーん」
この店はそれがメインってわけじゃない。そんな人もいるってだけ。
「忙しすぎていちいち振られてたけど」
「あはは」
「俺は学生時代の話しは知らないけど、まあ、聞いてるはいるよね」
「うん」
そう言うとママから差し出されたハイボールを飲んだ。
「あの後は荒れててね。声かけてくる人みんな食ってたんじゃないかな。新人で時間もまだあった頃だね。寂しくてだと思うけどさ」
「へえ……」
今はそんなふうには見えないけどね。僕は家でウジウジ悩んで泣いてたし、そんな発散の仕方、考えつきもしなかった。
ジーッと僕を頬杖ついて見つめる。
「千広さん優しそうだよね。アレ、わがままだから大変でしょ?俺を見ろ!って言わない?」
「言うね」
「でしょう?面倒臭くね?お前だけ見てらんねえよって。俺そんなこと言われたら疲れるもん。好きでもどっぷりって無理だからさ」
ああ、そういう人もいるよね。僕は依存体質だからその方が嬉しい。人付き合いも得意じゃないし。
「ゲッ……何その欠落埋めるようなカップル。ひろの思う壺じゃん」
「そうかな」
「千広さん、何でも言うこと聞いちゃだめだからね?調子に乗るから」
「あはは、うん」
聞こえたのか広翔がうるせえぞ!ゆうって。
「余計なこと吹き込むな。俺が振られたらお前のせいだからな、責任取れよ」
「はあ?そんなんで離れるならひろが悪いんだよ!」
「なんだと?じゃあ今度お前の彼氏にぶちまけるぞ!あんなことやこんなことを……」
「やめろ!言ったらコロス!」
「あはは」
ねえバカでしょ?ってママ。いっつもこんなで、でもお酒飲んでる時くらい楽しまなくちゃねって。確かにそうだ、ストレス発散もあるからね。僕らはとても楽しい時間を過ごして、この後少ししてから帰宅した。広翔は知らないうちにかなり飲んでいたようで、フラフラとしながらね。
「うう……っく…ごめん。つい」
「いいよ。たまのことだから」
知らない広翔をたくさん見れたし、聞けたから満足だ。あんなに楽しいゲイバーもあるんだと、教えてもらったからいいんだ。
そう、僕の十一月と十二月の有給申請は取り消されてしまった。
「何でこんなことに……」
「仕方ないさ。人がしてるんだから、手違いは起きる時は起きるもんだよ」
「うん……」
僕にはよく分かんなかったんだけど、何かがごっそり抜けてて人事はパニック。みんなで年内に仕上げなくてはならなくなったんだ。担当者がやったつもりになってて、そのしわ寄せでみんなの普段の仕事が僕に。もう休みなんて取れるか不明で、残業でなんとかなるのか分かんないらしい。
「僕のクリスマスの計画がぁ……」
「いいよ。こんな時もあるさ」
今年は土日に上手く当たっていたから、色々作って楽しもうってレシピも調べてたのに。 その日は終わらなきゃ仕事……
「恋人たちにとってクリスマスは特別だよ!もう!」
「日本だけだけどね。海外は家族の楽しみだよ」
「いいんだよ!ここは日本だから!」
「ごめん」
毎年広翔は三が日くらいしか暇はないんだよ!他はその時に応じて毎年違うのにぃ。食事だけでも豪華にしたかったのに!
「あはは。その気持ちだけでいいよ」
「ふうぅ……ひろちゃん」
お茶を飲みながら悪態を付いていた。僕なりにクリスマス楽しもうとしてたのにさ。お茶を片手に、
「俺はイベントって相当上手くやらないと難しいんだよね。それがたまたま千広にも来ただけ。来年もあるさ」
「うん……」
結局クリスマスは買ったものばかりになってしまった。来年こそ!そして正月もあっという間に過ぎ去り、日常が戻った。
「千広待った?」
「ううん」
嘘、カフェで時間潰してた。
「飯は?」
「食べたよ」
「よかった。なら行こうぜ」
行きつけのバーに行こうって言われて、会社帰りに待ち合わせした。初めて言われたけど、そんな店あったんだね。今まで誘われたことないけど。駅を出て少し歩くと、あれ?このあたりは……
「こんばんはママ」
「あっ!ひろちゃんお久しぶりぃ」
うおっ!やっぱりゲイバーだ!何年ぶりだろう、苦手で近づかなかったんだ。僕の行きつけはマスターとボーイのいる店で、普通のショットバーだから。
ママがマッチョでツーブロック、でもなんかかわいい感じの人。
「あら……まあいいわ。座って」
「うん」
僕らはカウンターに座り、広翔がいつもの二つって注文してくれた。ボーイの格好してる小柄なかわいらしい子がふたり、せかせか動いている。お尻には白いうさぎのしっぽ。
「初めてじゃないだろ?」
「う、うん。ずいぶん久しぶりだけど」
緊張していると、お酒が出てきた。
「どうぞ。ずいぶん来てなかったわよね?」
「うん。彼が出来たから」
「ふふっいらっしゃいませ。お名前は?」
「千広です。斎藤千広です」
そう、ちーちゃんねってニッコリ。
「ちーちゃんとどこで出会ったの?」
「近所のスーパーでナンパして手に入れた」
「スーパー?」
驚いてママの手が止まった。まあ、そうだよね。
「うん。すっけぇ好みがいるって思って隠れて追い回してた。ストーカーばりに」
「ゲッひろちゃんそんなだっけ?」
「おう。どうしても仲良くなりたかったの」
「へ、へえ……」
ずいぶん通っている店のようだね。ママとも砕けて話しているし、経緯を説明して驚かれていた。
「以前の彼とはずいぶん雰囲気違うよね」
「ああ。好みは変わるんだよ」
「うーん、見た目は似てるかな?」
「だろ?そこは変わらん」
ママがくりっとこっちを向いて、
「ねえ、コレうざくない?」
「へ?いえ……」
何言ってんの?とドギマギしてると、
「うぜえのは慣れてくれたし、まだ俺は全開じゃない」
「マジか!ちーちゃん頑張れぇ」
「あははっ」
あっひろだ!久しぶりってさっきのボーイのひとり。
「おう、元気か?」
「当たり前さ?恋人に大切にされてるもん。ここも楽しいしね。ねぇママ」
「ええ。この子は長いわよね」
「うん。ひろと歳は近いし、店にひろが来るようになった頃俺ここに入ったしね」
そりゃあ良かったなって。広翔は懐かしいであろうお店の人と楽しそうに話している。そっか、僕と付き合う前はよく来てたんだねふーん。目の端にチラチラとこちらを見る目がある。そういうお店かな。
「ちーちゃん。こういうお店苦手?」
「い、いえ……」
実は苦手。広翔にはっきり苦手って言ったことはないけど、この品定めするような目が怖くて。僕ワンナイトも苦手で……一度誘われてついて行って……うん、忘れよう。
「なんか嫌な目にでも?」
「あ、そんなことは……」
全員がジーっと僕を見つめる。うっ変な汗が出る。みんなの目が言えと言ってるよ……
「ふう……ずっと前に、あんまりいい思い出にならないことがあって」
「あ~……」
と、みんな察した感じになった。
「ちーちゃん、人は選ばないとね。いい人ばかりじゃないから」
「はい……」
ママは優しく微笑んだ。
昔、そういうお店に行けばいい人いるよって、僕がゲイだと知ってる友だちが言ってて、興味で適当な店を探して行ったんだ。その店の傾向とかも知らずにね。
「千広はそれからこういう店来てた?」
「ううん。僕の行きつけはショットバーだよ。広翔がいない時に時々行ってて、普通のお客さんと他愛もないこと話したりしてる」
「そっか……この店はママがこんなだから、変な人少ない優良店なんだ」
ああ?ってメンチ切ってきた。こえぇ
「こんなって何よ」
「あはは。見た目通り強いんだよ。格闘技やってるし」
「え?」
「ほら!」
二の腕をムキッとさせた。ほえ~すごく太い。
「こういう店はまあね。警察はあてにならない時もあるから」
「こないだもママつまみ出してたもんね。あはは」
「やめてよ。優しく退店してもらっただけよ」
ボーイの彼の言葉に微笑んでるけど、目は怖かった。
「かなり酔って、声かけたやつがヤダとか言うと暴れたり、ケンカになったりな」
「ああ……」
全部男だから激しく、キャバクラとは違うらしい。
「ちーちゃんキャバクラ行くの?」
「ええ、仕事の付き合いでですかね。僕カミングアウトしてませんから、無になってます」
「あはは。あたしたちじゃ楽しくないわよね。まだホストの方がいいわ」
「確かにな」
あ~あの子たちね。僕は苦手、華やかでもう生き物が違うんだと思ってるもん。
「ねぇねぇ、ちーちゃん。ひろどう?うざい?ガサツ?」
「ぷっあはは。優しくてかわいいよ」
「やめろよ。ゆう!」
焦って口を挟んでくる広翔かわいい。
「かわいいだって。こいつ見た目はイケメンだけど、中身がねちこいし下品なはず」
「千広は知ってていいって言ってくれるの!ほっとけ!」
「ふーん」
コレ運んでってママに言われてゆうさんは立ち去った。
「僕の知ってる広翔じゃないね」
「うっ……そりゃあ人前では甘えないよ」
「口調も違うよ?」
「そうか?」
俺仕事中とか外ではこんなだよ。千広だけにしか見せてない部分もあるんだって困り顔。
「あら~見てみたいなあ、あたし」
「見せねえよ。千広だけの俺でいたいの!」
「ふーん、ケチ」
こんばんはって入って来たお客さんが、あ!広翔がいる!って指さして声を上げた。振り返ると笑顔で近づいて広翔の肩に手を置いた。
「お前何してたの?全然顔見せなかっただろ」
「おう!彼が一番でそっちに振り切ってた」
「へー、こちら?」
「うん。千広だ」
僕の方を向いて、人好きのする弾けるような笑顔でこんばんはって。
「始めまして。俺学生の頃からの友だちで佐久間太陽って言います」
「始めまして、斎藤千尋です」
うわあ……かわいいね。リスみたいな感じでかわいいと。リス?
「だろ?この小動物感が堪らん」
「ふーん……どこで拾ったんだ?」
「近所のスーパー」
はあ?スーパーってなんだよ?そんなとこで声かけるってなんなの?と呆然。
「まさか、ノンケ?」
「違う。俺の嗅覚と行動力の賜物だ!うはは」
「すげぇ。初めてお前を尊敬した」
だろう?って、自慢の彼だよって。何してる人?って広翔の隣に座って聞いてきた。
「ソフト開発関係の会社の人事担当です」
「へえ……そんな感じだね。同じ会社にしては毛色が違うなって」
「お前さ、同じ会社とかないよ」
「俺の元彼は同僚だよ?今は別部署だけど」
俺はそういう肝っ玉はないのって、うははとふたりで笑っている。
「このふたりはここで出会って恋仲にもならず、友だちになってんの。今はどちらも忙しくて会ってなかったみたいね」
「へえ」
ママの解説。間違いはあったかもしれないけど……どうかなって。お互い好みでないから、なさそうよって。確かに男同士の親友って感じだね。
「心配はいらないかな、何もないと思う」
「あはは」
佐久間さんはガッチリ体系のスポーツマンって感じで、見た目通りの豪快な人そう。何してる人だろう。
「彼の仕事は?」
「ああ、不動産やさん。販売・管理のはずよ」
「ああ」
なら納得。不動産関係は運動部多いもんね。先輩後輩で伝もあって。会社の名前は有名デベロッパーの一つだ。
「ひろちゃん、ちーちゃん放っといていいの?」
「あ、よくない。ごめんね。久しぶりに会ったから」
「千広さんごめんね。俺は邪魔だからあっち行くよ」
「え?いえ!気にしないで下さい!積もる話もあるでしょうし」
「千広?いいのか」
「うん」
なら俺がと隣に座り、ゆうさんが相手をしてくれた。
「ママ僕にもお酒ちょーだい」
「はーい」
彼は隣に座って広翔の話をしてくれた。
「彼は社会人になりたてから、二年くらい前までは時々来てたんだ。イケメンだからモテてね。持ち帰りもしてた」
「ふーん」
この店はそれがメインってわけじゃない。そんな人もいるってだけ。
「忙しすぎていちいち振られてたけど」
「あはは」
「俺は学生時代の話しは知らないけど、まあ、聞いてるはいるよね」
「うん」
そう言うとママから差し出されたハイボールを飲んだ。
「あの後は荒れててね。声かけてくる人みんな食ってたんじゃないかな。新人で時間もまだあった頃だね。寂しくてだと思うけどさ」
「へえ……」
今はそんなふうには見えないけどね。僕は家でウジウジ悩んで泣いてたし、そんな発散の仕方、考えつきもしなかった。
ジーッと僕を頬杖ついて見つめる。
「千広さん優しそうだよね。アレ、わがままだから大変でしょ?俺を見ろ!って言わない?」
「言うね」
「でしょう?面倒臭くね?お前だけ見てらんねえよって。俺そんなこと言われたら疲れるもん。好きでもどっぷりって無理だからさ」
ああ、そういう人もいるよね。僕は依存体質だからその方が嬉しい。人付き合いも得意じゃないし。
「ゲッ……何その欠落埋めるようなカップル。ひろの思う壺じゃん」
「そうかな」
「千広さん、何でも言うこと聞いちゃだめだからね?調子に乗るから」
「あはは、うん」
聞こえたのか広翔がうるせえぞ!ゆうって。
「余計なこと吹き込むな。俺が振られたらお前のせいだからな、責任取れよ」
「はあ?そんなんで離れるならひろが悪いんだよ!」
「なんだと?じゃあ今度お前の彼氏にぶちまけるぞ!あんなことやこんなことを……」
「やめろ!言ったらコロス!」
「あはは」
ねえバカでしょ?ってママ。いっつもこんなで、でもお酒飲んでる時くらい楽しまなくちゃねって。確かにそうだ、ストレス発散もあるからね。僕らはとても楽しい時間を過ごして、この後少ししてから帰宅した。広翔は知らないうちにかなり飲んでいたようで、フラフラとしながらね。
「うう……っく…ごめん。つい」
「いいよ。たまのことだから」
知らない広翔をたくさん見れたし、聞けたから満足だ。あんなに楽しいゲイバーもあるんだと、教えてもらったからいいんだ。
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