捨てる神あれば拾う神あり こんな僕でいいってどこ見て言ってんの?

琴音

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プロローグ

予兆なしで振られた

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 薄暗い部屋にひとり。

 物も半分近くなくなって変に広く、カップをテーブルに置く音も響くくらいだ。
 なんでこんなことになったんだろう。僕らはうまく行っていたと思ってた。セックスもしてたし、夜も一緒に寝てたのに。

 はあ……

 深いため息しか出ない。僕も片付けなきゃならない。来週引っ越しする。有給も取った。ここは一人で住むには広い。僕の稼ぎじゃ維持できない。カタコトのような言葉が浮かぶ。

 僕の何がいけなかったの?

 僕のほうが帰りが早かったから洗濯も掃除、ご飯も全部やってた。彼には何にもさせなかったのに。愛してるよって言葉は嘘だったの?いつから嘘になってたんだろ。

 冷めたコーヒーを飲む。ふう。

 青天の霹靂とはまさにそう。
 いきなり仕事から帰って来たら別れたい、部屋は解約したから出行くか自分で家賃払えって。彼はそれを言うとその日は出ていってしまった。翌日新しい彼とふたりで来て念押し。最近帰りが遅かったのは、そういう理由だったんだね。

「僕の何がいけなかったの?」
「そう言うんじゃない。強いて言えば飽きたかな?お前母ちゃんみたいだしさ」

 あはは……母ちゃんとか酷いよね。なにも出来ないって言うから僕はやってただけなんだ。仕事と家事は大変な時もあったのにさ。

「そういえば当たり前って顔してたな。僕ができないとか言うと舌打ちして不機嫌にもなってたし。舐められてたんだな」

 同棲始める前は彼の部屋に行ったことはなかった。汚いからお前の家でって言われてさ。ホントに汚かったんだろう。この部屋も散らかしてたんだ。

「僕人見る目なかったな。イケメンだけで選んじゃだめだよね……」

 付き合い初めは楽しかったよ?いろんなところにデートに行ってさ。プレゼントし合って。僕の家に来ることが多くて、そのうち彼が住み着いて。なら部屋を広くしてふたりで住もうってなってさ。まさか一年でこれとかないよね。

「全部で三年。なんだかなあ」

 浮気はここに住み始めてすぐらしくてさ。僕と遜色ない感じの新しい彼。なら僕でいいじゃん。

「ああもう!愚痴しか出ねえ!」

 これほどグチグチしてんのに、悲しくはないのはなんでだ!僕そんなに好きじゃなかったのか?そんな僕も嫌いだああ!

 うわああ!

 ハァハァ……叫んたら少しスッキリ。とりあえず寝る!


「おはようございます」
「おはようございます。斎藤さん」

 僕はデスクに座りパソコンを開いた。うーん……

「ねえ、原くん来てる?」
「さっき見かけたので来てると思いますけど」
「そう」

 何してんだよ。クレーム来てるんだけど!とりあえず片っ端からメールを読んでいると原くん。

「おはようございます。斎藤さん、俺を探してたって」

 僕はブスッとして隣に座らせた。何事?と言う感じだね。

「あのね、昨日◯◯社に行って何した?」
「え?普通に営業してきましたけど」

 ほほう。ぬけぬけと。

「あちらの担当課長がご立腹だ。君が捲し立てるだけでこちらの言い分を聞いてくれず、契約書にハンコ押せって言ったとメール来てるけど?」

 はあ、そんなつもりはなかったけどなあって。どうですかって聞いたし、返事がなかったからいいのかと思ったって。

「うちがおたくの商品の協力会社だからなのかってさ」
「え?俺そんな威圧的にしてませんよ」

 彼は営業成績は確かにいい。クレームになるほどではなかったけどさ。どこの会社の担当者にも、ほんのり強引だよねって言われる事多数だけど。とうとうかと僕はゲンナリした。

「僕朝礼の後謝りに行ってくるから」

 慌てて原くんも行くって。

「来んなってさ。担当変えろって」
「うそ……そんな」

 原くんは認めたくなくて食い下がったけど、あちらが嫌がってるからどうにもね。

「長谷川くん一緒に来てくれる?」
「ふえ?僕ですか?」
「うん。よろしく」
「は、はい」

 原くんの後輩だが、彼は客受けのいい子だから大丈夫だろう。僕らは朝礼の後謝りに出かけた。

 僕の現在の役職は課長代理の二十八歳。うちの会社は若い人ばかり。社長だけが五十代ってだけの小さな会社。小さなビルのワンフロアだけのね。
 電車に乗り携帯でメールのクレームを読み返した。

「必要な改変なんだろうけど、内容を把握しきれてないのにあれはどうなの?ってさ」
「あはは……出る前に原さんに聞いたんですけど、次のアポあって焦ってたのもあるかもって」
「それでも新人じゃないんだから。この会社は長い付き合いでもないしなあ」

 それから長谷川くんと課長さんに会って謝った。

「斎藤さんごめんね。文章だときつく感じたかもしれないが、そこまで怒ってはいないんだよ。ただね、あの調子だとわからないが増える気がしたんだ。こちらは小さな会社で、従業員もそんなにパソコン得意な者がいるわけじゃない。今までのも良いものだから、バージョンアップは悪くないとは思ってはいるんだ」
「はい。ありがとうございます」

 今までので困ってはいないし、バージョンアップしたものは、何がアップするのかイマイチわかんなくて、メンテの金額も上がるし。なのにその説明もワーッと説明して契約書に判をは……ねえ?って言われた。

「申し訳ありません。改めて説明させてもらうことは可能でしょうか?」
「ああ、それで考えさせてもらうよ」

 それから時間をもらって説明した。担当も長谷川に変えますからって。

「内容は分かったが、うちでは過ぎたものだな。今までのでいいよ。本当に必要になったらまた声かけるから。メンテは長谷川さんでお願い」

 はあ、無理か。仕方ない。

「かしこまりました。ではこのままで。これからもよろしくお願いいたします」

 担当の課長さんははいと言ってからうーんと唸り、

「斎藤さん。余計かもしれませんが、部下をもう少し見てあげた方がいい。君の部下でしょう?」

 グッ……言い訳は出来ない。彼の成績がいいから放置してた僕の失態だもの。

「はい。今回は大変申し訳ありませんでした」
「うん。まあ頑張ってよ」
「はい」

 その後少し話をしてお暇した。はあ……彼にはフラれるわ、人の尻拭いだわでいいことないなあ。長谷川さんは引き継ぎで置いて来て、僕はひとりトボトボ歩いていた。

「あ~辛い」

 朝出てもう昼かあ。ランチしてから帰ろうと思ったけど、食欲なくてコーヒー飲むかとカフェに入った。
 悪い時はどこまでも悪い事が続くもんだよ。先週やっと引っ越して心機一転と思ったのになあ。携帯をいじって時間を潰し、午後の仕事もなんとか終わらせ会社を出た。

 ふたりで使ってた時の物が嫌で、たくさん調理器具や諸々捨ててしまってご飯は作れない。仕方なく帰りにホームセンターに寄って買って帰った。でもやっぱりやる気になれなくて、途中でラーメン食べてしまってね。

 人生上手く行かないもんだ。あーあ。





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