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二章 お互い足りない
1.幸せを謳歌してたのに
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「千広これどうすんの?」
「あー待って、そこに置いてて」
「これは?」
「それも」
今日は引っ越し。僕が広翔の部屋に移動するだけだけど。僕の部屋は解約してね。
そう!同居することにしたんだ。家賃無駄だろって。
広翔は以前から一緒に住みたがっていたけど、僕は「宝箱」から「不安」を捨てることが出来なくて、断ってたんだ。
「俺は千広に側にいて欲しい。帰るって言って欲しくない。知ってる?いなくなった後どんだけ寂しいか。いた人がいなくなるってすごく辛いんだよ」
「うん……」
それは身に沁みて知ってる。ひとりで残される気持ちは痛いほど。
「千広が怖いって気持ちは分かるんだ。俺もしてるから」
「うん」
彼も社会人なり立てて別れてるからね。でも僕のほうが辛かったんじゃないかと思ったり。ケンカしてだと清々するって気持ちもあっただろうから、ただ捨てられた僕とは違うと思う。
……口にはしないけど、こんな気持ちが思い浮かんだ。
「ねえ、一緒に住んでよ。家事とか負担は大きくなるかもしれない。だからあんまりやらなくてもいいよ。出来る範囲俺もやるし」
「うん……」
そんなことはひとりでもふたりでもあんまり変わらないからいいんだ。
付き合って二年、広翔の人となりはだいぶ掴んだと思うから。
それでも不安。あのガランとした部屋。響く音と冷たい空気……外の音がうるさく感じる寂しい空間。あの引っ越すまでの一週間がトラウマだった。
自分を責めて相手を責めての堂々巡り。胃は痛くなり食欲は長い間不振、眠れなくて困った記憶、開き直るのに数ヶ月、ちょうど忙しい時期もありなんとかなっただけだ。
「俺は元彼のようなことはしない。万が一があればきちんと話すよ。愛した人に最後そんな仕打ちはしない。これだけは絶対だ」
「うん……」
実際起きたら分からんけどねとは思う。これが僕でもね。あはは、僕にはそんなこと起きないけど。
そんな話があって僕は覚悟を決めた。僕も「帰るね」って言って自分の部屋に帰ると寂しかったんだ。部屋がその時だけは寒々と感じるんだよ。
「あ~俺の部屋狭く感じるね」
「え?なに?」
「タンスとか入れると狭いかなあって思っただけ」
「ああ」
彼の寝室はベッドと机、間接照明と観葉植物だけで何にもなくて広かったからね。僕が来てひとつ使ったから、残りひとつは洗濯干すとこと物置にしている。そこも物が多くなったからタンスは部屋にってしたんだ。
「狭くなっても、千広が来てくれるほうが嬉しいからどうでもいい」
「ふふっありがとう」
「いや、俺がありがとうだよ」
僕はあんまり物は持ってこなかった。家具は自室に使うもの以外は全部処分。キッチンの物もここにないものだけでね。あ、コーヒーメーカーだけは持ってきた。僕これだけはこだわりでブランド物買ってたから。ボーナスぶっこんでね。
カフェラテ。お店みたいなの飲みたいよねってエスプレッソマシーン。豆はそんなに高くなくとも美味しい。
だから引っ越しはすぐに終わって、コーヒーを淹れた。疲れたからアイスで。
「うわっマジでお店の味だ」
「でしょう。カフェ代ってなんだかんだ出るから、計算すればこれは安い。まとめて出ていくお金が辛いだけ」
「あはは。そうだね。カフェは一年分先にくれとは言わないもんな」
僕はこだわりで買ったわけじゃなくて、飲む量が多い。会社でも家でもね。そんで砂糖入ってないほうがいい。ミルクは必須。
すると、缶やペットボトルの物でさえ選択肢は少ない、圧倒的に少ない。たまに売ってないコンビニすらある。
結論、自分でボトルに入れて会社に持って行くになって、小遣いは増えた。カフェに全くいかないわけじゃないけど、アポの隙間の無駄時間にカフェには行かなくなった。
「ブレイクルームとかにカップのマシーンないの?」
「あはは。そんな物はない。自販機だけ、お菓子もないよ」
小さな会社にはそんな福利厚生は存在しない。ブレイクルームがあるだけラッキーだよ。これは外回りで分かったこと。大きな会社はすごいよね。
何かのイベントで外資の会社のパーティに行った時、お店の機械か?ってのが無料で置いてあったのは驚いた。
「外資は違うね確かに。文化の違いだろう」
「だよね」
その日から毎日が楽しかった。部屋が輝いて見えるほど、うちに帰るのも楽しくなったんだ。
「斎藤さん、このところ楽しそうですね。あの有給はなに?」
「うん?引っ越ししてたんだ」
え?って。この間別れてしたばかりじゃないのって。柳瀬には同じマンションに彼がいるとは言ってなかったからなあ。
「同居することにした」
「ええ~あんなに辛そうだったのに、よく決心しましたね。もう二度としないなんて言ってたのに」
「よく覚えてたな」
「だってあんなに目の下のクマ作って、無理やり笑ってんの見てたから覚えてますよ」
「そうか」
そんな悲壮な感じでしたか。あはは……
「でもよかった。斎藤さん明るくなってかわいく見えますよ」
「は?」
んふふって、いやな笑い。そんな変わったかなあ。
「斎藤さんって彼女に染まるよね。以前の彼女は穏やかだったのかなって。今の彼女は明るい方かな。華やかな感じの」
「はあ……」
僕を見て分かるの?どんだけだよ僕は。そんなに変わるの?誰もそんなこと言わなかっただろ。
「初めて言われたよ」
「あはは。仲良くないと言わないかも。俺は斎藤さん友だちだと思ってるから言う」
「そう。そっか」
そんな無駄話をしながら会社は上手く回っていた。広翔とも上手く生活できてこの世の春が僕に来ていた。冬だけど。
そして春に人事異動の辞令が出た。僕は人事に移動。なぜだ!営業から人事とか意味分からん!それが採用担当とか……ああ……嘘だろ。
「あー待って、そこに置いてて」
「これは?」
「それも」
今日は引っ越し。僕が広翔の部屋に移動するだけだけど。僕の部屋は解約してね。
そう!同居することにしたんだ。家賃無駄だろって。
広翔は以前から一緒に住みたがっていたけど、僕は「宝箱」から「不安」を捨てることが出来なくて、断ってたんだ。
「俺は千広に側にいて欲しい。帰るって言って欲しくない。知ってる?いなくなった後どんだけ寂しいか。いた人がいなくなるってすごく辛いんだよ」
「うん……」
それは身に沁みて知ってる。ひとりで残される気持ちは痛いほど。
「千広が怖いって気持ちは分かるんだ。俺もしてるから」
「うん」
彼も社会人なり立てて別れてるからね。でも僕のほうが辛かったんじゃないかと思ったり。ケンカしてだと清々するって気持ちもあっただろうから、ただ捨てられた僕とは違うと思う。
……口にはしないけど、こんな気持ちが思い浮かんだ。
「ねえ、一緒に住んでよ。家事とか負担は大きくなるかもしれない。だからあんまりやらなくてもいいよ。出来る範囲俺もやるし」
「うん……」
そんなことはひとりでもふたりでもあんまり変わらないからいいんだ。
付き合って二年、広翔の人となりはだいぶ掴んだと思うから。
それでも不安。あのガランとした部屋。響く音と冷たい空気……外の音がうるさく感じる寂しい空間。あの引っ越すまでの一週間がトラウマだった。
自分を責めて相手を責めての堂々巡り。胃は痛くなり食欲は長い間不振、眠れなくて困った記憶、開き直るのに数ヶ月、ちょうど忙しい時期もありなんとかなっただけだ。
「俺は元彼のようなことはしない。万が一があればきちんと話すよ。愛した人に最後そんな仕打ちはしない。これだけは絶対だ」
「うん……」
実際起きたら分からんけどねとは思う。これが僕でもね。あはは、僕にはそんなこと起きないけど。
そんな話があって僕は覚悟を決めた。僕も「帰るね」って言って自分の部屋に帰ると寂しかったんだ。部屋がその時だけは寒々と感じるんだよ。
「あ~俺の部屋狭く感じるね」
「え?なに?」
「タンスとか入れると狭いかなあって思っただけ」
「ああ」
彼の寝室はベッドと机、間接照明と観葉植物だけで何にもなくて広かったからね。僕が来てひとつ使ったから、残りひとつは洗濯干すとこと物置にしている。そこも物が多くなったからタンスは部屋にってしたんだ。
「狭くなっても、千広が来てくれるほうが嬉しいからどうでもいい」
「ふふっありがとう」
「いや、俺がありがとうだよ」
僕はあんまり物は持ってこなかった。家具は自室に使うもの以外は全部処分。キッチンの物もここにないものだけでね。あ、コーヒーメーカーだけは持ってきた。僕これだけはこだわりでブランド物買ってたから。ボーナスぶっこんでね。
カフェラテ。お店みたいなの飲みたいよねってエスプレッソマシーン。豆はそんなに高くなくとも美味しい。
だから引っ越しはすぐに終わって、コーヒーを淹れた。疲れたからアイスで。
「うわっマジでお店の味だ」
「でしょう。カフェ代ってなんだかんだ出るから、計算すればこれは安い。まとめて出ていくお金が辛いだけ」
「あはは。そうだね。カフェは一年分先にくれとは言わないもんな」
僕はこだわりで買ったわけじゃなくて、飲む量が多い。会社でも家でもね。そんで砂糖入ってないほうがいい。ミルクは必須。
すると、缶やペットボトルの物でさえ選択肢は少ない、圧倒的に少ない。たまに売ってないコンビニすらある。
結論、自分でボトルに入れて会社に持って行くになって、小遣いは増えた。カフェに全くいかないわけじゃないけど、アポの隙間の無駄時間にカフェには行かなくなった。
「ブレイクルームとかにカップのマシーンないの?」
「あはは。そんな物はない。自販機だけ、お菓子もないよ」
小さな会社にはそんな福利厚生は存在しない。ブレイクルームがあるだけラッキーだよ。これは外回りで分かったこと。大きな会社はすごいよね。
何かのイベントで外資の会社のパーティに行った時、お店の機械か?ってのが無料で置いてあったのは驚いた。
「外資は違うね確かに。文化の違いだろう」
「だよね」
その日から毎日が楽しかった。部屋が輝いて見えるほど、うちに帰るのも楽しくなったんだ。
「斎藤さん、このところ楽しそうですね。あの有給はなに?」
「うん?引っ越ししてたんだ」
え?って。この間別れてしたばかりじゃないのって。柳瀬には同じマンションに彼がいるとは言ってなかったからなあ。
「同居することにした」
「ええ~あんなに辛そうだったのに、よく決心しましたね。もう二度としないなんて言ってたのに」
「よく覚えてたな」
「だってあんなに目の下のクマ作って、無理やり笑ってんの見てたから覚えてますよ」
「そうか」
そんな悲壮な感じでしたか。あはは……
「でもよかった。斎藤さん明るくなってかわいく見えますよ」
「は?」
んふふって、いやな笑い。そんな変わったかなあ。
「斎藤さんって彼女に染まるよね。以前の彼女は穏やかだったのかなって。今の彼女は明るい方かな。華やかな感じの」
「はあ……」
僕を見て分かるの?どんだけだよ僕は。そんなに変わるの?誰もそんなこと言わなかっただろ。
「初めて言われたよ」
「あはは。仲良くないと言わないかも。俺は斎藤さん友だちだと思ってるから言う」
「そう。そっか」
そんな無駄話をしながら会社は上手く回っていた。広翔とも上手く生活できてこの世の春が僕に来ていた。冬だけど。
そして春に人事異動の辞令が出た。僕は人事に移動。なぜだ!営業から人事とか意味分からん!それが採用担当とか……ああ……嘘だろ。
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